超火葬戦記
第一一章「剣の意味」


 明らかな機械の駆動音を発しながら。
 重さ、実に一トン半にまで及ぶ巨弾を、確実に運ぶ。
 長大な筒の中に収められた魔弾。そして魔弾と共に新たに収められる装薬。
 それらの作業の後に閉じられる尾栓。
 装填が終わった四六センチ砲は、まるで獲物を捜し求める獅子の首のように動く。
 そして獲物を探し終えるや否や、獅子は咆哮する。
 まるでトールが天を駆け巡る様を思い出させるような轟音。
 その轟音よりも速く、主砲から発射される四六センチの魔弾はさながらトールの愛用する巨大な槌 ミョルニル。
 戦艦 大和。
 大日本帝国海軍が世界初の四六センチ砲戦艦として生み出した鋼鉄の城。
 だが今、大和は大日本帝国のために戦っているわけではない。今の大和は異世界 レパルラントの戦乱を収めるために、正義の砲火を放っているのであった。


 だが大和の放った魔弾は、虚しくも弾かれてしまい、水柱を吹き上げるのみであった。
 竜人たちの造り上げた、大和をも超える最強戦艦 イスタロートの装甲は非常に厚く、四六センチ砲でも一撃で穿つのは不可能であった。
 対するイスタロートは主砲である「タンズーム」砲を反撃として放つ。
 大和の四六センチ砲ですら問題にならないほどの轟音が、イスタロートからかなり離れてた場所からでもハッキリと聞こえるほどであった。
 大和は巨体を右に、左にと動かしながら、何とか「タンズーム」砲の直撃をさけようとする。
 何故ならばタンズーム砲の口径は一〇〇センチ。
 四六センチ防御しか施されていない大和にとって、「タンズーム」砲の直撃は死に直結するからである。


「ぐおおおぉぉぉぉッ!?」
 「タンズーム」砲の直撃は免れたが、至近弾となった一〇〇センチの巨弾の着水の衝撃は凄まじいものがある。
 大和は排水量が六万トンを超える巨艦でありながら、まるで波に揺れる木の葉であった。
「被害報告!!」
 大和艦長である山本 光はハムート城攻略にあたっているために、今この大和の指揮を執るのは「鬼畜王」の異名を持つ策士 結城 繁治であった。
 結城は「タンズーム」砲弾着弾の衝撃が収まりきらぬうちから大和の状態を把握し続けようと伝声管に向けて怒鳴る。
「水柱に右舷機銃座の四割が持っていかれました!!」
「右舷高角砲も二番、四番が使用不能です!!」
「まさか至近弾の衝撃だけでこれだけの被害を受けるなんて………」
 航海長でありながら、大和の舵を握る清水 啓司も「タンズーム」砲の威力に恐怖を隠せない様子であった。
「そして装填速度はこの大和に匹敵するといってもいいほどか………」
 結城は誰に言うでもなく呟く。
 そして大和艦橋にいた者たちは皆、結城の独白に背筋が冷えるのを感じざるを得なかった。
 ここに来て、大和の無敵伝説は終わりを告げることとなったのだ。今まで大和という明らかな過剰戦力におんぶしていた感の強い諸民族連合軍の奇跡の逆転劇もここで終幕となるのか………
「ん? 何だ、どうしたんだ、お前たち?」
 艦橋全体に恐れの空気を感じた結城が一同の顔を見渡しながら言った。
 結城の表情はいつもと変わらず、まったく恐怖の色を感じさせない。
「お前たちの艦長ならばこう言うのではないのかね? 『男たる者、常に最強の敵と戦い、勝利することに喜びを感じるべし』とかそういうクサいセリフを。違うのか?」
「た、確かに………」
「まったく………あの男の辞書に『論理的』という言葉は無いのかね………」
 結城は憮然と腕を組みなおしながら呟いた。
「だがそれも一つの真理である。気合がこの世の真理を打ち破ることは、珍しいことであるが、無いわけではないぞ」
「……………」
「……………」
「………そうだ。艦長代理の言うとおりだ」
「俺たちがここで怯え、すくめばレパルラントの平和は遠くなる!」
「我々は、明日の平和を勝ち取るために、今日を戦うのだ!」
「たとえここで倒れようとも、戦争を終わらせれるのならば悔いは無い!!」
 瓦解しかけていた士気が、あの男の名前を出しただけでこのように爆発するとは………
「俺ももう少し早くこの熱い情熱の力に気付いていれば、『鬼畜王』とそしられることも無かったのかもしれんな………」



