葬神話
第一一話「最強対最強! ガンフリーダムVS皇武!!」


 一九八五年一二月六日。
 ソード・オブ・ピースはその持てる航空戦力のほとんどを投入し、マシンヘッド無人艦隊の超大型空母アルウスの撃沈に成功。
 これにより中東方面の制空権はソード・オブ・ピース、つまりは人類の物となっていた。
 だがマシンヘッドの脅威が中東から消えたわけではない。
 マシンヘッドは人類抹殺を宣言した機械なのだ。
 最後の一体が破壊されるまでは人に牙を剥き続けるだろう。
 だから中東の戦闘は、より一層激しさを増すばかりであった。



 一九八五年一二月八日。
「ブハッ!」
 度重なる戦闘から一時的に身を退き、整備と補給を受けに後退した部隊があった。
 異世界レパルラントの技術で作られた霊子甲冑 皇武のパイロットであるシャインもその後退組の一人であった。彼は皇武のコクピットから降りるや、すぐさまに上着をボタンを外すのももどかしいと脱ぎ捨てた。だがそれでも自らの顔を隠す仮面だけは取ろうとしなかった。シャインの正体は、本来ならば死んでいる存在なのだ。だからおいそれと素顔を晒すことはできない。
「お疲れさん」
 そう言ってシャインにタオルと水筒を差し出したのは彼の妻であり、皇武の専属整備兵として参戦しているチュルルだった。
「ああ、ありがとう」
 シャインは水筒を受け取ると、コップに注ぐなどせず、行儀などかなぐり捨ててラッパ飲みで一気に飲み干そうとした。それほどまでにシャインは乾いていたのだった。
「へー、皇武はいい機体だが………」
 口元から零れ落ちた水滴を腕で拭いながらシャインは言った。
「空調くらいつけるべきだった………中はまるでサウナだぜ」
「まさか中東で戦うことになるとは思わなかったんや。しょーがないって」
 チュルルはそう言うと皇武に異常は無いかどうか調べるための工具箱を開けた。そして工具を手にしたチュルルは夫に尋ねた。
「で、今日の調子は?」
「えっと………三〇までは数えてたんだけどな」
 シャインは水筒を一旦置くと、汗でベトベトとなった体を拭くことにした。タオルはたちまちに汗が搾り出せるほどに湿りを帯びた。
「おい、こ………チュルル、このタオルはどうしたらいいんだ?」
「あの………」
 シャインの問いかけにチュルルが答えるより早くか細い声がマモトを呼んだ。
「ん?」
 声の方に振り返ると、そこには一五歳くらいの小柄な少女が、身の丈とつりあわないほどに大きな籠を抱えて立っていた。籠の中は洗濯物であふれかえろうとしていた。
「洗濯物なら、私が………」
「ああ、君はジュニア・ソード・オブ・ピースかい?」
 マシンヘッドの人類抹殺宣言。それは全人類にとって共通の脅威であった。男であっても女であっても。老いていようが若かろうが。
 それを自覚した人々はソード・オブ・ピースに志願し、降りかかる火の粉を自らの手で払おうとした。その強い意志はソード・オブ・ピースにとって願ってもないものだった。しかしソード・オブ・ピースが頭を抱えたのは少年少女の志願者の存在だった。
 規定では一八歳以上をソード・オブ・ピースに採用するとなっていたが、中高生の志願者はそれこそ後を断たなかった。若い彼らは大人がいくら諭しても聞かず、「自分も戦うんだ!」と鼻息を荒くするばかりであった。
 そこでソード・オブ・ピース上層部は苦肉の策としてジュニア・ソード・オブ・ピースを創設。一八歳未満の少年少女を雑用として後方勤務に従事させることにしたのだった。
「じゃあよろしく頼むよ」
 シャインは少女の持つ籠にタオルを放り投げた。少女はわずかにはにかむと、洗濯物であふれそうになっている籠をよいしょと持ち上げた。
「………なぁ、チュルル。皇武のメンテはまだかかりそうか?」
「ん〜? そうやねぇ。も少しかかるかなぁ」
「んじゃ君。俺がその籠持つの手伝うよ」
 シャインは少女の返答を待たずに籠を代わりに持った。少女は困った表情を見せた。
「気にすんな。俺の友人のお孫さんもジュニア・ソード・オブ・ピースで、しかもここで働いててな。だから君を手伝うついでに様子を見に行くのさ」
 シャインはそう言って少女の背中を軽く叩いた。
「んじゃ、洗濯場に行こうか」



