超火葬戦記
第一二章「終焉の四賢者」


「竜王 バルバロッサ・バルークスは我が剣によって斃れた!
 竜王無き今、もはやお前たちに勝ち目は無い! 降伏せよ!!」
 父であるバルバロッサの首を左手に、高々とかざすリチャード・バルークスの声が高らかと響く。
 その声はまるで天啓であるかのように、絶対的に竜人たちの軍勢に轟き、浸透した。
 たちまち収まる竜人たちの攻撃。
「バルークス様………」
 血に塗れた剣を手にしたまま、竜人族の将 ヒュー・エンデンは呆然とした面持ちでリチャードを凝視していた。
「まさかバルークス様が戦死なされるなんて………」
 完全に脱力し、地に泣き崩れるヒュー。
「我らは最強………最強の竜人族ではなかったのかぁ!!」
 ヒューの魂の叫び。
 だがすでに竜人族の軍の崩壊は始まっており、ヒューを気にかける者はいない。皆、剣を捨て、諸手を挙げて諸民族連合軍に投稿していた。
 だからヒューの言葉に答えるものはいない。そしてヒューもそれを知っていた。
 しかし………
(力が欲しいか?)
 ヒューに答える声が聞こえた。
 ヒューはハッとしたように立ち上がると左右を見渡す。
 だが誰もヒューに声をかけた様子はなかった。
「幻聴………?」
(力が欲しいか、竜の若者よ?)
 だが確かに何者かの声がヒューに耳に届く。
「誰だ………一体、何者か!?」
(我が問いに答えよ、竜の若者。力が欲しくないのか? この世の中のすべてを焼き尽くしても、なお余りあるほどの膨大な力が!!)
「力………」
(そうだ。その力を持ってすれば再び竜の世を築くことも容易いであろう………)
「力………欲しい………」
(もっと強く願え! 願いが強ければ強いほどに我は貴様により強力な力を授けようぞ!!)
「力を! この世を焼き尽くす力を俺にくれ!! 再び竜の威光を世界に示せるほどの力を!!!」
 ヒューはあらん限りの声で答えた。
 彼の眼は血走り、吐息は興奮で灼熱のように熱くたぎっている。
(ならば来るがよい………貴様に我が力のすべてを授けようではないか)
 ヒューの体が黒い光に包まれると即座にヒューは消えうせた。
 それ以降、ヒューの姿を見たものはいなかった……………



 竜人たちのと戦いが終わって一ヵ月後。
 長き戦乱で荒れ果てたレパルラント。
 だが戦争が今度こそ完全に終結したことで、ようやくにして本格的な復興が行えるようになっていた。
 そんな中、レパルラント最大の港湾都市 ゼーシーのとある屋敷にて。
「イデデデデデデデ!! ギブ、ギブ、ギブ、ギブ!!!」
 屋敷の中から男の呻き声が聞こえる。
 その声の主はレパルラントの戦争終結の最大の功労者であるはずの戦艦 大和艦長の山本 光であった。
 今、彼はその二本の脚にさそり固めを決められており、関節が悲鳴をあげていた。
「うるさい! 裏切り者には制裁を、だ!!」
 山本の両脚をガッシリと掴んでいるのは戦艦 大和機関長の東 誠一であった。
「そうだ! よくも俺たちをダマしてくれたなぁ!!」
 大和副長の辻 歳一も山本の腹に蹴りをいれる。
「………何をしとるんだ、貴様らは?」
 そんな一同に呆れた表情を浮かべて結城 繁治は部屋に入ってきた。
「あ、あはははは………」
 マリアが苦笑を浮かべながら結城に事情を説明する。
 竜人たちに囚われたマリアを助けるために大和の乗員は山本を派遣した。
 これでマリアと何らかの進展があるだろうと思っていたのだ。
 しかし結果はな〜んの進展も無し。
 囚われのお姫様を助けたのだ。進展が無いというのはありえないはず。
 そう思った東が尋ねたが、山本は口をモゴモゴさせてお茶を濁そうとする。
 そこで辻がマリア本人に野暮を承知で訊いてみたのだ。
 そうしたらマリアの口からついに山本最大の秘密が皆に知られてしまったのだった。
 要するに大日本帝国に残してきた婚約者 紅蘭のことである。
「同じヤモメ仲間だと信じてたからこそ涙を呑んで協力してやったのによぉ、この色男が!!」
 それ以降、山本は一月ほどこうやって大和の乗員から(死なない程度に)イビられる毎日であった。
 なるほど………山本はこういう事態を恐れて紅蘭との仲を極秘にしてたのか。
 結城はずっと不思議であった疑問が解消されたのを感じた。
「こんな裏切り者なんかこうしてやる、こうして!!」
「だからギブギブギブギブゥ!!」
 バンバンと必死に床を叩くが辻はちっとも攻撃の手を緩めようとしない。
「畜生、日本に帰る方法なんて見つからなければいい!」
 ちなみに現在、山本は紅蘭を迎えに行くためにアストリア・カーフやヨーク・アルビースらエルフ族に依頼して、日本に帰る方法を探ってもらっている。
 もしも変えることができればめでたしめでたし。順風満帆そのものであり、それだけにヤモメである他の大和乗員の恨みを一身に買い受けることとなっていた。
 まぁ、何はともあれ平和であった。



