その街は見渡す限り、瓦礫しかなかった。
 瓦礫の中、動くのは機械仕掛けの人形のみ。人はおろか生ある者の気配すら感じられなかった。
 この街はニューヨーク。
 かつて、世界で最も自由と贅沢が満ちていた街………。
 今やこの街は陽光すら差し込まない。
 マシンヘッドたちの殺戮と破壊によって巻き上げられた粉塵が空を覆い、雲となっているからだ。
 この街はニューヨーク。
 だが、誰もこの街をそう呼ばないし、呼ぶことができる人間は………この街に一人も存在していなかった。

葬神話
第一三話「龍騎」



 一九八六年一月一日。
 異世界レパルラントから、こちら側の世界に戻ってきた仮面の男―マスクド・シャイン大佐の一九八六年は、自己紹介から始まっていた。
 シャインは異世界レパルラント技術で作られた霊子甲冑 皇武のパイロットである。皇武の性能は圧倒的であり、まさに一騎当千。ソード・オブ・ピース上層部は、彼と皇武を特定の所属とせず、苦戦している戦線の火消し役としての投入を決定したのであった。
 そのために皇武は天空に浮かぶ城塞―宇宙戦艦 ヤマトに搭載されることとなったのだった。
 宇宙戦艦 ヤマトは正式には対攻撃衛星用攻撃衛星二号という。その正式名称の通り、元は攻撃衛星を攻撃するための衛星である。だが、攻撃衛星を殲滅した後は大気圏に突入し、空を征く要塞として地上部隊を支援する役目も持っている。このヤマトならばいかなる戦線でも、いかなる輸送手段より安全かつ迅速に駆けつけることができた。マシンヘッドの叛乱開始以後、中国戦線を支え続けていたヤマトは中東戦線の始まりと共に大規模メンテナンスを受けていたために戦場に出ることはなかったが、此度晴れて戦線に復帰したのであった。
 皇武のような特機を搭載する母艦として、これ以上に適当な物は無いだろう。
「俺はマスクド・シャインだ。よろしく頼むぜ」
 シャインはヤマトの乗組員を前にして、そう挨拶した。ヤマトを代表して応えたのは、ヤマト艦長の元山 みちる大佐であった。
「こちらこそよろしくお願いします。東京防衛戦、そして中東戦線の英雄を迎えることができて、非常に光栄です」
「うちはチュルルっちゅーもんや。よろしゅうな」
 続いて、コテコテの関西弁でチュルルが挨拶した。チュルルの容姿にヤマト乗員がわずかに揺れた。女性に年齢の話をするのはマナー違反であるが、しかしチュルルは三〇代を迎えて尚、少女の面影を色濃く残すほどに若々しかった。
「おい、あの人………」
「おお、眼鏡っ娘だ」
「それにお姉さんキャラか………」
「萌えるぜ!」
 ヤマト乗員のさざめきを聞いたシャインは、ずいと一歩前に出て言った。
「おい、こら、貴様ら。チュルルは俺のカミさんだ。変なちょっかい出すんじゃねーぞ」
 もしも出したら………。シャインはバキバキと指を鳴らし、兇悪な形相で宣言した。
「オレァクサマラヲムッコロスからな」



