葬神話
第一〇話「The people with no name」


 一九八五年一二月一日。
 中東に終結したマシンヘッドの軍団を殲滅する一大作戦「砂の薔薇デザートローズ」がついに発動された。
 東京制圧作戦に失敗したマシンヘッドに、雪崩を打つ人類の勢いを止めることはできなかった。
 しかしマシンヘッドは無人の機械人形である。
 そのために死を恐れず、一歩たりとも怯むことなくソード・オブ・ピースの前に立ち塞がったのだった。
 たった二週間の戦闘で三四万人の死者を出すこととなる史上最大の激戦。
 それが後世の歴史書に記された中東決戦の概要であった。



 一九八五年一二月四日。
 サウジアラビア王国首都リヤド。
砂の薔薇デザートローズ作戦発動から三日………。戦線は徐々にですが、前進しつつあります」
 元大日本帝国統合作戦本部中佐の源 猛はソード・オブ・ピース中東方面部隊総司令官に就任したレリューコフ・バーコフとその幕僚たちを前に言った。
「ですが、制空権を完全に我々のものとできていないため、マシンヘッドの航空攻撃で多大な損害を被っております」
 源は指揮棒でアデン湾を指し示す。
「このアデン湾に陣取るマシンヘッドの無人艦隊旗艦、超大型空母 アルウス撃沈作戦を小官は提案いたします」
「ふむ………」
 レリューコフは見事な髭を撫でながらそっと目を閉じた。それはレリューコフが幕僚たちに自由な発言を許す合図であった。源の提案した作戦に対し、中東方面軍総司令部幕僚たちが検討を始めた。
「アルウスは旧米海軍のハズバンド・E・キンメル級原子力空母をもはるかに上回る搭載量を誇り、一隻で一個航空軍団を搭載できると聞く。撃沈、できるのか?」
「現在、この中東には航空機が四〇〇〇機いる。四〇〇〇もいればアルウスといえども撃沈できるのでは?」
「いや、四〇〇〇は机上の数でしかない。すでに実質稼動機は二〇〇〇を割っているとの報告も聞いている」
「元々、戦闘用の機体は二五〇〇で、残りは輸送機や空中給油機などだ。それは数字のロジックだよ」
「ふむ………なら戦力的には問題ないのか?」
「もしアルウスが撃沈できたならば、マシンヘッドは航空戦力を完全に失うことになる。そのアドバンテージは大きいぞ」
「ふむ………ならやってみた方がいいかもしれんな。このままアルウスをのさばらせたままというのも面白くない」
 議論の大勢が定まった。そう判断したレリューコフは目を開けて源を呼んだ。
「源中佐」
「はい」
「貴官の作戦を認可する。攻撃開始時刻はいつだ?」
「攻撃開始は明後日の1300を予定しております」
「わかった。アルウス撃沈作戦………必ずや成功させてくれ」
「はい! 了解しました!」



「源中佐」
 アルウス撃沈作戦の許可をもらった源は、自分の提案が認められた嬉しさと、これから作戦の詳細についてまとめなければならない忙しさを前にした面持ちで総司令部を後にしようとしていた。その源中佐の背中を呼び止める声。
 源が声に振り返ると、顔の大半を覆い隠す仮面をつけた男が立っていた。
 マシンヘッドの東京制圧作戦の際に、フラリと九十九里浜に現れ、日本の皇族筋の紹介で中東方面軍作戦参謀となったユウ・ブレイブ大佐であった。
「ブレイブ大佐………」
「アルウス撃沈作戦を進言したそうだな」
 源はブレイブがどうしても苦手であった。仮面で隠れているにも関わらず、ブレイブの眼は冷たく、源を射るかのように思えるからだ。
「は、はい」
「作戦の基本計画はあるのか?」
「ええ、大型爆撃機による巡航ミサイルのつるべ撃ちを行い、敵対空砲火をひきつけます。その隙に真打の攻撃部隊を同時に送り込み、アルウスを討ちます」
「なるほど………。いい作戦だな」
「あ、ありがとうございます」
「だが、アルウスの搭載機数はあまりに膨大で、搭載機はすべてあのゴーストX−9だ。攻撃部隊はゴーストX−9の防衛陣で消耗しきらないか? 新型戦闘機の槍空でもゴーストX−9とのキルレシオを二対一。槍空二機でゴーストX−9一機の計算であるが」
「無論、護衛機は充分につけます。それが前提ですから」
「そりゃそうだ。それくらいはしてもらわないと困る」
 ブレイブは「だが………」と続けて言った。
「だが………その程度では恐らく勝てんぞ。どうすれば攻撃隊の障害を減らせるか。君ならその答えを求めれると思うのだがね?」
「………ブレイブ大佐にはその答えというのがわかっているのですか?」
「多分、君が考えて封印した策。それが最善だ」
「!?」
 源はブレイブの言葉に体を震わせた。
 この人………どうしてアルウス撃沈作戦の第一案を知っているんだ!? あれは自分自身の胸中のみで検討し、そしてボツにしたはずなのに………。
 ブレイブは、内心の奥底に封印していたことを悟られて表情を引きつらせた源の肩を叩いて言った。
「『自分を殺してでも多くの命を救え』。君の本来の・・・家の家訓だよな? いい言葉じゃないか」
「な、何故その言葉を………」
「ふ………どうしてだろうな」
 ブレイブはそれだけ言うと源の前から歩き去った。
 独り残された源はブレイブの背中をじっと見ることしかできなかった。



