戦争War時代Age
第四章「カナダの戦い<1>」


 一九四〇年一二月二一日。
 不意の開戦から二週間ほど経とうとしていた。
 時計の針が一〇時を指し示そうとしている頃、アメリカ合衆国第三二代大統領イーニアス・ガーディナーは大統領官邸ホワイトハウスの執務室で少し遅い朝食を取っていた。「できる男はよく食う男」を信条とする大統領の朝食は大盛りの野菜サラダに大量のスクランブルエッグとカリカリに焼かれたベーコン、そして複数個のクロワッサンであった。焼きたてのクロワッサンに好物のイチゴジャムを塗っていた時、おもむろに執務室の扉が開いた。扉を開けたのはガーディナーにとって最高の相棒である国務長官のアルヴァル・ソルサであった。
「イーニアス、マニラが落ちたよ」
 ソルサは開口一番にそう言った。マニラはフィリピン最大の都市であり、この都市が落ちたということはフィリピンの命脈は尽きたと言っても過言ではない。だが大統領イーニアス・ガーディナーはまったく動じず、サルサにはこう返した。
「食うか?」
 そう言ってガーディナーはベーコンが載せられた皿をサルサに向けた。サルサは返答を返さなかった。返す必要も無いからだ。
「ま、食わんだろうな………」
 サルサが菜食主義者であることを知り尽くしているガーディナーは自分の申し出が断られたことを残念とも思わず、サルサに言った。
「マニラのような敵地に近すぎる場所が護りきれるはずがない………。これは予想通りだな」
「しかしこれほどまでに早いとは思わなかった」
「スケジュールを早めすぎたと思うかい?」
 ガーディナーはクロワッサンを噛み千切りながら尋ねた。
「いや………予定より開戦を一年早めたのは正解だろう。もし開戦が当初の予定通り一九四一年だった場合、我が軍の戦力はさらに増強されていただろうが、それは同盟軍とて同じだった。彼我の戦力の開きが最大になるのは、今しかない」
「ふふ………その通りだな」
「ただ、スケジュールを早めたためにカナダ方面にしか攻めあがることが出来ない。太平洋方面への攻勢は見送りだな」
「なぁに、カナダさえ制圧できたらこの戦争は我々の勝ちになるさ、国務長官」
 ガーディナーは大量の朝食を平らげながら続けた。
「カナダもこの朝食のように軽く平らげないとな」



