超火葬戦記
第四章「裏切り」


 レパルラント最大の港湾都市 ゼーシーに大和が腰を落ち着けてから二ヵ月後。
 大和の修理はようやくに開始された。
「しかし二ヶ月で未知の技術の塊の大和の修理を開始するとはなぁ…………」
 大和砲術長の東條 祐樹が感心した表情で呟いた。
「それだけあのマリアちゃんの頭脳が優れているということか…………」
 大和機関長の東 誠一も感心を隠し切れない感じで呟いた。
「ところで山本と辻はどこ行ったんだ?」
 大和航海長の清水が尋ねた。
「何でも今後の戦略を話し合うためにレパルラントの首都に行ったらしいぞ」
「へぇ、日本にいた時よりも働いてるじゃん。日本にいた時は瑞鶴に入り浸ってたのにな」
「ははは、まったくだな」
 さすがの山本も艦魂のことは皆には話してなかったらしい(^^;



「へ〜、ここがレパルラント最大の街 パルランテねぇ」
 大和副長の辻 歳一が感嘆の息を漏らす。
 大日本帝国の帝都 大阪のように林立する高層ビルディングこそ無いが、それでも充分大都市であった。
「人口は四〇〇万。文字通りレパルラントの中枢ですよ」
 ニコライ・リーフェンが説明する。
「へぇ、こいつはスゲェな」
 山本も素直に感心する。
「そこでヤマモト殿とツジ殿には我々の政府代表のアンデラ様に会ってもらうという訳だ」
 コ・メイが付け加える。
「アンデラ様というのはどの種族なのかな?」
「アンデラ様はクラナスの族長でもあります」
 だとすればニコライと同様という訳だ。


「よく来てくれた、異邦の客人よ…………」
 アンデラはどちらかというと政治家というよりは近所の好々爺という雰囲気のクラナスの男であった。
「えぇと……大和艦長の山本 光です」
「同艦副長の辻 歳一です」
 二人は最敬礼。
「いやいや、そう硬くならなくて結構ですよ。私もそういう雰囲気は好きではありませんからね」
 アンデラはにこやかに笑いながらそう言った。
 なるほど。この好々爺たる雰囲気で場を和ませるのが上手い。
「アンデラ様、我々としては一つ訊きたい事があります」
 山本はいきなり本題に入った。
「竜人は何故戦おうとするのでしょうか?」
 アンデラは考え込む表情を見せ、ためらいがちに答えた。
「おそらく………バルバロッサは戦いたくなったのでしょう。アイツは竜人の中の竜人。戦なしには生きられんとも言っておりました…………」
「『言っておりました』? ということはアンデラ様はバルバロッサと面識があるのですか?」
「おい、山本。遠慮なく訊きすぎじゃないか?」
 辻が心配そうに山本の袖を引っ張った。
「いえ、これは話しておかねばなりますまい。バルバロッサはウネビと共にこの大陸から争いをなくすために共に戦った仲間なのですよ」
「私やアンデラ様、そしてヨークなどのレパルラントの重鎮の世代はみんなウネビと共に戦った世代でもあるからな」
 コ・メイが補足説明を加えた。
「ほう、それでは自らの作った平和に飽いたバルバロッサが戦争を仕掛けたと仰るのですね?」
「…………本当のところはどうなのか、私にもわかりませんよ。ですが平和になってしばらくしてから急に竜人たちが戦争を仕掛けてきたというのは事実です。そのように思われて当然でしょう」
「…………わかりました。アンデラ様。この山本 光を初めとする戦艦 大和三〇〇名の乗員は全力で竜人の暴走を止めさせていただきましょう」
 山本はそう言って敬礼。
「そう言って下さると助かります。では、この地図をご覧下さい」
 話に区切りが付いたと思ったヨーク・アルビースが地図を広げる。
「う〜む、レパルラントの地図は初めて見るな…………」
 辻が興味深々で覗き込む。
 レパルラントの地図は一言で言えば群島であった。
 小さな小島が幾つも幾つも寄り集まっているだけである。
「なるほど。これは畝傍や大和のような艦艇が大活躍できる舞台だな」
 何せ島の一つ一つが小さいために、大和の四六センチ砲ならばどこでも艦砲射撃が可能なくらいであった。
「…………元々はこのレパルラントも群島ではなくて一つの大きな大陸だったと言われています」
 ヨークが口を開いた。
「ただ、かつての千年戦争より以前に使われた『終焉の四賢者』と呼ばれる兵器の作動により大陸は崩壊し、このような群島になったと言われております」
「『終焉の四賢者』…………? 随分と物々しい名前だな」
「しかし大陸だったものを群島に変えるとはな…………大和など問題にならん破壊力だな」
 山本と辻は戦慄した表情で語り合った。
「ですが千年戦争の頃にはすでにそのような兵器はなくなっていたようですので現在では『四賢者』がどのようなものだったかはまったくの不明なんですよ」
「ならいいけどね…………」
「何だ、山本。何か含みのある言い方だな?」
「こういう伏線を張るってことは作者は出す気満々ってことじゃねーか」
 そこ。
 不用意な発言をすると、粛清しますよ?



