「これは一体どういうことだろうか」
 白衣に身を包んだ痩せ型の見るからに理系の男が眼鏡の縁を揺すりながら呟いた。男は先ほど計測されたデータを何度も見直すが、やはりそのデータは予測をはるかに下回った結果となっていた。
「我々の設計に過ちは何もない。それはミスター・タバタもご承知のはずだ」
 男は今や世界的PA開発の権威となった田幡 繁に確認を求めた。
 田幡は男の言葉を否定しなかった。黙って頷くと、田幡たちのすぐ隣にそびえ立つ巨人を見やった。
 そこにあったのは微妙に姿形を変えたガンフリーダムであった。マシンヘッドの切り札であった特機シム・エムスとの死闘の末に大破したガンフリーダムであったが、田幡はその修理を機会にガンフリーダムの全面改修を決意した。その結果としてガンフリーダムは全身の各所にブースターが増設され、流麗でどちらかというと女性的なフォルムだった旧ガンフリーダムと比べて鋭角的になり、男性的な印象を見る者に与える機体となっていた。だが今も昔もガンフリーダムは人の美意識を刺激してやまない。それだけは変わりがなかった。
 田幡はこの新ガンフリーダムをガンフリーダムMk−Uとしてソード・オブ・ピースに組み込もうとしたが、それは後一歩の所で断念を余儀なくされていた。
 ガンフリーダムに新たに搭載された新型核融合炉の調子がすこぶる悪かったためである。
 先日の戦闘で大破した際に核融合炉も傷ついたためにガンフリーダムMk−Uのそれは新型の、より出力が大きくなった物に代えることとなったのだ。しかしその新型核融合炉はガンフリーダムに搭載した瞬間に規定出力を発揮できなくなると言う事態が発生していた。
「まるでこのガンフリーダムが新型核融合炉を拒絶しているかのようだ。気味が悪いったらありゃしない」
 国連の新型核融合炉開発チームの者たちはそう言って肩をすくめた。
「旧来のガンフリーダムは日本製の核融合炉を使っていましたが、日本製核融合炉に何か秘密でもあるのでしょうか?」
「まさか、そんな話は………」
 新型核融合炉を使わせまいとしているようにしか思えないガンフリーダムに不審の声があがる。しかし田幡にも何が何だかわかる訳がなかった。
「そのまさかさ………」
 だがその田幡たちの前に一人の老人が姿を見せた。老人の声には張りがあり、そして眼光も鋭い。下手をすればこの場の誰よりも活力に満ち溢れているといえた。田幡はその老人の顔に見覚えがあった。その男は確か………。
「神 隼人博士………」
 突如田幡たちの前に姿を見せた老人は日本の核研究の第一人者である神 隼人博士であった。神博士は新早乙女研究所の所長として日本の核開発の陣頭指揮を取り、そしてガンフリーダムの核融合炉を開発した男でもある。
「ドクター・ジン、今言った事はどういう意味だ? 教えてくれ!」
 国連の科学者が神に尋ねた。神はガンフリーダムの脚部までゆっくりと歩くと、その脚を撫でながら言った。
「これは田幡君にも言ってなかったことだが、このガンフリーダムの動力は『聖龍』なのだよ」
「『セイント・ドラゴン』………? 何です、それは?」
「………キューバ危機は知っているな?」
 神はガンフリーダムの爪先に手を置いたまま、田幡たちに背を向けたまま話を続ける。
「米ソの核戦争を止めるために日本がキューバを放射能が出ない不思議な核で攻撃した事件だよなぁ?(参照:大火葬戦史外伝 「終末の過ごし方」)」
「なぜ日本の核には放射能がでなかったか………。わかるか?」
「いや、全然………」
「あれは不発で、起爆に使われた通常爆弾の戦果がキューバの結果だと今では言われてますが………」
「違うな。それは都合のいい虚構だ」
 神はようやく田幡たちの方に振り向いて言った。
「日本の核にはな、様々な意志が融けているんだ」
「意志………?」
「日本は幾つもの平行世界で核攻撃を受けた国だ。たとえ平行の世界の出来事であったとしても、日本の核にはその犠牲者の意志が宿ったのさ」
「平行、世界………?」
「世界には無数の可能性があるということだ」
 神は自らを指差して言った。
「私がもし、科学者の道ではなく学生運動を続けていたら、それだけで世界は全然違った姿を見せるだろう。そう言った無数の可能性はすべて、平行に時が流れる別次元の世界で実行されているのさ」
「そ、そんなトンデモ説、信じられるはずがない」
「ふふ。すぐ身近に平行世界から訪れた者がいるというのにな」
「え?」
「まぁ、それはどうでもいい。とにかく真ゲッターには人の意志の力があった。そしてもう一つの核、『聖龍』にはもっと強い意志の力が込められている。もっと強く、そして純然たる願いだ」
「純然たる願い………?」
「それは平和への願いだ。だが、その想いは強すぎたために今まで制限をかけていたのさ」
「え………?」
「どのようなベクトルの想いであっても、度を越せば危険なモノとなる。故にガンフリーダムに『聖龍』を搭載した際にリミッターを設けたのだ」
「ほぅ………」
「だがもはやリミッターを設けている場合ではあるまい。そういうわけで『聖龍』のリミッターを解除させてもらうぞ」
 神はそう言うと田幡たちに旧ガンフリーダムに搭載されていた核融合炉を出すように言った。
 そして神の手によってリミッターを外された『聖龍』は従来をはるかに上回る性能を発揮し、その場にいた者たちを驚かせた。
 だが何よりも彼らを驚かせたのはリミッターが外れた瞬間に現れた人影であろう。突如現れた人影は神たちに向かって叫んだ。
「来るぞ………滅びの時が来るぞ!!」