 しかし平穏は長くは続かなかった。
 戦争終結から一月半後。
 今や廃城となったハムート城のすぐ傍の海域にて異常な魔力が観測されたのだった。
 解体の最中にあった諸民族連合軍にて上層部による会議が招集されたのはそれからわずか一四時間後のことであった。
「ふぅん………魔力ねぇ」
 久しぶりに純白の海軍第二種軍装に身をかためた山本が興味無さそうに言った。
 まぁ、彼には魔力の何たるかが未だに理解できておらず、それだけに事態がどれほどの規模なのかが想像できないのであろう。
「これだけの魔力が自然に発生することはまずありえません。ですが、人工的にも不可能です」
 ヨーク・アルビースが一同の顔を見渡しながら説明した。
「じゃあ何でこんなことが起きてるんだ?」
「ヤマモト殿の疑問はわかります。これはあくまで古文書を頼りに調査を元にした推測ですが………」
 そう前置いてからヨークはコホンと咳払い一つして、重々しく語り始めた。
「かつて、そう、あの千年戦争初期の記録にこれとよく似た状況が記されていました。
 それは二週間ほどで元は大陸であったこのレパルラントを群島に変えてしまいました………」
 一同が眼を剥き、「まさか!?」と言いたげにヨークを見る。
 ヨークは彼らの視線をその身に受けながら、頷いた。
「そう。あの悪夢の最終兵器である『終焉の四賢者』が目覚めようとしている前兆であると推測されました………」
「バカな!?」
 リチャード・バルークスが驚きのあまりに立ち上がる。勢いよく起立したために、椅子が仰向けに倒れる。
「『終焉の四賢者』? 確かスゲー威力の高い兵器だったなぁ」
「エレノア人の負の遺産の一つだな」
 結城の言葉にマリアは俯く。
「………すまぬ。配慮が足らなかった」
「いいえ、いいんです。私のご先祖様が造ったのは事実ですから………」
「それはともかく」
 コ・メイが暗くなりそうになった雰囲気を振り払うかのように話題を戻す。
「各部隊は申し訳ないが、部隊の再点検を行ってもらいたい。もしかすると『終焉の四賢者』破壊作戦が発動するやもしれぬから………」
 コ・メイがそう言った時、伝令のリザード・マンが会議室に駆け込んできた。
 今の会議中に伝令が駆け込むシチュエーションは一つしかない。それは最悪のシチュエーションである。
「た、大変です、将軍!」
 だがコ・メイは右手を挙げて伝令の言葉を封じた。
「………みなまで言うな。最悪の事態となったようだな?」
「は、はい………」
「…………………」
「…………………」
「上等じゃねぇか」
 致命的なまでに暗くなる一同の中、たった一人だけ意気揚々に言った男がいた。
 そう、山本 光であった。
「その『終焉の四賢者』とかいうのも完全に破壊しつくせば、もはや俺たちに恐れるものは何もない。後に残るのは………」
 山本は堂々と言い切った。
「常世の平和。それだけだ」