 一方、ハムート城に潜入した山本たちは、大した抵抗も無いままに、ついに目的地へと辿り着こうとしていた。
「おお!? 他の部屋とは一味違うほどに大きな扉だな………」
 豪奢な造りの扉で外界と隔絶された部屋の前に山本たちは立ち尽くしていた。
 皆、この扉の美しき造形美に魅せられていた………否、それは違った。
 皆はこの部屋の奥からジンジンと伝わってくる覇気に気圧されていたのであった。
 扉越しからここまでの覇気を伝わせる者。
 心当たりはただ一人。
「この部屋こそがハムート城の王座です。父がいるとしたらここ以外には考えられません………」
「そうか」
 リチャードの言葉に頷いた山本は、勇気を振り絞り、扉に両の手を添える。
 ギギ………ギギギ………
 山本が渾身の力を込めると、少しずつであるが扉が開き始める。
 山本が扉を開けようとしているのを見た他の一同もそれに倣い、扉を押し開ける。
 ギギギィ………バンッ
 ついに開け放たれた扉。
 その奥に広がるは大きな玉座の間であった。
 そしてその最深部。
 王座に悠然と腰かけている竜人の男は鎧に身を包み、二メートルを簡単に越すほどの巨大な大剣を傍の床に突き刺した状態で、山本たちを見下ろしていた。
「………父上」
「リチャード………そして異世界から来たヤマトの艦長………」
 男は謳うかのように大剣の柄に手をかけると、深く突き刺さっていた大剣をいとも簡単に抜き、傲然と立ち上がった。
 竜王 バルバロッサ・バルークス。
 後の世に「偉大すぎた竜王」と形容される、この戦争の根源は剣を構えた。



「さすがはヤマト。今まで散々我らに煮え湯を飲ませてくれただけのことはあるな」
 超大型戦艦 イスタロート艦橋に座乗するギザ・トブルクは「タンズーム」砲を巧みに避け続け、未だに一発の被弾もしない大和に対し、惜しみない賞賛の眼差しを送っていた。
 そして軽く揺れるイスタロート。だが揺れるだけで、それ以上のことは起きない。
 大和の主砲はイスタロートの装甲を貫くことができずにいた。
「だがヤマトの主砲はこちらに傷を負わせることができず、こちらは一撃で屠れるという状況で、どこまで粘れるのかな、ヤマトよ………」
 そう呟きながらもギザは心の中でこう思わずにいられなかった。
 ヤマトよ。偉大なる勇者の戦艦よ。このイスタロートに為す術もなく、朽ちるしかできぬのか? そうではあるまい。我が最高傑作を打ち破ってみせよ。そしてこのギザ・トブルクに戦士の死に場所を与えてみせよ。
 そう思っていた時。
 ついにイスタロートの「タンズーム」砲が大和を捉えたのであった。
 大和から明らかなる爆炎が吹き上がる。
 そしてその爆炎にギザは失望を覚えていた。