 一九八五年一二月六日午後一二時四五分。
 ルブアルハリ砂漠にポツンと作られた航空基地 A−88。
「………以上が本作戦、『屋島』の概要です。質問はありますか?」
 源がアルウス撃沈作戦『屋島』に参加する将兵を見渡しながら尋ねた。
 戦闘機部隊を束ねる鷲尾 一志少佐にそっと耳打ちしたのは安藤 弘中尉であった。
「つまり大量の巡航ミサイルを囮として、敵の対空砲火をひきつけて、本命の攻撃隊を投入するって訳ですよね」
「うむ………少しでもタイミングがズレたら最後。綿密な行動が必要となるだろうな」
 しかし鷲尾は綿密な作戦計画を逆に面白そうだと笑い飛ばした。
「こういう作戦を立案してくるほどに司令部は俺たちの腕を買ってくれているんだ。いいじゃないか。その期待に応えてやろうとも」
 そして一五分後。
 アルウス撃沈の任を帯びた攻撃隊総勢七〇〇機が一斉に飛び立った。
 目指すはアデン湾に遊弋するマシンヘッドの無人艦隊である………。



「1300か………作戦が開始されたな」
 皇武のコクピットで腕時計を見たシャインは誰にいうでもなく呟いた。
『では僕たちも作戦開始ですね』
 砂に突き刺していた、厚さ二五〇ミリにも達する八三式防盾を引き抜きながら、ガンフリーダムに乗るアーサー・ハズバンドが言った。
「そういうことだ。さ、行くぞ」
 皇武はエグゼキューターを大剣状に展開させ、肩に担ぎながら砂漠を南に向けて歩き始めた。
 それに続くのはガンフリーダムやアルトアイゼン・リーゼ、肩部に獅子の紋章を描いたP−80の部隊であった。
 アルウス撃沈作戦『屋島』が開始されると同時に精鋭PA部隊『クリムゾン・レオ』を中核とするPA部隊も南下を開始したのであった。



 一九八五年一二月六日午後二時一二分。
 攻撃隊はすでにアデン湾に差し掛かっていた。
 後は偵察衛星の情報で把握しているマシンヘッド艦隊に殴りこみをかけるだけである。
 先攻する戦闘機部隊の鷲尾の無線が、後方の巡航ミサイル搭載爆撃機 七二式重爆撃機 仙竜からの通信を捉えた。
『こちら後ろの一番槍! これより作戦を開始する。本隊は増速し、アルウスを目指せ!』
「こちら誇り高き猛禽ノーブル・イーグル。了解した。俺たちの幸運を祈っててくれ」
『了解だ。仏にもキリストにもアラーにも。ありとあらゆる神様に祈っておく!』
「ふ………ではこれから作戦の第二段階だ! 一気に行くぞ!!」
 鷲尾の合図で攻撃隊のエンジンが全開となり、槍空と攻撃機 風魔10をメインとして構成された本命の攻撃隊が一気に加速する。



 同時刻A−88。
「攻撃隊が増速開始!」
「攻撃隊がゴーストX−9と接触! 槍空隊が制空戦闘を開始しました!」
 A−88司令部も緊張に包まれていた。このアルウス撃沈作戦に中東方面の航空戦力の過半を使ったのだ。もしも失敗したら、中東の制空権は取り返しがつかなくなるだろう。
 源は額に滲む脂汗を軍服の袖で拭った。
「………大丈夫だよな」
「!? これは………」
「何だ? 何かあったのか?」
 驚きの声をあげた通信兵に源は駆け寄った。
「いえ、攻撃隊からの通信なのですが………」
「何?」