 暗い………暗い世界。
 ヒュー・エンデンは自分が何一つ見えない世界にいることを知覚した。
 何なのだ、これは一体?
 ヒューはそう呟こうと口を動かそうとする。
 だが動かない。口だけではない。全身が動かない。自らの心の臓の鼓動すら聞こえない。
 俺は………一体どうなったというのだ?
(貴様は我の核となったのだよ、竜の若者よ)
 どこからともなく聞こえる声。ヒューはその声に聞き覚えがあった。
(どうだ? 貴様があれほど望んでいた力であるぞ。喜ばしいであろう。何せ貴様は『終焉の四賢者』の核となれたのだからな)
 『終焉の四賢者』だと!?
(その通りだ。我は『終焉の四賢者』。この世を………否、時空をも超え、まさにすべてを焼き尽くすのが我が定め)
 あ、あああ………
(我ははるか昔にエレノアの民によって造られた………
 その役目は敵を焼き尽くすこと。
 だが我はその程度では満足できなかった。
 だから我はすべてを焼いた。焼こうとした。
 だが我は封じられた。その際に我の体からみなぎっていた力のほとんどが失われた。
 しかしそれも昔のこと。
 礼を言うぞ、竜の若者。
 貴様の怨念。それは素晴らしいエネルギーであった)
 声は、『終焉の四賢者』はヒューを嘲笑う。
(今こそ我が復活する時! すべてを………すべてを焼き尽くす時である!!)
 ヒューは猛烈なマイナスGを感じた。いや、これは急上昇しているのだった。
 ハムート城近くの海域にて『終焉の四賢者』は復活した。
 『終焉の四賢者』が自らの復活を高らかに宣言するかのように咆哮する。
 『終焉の四賢者』が咆哮するだけで周囲の海面は激しく震え、津波が発生したくらいであった。
 ヒューは『終焉の四賢者』の中で声にならない叫びをあげていた。
 誰か………誰か俺を止めてくれ!!



 『終焉の四賢者』復活からわずか二日後。
 たったそれだけの時間で解体の途上にあった諸民族連合軍は最盛期並の戦力を再び集めていた。
 『終焉の四賢者』はその間、ジッとしており、動こうとしなかった。
 真意は不明であるが、おかげで戦力を整える余裕ができた。
 だがこれだけの戦力でも『終焉の四賢者』に敵うかどうか………
「あれが『終焉の四賢者』………」
 たとえ自軍の一〇倍の大軍に包囲されても堂々としているコ・メイの声に恐れの色が見える。
 『終焉の四賢者』とはそれほどに恐ろしい威圧感を持っていた。
 『終焉の四賢者』の正体は巨大な蛇であった。体はあのイスタロートよりさらに一〇倍は大きく、非常に禍々しい。
「コ・メイ………全軍の布陣を終えた。いつでもいけるぞ」
 ヨークの声にも震えが見える。
 だがそれでも戦わねばならないのだ。
 この戦いに負ければ………すべてが滅ぶのだから。
「よし………」
 全軍突撃。
 そう言おうとした時であった。
 『終焉の四賢者』は大きく息を吸い込んだかと思うと………
「!?」