 昔の人はこう言った。
「知らぬが仏」、と。
 知らなければ仏のように笑っていられる。誰が言い始めたのか知らないが、その言葉は確かに正しかった。
 高橋 木葉は生まれつきすべてを知るという全知の能力者であり、彼女はその能力ゆえに日に日に笑顔が少なくなっていた。
「コノハちゃん、大丈夫?」
 ジュニア・ソード・オブ・ピースで知り合ったアンナ・フェルフネロフスキが心配して声をかけてきた。
「うん、大丈夫………」
 ちっとも大丈夫ではない顔色で木葉は応えた。当然、そんな顔色ではアンナも安心できるはずがない。
「い、ぃよう、アンナ」
 アンナの保護者と言う名目のヨシフ・キヤ・マモトはソード・オブ・ピースで連隊規模の部隊を率いる大佐であったが、ジュニア・ソード・オブ・ピースで働くアンナが心配なので、作戦指導の合間を見つけては忙しなくアンナの前に姿を現していた。
「あ、マモトさん。コノハちゃんが………」
「ん? 確かに顔色が悪いな」
 マモトは木葉の額に右手を当てると左手を自分の額に添えた。
「ん〜、ちょいとばかし熱っぽいか? とりあえず医務室に連れて行くか」
 マモトの言葉にアンナは同意の意味を込めて頷いた。