「おかしい………」
 鷲尾はそう呟きながら、稲妻のような機動でゴーストX−9を追い詰めて機関砲で蜂の巣に変えた。
 今のところ、マシンヘッド艦隊近海の制空権はソード・オブ・ピースのものであった。ゴーストX−9の数は不気味なくらいに少なかったのだった。
「敵の数が少ないのはありがたいことだが………それでも不気味極まりないぜ」
 そう言いながら鷲尾の後ろを取ろうとしたゴーストX−9を減速でやり過ごし、鷲尾の前に出てしまったゴーストX−9を一撃で叩き落す。
「おい、司令部! どうなってやがる!?」



「バカな………鷲尾少佐、本当に敵の数が少ないのか?」
『ああ………せいぜい一〇〇機いるかいないかだ。これくらいなら俺たちだけで制空権は充分に確保できる………っぜ!!』
 鷲尾の通信に機関砲の発射音が混じる。そして爆発音。鷲尾がまたゴーストX−9を撃墜したようだった。
「源中佐、敵は別方面からの攻撃隊を警戒して部隊を分けたのでしょうか?」
「まさか………。巡航ミサイルの迎撃に駆り出されているとも思えないが………」
「あの、源中佐」
 おずおずといった体で通信兵が源に声をかけた。
「マシンヘッドの部隊を両断するかのように敵中奥深くに前進している部隊があるのですが、それを攻撃するために駆り出されているのではないのですか、ゴーストは?」
「何!?」
 源は戦略情報が映し出されている大画面に視線をやった。確かに味方IFF信号がマシンヘッドの大軍に突進を仕掛けている。
「バカな………そんな話、俺は聞いていない………」
 源はハッと気付いた。慌てて受話器を取り、総司令部のブレイブを呼び出す。
「ブレイブ大佐! 貴方………やってくれましたね!!」
 ブレイブは涼しい口調で答えた。
『ああ、俺が屋島作戦発動と同時にマシンヘッドの部隊に突っ込むように指示した。だがおかげでゴーストX−9はそちらに出払ってて、攻撃隊はまだ安全だろう?』
「何ということを………これではゴーストX−9をおびき出すために使われた囮部隊は全滅必至ではないですか!」
『通常ならばそうなってもやむなしだろうな………。だが、九十九里で一〇〇〇機近いマシンヘッド相手に単機で挑んで、さらに勝利まで収めた皇武とガンフリーダムをつけておいた。さらに元の部隊は精鋭と名高い『クリムゾン・レオ』だ。彼らならば生還するさ』
「では、必死隊ではなくて決死隊だというのですね………?」
『そういうことになるな。だがな、源中佐』
「?」
『貴様も軍人で、作戦指導の立場に立つのならばいい加減にわかれ。最終的な勝利を収めるために、犠牲を強いる作戦も必要なのだということを』
 ブレイブはそれだけ言うと、これ以上話すことは無いとでも言いたげに受話器を下ろした。源の耳に響くのはツーツーという音だけであった………。



 攻撃隊がマシンヘッド無人艦隊と接敵する一時間前。
「必殺! 稲妻重力落としぃ!!」
 砂漠の大地を蹴って跳び上がった皇武。そのまま重力に引かれて落下する皇武。その重力を加勢として必殺の一撃を振り下ろす!
 重マシンヘッドMH−03 ハンマーがいともたやすく両断される。砂地に着地した皇武は、今度は砂を蹴り上げながら前に跳ぶ。
「激走斬りぃ!!」
 魔剣エグゼキューターを構えながら回転し、刃の竜巻と化した皇武がマシンヘッドの群れに襲い掛かる。マシンヘッドの装甲ではエグゼキューターの刃を止めることはおろか障害にすらならない。皇武が走り抜け、片膝をつけて決めポーズを取った時、皇武の道に築かれしはマシンヘッドの死屍累々であった。
『みなさん! 来ましたよ!!』
 空からマシンヘッドを狙い撃っていたガンフリーダム操縦者であるアーサー・ハズバンドの声。ガンフリーダムが指差す方向に見えるのは雲霞の如き幽霊鳥の大群であった。
「よし! これからが正念場だ! 行くぞ!!」
 皇武は魔剣を掲げ、ゴーストX−9の大群に怯んではならぬと吼えた。そしてゴーストX−9の大群に突撃を開始した………。



『どういう理由だか知らないが、ゴーストの数が少ない! これならいけるぞ!!』
 攻撃機 風魔10の誰かが歓喜を爆発させながら無線に怒鳴っていた。
『今を逃せばこれ以上のチャンスは無い! 全機、アルウスに対艦ミサイルぶち当てるまで撃墜されるんじゃねーぞ!!』
『槍空隊! 背中は任せた!!』
 次々と聞こえる風魔10隊の無線。鷲尾はその無線に応えはしなかった。彼は態度でその返答を返したのだった。瞬く間に撃墜されるゴーストX−9。マシンヘッド無人艦隊上空の制空権はソード・オブ・ピースのものとなりつつあった。