「ふ〜ん、今月中には副砲周りの修理が終わりそうね。後はパルランテの工廠に設計図面を送った砲身がいつ来るかが問題なのよね…………」
 ゼーシーのドック(のような場所)の監督室でお茶とクッキー(これらも「のようなもの」)を楽しみながらレパルラントの美少女発明家 マリア・カスタードはブツブツと独りごちていた。
「お〜、おっはよ〜、マリア」
 そんな中に(一応)レパルラント一の魔道士 アストリア・カーフがボサボサの寝起きすぐの頭で顔を出した。
「おはようって……もうお昼の三時なんですけど?」
「あぁ、もう少し寝る予定だったんだけどなぁ」
 大欠伸をかましながらお腹をポリポリと掻くアストリア。何とも情けない姿である。
「…………あのねぇ。何のためにアンタがここにいるかわかってるの?」
 マリアが呆れ顔でアストリアに尋ねた。
 アストリアはそれに答えず、クッキー(のようなもの)の入った皿を手に取り、一気に口の中に流し込んで残りを全部バリバリと平らげた。
「あーッ! ちょっと、何するのよ!!」
 呆気に取られてその光景を見守るばかりだったマリアがようやく抗議の声をあげた。
「いいじゃねーかよ。俺は昨日から何も食ってないんだぜ?」
「それはアンタの生活が乱れきってるからでしょう…………」
「あぁ、それからな。精霊たちの報告ではゼーシー付近に怪しい奴はいないってよ」
「それ、本当なの? 面倒くさいからってデッチ上げてないでしょうね?」
 アストリアならやりかねんということなんだろうか?
「少なくともゼーシーに竜人はいないぜ?」
「そう、それならいいけど…………竜人はきっとこのヤマトを狙ってくるはずなの。しっかり警備してよね、警備主任のアストリア・カーフさん?」
「…………何か棘がないか、その言葉?」
「そりゃ皮肉ですから」
 そう言うとマリアは再び大和再生計画に没頭する。
 アストリアはもう一度大欠伸してから部屋を退室していった。


 そんなゼーシーのドックを見つめる瞳があった。
 身長は一四六センチほどで小柄な体格である。しかしその眼光は鋭く、ただものでないことを如実に表している。
「ほぅ、アレが竜人を退けた第二のウネビという奴か…………」
 男は右手を顎に添え、何か考える目をした。
「なるほど。デカイのぅ。中々にやりがいのありそうな敵であるな…………」
 そう言うと男はもう一本の右手を腰の片刃の剣に添えた。彼は左右合わせて四本の腕を持ち、まるで昆虫のような顔をしていた。
 彼はレパルラントの数ある種族のうちの一つ、アームドウイング族である。
「ふふふふふ…………このシュラ様の本領発揮と行くか」
 そう言うと彼、シュラ・ラークスは消えた……………………



 夜…………
「おい、父っつぁん。酒、飲んでないだろうな?」
 先の会戦で竜人相手に多大な戦果をあげた「ルシファー」隊隊長のロウガは狼人間ともいうべきヴェオ・ウルフ族の屈強な男である。彼は目を文字通り光らせながら部下のデバイスに話しかけた。ヴェオ・ウルフは夜になると狼のように目が光るのだ。
「いやいや、飲んでないですよ。はい」
「…………父っつぁん、ヴェオ・ウルフの鼻を誤魔化せると思ってたのか?」
「あらま? バレたか?」
 デバイスは豪快にガハハハと笑った。
「あのなぁ………俺の小隊だけの単独任務ならともかく、今回は他の部隊もこのヤマト護衛についているんだ。上に文句を言われるのは俺なんだぜ?」
「いやいや、俺はアルコールがないと手が震えるんでな」
「………酒、ほどほどにしろよ?」