「!?」
 戦艦 大和は竜人との最終決戦の際に最強戦艦 イスタロートとの戦いで大破した。
 その時の損傷は未だに完全に癒えてはおらず、主砲は全門使えるようになっているものの、速力は一六ノットが限界であった。
 だから大和は諸民族連合軍から少し遅れており、同軍主力とは少し距離が開いていた。
 それが大和を救うこととなった。
 『終焉の四賢者』は紅い火球を吐き出した。
 その火球の直径はイスタロートの「タンズーム」砲の一〇〇センチ砲弾よりはるかに大きかった。
 そして火球が着弾するや否や。
 猛烈な衝撃波が発生し、大和を大きく揺らす。
 だがそれはまだ序章に過ぎなかった。
 その後に、離れているはずの大和ですら熱さを感じるほどの灼熱の熱波が襲い掛かる。
 山本たちは知る由がないが、それはまるで核兵器の直撃のようであった。
「な、な、な………何だ今のは!?」
 さすがの山本も『終焉の四賢者』の威力に驚愕を隠せなかった。
「コ・メイ将軍たちはどうなった!?」
「ダメです………念話球に応じません! そ、それに………」
 熱による陽炎でボヤけているが、諸民族連合軍主力がいた大地は完全に消えていた。そこだけポッカリと無くなっていた。
 そして空っぽになった空間に海の水が大量に流れ込む。
 恐らくは千年戦争の時もこのようにしてレパルラントを大陸から群島に変えたのだろう。
「あんなのに………勝てるのかよ………近寄ることすらできそうにないじゃないかよ……………」
「……………」
 山本も強がりすら口にできなかった。ただただ『終焉の四賢者』の力に圧倒されるだけであった。
「『終焉の四賢者』の顔がこちらに向きます!!」
 見張り員の中林の報告。
 だが山本もどうしたらいいのかわからなかった。
 あんな攻撃をかわせるとは思えなかった。
 『終焉の四賢者』の顔が歪む。どうやら笑っているらしかった。
 そして再び大きく息を吸い込み………
「……………」
 山本は最期を確信した。今までどのような状況下にあっても希望を捨てなかった男が、初めて死を覚悟した。
 すまねぇ、紅蘭………あと少しで帰れるはずだったんだが………
 だが次の瞬間、『終焉の四賢者』は何か見えない力に押さえつけられるかのように震えた。
「!!?」
 『終焉の四賢者』の異変に誰もが呆気に取られる。
「山本! 理由はわからんが、チャンスは今しか無さそうだぞ!!」
 結城の言葉に頷くと、山本は伝声管に向けて怒鳴った。
「東! 機関出力を全開にしろ………いや、全開でもまだ足りん!! ぶっ壊れるまで解放しろ!!!」
『………ああ! 任せろ!!』
 今までノロノロとしていた大和の行き足が急に速くなる。
 損傷状態でありながら、大和の機関は正常状態の最大出力よりさらに三割増しの出力を発揮していた。
 最高速力三〇.七ノットの大和であるが、今の速力は三二ノットにまで達していた。
 目指すは一つ。
 『終焉の四賢者』の首、それのみであった。
 だが『終焉の四賢者』の方も黙ってやられるつもりは毛頭ない。
 体のあちこちから触手のようなものを伸ばしたかと思うとその触手を大和に次々と襲い掛からせる。
「機銃、高角砲、副砲で撃退しろ! 機関室と主砲だけは絶対に守れ!!」
 砲術長である東條 祐樹の指示が飛び、それにしたがって大和の機銃、高角砲、副砲が触手を狙い撃つ。
 だが触手の数は圧倒的であり、大和の船体に一本、二本と次々と触手が突き刺さっていく。
 それでも大和の弾幕は機関室と主砲を護り続けいていた。
 しかし触手は作戦を変え、弾幕を形成する機銃、高角砲、副砲からつぶそうとする。
 次々に破壊されていく機銃、高角砲、副砲。
「副砲、高角砲、完全に沈黙! 機銃も八割がやられた!!」
 副長 辻 歳一の悲鳴のような報告。
「ダメか………」
 山本が思わずそう呟いた瞬間であった。
 『終焉の四賢者』よりははるかに小さいが、それでも充分に巨大で、顔に口しかない蛇のような魍魎が触手を食い破る。
「デス・イーターだ!」
 それは召喚獣 デス・イーターであった。
 だがデス・イーターを使えるのはこの世でたった一人のはず………
『こ……らアスト……アだ! ヤ……マ……聞こえるか!?』
 念話球からノイズで聞こえにくくなっているが、確かに聞き覚えのある声が聞こえた。
「アストリア! お前、生きてたのか!?」
『俺だ………じゃな………コ・メ………ヨークも生きているぞ!!』
「どうやらみんな無事らしいな………しかし何故………」
『おい、聞こえてるか!?』
「ああ、聞こえている! 聞こえているとも!!」
『やれやれ………ようやく繋がったな。みんなとはいかないが、『終焉の四賢者』の火球が炸裂する前に主力の九割は俺たち魔道班のテレポートの魔法で離れた所に逃げることができた! そっちにデス・イーターをやったが………『終焉の四賢者』誰がを止めているんだ?』
「わからん。だがチャンスなのは確かだ!!」
『まぁ、いい。とにかく俺たちは無事だ。以上、終わり!!」
「さぁて………ここが正念場だ! このまま一気に勝つ!!」