「よくぞここまで来たな」
 バルバロッサが重々しく口を開く。
「だが貴様らの命運はここまでだ。希望の星であったヤマトも我がイスタロートの前に沈められるであろう」
 そこまで言うとバルバロッサは大剣の剣先を山本の喉もとの延長線上に示した。
「そして貴様らも我が竜人族に伝わる魔剣『エグゼキューター』によって真っ二つとなるだけだ」
「……………」
 バルバロッサから放たれる威圧感。
 それは山本たちを萎縮させるに充分であった………はずだった。
 だが山本は意にも介さずに一歩歩み出る。
「そんな大層な御託はどうでもいい。マリアはどこだ?」
「ふふ。さすがだな。その勇気、賞賛に値する。『大罪の姫君』はここにおる」
 そう言うとバルバロッサは王座を蹴り飛ばす。
 王座の影で見えなかったが、そこにはマリアが確かにいた。どうも気を失っているらしく、反応がまったく見られない。
「安心しろ。我らは彼女に何もしておらぬ。彼女の価値は、お前たちに最終作戦を決意させるためだけにあるのだからな」
「何故だ………」
「?」
 山本の言葉の意味がわからず、バルバロッサは眉をしかめた。
「何故お前たちは戦争を望むんだ? 畝傍の先輩方が千年戦争終結に尽力したと聞いている。そして、お前もその先鋒として戦っていたことも!!」
 山本の言葉にバルバロッサは静かに目を閉じ、耳を傾けていた。
「平和を望み、そして戦っていたお前が、何故戦争を起こした! 俺には………俺にはそれが解せんのだ!!」
 バルバロッサは山本の言葉を聞き終えると、一度は抜いた大剣を再び床に突き立てた。
「貴様にはわかるまい。異世界から来たヒューマンなどに、我らの苦しみがな………」
「苦しみだと?」
「そうだ。私は、確かに一度は平和のために剣を振るった。だが、私は戦後にすべての真相を知った!」
「GBVの真相か………? だが今更、昔の怨讐を振りかざした所で………」
 山本の言葉にバルバロッサは笑った。苦い、苦い笑みであった。
「違う、違うぞ、ヤマトの艦長よ………」
「違うだと?」
「そうだ。GBVを作ったエレノア人のことなどもうどうでもいいのだ」
「何………?」
「すべては、GBVの作られた目的を果たし終えようとしただけのこと!!」
「GBVの………目的?」
「そうだ。GBVはなぁ………人の身体を組み替え、そして身体自体を兵器となることを目的としたウイルスなのだよ………
 そう。
 我々は、剣として生み出されたのだ!
 ならば!!
 剣が平和を甘受し、畑を耕す光景。そのようなものはただの欺瞞に満ちた滑稽な道化師でしかない!!
 剣の目的は、人を切ることである!!
 私は! 我らは!! 剣として、当然の行為を行っているだけなのだよ!!!」
 ……………………
 大剣を再び引き抜くバルバロッサ。
「さぁ………リチャードよ。剣として、殺しあおうではないか。我らには………それが相応しいのだ」
「父上………」
 腰の剣を引き抜くことに躊躇うリチャード。
「どうした? 来ないのか? ………ならば我が剣によって裂かれろ!!」
 バルバロッサが魔剣「エクゼキューター」を軽々と持ち上げ、そしてリチャードに襲い掛かる!!



「被害………報告ゥ……………」
 まさか一撃でここまでの被害を被ることになるとはな………
 「タンズーム」砲の直撃はわずかに一発。
 しかしその一撃で大和は艦首を砕かれ、第一、第二両砲塔が発射不可能となっていた。速力もガクリと落ちており、今や五ノットもでていない。
 もはや大和は鋼鉄の城などではなかった。
 ただの荒城に過ぎなかった。
「主砲、第三砲塔のみ健在! 他は使用不能!!」
「出しうる速力三ノット!!」
 次々と寄せられる最悪の報告。
 しかし結城の眼は未だに闘志を失ってはいない。
 彼は、自らの命が燃え尽きる時が来るまで、諦めるつもりは無かった。
「………………」
 だが結城の冷静な思考力は、もはや大和に万に一つの勝ち目も無いことを悟っていた。
 ………あの戦艦は対大和として建造されている。だから装甲は四六センチ砲を易々と弾くのだ。弱点らしきものも見当たらないとは………
 そこで結城はあることに思い至った。
「砲術長。まだ生きてるか?」
『こちら砲術長。まだ生きてますけど………』
 砲術長の東條 祐樹の声にも疲れと絶望の色が見え始めていた。
「一つ聞かせろ。こっちの世界に来て、艦隊決戦をやるのは初めてなんだよなぁ?」
『え? は、はい………』
「そして純正の砲弾はあるか? こっちでじゃなくて、大日本帝国で作った砲弾は?」
『えぇと………はい。せいぜい二、三発ですが、まだ残ってますね。それが………?』
 それを聞いた瞬間、結城は思わず拳を握り締めた。
「まだ神は俺たちを見捨ててなかったようだな………」
『え? 一体どういう………』
「いいか、砲術長。距離を………そうだな。一〇〇ほど手前に着弾するように撃て」
『え?』
「今は説明している暇が無い。いいから撃て!!」
『りょ、了解………』
 そして大和が再び吼える。第三砲塔のみでの射撃は、非常に心細いように思われた。