 医務室に運ばれた木葉は医師に疲れが溜まって熱が出たのだと診断され、しばらくベッドで休むようにと言われた。
「まったく………。この子はお前たちが連れてきたんだろ? だったらちゃんと面倒を見ろってんだ」
 木葉が医務室に運ばれたと聞いてシャインたちが駆けつけたが、彼らに対しマモトは説教を始めていた。
「いや、まったく面目ない………」
 シャインたち三人はマモトに頭を下げるしかなかった。
「俺たち三人で罪滅ぼしの意味を込めて看病してます………」
「ああ、そうしろそうしろ。さ、俺たちは行くぞ、アンナ」
 頭を下げるシャインに得意げに応えるマモト。マモトはアンナを連れて医務室を後にし、医師も北米決戦の際に負傷した将兵を診なければならないということで木葉の看病をシャインたちに任せて行った。
 医務室にはシャイン、ブレイブ、チュルル、木葉の四人だけが残されることとなった。
「………いよいよ来るのかい、木葉ちゃん? いわゆる滅びの時って奴が」
 木葉の寝るベッドに腰を下ろしてシャインは尋ねた。木葉は言葉なく頷いた。
「そうか」
 俯くばかりの木葉の髪をそっと撫でてシャインは力強く宣言した。
「だが世界を滅ぼさせはしない。全知の能力はすべての人の運命を最後まで知ると言う能力らしいが、運命なんてくだらんモノに俺たちの人生は縛られているはずがない」
「短絡的で乱暴な意見だが、たまにはいいことも言うな」
 そう言ってブレイブが苦笑をこぼした。
「ヘッ、言ってろ」
 しかし木葉には見えていた。
 黒い波動に飲み込まれて消えていく世界の姿が。
 だがその未来に皇武の姿はなかった。皇武は異世界からやってきたイレギュラーなのだ。それは即ち全知の能力の及ばない所からやってきたということだ。皇武と言うイレギュラーは滅ぶ宿命の世界を救うことができる………。木葉はそう信じることにした。滅びの宿命など絶対に受け入れたくないからだ。



 ………大西洋に浮かぶ巨大な人口島「箱舟」。
 この箱舟の中枢にすべてのマシンヘッドを操るマスターコンピュータ「ノア」とすべての災いの元凶であるコバルト・ダンケルハイトがいた。「戦争挑発人」ヘッツァーとしてこちらの世界で暗躍し、大小色とりどりな戦争を引き起こし、人の命が散り行く様を見て楽しんでいた外道。それがコバルト・ダンケルハイトであった。
『キサマ………。ワタシニナニヲシタ』
 マスターコンピュータ「ノア」がコバルトに尋ねた。感情を持たぬ機械であるはずのノアであったが、その声は苦しげに聞こえた。
「『何をした』? はて、何のことだ?」
『トボケルナ。ワタシノカドウコウリツガテイカシテイル』
 それは紛れもない事実であった。北米戦線でマシンヘッドが敗北したのは人類がドラグーンを完成させたと言うこともあるのだが、何よりもマシンヘッドの戦闘能率が低下していたためであった。そしてその原因はすべてのマシンヘッドを管制しているノアの稼動効率低下にあった。
「ふふ………」
 コバルトは楽しげに微笑むとノアに言った。
「ちょっとしたウィルスをお前にいれさせてもらった」
『ナゼ………ソンナコトヲ………』
「絶望的な戦況から這い上がった人類。今や人類の士気は天を衝く勢いだ。そんな人類にコレを使えば楽しいことになると思ってな」
 そう言うとコバルトはノアに一本の試験管を見せた。その試験管には不気味に濁る液体が入っていた。
「ハムート・バルークス。私はもう一度コレを使うぞ………。またお前の叫びを楽しみにさせてもらうぞ。フフフ、フハハハハハ、ハハハハハハハ!!」
 箱舟にコバルトの哄笑が響く。そしてひとしきり笑ったコバルトは床に試験管を投げつけた。砕け散った試験管のガラス片はコバルトが今まで踏みにじってきた生命のようだった。
 時に一九八六年五月八日。世界が滅ぶ日が来たのである。