「……………」
 チラッ
「……………」
 チラッ
「……………」
 少女はシャインの仮面に興味を引かれたのだろうか。チラリと見ては視線を逸らしていた。
「………あー」
 シャインは後頭部を掻きながら口を開いた。
「やっぱ気になるのかな、俺の仮面」
 少女は自分がシャインの顔を見ていたと悟られてなかったと思っていたのかビクッと体を震わせて、「ご、ごめんなさい」と頭を下げた。
「いや、気にすることはないよ。あー、その何だ」
 シャインは腕を組みながら言った。
「マシンヘッドとの戦いで顔に火傷を負っちまってな。だから仮面をつけているのさ」
 無論、嘘である。しかし当人以外には絶対にバレない嘘でもある。シャインは周囲に仮面をつけている理由をそう説明していた。
「あ………す、すみません、私………」
「いやいや。気にすんな。火傷のおかげで、こうカッコイイ仮面をつけれるようになったんだしな」
 カッコイイという単語に少女は怪訝な表情を見せた。
 あれ? もしかしてこの仮面をカッコイイと思ってるのは俺だけなんだろうか? シャインは密かに傷ついて唇をへの字に曲げた。
「おっ、アンナじゃんか」
「あ………マモトさん」
 少女の名前はアンナというらしい。元ソ連軍大佐にしてソード・オブ・ピース少将のヨシフ・キヤ・マモトが少女に手を振りながら小走りに駆け寄った。
「やは、マモト少将」
 シャインはマモトにピースサイン。ただし人差し指と中指が力なくダラリとなったピースサインだったが。
「おっ? アンタもいたのか………」
 マモトはシャインが洗濯物の入った籠を持っていることに気付いて言った。
「そうか。アンナを手伝ってくれたのか。ありがとよ」
「まぁ、俺の友人の孫も参加してるし、放っておけなくてな」
「そっか。あぁ、この子はアンナ。俺が預かっている子だ。アンナ、コイツが前にも話したシャインてのだ」
「よ、よろしくです………」
 アンナははにかみながら頭を下げた。
「おう、よろしくな」
「あ………もうすぐ洗濯場だから………ありがとうございました」
「ん? そうか? んじゃ頑張れよ、アンナちゃん」
 シャインはニコリと微笑んで親指を立てた。
「は、はい………」
「アンナ、暇ができたら一緒に晩飯食おうな」
 マモトの言葉にアンナは嬉しそうに頷くと二人に頭を下げて洗濯場に向かって行った。その軽やかな足取りは二人の軍人を幸せな気分にさせた。
「大人しそうだが、素直でいい子だな」
「まぁ、ね。最近のアンナはだいぶ表情が豊かになったもんだ」
「?」
「マモト少将! 大変です!!」
 アンナの軽やかな足取りとは対照的に慌しい靴音が二人の耳を刺激する。足音の主はソード・オブ・ピース中佐の源 猛であった。
「あ、シャイン大佐も………ちょうどよかった! マシンヘッドが、残存兵力を集めて攻勢に出てきました!!」