(バカな………何故我の力が急激に………急激に落ちたというのだ!?)
 『終焉の四賢者』は完全に四肢の自由を失っていた。
 思えば先ほど吐いた火球。あれもおかしかった。
 以前ならばテレポートの魔法などで逃がす暇すら与えていなかったはずであった。
 だが現に逃げられていた。最初は復活したばかりで、調子が完全でないものと思っていたが………
(何故だ………何故このようなことになった!!)
 わからんのか、『終焉の四賢者』よ………
(むっ………)
 核として取り込んだ竜人の心の声が聞こえてきた。
 私が貴様の力を抑えているのだよ。だからこそ諸民族連合軍の奴らの大半を逃がし、さらに今、このように体を抑え付けられているのだ!!
 ヒューは勝ち誇ったように言った。
(貴様………何故だ!? 貴様は力を………力をこの世で一番強く欲しいと願っていたはずだ! なのに何故我と完全に一にならんのだ!?)
 確かに私は力を欲した………
 だが私が欲したのは世界を滅ぼす力では無い!
 私が欲したのは竜の威信を取り戻す力だ!!
(グ………おのれ、おのれぇ!!)
 自らの力の源であるはずの核に見放された『終焉の四賢者』は、動きを封じられたまますべてを呪っていた。
 だが呪詛の言葉は大和には届かなかった。
 大和の九門の四六センチ砲が『終焉の四賢者』に狙いを定める。
(オノレエエエエェェェェェェェッ!!)
 『終焉の四賢者』が吼える。
 その声は悪意の塊。
 だが大和を率いる男の名前。それは光。
 光の前に闇は無力であった。
 そして大和が最後の咆哮を轟かせた!!
 九発の徹甲弾は『終焉の四賢者』の口内に飛び込んでいく。
 『終焉の四賢者』の口内にはあの大威力の火球が渦巻いていたのだ。
 その中に主砲弾を叩き込まれ、四六センチの弾丸は火球のエネルギーを攪拌させた。
(グオオオオオオオォォォォォォォォッ!!)
 『終焉の四賢者』は断末魔の叫びをあげる。
 それと同時に『終焉の四賢者』の頭部が弾け、エネルギーの奔流が『終焉の四賢者』の全身から吹き上がる。


「見て! 『終焉の四賢者』が………」
 マリアが指差すまでも無く、大和の乗員の全員が『終焉の四賢者』を凝視していた。
 『終焉の四賢者』は自らの体内にあふれるエネルギーを暴発させ、それ故に全身がボロボロに朽ち果てていった。
「これが………『終焉の四賢者』の最期か………」
 山本が、『終焉の四賢者』を破壊できたことがまだ信じられない様子で呟いた。
「意外にあっけなかったな………いや、『終焉の四賢者』は本気を出せなかったということのようだな」
 結城の呟きに対し、山本が何かを言おうとした時、唐突に大和が揺れ始めた。
『山本! こちら機関室だ!!』
「どうしたのだ、一体?」
『無理のツケが来た! 大和の機関はもう暴発寸前だ! 今すぐ総員退艦命令を出してくれ!!』
「何ィ!?」
『じゃ、じゃあ俺は逃げるからな!!』
 そしてブツリと切れる通信。
 大和艦橋の面々は一瞬凍りついていたが、事態の深刻さを呑みこむとすぐさま行動に出た。
「そ、総員退艦! 急げ! 一秒でも早く大和から離れろ!!」