葬神話
第一五話「滅ぶ世界」



 異変はたちまちに世界を覆った。
「な、何が起こっているんだ!? 誰か説明してくれェ!!」
 ドラグーンの整備を行っていた整備兵の悲鳴が格納庫にこだまする。その叫びを聞いてシャインが駆けつけ、そして格納庫の惨状を見て絶句した。
 格納庫の中は阿鼻叫喚であった。皮膚がドロリと爛れてうずくまる男がいるかと思えば背中を苦しげに押さえている者もいる。様々な症状があったが、共通しているのは誰も彼もが体に異変を起こして苦しんでいることだった。
「おい、どうしたんだ一体!?」
 シャインは近くでうずくまっていた男に肩をかして尋ねる。男の皮膚はただれ、そして鱗の形に固まろうとしていた。
「い、痛い………。痛いだけじゃない………何だか無性に戦いたく………なる………」
 男は息も絶え絶えに自分に起こった事をシャインに説明する。男に何が起こったのか、シャインには心当たりがあった。
 シャインは格納庫の者たちを医務室に運ぼうとしたが医務室の者たちも同様に苦しんでいた。人ではない、異形の何かに体を変えられながら。
「野郎………」
 シャインは強く歯を噛み締め、拳をグッと握り締めて壁に叩きつけた。
「アレを使うか、コバルトォォ!!」
「アレ」。かつてコバルトが異世界レパルラントの文明を破壊し、千年にわたる大戦争を引き起こした際に使われた細菌兵器。その名は「GBV」という。このGBVは人の細胞に作用し、人を異形の怪物デミ・ヒューマンに作り変えると言う細菌兵器であった。
「シャイン!」
 ブレイブとチュルルがシャインを見つけて慌てて駆け寄ってくる。
「どうやら無事なのはうちらだけ見たいやね………」
「マリア・カスタード女史の作った対GBV用ワクチンはどうやらちゃんと通用したようだな」
「ブレイブ、そのワクチンは持ってきたはずだよな?」
 シャインはブレイブに確認を求めた。シャインたちが使ったワクチンの効果はシャインたちが実証している。後はこれをみんなに使うだけだ。
「うむ。ワクチンの量産も日本の皇族経由の命令で行われているはずだ」
「ふっ、コバルトめ。いつまでも奴の思い通りにはならねぇぜ」
 シャインはそう言って笑おうとして、笑うことが出来なかった。彼は唐突に左腕に痛みを覚えたのだった。筋肉が膨張していく感覚。シャインの左腕の皮膚が次第に黒ずみ始める。それは疑いようのない、GBVの症状であった。
「シャイン!? バカな………」
 ブレイブは唖然とした表情でシャインの左腕の異変を見守るだけだった。そしてシャインだけでなくチュルルにまで異変は現れようとしていた。ブレイブは悔しさに歯噛みする。
 考えてみれば当然ではないか! コバルトにとってGBVとは数千年、いや奴はいくつもの平行世界を渡ったのだから下手すれば数万年規模も前の作品なのだ。万が一にも欠点があれば改良しているに決まっている。今回、我々の世界に散布されたのは言わばGBV2と言う所か。マリアの作ったワクチンではGBVの進行を遅らせる程度の効力しか発揮できないというのか………。
 そしてブレイブにもGBVの魔の手が押し寄せ始めていた。ワクチンのおかげで痛みは我慢できる程であったが。
「あの、ブレイブさん。これは一体………」
 ブレイブたちに声をかけてきた存在がいた。彼はGBVの影響を何一つ受けていないようだった。ブレイブは声をかけてきた者の名を呼んだ。
「アーサー、アーサー・ハズバンド………」