 カナダ随一の大都市モントリオール。この街にオルレアン同盟カナダ方面軍の司令部が置かれていた。
 オルレアン同盟カナダ方面軍司令部で、大日本帝国から派遣された結城 繁治中将は言った。
「カナダが陥落ちたらこの戦争はお終いだ。我々の敗北となる………」
 奇しくも結城の語った内容は合衆国大統領イーニアス・ガーディナーと同じ認識の上にあった………。「いや、奇しくも」ではない。この結論は万人が認める当然至極の終着点なのであった。
「カナダにはニッケルを始めとする戦略物資がある。それらを米軍の手に渡すわけにはいかない………そういうことですな」
 結城の言葉を受け、見事な口髭を震わせたのはフランスから派遣されたアンリ・ペタン元帥であった。
「無論、それだけではない………。カナダを失えば、アメリカ大陸は完全に合衆国のものとなる。そうなっては再上陸など夢のまた夢………」
 そしてアメリカ大陸は不可侵の聖域となる………。イギリスから派遣されたバーナード・モントゴメリー大将の表情は暗い。
「そうだ。だからこそ負けるわけにはいかない………。各国の首脳はそう判断し、我々を派遣した」
 結城 繁治はそう締めくくると巨大なホワイトボードの上に地図を貼った。五大湖東側周辺の地図であった。
「滝沢、現状の説明をしろ」
 結城に指名されたのは結城の副官としてカナダに派遣された滝沢 紳司少佐であった。滝沢は同盟が誇る名将たちを前に一礼すると指示棒で地図を指し示し始めた。
「現在、米軍は大きく分けて三つの軍団に分かれています。一つはバンクーバーを狙う西海岸軍団七〇万。二つ目はモントリオールを直に狙う東海岸軍団五〇万。ですがこの二つの部隊は考慮するに値しません」
 滝沢は最後の三つ目の軍団を強く指し示しながら続けた。
「米軍の主力はここ。五大湖を中心に配備されています。その兵力は少なく見積もって二五〇万」
 二五〇万。未曾有の大兵力が五大湖を北上しようとしている。その認識は諸将の胆を冷えさせる。なぜならばカナダの同盟軍の総兵力は一〇〇万に届くか届かないかのラインだったからだった。
「我々の総兵力が一〇〇万弱であることを考えると、米軍は攻者三倍の鉄則を護っていることになります」
「ふむ………」
 滝沢の説明を聞いていた結城が、おもむろに滝沢に尋ねた。
「では我々はどうするべきだと考える? 滝沢、貴様の意見を聞かせてみろ」
「我々の総兵力は確かに米軍には及びません。ですが、ヨーロッパ大陸からの増援を待てばその差を埋めることは可能です。先の輸送艦隊が米海軍に邪魔されたとはいえ、三ヵ月ほど持ちこたえることができれば再度増援部隊を送ることが出来るでしょう。何せ、ビスマルクの奮戦のおかげで輸送船団自身は無事だったのですから」
 滝沢の述べた意見は至極真っ当な性質であった。防御を固め、時間を稼ぐ。それが確かに確実な方法であろう。しかし滝沢は逆接の接続詞で言葉を続けた。
「しかし私はあえて攻勢を主張します。米軍の主力部隊相手にこちらから戦闘を仕掛け、出血を強要するのです」
「バカな! 三倍以上の敵を相手に攻勢など………論外だ!」
 フランスのペタン将軍が目を剥いて声をあげた。
「その理由を聞かせてもらえるかな?」
 ドイツ第三帝国から派遣されたエーリッヒ・フォン・マンシュタイン大将が興味深そうに尋ねた。どうやら彼は滝沢の言葉にシンパシーを感じたようだった。
「米軍も我々が自分から向かってくると思っていないから。それが理由では納得できませんか?」
 滝沢は慇懃無礼に言ってのけた。これで納得できないのなら貴様はバカだと言わんばかりに。その態度にペタンは言葉を失い、マンシュタインは目を白黒させた。少佐である滝沢よりはるかに上級の将を相手に何と遠慮のない男であろうか。
 驚く二人とは対照的にモントゴメリーと結城は愉しげにくつくつと笑い声をあげて互いにのみ聞こえる程度の声で囁きあう。
「日本人はみんなサムライで、上下関係には厳しいと思っていたが………。なかなか頼もしいですな、ユウキ中将」
「クク、何せ遠田大将のお墨付きですから」
「一つ訊くが、今のは君の入れ知恵かね?」
「いいえ………。すべて滝沢個人の思考の果てですよ」
「ふむ。ならばあの態度もよかろう。『傲慢は天才の特権』………かつて私がオンダと会った時、彼は鼻を鳴らしてそう言っていた」
「フッ、あの人らしい言い草だ」
 結城は口元をわずかに緩めると滝沢に向き直って言った。
「滝沢、貴様の作戦案を聞かせてみろ」
 滝沢は不遜の態度を崩さず、満面の自信で自らの作戦案を披露し始めた。