「ん? 手前に着弾したか………」
 今まで正確無比な照準を誇っていた大和。
 しかしついに力尽きたのだろう。大和が今放った砲弾はイスタロートの手前に着弾した。
 結局はイスタロートの力に捻じ伏せられるだけであったか………
 微かな失望感。ライバルにあっさりと勝ってしまった独特の喪失感がギザを襲う。
 だがギザの勝利の確信は、早計であった。
 イスタロートは今までに無いほどの衝撃に揺れた。


「奇跡だ!!」
 思わず結城は、いつもの冷静な雰囲気をかなぐり捨てて、歓喜を爆発させた。
 先に放った一撃でイスタロートはグラリと揺れた。恐らくはかなりの大ダメージを与えれたに違いない。
「何故………何でまたあんなにあっさりと?」
 呆気にとられる大和副長の辻 歳一。
「九一式徹甲弾にはある特徴がある」
 結城がそう言った時、艦橋の全員がハッとした。
「そうか! 水中弾か!!」
 水中弾というのは一種の「水切り」と同じ要領で、戦艦の放った徹甲弾が水中に落ちてもそのまま突き進む状態のことを言う。いわば主砲弾で魚雷のような水平線下の大ダメージを与えれる隠し技である。
 大日本帝国はこの水中弾効果を世界で最初に気付き、九一式徹甲弾はその水中弾が起こりやすいように設計された徹甲弾であった。
 ただし、これらはあくまで「できることもある」というだけで、起こる確立は低い。
 それを一発で出してみせたのだ。これを奇跡といわずに何と言おうか。
「イスタロートは大和の主砲を警戒するあまり、水平線下の防御が甘いはず………あの一撃が致命傷になってもおかしくはない………」
 結城たちはすがるようにイスタロートの様子を凝視する。
 頼む! そのまま沈んでくれ!!


「クソッ! 火災を止めろ!! 火が『タンズーム』に達したらお終いであるぞ!!」
 ギザは必死に指示を飛ばす。
 だがそれももはや無駄なことであることも知っていた。
「まさかあのような動きをするとはな………」
 ギザにとって水中弾は完全に未知の効果であった。
 それ故に水平線下の防御を放棄したイスタロートにとって水中弾は致命傷となったのだった。
 もはやイスタロートの火災は鎮まる見込みが無い。
「こうなれば………」
 ギザは決意した。
「『タンズーム』砲、再発射!!」


「敵戦艦、発砲再開!!」
「何!? もうこっちはそんな余力はないのだぞ!?」
 驚愕に見開かれる辻の目。
「クソ………こちらも道連れにしようという公算か………」
 結城は冷静にギザの意図を汲んでみせた。だがそれが何になるのだろうか。
 今や大和の第三砲塔も浸水の多さに耐えかねて沈黙していた。沈みはしないが、しばらくは戦闘不能である。
 だがその時であった。


 もはやイスタロートも限界だったのだ。
 「タンズーム」砲発射の際の衝撃に傷ついたイスタロートは耐え切れなかった。
 イスタロートはバランスを崩し、横倒しに倒れていく。
 典型的な転覆であった。
「………クッ」
 ギザはまるで巨大な塔がゆっくりと倒壊するかのような感覚の中、まだ生きていた。
「………スマン、イスタロート。お前をもう少し労わってやれば、こんな無様な最期にはならなかったであろうに………」
 ギザは愛おしそうにイスタロートを撫でた。
「………ヤマトよ。お前をここまで追い込めただけでも私は充分だったのかもしれん。ふふ。異界の英雄………サラバ………」
 そしてイスタロートの巨体が完全に倒れ、浮力のバランスを失い、海底へと沈んでいく。
 諸民族連合軍も、竜人たちも。
 誰もが戦いを忘れ、その最期を見守っていた。