(ふむ………ヤマトとかいう船の周囲にまんべんなく兵士が配置されておるのか。中々に考えておるではないか。だが儂には無意味だということは教えてやらねばのぅ)
 シュラは音もなく大和警護に当たっているエルフ族の男に忍び寄る。
 ヒュッ
 シュラの片刃の剣が空を斬り、エルフ族の男は自らが死んだことを知覚することなく死んだ。
「………なんとも脆いことだな」
 シュラはそう呟くと再び消えた。


「………ん? 臭うな」
 ロウガがポツリと呟いた。
「ん? どうした、隊長?」
 デバイスがポケットに忍ばせておいた酒を呷りながら尋ねた。
「いや、何か血の臭いがしてな………父っつぁん、行くぞ」
 ロウガは愛剣のゲッコウを片手に走り始めた。デバイスもハンドガンを持って付き従う。
 そこで二人は血を流して絶命するエルフの男を発見したのであった。
「チッ!」
 デバイスは軽く舌打つとその男の生死を確認しようとする。
「待て、父っつぁん!!」
 デバイスの襟をとっさに掴むロウガ。
「な?!」
 デバイスの目の前を白刃が横切った。
「チィッ!!」
 ロウガも負けじと一瞬の速さでゲッコウを抜き、賊に斬りかかる。
 ガキィッ!!
「…………ほぅ、やるではないか」
 シュラは感心したように呟いた。
「………アームドウイング?! 何をしている!!」
 相手が竜人でなかったことに驚きを隠せないロウガ。
「フッ、竜人に味方する者もおるということよ!」
 シュラはゲッコウを左右の手に持った剣で受け、二本目の右手に三本目の剣を構え、ロウガに斬りかかる。
「うっ?!」
 咄嗟のバックステップでかわすロウガ。
 だがロウガの毛が何本か斬り払われた…………
「野郎!!」
 ドンッドンッ!!
 デバイスのハンドガンが吼えるがシュラの動きは素早く、捉えることはできない。
 デバイスの銃声を聞き、にわかに慌しくなる。
「チッ、儂としたことが………貴様からコイツの弱点でも聞き出そうとしたのが失敗であったか」
 シュラがロウガを指差して舌打つ。
「ヴェオ・ウルフ族を侮るからさ!」
 ヴェオ・ウルフ族特有のダッシュ力で再びシュラに迫るロウガ。
 キィッ!!
「フンッ!」
 アームドウイングは素早さこそ高いが、力では他の種族より劣ることが多い。それはシュラほどの男でも例外ではない。
「…………ッらぁ!!」
 ロウガは強引にシュラの刀を弾き飛ばした。
「グッ!」
「うおおおおおおおお!!」
 ロウガの必殺の一撃がシュラを捉えようとする!
 だがシュラは咄嗟にナイフを投げつける。
「ぬお?!」
 ロウガは左腕を盾にしてシュラの投げつけたナイフを受けた。左腕から突き刺すような痛みが湧き上がる。
「ヴェオ・ウルフの男、楽しませてもらったぞ! サラバ!!」
「逃がすかよ!!」
 ドンッドンッドンッドンッ
 デバイスのハンドガンが吼えるがシュラはすでに姿を消していた。
「チィッ! すばしっこい奴め!!」
「………父っつぁん、それよりこのことを上に知らせるぞ」
 ロウガが左腕に刺さっているナイフを抜きながら言った。
「おぉ、隊長、大丈夫か?」
「あぁ、傷自体は浅い。………それよりも大変なことになっちまったな」
「あぁ………まさか竜人に協力する奴らが現れることになるとはな」
 いつもは明るいデバイスの顔も自然と暗くなる。


 その日より大和の警備体制はより一層厳重なものとなり、関係者以外近寄ることを許されなくなった…………


第三章「覚悟完了!」


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