 一九四〇年一二月二七日。
 エルウィン・ロンメル中将率いる第七機甲師団はヒューロン湖とエリー湖の間にある街ロンドンの近くに展開し、米軍の攻撃に対し退くことなく、逆に米軍の攻撃を何度となく撃退してみせていた。
 第七機甲師団師団長のエルウィン・ロンメルは高射砲である八八ミリ砲を対戦車砲として活用し、米軍の戦車部隊を次々撃破していた。高射砲は重力に逆らい、砲弾を数千メートルの高度まで撃ち上げる。その初速と射程距離は対戦車砲としては破格の物となるのは道理であった。その巧みな戦術手腕は米軍に「雪原の狐スノー・フォックス」と恐れられるほどであった。
 だがロンメルは今、苦境に立たされていた。
「燃料はともかく弾薬はあと一会戦分も残されていないと言うのか………」
 ロンメルは補給担当の参謀からの報告書を見て唖然としていた。
「はい。米軍の攻撃は苛烈でしたから………」
 参謀は暗い表情で俯いた。倍以上の戦力を相手に第七機甲師団はよく戦ったと思う。しかし善戦は物資の消耗を激しくし、第七機甲師団は苦境の最中にあった。弾薬無しで戦うことなど不可能だからだ。
司令部モントリオールは何と言っている?」
「可能な限り現地に留まり、米軍を抑えろの一点張りです」
 参謀の言葉にロンメルは怒り心頭といった面持ちで司令部モントリオールの頑固な姿勢をなじった。
「彼らの頭は大理石でできているに違いない。仮にここで踏みとどまったとして、我らが全滅しては結局米軍の前進は早まるだけではないか!」
「で、いかがなさいましょうか?」
 参謀がロンメルに決断を促した。ロンメルは参謀に決意の眼差しを向けて言った。
「一時ハミルトンに後退だ。ここで優秀な将兵を無駄死にさせるわけにはいかん」
「し、しかし師団長閣下! それでは………」
 ロンメルの言葉に副官が驚きの声をあげた。
「構わん。私一人の名誉で第七機甲師団全員が助かるのなら、私の名誉などどうなってもいい」
 ロンメルの言葉に感動を隠せない参謀。ロンメルは背を向けると参謀に言った。
「今すぐ後退の準備だ。米軍に気取られぬよう慎重に、だが大急ぎで進めてくれ」
 それは矛盾をはらんだ命令だったが、ロンメルの男気に応えるためにも必ず成功させよう。参謀は心からそう誓った。
 参謀の退室を見届けてから、副官がロンメルに声をかけた。
「閣下、本当によろしかったのですか?」
「ああ。私はね、先の戦争WW1の時、戦功争いで多くの部下を死なせた。その際に気付いたのだよ。私は、自分独りの名誉のために何と言うことをしたのかと………。私はつまらん名誉のために多くの未来を潰してしまった」
 ロンメルはじっと自分の手を見詰めた。その手で多くの未来を潰してしまったことを後悔する瞳で続ける。
「過ぎた時がもう戻らないことは知っている。だが、私は同じ過ちだけは繰り返さない。昔の私は名誉のために戦ったが、今の私は未来を護るために戦うのだ」
「閣下………」
 ロンメルは感服したと言いたげな副官の肩を叩くとその場を後にした。
 そして独り残された副官は………。



 エルウィン・ロンメル率いる第七機甲師団と正面から渡り合っていたのはアメリカ陸軍第八二師団であった。
 第八二師団を率いるのはオマー・ブラッドレー少将であった。ブラッドレーは海軍のウィリアム・ハルゼーのように、開戦を睨んだ有能者特進の恩恵に預かった者の一人であった。その特進がなければまだ大佐か准将であったはずだろう。
 ブラッドレーの用兵は慎重で、魔術のようなエルウィン・ロンメルの用兵にてこずりながらも被害は最小限で抑えていた。そして最小限の損害で、第七機甲師団に最大の消耗を強要していた。その結果が第七機甲師団の物資欠乏であった。
「ほぉ、第七師団が後退を開始するか………」
 ブラッドレーは爪を切りながら報告を受けていた。爪きりがパチンと音を立てて爪を切断する。
「B17でハミルトン〜ロンドン間の鉄道網を爆撃し続けた甲斐がありましたな」
 参謀の言葉にブラッドレーは満足気に頷いた。ブラッドレーは大型爆撃機であるB17を鉄道路の爆破に使い、第七機甲師団を孤立させる作戦を取っていた。そのために補給が滞った第七機甲師団は撤退を余儀なくされたというわけだ。
「では我々も総攻撃といきましょう! 今こそ打って出る好機ではありませんか」
「しかし奴らも驚くでしょうね。まさか自分たちのすぐ傍にスパイがいて、内情が我々に漏れていると知ったら………」
 参謀たちの会話を他所に、ブラッドレーは切り終えた爪をヤスリで磨ぎ始めた。そしてポツリと命令した。
「総攻撃開始だ」
 その命令を待っていた参謀たちは、その言葉を聞いた瞬間に行動を開始していた。
 後退を始めた第七機甲師団を強襲するべく第八二師団は前進を開始したのであった。