「戦況は!?」
 源に連れられてシャインたちは作戦司令部に入った。司令部ではソード・オブ・ピース中東方面軍総司令官であるレリューコフ・バーコフ大将を始めとし、各幕僚が情報収集とその解析、そして前線への指示に追われていた。
「シャインもいるのか」
 シャインと同じ事情で仮面をつけているユウ・ブレイブゆうき しげはるが顔を上げてルブアルハリ砂漠の地図を広げた。
「ルブアルハリ砂漠南方に控えていたマシンヘッドが総力を結して攻勢に転じた。その数は少なくて三万と見られている」
「三万………」
「恐ろしい数だな………」
 マスターコンピュータ ノアによって制御されているマシンヘッドは無人の完全自立型兵器である。そのために中の人を一切考慮しない、無茶極まりない機動をも難なくこなす。そのために人類はマシンヘッドとの戦いに、数で勝りながらも苦戦を強いられていた。現在、そのキルレシオは一対三.四。マシンヘッド一機撃破するのに人類側は三.四の犠牲を必要としていた。その計算で言えば、三万のマシンヘッドは一〇万以上の大兵力だと言うことになる。
「アルウス撃沈以後、制空権はこちらのものだ。だから空襲をしかけてはどうだ?」
 シャインがブレイブに言った。
「もうやっている。しかしいかんせん数が多すぎる」
「しかもそれだけではありません。敵はもはや死兵同然なんです」
「何?」
「つまり、ノアは中東のマシンヘッドをすべて磨り潰して俺たちの戦力を削ごうと言うのさ」
「!?」
 マシンヘッドは機械である。故に工場で簡単に量産ができる。
 しかし生命を持つ人間は簡単に量産できない。
 マスターコンピュータ ノアはその差を利用して、次の戦場で有利に戦えるように仕組んだのであった。
「ブレイブ! 俺が出る。どこに向かえば一番効率的だ!?」
「E−25戦区に向かってくれ。そこが一番敵兵力が多い」
 ブレイブの言葉を聞くとすぐさまシャインは駆け出した。
 格納庫まで全力で走るシャイン。シャインが格納庫に着いたとき、チュルルはすでに皇武の整備を終わらせていた。全長一〇メートル以上の皇武が格納庫で主の到着を今や遅しと待ち構えていた。
「ミッちゃん! 頼むで!!」
「おうよ! 任せとけって!!」
 ラッタルを駆け登り、シャインは皇武のコクピットに滑り込んだ。皇武のコクピットはがらんどうで、ただの空間にすぎない。しかし皇武に搭載されている精霊増幅装置はシャインが乗り込んだ瞬間に起動し、皇武に無限に等しい力を与えた。
「マスクド・シャインだ。皇武、出るぞ!」
『シャイン、E−25戦区にガンフリーダムも向かわせた。共同でマシンヘッドを追い返せ』
「ガンフリーダム? わかった。………しかしガンフリーダムだと長ったらしいよな。どーせなら略してガンダ………」
『無駄口を叩いている暇は無い。さっさと行け』
「………む。冗談を愛するすべての人類の敵、め」
 シャインはそうボヤくと皇武をE−25戦区に疾走させた………。



「皇武、ガンフリーダムと合流しました」
 皇武出撃から二〇分後。
「そうか。では予定通りにE−25戦区の部隊を他の戦区へ転進させろ」
 特機と呼ばれる超高性能機二機を使った機動防御。それがブレイブの咄嗟に立案した防御計画であった。E−25戦区は皇武とガンフリーダムの二機だけに任せ、E−25に回すはずだった戦力を多方面に使おうと言う計画である。
 ガンフリーダムと皇武が、トランプで言うジョーカー並に桁外れの強さを持つがためにできた作戦であった。
 作戦を立案したブレイブは、おもむろにポケットからタバコを取り出すと火を灯し、煙突のように煙を吹かし始めた。嫌煙家の源が抗議の意味を込め、わざとらしく咳払いするが、ブレイブはどこ吹く風であった。いや、そもそも思考の海に漕ぎ出した今のブレイブは司令部に詰めている他の者たちすら知覚していなかった。彼は全神経を思考に費やしていたのだった。
「ん?」
 偵察衛星によってほぼ時間差ゼロで最前線の様子を知ることができる。その情報の解析を行っていた通信士官が何かに気付き、不意に声を漏らした。ブレイブは即座に反応したが、彼よりも早く声をかけたのはレリューコフであった。
「どうした?」
「いえ、D−32戦区に向かわせている第九五PA中隊の動きがおかしくて………」
「どうおかしいのだ?」
「第九五PA中隊の進路が、E−25戦区に向かっているんです」
「何?」
 ブレイブは源と顔を見合わせながらタバコを灰皿に押し付けた。
「第九五PA中隊と通信は?」
「それも通じないです」
「通信妨害………? だがE−25戦区に向かうのはどういうことだ?」
「偽電でも打ったのでしょうか?」
 源の言葉を通信士官は即座に否定した。
「いえ、マシンヘッドがそのような偽電を打った兆候はまったくありません」
「………マイクを借りるぞ」
 ブレイブは通信用のマイクを手に取ると、チャンネルをE−25戦区で戦うシャインとアーサー・ハズバンドたちに合わせた。