 風魔10乗りのトゥウマ少尉は勝利を確信していた。だから彼は己が信じる神に対してあらん限りの声で叫んだ。
「アッラー・アクバル!!」
 マシンヘッド無人艦隊はもはや肉眼でも確認できる距離にある。後は風魔10が翼下に抱える対艦ミサイルをアルウスに撃ち込むだけである。数百発………いや、数千発ものミサイルの飽和攻撃にアルウスは晒されることになるのだ。こうなっては如何に超空母との異名を誇るアルウスでも無事ではすむまい。勝利は我らのもの。人間を舐めるなよぉ!!
 しかしトゥウマの人生はそこで唐突に終わりを宣告された。
 トゥウマの風魔10は、アルウスを護衛する無人巡洋艦ヴィルベルヴィントの放った対空パルスレーザーの一撃で叩き落されたのであった。
 そしてトゥウマの死を皮切りに、風魔10隊の地獄が始まったのであった………。



 ヴィルベルヴィントに搭載されている対空パルスレーザー。それは確実な死の宣告であった。風魔10は重装甲の攻撃機であるが、その装甲はパルスレーザーの熱量とでは相手にもならなかった。おまけに光の速さで突き進むレーザーである。アルウスに近づこうとする風魔10は一機の例外もなくヴィルベルヴィントのレーザーに焼き墜とされるだけであった。
 風魔10隊が怯んでいるうちに、大型爆撃機が先に放っていた巡航ミサイルまでもがすべてヴィルベルヴィントの対空パルスレーザーの好餌となってしまった。ここにきて源の作戦の前提は崩れたのであった。
「ヴィルベルヴィントだ! 先に奴からやれ!!」
 咄嗟に賢明の判断を下すものもいたが、ヴィルベルヴィントに搭載される対空パルスレーザーは全部で一〇基。百発百中の殺人光線はミサイルですらものともしない。
 このまま我武者羅に突撃するしかないのか………? だがそれでは被害だけが増えるだけではないのか………? 誰もがそう思い始めた時だった。
『風魔10! お前たちは退がれ!!』
 そう言って風魔10隊に一時撤退を叫んだのはソビエト連邦製最新鋭攻撃機 シルカを駆る部隊であった。シルカは光学迷彩装置を搭載した攻撃機で、かつては西側諸国に「共産圏のニンジャアタッカー」と恐れられていた機体である。ただ、その光学迷彩装置が量産性を妨げることとなってしまい、今回の攻撃隊にはせいぜい二〇機が参加している程度である。
 姿も見せずにヴィルベルヴィントに迫るシルカ隊。シルカの形状はステルス性も考慮されているためにヴィルベルヴィントはシルカ隊の姿を捉えることはできず、対空パルスレーザーを適当に放つだけであった。
「凄い! いいぞ、シルカ隊! そのまま邪魔なレーザー野郎を沈めちまえ!!」
 だがヴィルベルヴィントは、現代の艦船としては時代遅れとしかいいようのない主砲―三五.六センチ砲を全周囲に向ける。
「まさか………」
 次の瞬間にヴィルベルヴィントが咆哮をあげた。
 放たれた三五.六センチ砲弾。それはただの砲弾ではない。砲弾内に可燃性の液体が込められた、気化砲弾である。
 それが一斉に炸裂した時、ヴィルベルヴィントは複数の太陽に照らされた。いや、ヴィルベルヴィントは周囲を太陽に護らせたとでもいうべきであろう。
「エリアウェポン!」
 広範囲に影響を及ぼす気化砲弾の威力は見た目ほどに強くは無い。シルカの装甲ならば問題にもならないだろう。しかしその燃焼は周囲の空気を奪い、シルカの心臓エンジンを停止させ、エンジン停止を免れたとしてもその熱量にパイロットが耐えられなかった。
 ヴィルベルヴィントの傍にいくつもの水柱が立つ。シルカのエンジンが死んだのか、搭乗者が死んだのか………。ともかくシルカが撃墜された証であった。
 しかしそれでも何機かのシルカは健在であった。
『お……おい………』
 風魔10隊の無線に、もはや風前の灯の命数しか持たなくなった男の声が聞こえた。
『……野郎は………あのクソッタレはどこだ………』
 もはや彼は目も見えないのであろう。目の前に悠然と佇むヴィルベルヴィントがどこにいるかを聞いてきた。
「まっすぐだ! 奴はお前の、お前の前にいる!!」
『………スパシーバ』
 気化砲弾のカーテンを潜り抜けたシルカ隊は、もはや助からぬとわかるとヴィルベルヴィントに体当たりを敢行する。ヴィルベルヴィントにぶつかったシルカは合計で三機。その三発の有人ミサイルの突入によってヴィルベルヴィントは対空パルスレーザーを全損させられる。
 あの正確無比の殺人光線の脅威は去ったのだった。
「クッ………あいつら………」
 風魔10隊はシルカ隊の勇気に涙しながらも、為すべき事を見失いはしなかった。
「行くぞ! アルウスを………しとめる!!」
 風魔10隊が一気に増速。最大戦速でヴィルベルヴィントを飛び越え、アルウスに襲い掛かった!
 アルウスには対空パルスレーザーは搭載されていなかった。旧態依然のCIWSが搭載されているのみ。二〇ミリガトリング砲の火力では空中戦車を名乗っていた風魔10を止めることなど夢のまた夢。
 風魔10は巨象に牙を向く蟻の大群であるかのように、アルウスに執拗に喰らいつく。
 アルウスは対艦ミサイルを一発、また一発と受け、被弾箇所からドス黒い煙をあげる。しかしそれでもアルウスはまっすぐに航行を続けていた。数十万トンもの排水量を誇る超大型空母はミサイルの攻撃ではビクともしないのだろうか?
 しかし突如、アルウスは舷側に開けられた破孔から紅を吐き出した。吐き出された紅は瞬く間にアルウスを包み込む。
「やった! アルウスの燃料タンクを引火させたんだ!!」
「もうすぐだ! まだミサイルを抱えてる奴は、今すぐぶちこむんだ!!」
 アルウスは全身を炎に包まれながら、それでも航行を続けていた。そのしぶとさには鬼気迫る何かを感じずにはいられなかった。
 しかしアルウスにも最期の時が来た。
 アルウスはガクリと船体を震わせたかと思うと、船体を二つに折り、海中に没し始めた。その沈没はあっけないくらいに早かった。あれほどまでに沈むことを拒否し続けた超空母とは思えぬほどに。
 だが、これでマシンヘッドは中東方面における航空戦力を完全に喪失したのであった………。