 一九四〇年一二月三〇日。
 モントリオール市内の高級ホテルに同盟軍の将軍たちは滞在していた。
 その一室に結城 繁治と滝沢 紳司がいた。
 結城はキューバ産のハバナ葉巻の端をナイフで切りながらおもむろに尋ねた。
「滝沢、貴様は陸士でうちの息子と同期だったらしいな」
「結城 光洋少佐ですか? 確かに同期でしたが………何か?」
 結城は葉巻を咥え、マッチを擦って火を灯した。
「何、息子が同期生の目からどう見えていたのか。親としては気になったんでな」
 結城は葉巻の味を楽しみながら言った。滝沢は結城 繁治の次男である結城 光洋のことを思い返した。
 結城 光洋。彼は何もかもが滝沢 紳司と対極にあった。
 貧しい農家の長男であった滝沢と、戦国時代から続く武家の名門である結城家の次男である光洋。
 貧しい農家で生まれた滝沢が成り上がるには軍人になるしかなかった。軍人は己の才幹次第でどこまでも上り詰めることができるから。滝沢はそう信じて陸軍士官学校の試験を受け、次席の成績で入学した。
 その時の陸士入学試験で主席だったのが結城 光洋であった。名門の子孫で、父親も海軍の主流を歩み、さらに天性の才能を持つ光洋は苦労しか知らなかった滝沢にとって羨ましい存在であった。常に滝沢より恵まれ、そして滝沢より前を行く存在。それが結城 光洋であった。
「………そうですね。光洋は、一言で言うならば甘い男です」
 滝沢の口からこぼれたのはその台詞だった。常に感情を制御し、完璧であろうとする滝沢にしては珍しい、感情的な言葉であった。
「甘い、か………」
「彼は人を疑うと言うことを知らなさすぎる。人間として尊敬に値するかもしれないが、軍人としては失格である。私はそう思っています」
 陸士で知り合って以来、滝沢と光洋は奇妙な友情で結ばれることになっていた。と、いうより滝沢は光洋を利用したのである。陸士内には上級生が下級生をシゴくという伝統があるが、そのシゴきは目立つ者ほど苛烈になる。滝沢は本来ならば目立ってもおかしくない人材だったが、より目立つ光洋の傍に立つことで自らを目立たなくしたのであった。だが光洋自身はそんな滝沢の意図に気付こうともせず、滝沢を純粋に友人だと思っている様子だった。滝沢はそんな光洋を愚かと嘲笑っていたが、それでも光洋の友情にそれなりの応対をしめすようになっていた。傍から見れば二人は親友に見える間柄であったという。
「甘い、か………。やはりか」
 光洋の父親は残念そうに呟いた。
「アイツは軍人には向かん。だが、私へのあてつけで軍人を続けようとする………。困ったものだ」
 あてつけ・・・・? どういうことだ?
 結城 繁治の言葉は滝沢の興味を惹いた。しかしそのことを問おうとはしなかった。どうせ聞いても教えるはずがないと考えたからだ。
「だが………」
 そのことを調べることはする。そしてそれが武器スキャンダルになるのならば………。滝沢は遠慮なく利用するつもりであった。なぜならば滝沢の目標は軍人の頂点である統合作戦本部部長の席だからだ。その障害になりそうな者は潰し、道を舗装していていけば目標に早く辿りつけるというものだ。
 滝沢 紳司中佐は胸のうちに確かな野望を秘めて、この戦争に参加していた。