『そちらに第九五PA中隊が向かっている』
 その頃、皇武とガンフリーダムの二機の特機は激戦の最中にあった。皇武がいくら斬り伏せても、ガンフリーダムがGガンで無数のマシンヘッドを撃ち抜いても、マシンヘッドの数はいっこうに減ろうとしなかった。まるで池の水を手酌ですべて汲み出そうとしているかのような錯覚に囚われる。
「おっ? そりゃありがてぇ。増援かい?」
『そう言いたいがな。どうも様子がおかしい。気をつけろ』
「気をつけろって………」
 アーサーがブレイブの身も蓋もない言い草に苦笑する。
 アーサーのガンフリーダムはフライヤーシステムで空を飛んでおり、砂漠に立つ皇武よりもはるかに視界が広い。故に第九五PA中隊を先に視認したのはアーサーだった。
「あ、あれですね!」
 第九五PA中隊はドイツ製第三世代PAであるパンツァー・レーヴェを装備する部隊であった。そして第九五PA中隊の銃火器が一斉に目標に向けられる………。
「ブワッ!?」
 第九五PA中隊の放った砲火はマシンヘッドではなく皇武を狙い撃った。皇武のボディーは異世界の神金属であるオリハルコンで出来ている。オリハルコンの強度は世界のどの金属よりも丈夫であり、第九五PA中隊の放った集中砲火を浴びても傷一つなかった。
「テメェ! 何しやがる!!」
 瞬間湯沸かし器なシャインは怒声をあげて、皇武を第九五PA中隊に突っ込ませる。そして隊長機と思しきパンツァー・レーヴェを羽交い絞めにする。
「んの野郎! 狙うのは俺じゃねーだろうが!!」
「違う! 違うんだ!!」
 皇武はパンツァー・レーヴェを羽交い絞めにして密着しており、そのためにパンツァー・レーヴェのパイロットと直接声でやり取りできた。壁越しに大声で怒鳴りあうようなものだ。
「俺たちのPAは、全然言うことを聞いてくれないんだ! ホントだ! ハッチが開かないから、脱出もできない! 助けてくれぇ!!」
「動かない………? どういうことだ? おい、ブレイブ! こりゃどーいうことだ?」
『源です! 第九五PA中隊は確かに操縦を受け付けないと言ったんですね?』
「あ? ああ、そういうことらしいが………」



「間違いない! 第九五PA中隊はキラーシステムに侵されています!!」
 司令部の机に置かれているメモを捲る源。そして源は司令部の全員にあるページを見せた。
「MH−04 キラー。究極の電子作戦機として開発されたマシンヘッドです」
『究極の電子作戦機………? 小難しい解説はいいから、手っ取り早く教えてくれ!』
「キラーに搭載されているキラーシステムは、PAに搭載されている姿勢制御コンピュータに干渉できるのです」
『し、しせいせいぎょこんぴゅぅたぁ? それを鑑賞出来たら………どーなるんだよ?』
 初期の第一世代PAはともかく、第二世代以降はPAの姿勢制御を手動ではなく、コンピュータに頼っている。それ故にPAの操縦は、手動時代から見て断然簡単となり、PAは誰にでも使える兵器として世界中に普及していったのだった。その事情を知らないシャインは?を乱発するばかりだった。
「鑑賞ではなく、干渉です。つまり、今の第九五PA中隊はキラーシステムによって姿勢制御を失い、操り人形状態なのです!!」



「じょ、冗談じゃねぇぞ!!」
 第九五PA中隊のパンツァー・レーヴェには人が乗っているのだ。手を出すわけにはいかない。
 だが黙ってみているだけでは………。
「グッ!?」
 皇武の背中に一二〇ミリ砲弾が命中する。皇武の装甲は一二〇ミリ砲弾でも平気だが、着弾の衝撃はいかんともしがたく、皇武は羽交い絞めにしていたパンツァー・レーヴェを解放してしまう。
『キラーは構造上、量産ができません。せいぜい一機か二機程度しかいないはずです。PAや戦車では操られるだけなので、歩兵部隊に探させますので、もう少し耐えてください!』
「簡単に言ってくれるよ………」
「シャインさん、第九五PA中隊の足と手だけ狙い撃ちましょうか? そうすれば何も出来なくなりますよ」
 アーサーがそう言うとGガンの照準をパンツァー・レーヴェの足に定めようとする。
「いや、待て! ダルマにするのは結構だが、そうなったらマシンヘッドはただのオブジェクトになった第九五PA中隊を虐殺するぞ!」
「そ、そっか………」
 アーサーはトリガーを引きかけていた指をパッと離した。
「俺たちはこのままマシンヘッドと第九五PA中隊を同時に相手にし、キラーってのが破壊されるのを待つだけだ」
「りょ、了解!!」