「おめでとう、源中佐。作戦は完遂されたな」
 源に労いの言葉をかけたのはブレイブであった。ブレイブはポケットからタバコを取り出すと火をつけ、濃厚な紫煙を吐き出した。
「ブレイブ大佐………」
 ブレイブは源にタバコを勧めたが、源はそれを断った。
「『クリムゾン・レオ』も生還したよ」
 ブレイブはまるで昨日の野球の結果でも話すかのような普段通りの口調で言った。源は我慢できずに尋ねた。
「………何人、殺したんですか」
「……………」
 ブレイブは何も答えずにタバコを吹かし続ける。
「貴方は………まるで私の伯父のようだ」
「………ほぉ」
「私の伯父はあの日米戦争の際に作戦指導の立場にあって、勝つためなら何でもやった。兵を平気で囮にした」
「……………」
「そしてついたあだ名が『鬼畜王』………貴方はまるでその生まれ変わりだ」
「……………」
 ブレイブは吸い終えたタバコを投げ捨てた。そして自らの顔を覆い隠す仮面に手をかけた。
「………本当は誰にも言うつもりはなかったが、身内がいたのでは仕方が無いな」
 ブレイブは仮面を外し、「鬼畜王」結城 繁治として源と向かいあった。
「なっ………!?」
 ブレイブが結城 繁治のようだと思っていた源であるが、まさか本当に本人だとは思わなかったのだろう。呆気に取られた表情を浮かべる。
「俺を否定するのは結構だ。だが、今回俺の横槍がなければどうなっていた? ヴィルベルヴィント一隻にあれだけてこずったのだぞ。そこにゴーストX−9の大部隊もいたら………?」
「そ、それは………」
「お前は犠牲を前提にした作戦を否定したがっているようだが、今のお前では否定しても説得力が無い。戦争はもっと真剣にやるものだ」
 結城はそれだけ言うと再び仮面をつけ、ブレイブに戻った。そして興味を失ったとでも言いたげに鼻を鳴らすと源に背を向けた。
「私は………私は………」
 源は強く唇を噛み締め、拳を硬く握り締めた。
 見ていろ、鬼畜王………。
 俺は必ず誰も犠牲にしない作戦を考案し、お前の鼻を明かしてやる!
 それがお前に対する復讐だ!!


第九話「中東決戦」

第一一話「最強対最強! ガンフリーダムVS皇武!!」

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