「嗚呼、大和が………」
 機関の暴走に加え、『終焉の四賢者』の触手によってヴァイタルパート以外に穴を空けられて、浸水が許容範囲を超えていた大和はゆっくりと沈み始めた。
 大和の沈下は思ったよりゆっくりであり、おかげで生存者のすべてが救命ボート乗り移ることができていた。
 山本は沈み途こうとする大和に対し、今までの謝意を示す意味で敬礼。他の帝国海軍の者たちもそれに倣う。
 レパルラントで集めた乗員たちは、それぞれの信じるやり方で、レパルラントの戦争を治めてくれた英雄戦艦に対する感謝の意を示した。
 そんな中、大和乗員の中で一番目のいい見張り員の中林が波間に人らしきものが浮かんでいるのを発見した。
「艦長、生存者のようです!」
「何? よし、そこにボートを寄せろ!!」
 山本の指示でボートがその地点に向う。
「お前は………ヒュー・エンデン!!」
 波間に漂っていたのはヒューであった。それを見た結城 繁治が声をあげる。
「ヒューっていうと………竜人族の将で、今まで唯一生死が不明だった奴か?」
「ああ。だが何故ここに………」
 疑問を晴らす前にボートにヒューを引き上げる山本たち。ヒューは命に別状は無さそうであったが、全身の骨が砕けているとのことであった。
「うぅ………ここは………?」
 全身から痛みが走るのであろう。顔をしかめながらヒューが目を覚ました。
「さすが竜人。生命力もバツグンか?」
「何を呑気な………おい、ヒュー殿。大丈夫か?」
「ユウキ………か………私は……一体………」
「知らん。この海域に浮いていたのを拾ったまでだ」
「私は………生きているのか?」
 愕然と呟くヒュー。
「まぁ、骨がバキバキに折れているみたいだがな」
 山本の言葉を聞くなり両の目から涙を流し始めるヒュー。
「ど、どうしたというのだ?」
「じ、実は………」
 そしてすべてを白日の下に晒すヒュー。
 自分の心の弱さが『終焉の四賢者』復活のきっかけを作ってしまったことを。
 その話は山本たちにとって衝撃的であった。
「頼む、ユウキ………私を殺せ。私の罪は死する事で初めて償われる………」
 ヒューは咽び泣きながら訴える。
「おい、本当にそれで罪が償われると思ってるのか?」
 だが山本がヒューに対して問いかけた。
「死ぬことで満足するのはお前だけだ。本当に罪を償うつもりがあるのなら、生きて、生きて、生き抜いて。罪が完全に償われるまで生きるべきじゃないのか?」
「珍しいな。私も山本と同じ意見だ」
 結城がそう言った。
「俺はお前により辛い道を歩むことを勧める。何せ俺は『鬼畜王』なのでな………」
「私も………貴方の罪が償われるのを応援させてもらうわ」
 マリアがヒューに言った。
「私の祖先が犯した過ちもまだ終わったわけじゃないけどね」
「………私を……受け入れてくれるというのか………?」
「神ならぬ身である以上、必ず過ちを起こすものさ。問題は、その過ちを如何に繰り返さないようにするかだと俺は信じている」
 山本がそう言い切った。
 結城も、マリアも、辻も、東も、東條も、清水も。全員が同じ思いであった。
「あ、ありがとう………本当に、ありがとう……………」
 ヒューは涙があふれるのを止めることができなかった。


異世界レパルラント
この地に伝説が生まれる



「我らの世界に危機が訪れし時
はるか時空の彼方より鋼鉄の浮かべる城に乗った勇者、二度来る
一度はウネビ
この城、千年に渡る戦乱を食い止める
二度はヤマト
光の名を持つ者に率いられし巨艦
この城、剣の意義を教え、
我らの地平に永久の平和をもたらさん」


第一一章「剣の意味」


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