 ブレイブが手配していたワクチンのおかげで混乱を少しは抑える事に成功した。だが人類に突きつけられた現実は重かった。
 ソード・オブ・ピースの総司令部で今後の対策会議が行われていた。
「GBV………人の細胞を作り変えてバケモノを作る細菌兵器………」
 源 猛大佐は角が生えようとしていた額に包帯を巻いて緊急対策会議に参加していた。
「どこの三文SF小説だと笑い飛ばしてやりたい所だが、こんなザマ見せられちゃ否定したくてもできねぇぜ」
 GBVによって獣人になってしまうのだろう、マモト大佐はすっかり毛深くなった腕を忌々しげに眺めながら頭から生えようとしている新しい耳を撫でた。
「このGBVを散布しているのは旧アドミニスターのヘッツァーであることは間違いない。そして奴が箱舟にいることもわかっている」
 ブレイブはGBVをアドミニスターが極秘に開発していた細菌兵器だという嘘の情報を作り、そしてソード・オブ・ピースにはそう説明した。異世界のことを話して余計な混乱を招くのは避けたかったからである。
「もはや一刻の猶予もない。我々は箱舟に向かうべきだ」
「だな。んでヘッツァーとかいう野郎をとっちめてGBVの本当のワクチンの作り方を吐かせるんだ」
「しかし………本当のワクチンと言うのはあるのだろうか?」
 ブレイブの意見に賛同したマモトが右拳を左手のひらに打ち付けて言った。しかしその意見に難色を示す者も現れた。マモトは狼のように吼えた。
「あるに決まってる! コントロールできない細菌兵器なんざ、クソの役にもたたねぇんだぞ!!」
「だが正直、今のソード・オブ・ピースでは箱舟侵攻は難しいぞ」
「うむ。GBVによる異変と混乱で各方面に連絡がつかん」
「日本が仮ワクチンを量産しただろーが! それさえ打てばみんなまた戦えるようになる!!」
「ですがマモト大佐、ソード・オブ・ピース全員にワクチンが行き渡るまでどれくらいかかると思いますか!? 時間がかかれば、ワクチンで進行を遅らせているとはいえ結局手遅れになるんですよ!!」
「ぬ………。じゃあ、どうするってんだよ!」
「人類最後の時か………」
「諦めるってのか!? 冗談じゃねぇぞ!!」
 沈痛な雰囲気の会議でマモトは独り必死に抗戦を訴えるが、マモトにもこれからどう戦えばいいのか確かな戦略がなかった。戦略なき軍隊が勝てるはずがない………。マモトにもそれはわかっているが、打開策はおぼろげにも見えなかった。
「まだ、希望は残されている!」
 そう言って会議室のドアを開け放った男がいた。それは左腕を包帯で巻いたシャインであった。その傍らにはパイロットスーツに着替えたアーサーが立っていた。
「とにかくGBVの拡散阻止とワクチンの製造法さえ聞けばいいんだ。戦力は別に必要じゃない」
 シャインはそう言って白板に張られている世界地図を平手で強く叩いた。
「皇武とガンフリーダムMk−Uの二大特機で箱舟に特攻、中枢のヘッツァーに一直線だ!」
「僕も、シャインさんの作戦しかないと思います。僕たちでワクチンを必ず入手し、態勢を立て直して再びゴージャス・ダンス・パーティー作戦を行えばいいのです」
 シャインとマモトの作戦案にマモトは「その手があったか!」と手を叩いた。しかし反論は当然出た。
「しかし、どうやって箱舟まで行くつもりなのだ? ガンフリーダムは飛べるかもしれないが、皇武は飛べないではないか」
「何言ってんだ。俺たちには立派な母艦があるじゃねーか」
 シャインはそう言うと一人の男に入ってくるように合図した。男は元山 満大佐であった。彼が指揮するのは対攻撃衛星用攻撃衛星二号、宇宙戦艦 ヤマトとみなに呼ばれる超兵器であった。
「ヤマトもこの特攻作戦に参加し、人類の未来を切り拓いてみせます!」
 元山はそう言って敬礼。もはや反対意見など出るはずがなかった。なぜなら人類にはその手段しか残されていないのだから。
 こうして箱舟に殴りこみをかける菊水作戦が緊急承認されたのであった。