「でぇい!!」
 バルバロッサの魔剣がリチャードの身体を捉え………ようとした瞬間。
 山本はリチャードの身体を突き倒し、何とかその剣先から逃れさせることに成功していた。
「バルバロッサ………アンタは間違っているぞ!!」
 そして山本はバルバロッサを真っ直ぐ見据える。
「何………?」
「お前は言った。『剣の目的は、人を切ることである』と。
 だがそれは間違っている!!
 何故ならば! 剣の存在意義は、『牙無き人々を護るため』にあるからだ!!
 俺は元いた世界で、帝国海軍という剣の集まりにいた。
 そして俺はその『牙無き人々を護るため』に戦っていたのだ!!
 『人を切る』のではない! 『牙無き人々を護るため』に『敵を切る』!! それこそが剣の意味だ!!!」
「!!」
「だから俺は『牙無き人々を護るため』に………お前を切る!!」
 そう言い終えると山本はバルバロッサに斬りかかる。
 だが山本の剣技は素人同然。如何に気合が入っていても、あたるはずが無い。
 バルバロッサは容易くかわしてみせた。
「……………」
 しかし山本の言葉はどんな一撃よりも強くバルバロッサを抉っていた。バルバロッサの心をである。
「………否! 否!! 否ァ!!!」
 バルバロッサは再び剣を構える。
「ここまで来て………今更に引き返すことはできぬ!!」
「父上!!」
 リチャードがここで初めて剣を抜いた。
「うおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「ぃやあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 交差する二人の斬撃!!
 だが…………
 膝をついたのはバルバロッサであった。その胸には深い裂傷。
「グバァッ!!」
 バルバロッサは血の塊を吐き、倒れる。
「父上!!」
 リチャードは急ぎ、父を抱き起こす。
「………何故。何故ですか、父上!!」
「………何がだ?」
「何故わざと私に斬られたのですか!? 貴方なら、私ごときは簡単に………」
「………ふん。リチャード。昔から決まっておる。悪というのは滅びる定めにあるとな………悪にその身を墜とした私を斬ろうとしたお前に、神が力を借したのであろうよ」
 そう言うと再び大量の血を吐くバルバロッサ。
 もはやその命は長くないだろう。
「………ヤマトの艦長」
「………何だ」
「………お前がこっちに来るのがもう少し早ければなぁ……………こうはならずに済んだのに……………」
「………バルバロッサ。アンタは純粋すぎたんだ。もっと清濁併せ呑める男であれば、苦しまずに済んだんだ…………」
 山本はその両目から涙をこぼしながら言った。
「アンタ、間違っていたけど、その気高い魂は俺の魂を振るわせた。この涙は………魂の共振だ」
「そう言ってもらえると嬉しいな………その涙だけで後世の百万の罵詈にも耐えれるであろうよ………」
 バルバロッサはリチャードの方に改めて向き直る。
「さぁ、リチャード。我が息子。お前には最期の使命があるぞ………」
「使命?」
「そうだ………我が息子として為してくれ。我が首を断ち、それを掲げ、この戦を停めよ。勝者である貴様らはそれを行わねばならんのだ…………」
「父上………私は………」
「バルバロッサ………その役目。俺にやらせろ」
 山本が二人の間にあえて割って入る。
「息子が父を殺すなど………あってはならんことだ」
「いいや、ヤマモト殿。これは私の仕事です。竜王の息子として、果たさなければならない義務です」
 そう言うとリチャードは剣をバルバロッサの首にたてた。
「……………」
「……………」



 その日。
 竜王 バルバロッサ・バルークスを失った竜人族は停戦に合意。
 こうしてすべての戦いが終わった………かに見えた………………


第一〇章「決戦」


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