 マシンヘッドの総本山である大西洋に浮かぶ人口要塞島 箱舟。
 その中枢にある超巨大モニターに、第九五PA中隊の攻撃とマシンヘッドの攻撃を同時に受けて右往左往する皇武とガンフリーダムが映っていた。
 それを愉快そうに眺めるのは元アドミニスター幹部であるヘッツァー、その本名をコバルト・ダンケルハイトという男であった。
「ククク………一体いつまで耐えられるかな? キラーに操られたPAを撃破しないと、自分たちが危ないぞ。はははは」
 コバルトの哄笑だけが箱舟に木霊する………。



「歩兵部隊にキラーってのを破壊させる、か………」
 源はそう言ったが、果たしてそれは可能であろうか?
 キラーの前ではコンピュータとやらを搭載している機体はすべて操られてしまうらしい。そのためにPAも戦車も使えないでいた。
 そして常識的に考えて、キラーはマシンヘッドたちに厳重に護られているだろう。そんな所に生身の歩兵部隊だけを突入させても被害だけが増すばかりではなかろうか?
 そういう意味では自分の皇武こそが適任ではなかろうか。皇武は異世界の技術で動いており、如何にキラーであっても操ることはできないだろう。
 シャインはそう結論付けて、無線にて司令部に提案しようとした。だが、その時………。
「シャ、シャインさん! 避けて!!」
 咄嗟に右脚を上げる皇武。今まで右脚があった場所を何かが過ぎ去り、砂漠の砂を派手に巻き上げた。まるで戦艦の砲撃が水柱を立てるかのようだった。
「ゴ、ゴメンナサイ………僕のガンフリーダムも………操られちゃいました!!」
 今、皇武を狙い撃ったのはガンフリーダムのGガンであった。
 チッ………俺の相手はガンフリーダムがやるってか?
「あー、アーサー!」
「は、はい!?」
「俺の皇武なら大丈夫だ。今にブレイブとかが何とかしてくれるはずだ。それを待て」
「は、はい!」
「ガンフリーダム、か………相手にとって不足は無いってか?」
 シャインはそう呟くと、ぱちんと自らの頬を叩いて気合を入れなおした。
 そして皇武対それ以外という一対圧倒的多数の戦いが幕を開けた。
 キラーの制御はシャインが舌打ちするほどにイヤらしいものだった。皇武の持つ魔剣エグゼキューターがマシンヘッドを斬り裂こうとすると、ガンフリーダムや第九五PA中隊を盾にしようとするのだった。そのために皇武の必殺の魔剣もマシンヘッドには届かなかった、いや、届けなかった。
「チィッ!」
 代わりに皇武はMH−03 ハンマーが間断なく放ったミサイルの一斉射を魔剣で斬り払う。斬り払われたミサイルが誘爆し、赤い華が咲き乱れる。
 だがコロッサスの放った一二〇ミリロングライフル ブリッツェン・ゲヴェアは回避できなかった。マシンヘッド自慢の長砲身ライフルでも皇武の装甲は貫けなかったが、着弾の衝撃は皇武を弾き飛ばして砂漠に転がらせる。
 そこを狙うのは二〇ミリと小口径であるが電磁砲であるが故に恐ろしい初速を誇るガンフリーダムのGガンであった。皇武は砂を横に転がってGガンの連射をかわしたが、皇武の肩アーマーの一部がGガンによって貫かれる。
「クソッ! オリハルコンもGガンには耐えられないのか………」
 肩アーマーを貫かれたが、皇武の戦闘能力は一寸たりとも失われていなかった。だがGガンならば皇武にダメージを与えることが出来ることがこれでわかってしまったことになる。
「ブレイブ! もう余裕は無い! キラーってののいてる位置だけでもとっとと割り出してくれ!!」
『わかった。わかり次第、教えよう』
「おう、サンキュ………」
 言葉を途中で切ったシャイン。ブレイブが怪訝そうな声で尋ねた。
『何だ? どうした、シャイン!?』
「いや、ガンフリーダムが飛ぶのを止めて、地面に降りたんだ。フライヤーの燃料が切れたのかな?」
『な、何ですって!?』
 源が大慌ての口調で怒鳴った。
『それはガンフリーダムがG−Mk2を放とうとしているんです!』
「G−Mk2?」
『ガンフリーダム最強の戦略ビーム砲です!!』
 シャインが事の重大さに気付いた時、すでにガンフリーダムのG−Mk2は発射寸前にあった。
 そして次の瞬間には放たれるG−Mk2。
 膨大なエネルギーの奔流が皇武に襲い掛かる!
「いけるか………!!」
 シャインは咄嗟に魔剣エグゼキューターを傘のように拡げた。エグゼキューターは、使用者の望むめばいかなる形状にも変化できる魔剣である。その特性を利用し、皇武はエグゼキューターを盾としたのだった。
 まるで太陽がガンフリーダムから皇武に伸びたかのような眩い閃光。
 エネルギーの奔流は傘のように拡げられたエグゼキューターを、そしてそれを持つ皇武を容赦なく押し切ろうとする。皇武の精霊増幅装置が最大出力で力を生み出し、皇武を支える。そしてその力は皇武のコクピットにあるシャインを護るバリアとなった。それがなければシャインは一瞬で灰になっていただろう。
「ぐぅ………おおおお!!」
 G−Mk2の光が収まった時、ガンフリーダムから皇武にまっすぐガラスの跡ができていた。G−Mk2の莫大な熱量はルブアルハリの砂をガラスに変えるほどに凄まじかったのだった。だが皇武は尚も立ち続けていた。皇武はG−Mk2の直撃に耐えきったのであった。
『シャイン! シャイン! 無事か!?』
「あ、ああ………だが二発目は………無しだぜ………」
『キラーの位置がつかめたぞ。お前から見て左に二〇ミルだ』
「OK! 見てろ………」
 皇武はエグゼキューターを剣の形態に戻すとそれをバッと突き出した。するとエグゼキューターの切っ先はグングンと伸び、はるか彼方まで伸びていった。
 そして数瞬の後、ガンフリーダムと第九五PA中隊のパンツァー・レーヴェが一斉にガクリと膝を突いた。
「ん………? 動く! 俺たちのPA、動くぞ!!」
 皇武がエグゼキューターを延ばした先。その先に例のキラーがいたのであった。
 マシンヘッドは慌ててガンフリーダムと第九五PA中隊を撃とうとする。だがマシンヘッドが撃つよりも早くガンフリーダムのGガンが火を噴いたのであった。
 勿論、ガンフリーダムだけではない。
「溜まり溜まった鬱憤………晴らさせてもらうぜ!!」
 エグゼキューターが風を斬る。風だけではない。マシンヘッドも同時に斬り裂く。
 E−25戦区はキラーが撃墜されたことで、俄然勢いを取り戻したのであった。