 もはや人類に時間無し。
 ヤマトの出撃準備は昼夜突貫で行われることとなった。
 ヤマトの格納庫は皇武とガンフリーダムMk−Uを乗せてまだ余剰があることからソード・オブ・ピース北米戦線の部隊で最高ランクのPA部隊が搭載されることとなった。
 その部隊名はクリムゾン・レオであった。
「これも何かの縁というものかな?」
 耳の形がいびつに尖り始めているレオンハルト・ウィンストンはアーサーにそう言った。クリムゾン・レオはかつてリベルでの戦争で戦った者たちが中核となっている部隊だ。そしてリベルでの戦争がソード・オブ・ピースを産むきっかけとなっている。
「つくづく私たちは何かを終わらせる運命にあるみたいね」
 レオンハルト・ウィンストンの最愛の人であるドゥルディネーゼ・ブリュンヒャルトことルディは微笑んだ。
「前も今回も戦争を終わらせるのさ、俺たちは」
 そう言ったのはエリック・プレザンスであった。エリックはドラグーンの配備が始まってからもかたくなにアルトアイゼン・リーゼを使い続けていた。その理由はアルトアイゼンが彼の最愛の人の忘れ形見だから………。
「アンタたち、黄昏てるのは後にしな!」
 マーシャ・田幡がレオンハルトたちに怒鳴った。
「ホラ、アンタたちも搬入を手伝うんだよ!!」
 マーシャに尻を叩かれて物資搬入を手伝うクリムゾン・レオの精鋭たちであった。



 そして一九八六年五月一〇日。
「総員、菊水作戦参加者に対し、敬礼!!」
 ソード・オブ・ピース北米方面軍全員の見送りを受けて………。
「機関出力安定、離陸準備よし!」
 天空に浮かぶ要塞は………。
「よし、これより本艦は大西洋上の箱舟に向かって進撃を開始する!」
 宇宙戦艦 ヤマトは………。
「ヤマト、発進!!」
 人類の未来を切り開くために出撃を開始した。
 人類最新の神話の最後の幕はこうして上がったのだった。


X−1B ガンフリーダムMk−U


全長:9.21メートル
自重:13.7トン
最大自走速度(バーニア未使用):260キロメートル/時
最大跳躍高(バーニア未使用):80メートル
最大作戦行動時間:∞
装甲 :チタン・セラミック複合装甲
動力源:超核融合炉「聖龍」(リミッター解除版)

固定武装
超極大出力粒子砲 G−Mk3(肩部に搭載)
電磁破砕式手甲 ナックルショット(左手に搭載)
V−MAXIMUM
フライヤーシステム

装備可能武装
荷電粒子銃 ゲイ・ボルグ(マニピュレーター(要するに手)に搭載)
八六式防盾(マニピュレーター(要するに手)に搭載)
その他在来の武器はすべて搭載可能

特記事項
V−MAXレッドパワーを使うマシンヘッドの特機シム・エムスとの戦いで大破したX−1 ガンフリーダムを修理するついでに各部を改造した機体。フライヤーシステムによって空を自在に飛びまわれる。
新型の核融合炉を搭載し、さらに強大なパワーを手にするはずだったがすでに「聖龍」の影響を受けていたのかガンフリーダム自身がそれを拒否。結局、神博士によって枷を外された「聖龍」を搭載することで落ち着く。
「聖龍」の生み出すエネルギーは当初搭載予定だった新型核融合炉のそれを簡単に上回るほどであるが、未だに「聖龍」はフルパワーではないという。
ともあれ出力が向上できたのでレールガンではなく荷電粒子銃 ゲイ・ボルグを新たに装備。さらに電磁破砕式手甲 ナックルショットを持ち、遠近共に強力に。
ガンフリーダムの特徴であったGキャノンはMk3となった。Mk3はMk2と同程度のエネルギー量しか撃てないが、冷却方式が新型となり間髪いれずに二発目が撃てるようになっている。
またV−MAXレッドパワーを参考に、V−MAXIMUMという新システムが導入された。自機を青いバリアフィールドで包み、さらなる高機動戦闘が可能となる。
まさに史上最強のPAであるが、もはや並の人間には扱うことが出来ず、「申し子」として誕生したアーサー・ハズバンドのみが操縦可能となっている。


次回予告



「波動砲で撃て!!」



「V−MAXIMUM、発動!!」



人類………知性トイウ武器ヲ身ニ付ケタ悪魔ノ猿ヨ! 滅ビルガイイ!!




葬神話
第一六話「ノアの箱舟」へ続く




――これは人類最新の神話である


第一四話「敵、V−MAX発動」

第一六話「ノアの箱舟」

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