 一九四〇年一二月三一日。
 逃げるロンメルと追うブラッドレー。
 その距離は確実に狭まりつつあった。限られた弾薬しか持たないロンメルの第七機甲師団はブラッドレーの第八二師団に追いつかれたら最後。逃走は敗走に変わり、その勢いで第八二師団はハミルトン市、トロント市を抑える事もできただろう。そしてそうなっては同盟軍の敗色は濃厚になっていてもおかしくなかった。
 第八二師団に第七機甲師団の内情を報告してたスパイはロンメルの副官であった。彼というネズミは第七機甲師団という沈没寸前の船に見切りをつけ、離脱して第八二師団と合流しようとしていた。
「どこへ行くのかね?」
 そんな副官に声をかけたのはエルウィン・ロンメル本人であった。その傍にはMP38サブマシンガンで武装した兵が四人も控えていた。
「まったくアメリカ合衆国の用意周到さにはあきれ返るばかりだよ」
 ロンメルは副官に向かって語り始めた。
「ドイツ系移民を本国に帰し、ドイツ国籍を取得させて軍に入隊。そしてその内情を報告させていたんだからねぇ」
「な、何を仰いますか、閣下………」
「副官、君がスパイであることはお見通しだよ」
「!?」
「それでも君を泳がせ続けていたのには理由がある。今回のように、君に誤情報を流させるためだ」
 ロンメルは副官に一枚の書類を見せた。それは第七機甲師団の物資欠乏を示す書類であり、副官はその書類を元にしてブラッドレーに第七機甲師団の危機を教えたのだった。
「知っているか!? かのコロンブスは、サンタマリア号の船員を安心させるため、事実よりはるかに行程が進んでいる偽の航海記録をつくり、船員の士気を保っていたことを! そしてコロンブスは我らが今立っているアメリカ大陸を発見し、歴史に名を刻んだのだ!!」
「ま、まさか………」
 ロンメルは勝ち誇って言った。
「そのまさかよ。この書類は偽者。我々第七機甲師団の弾薬はね、まだまだ潤沢に存在するのさ」
 ロンメルは兵たちに副官を逮捕するように言った。彼は自分のしてきたことがすべて相手の思惑の上だったことを知り、絶望のあまりに立つ事すらできなかった。無様にへたり込んだ副官は、両腕を抱えられて逮捕されることとなった。
司令部モントリオールの仕込んだ細工は以上………。後は私たちの出番というわけだな」
 ロンメルはすっと右手を空に伸ばした。そして伸ばした腕をゆっくりと振り下ろした。
 それが合図だった。
 ドイツ陸軍の三号戦車がエンジンを唸らせ、キャタピラを軋ませながら、次々と第八二師団の方に向かって走り始めた。



 逃げるロンメル軍団を追うことに夢中になるあまり、ブラッドレーの第八二師団は隊列が延びきっていることに気付いていなかった。
 いや、ロンメル軍団の内情を知るが故に気付いていても気にしなかったというのが事実であろう。
 ブラッドレーは慎重な用兵家であったが、スパイの情報を信頼しすぎたのであった。
 怒涛の反撃に転じた第七機甲師団の猛攻を受けた第八二師団は整わぬ隊列もあって、完全に劣勢に立たされた。
 わずか三〇分にも満たぬ戦闘で第八二師団は麾下兵力の三割を失い、さらに第七機甲師団の勢いはほとんど衰えていなかった。
 ブラッドレーはこれ以上の損害を出さぬうちに後退を、と必死になったがロンメルの戦術に関する手腕は当代一と称してよかった。
 第八二師団が死地を脱し、救援に駆けつけた第二機甲師団と合流した時、第八二師団は総兵力の六割を失うという散々なありさまであった。
 この敗戦によって米軍は後退を余儀なくされ、「雪原の狐スノー・フォックス」の名は大きく轟くこととなる。
 そしてオマー・ブラッドレーは降格となり、危険な任務にその身を置くこととなるのであった………。



 一九四〇年一二月三一日深夜。
 アメリカ合衆国の某所にて。
「米軍が敗退したぞ」
「イーニアス・ガーディナーにとって最悪の年末となった、か………」
「何、構いやしない。我々にとって、この敗戦は非常にありがたいものだ」
「クックックッ………。ようやく始まった戦争だ。もっと我々を楽しませてくれないとなぁ」
「ふふ、まったくその通りで」
「ククク………」
「フフフ………」
「ハハハハ………」
 時計の針は一二時ちょうどを指し示す。日付が、そして年が変わったのだった。
「さて、一九四一年はどうなるか………。楽しみでしょうがないな」


次回予告

 合衆国海軍太平洋艦隊の戦力が大西洋艦隊に引き抜かれた。
 このことを知った大日本帝国は攻勢に出る機会だと連合艦隊に出撃の準備を進めさせる。
 その行き先は………!?

次回、戦争War時代Age
第五章「連合艦隊ついに起つ」


先にあるのは勝利か、死か


第三章「竜馬が征く!」

第五章「連合艦隊ついに起つ」

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