「やはり………やはりあの剣は!!」
 コバルトは怒りに表情を引きつらせ、両の拳を固く握り締めた。
「あの剣………あの剣は、私に永久に消えない傷をつけた忌々しい剣か!!」
 コバルトは箱舟中枢部の壁面をしたたかに叩きつけた。
 だがコバルトはすぐに怒りを収め、嬉しそうに微笑んだ。
「ふふふ………何者かは知らんが、あのハムート・バルークスの怨念がこもった剣を使うのか」
 コバルトはスクリーンに映る皇武だけを見ながら言った。
「ならばハムートよりも、さらに強烈な絶望をくれてやろう。そしてそれをこの世界の終曲としようではないか………ふふふふ、はははは、ははははは!」
 箱舟にコバルトの哄笑が高らかと響き渡った………。


マシンヘッドデータファイルNo.5
MH−04 キラー

全長:九.二メートル
自重:七.六トン
最大自走速度(バーニア未使用):182キロ
最大跳躍高(バーニア未使用):32メートル
最大作戦行動時間:43時間
装甲
チタン・セラミック複合装甲
動力源
ガスタービン・エンジン

兵装は一切無し

特記事項
武装を一切廃し、敵のコンピュータをハッキングして自在に操るキラーシステムのみを使う機体。
本来は平和を乱そうとする武装勢力を無条件で武装解除するために設計されていたのだが、マシンヘッドの一員として人類に牙を剥いた。その性質故に中東戦線以降、ソード・オブ・ピースではこの機体を警戒し、偵察を重視して進撃速度を鈍らせることとなったが、結局中東戦線でのみしか確認されなかった。


次回予告





「やった………これで、これで中東からマシンヘッドは消えたぞ!」





「呑気なことと笑うかね?」





「たまには、いいでしょう」






葬神話
第一二話「幕間」へ続く




――これは人類最新の神話である


第一〇話「The people with no name」

第一二話「幕間」

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