 挨拶を終えたシャインとチュルルは元山に誘われて、昼食を取ることとした。
 ヤマトは全長二六三メートルという衛星としては破格の巨体を持っている。ヤマトはその巨体に強力な武装を数多く備えていたが、武器だけでなくレクリエーション施設も数多くあった。
 ヤマトの平時の任務は衛星軌道上で地上の出来事を監視することである。そのため、乗員は一度宇宙に上がれば何年も帰ることはできないのである。だからこそ乗員は地上に未練の少ないオタクたちで構成されていたのだった。(詳しくは軍神の御剣・J−SIDE 第二話「天空の城」参照)
 ヤマトの食堂は、かつてシャインやまもと みつるが艦長を務めた漢字の戦艦 大和の士官食堂よりも広く、そして清潔に整えられていた。ただ、乗員の誰かが貼ったアニメキャラのポスターが壁面を覆っていた。よく見たらテーブルにもアニメキャラのフィギアが置かれていた。その作りはもはや匠の技だといえたが………兵器であるヤマトにそぐわないこと甚だしい。
「申し訳ない。このヤマトの乗員はこのような輩ばかりでして………」
 マシンヘッドの暴走を契機に、多少は乗員の尊敬を集めることになった元山ではあるが、彼らオタクの精神構造は未だに理解できないのだろう。元山はくたびれた溜息を吐いた。
「せっかくあの山本大佐と同じ名前のフネの責任者になれたのに………。こんなことでは大佐に申し訳が立ちませんよ」
 元山は机に突っ伏しながら無念と呟いた。
「は? そりゃ一体どういうことで?」
「山本大佐」の単語に思わず反応するシャイン。チュルルは慌てて肘でシャインを小突いたが、幸いにも元山には気付かれないでいた。元山は照れくさそうに言った。
「いえ、自分は日米戦争の際に行方不明になられた戦艦 大和の艦長である山本 光大佐を尊敬していまして」
 元山の言葉を聞いたシャインは一瞬ではあるが呼吸することを忘れてしまった。傍らでチュルルが頭の痛そうな表情をしている。
「や、山本 光を尊敬、ねぇ………」
「はい。あの統率力、勇気。すべてが尊敬するべき点でしょう」
 濁りのない、純粋な眼で日米戦争時の英雄山本 光について語り続ける元山。戦意高揚というお題目があったとはいえ、自分に変な虚像を仕込んだ張本人である結城 繁治ことユウ・ブレイブを恨まずにはいられないシャインであった。



 シャインが辟易するような虚像を作り上げた張本人はシャインたちとは別行動を取り、先にアメリカへと渡っていた。ブレイブ単身での渡米ではなく、源 猛中佐も同行していた。
 二人が訪れたのはソード・オブ・ピース北米方面軍総司令部が置かれているケンタッキー州レキシントン市であった。
「貴方たちがユウ・ブレイブ大佐と源 猛中佐ですか。レリューコフ・バーコフ大将から話は聞いています」
 そう言ってブレイブたちを出迎えたのはソード・オブ・ピース北米方面軍を率いるノーマン・シュワルツコフ大将であった。シュワルツコフ大将は元アメリカ陸軍大将であり、空陸一体の作戦手腕に定評のある人物であった。
「噂には聞いていたが、本当に仮面をつけているとは………信用できるのかねぇ」
 ブレイブの表情を包み隠す仮面を見た北米方面軍の参謀がポツリと呟いた。それを聞いたシュワルツコフは参謀をたしなめて言った。
「仮面をつけていようがいまいが、ブレイブ大佐は人間だ。昔の戦争ならともかく、今の戦いは人間であるなら無条件で信頼できる。彼を疑う余地など無いぞ」
「は………」
 参謀は恥じ入った様子で頭を掻いた。
「さて、彼らに北米戦線の状況を知らせてやってくれ」
 シュワルツコフは参謀たちに命じ、参謀たちは室内の明かりを消し、投影機のスイッチを入れた。投影機につけられていたのはアメリカの地図であった。その地図のアメリカは東海岸から五大湖にかけて、真っ赤に染められていた。赤く塗られたのはマシンヘッドの勢力圏の証である………。
「昨年の九月一三日よりマシンヘッドの叛乱が始まったことは知っての通りだと思います。この叛乱から二週間でニューヨーク、ワシントン、ノーフォーク………、東海岸の主要都市はすべて抑えられてしまいました」
 ブレイブたちに状況を説明する参謀の手がわずかに震える。己の無力さを再認してしまったからだろうか。
「東海岸の制圧を終えたマシンヘッドは北上を開始し、一〇月から五大湖周辺を戦場とした戦いが続きました。ですが、戦力が充分に整っていなかった我々はマシンヘッドの突進を抑えきることができず、昨年一二月一八日に我々は五大湖周辺都市の住民の脱出を確認して後に五大湖周辺から撤退。現在はコロンバス、インディアナポリス、スプリングフィールドを最前線とした防衛戦を展開しております」
「五大湖を取られたのか………。それは痛いな」
「何よりも痛いのはマシンヘッドが五大湖の工場を使い、マシンヘッドの量産を行っていることだ」
 シュワルツコフはそう言うと眉間を軽く揉んだ。五大湖の工場で次々と量産されていくマシンヘッド。その勢いは北米方面軍の戦力回復速度をはるかに上回っているのだろう。シュワルツコフの気苦労の深さを思って源は視線を下に下げた。
「状況はわかりました。では、早速仕事にかかりましょうか」
 ブレイブはそう言うとすっくと立ち上がった。源も遅れまじとそれに続いた。



 一九八六年一月一三日。
「これがソード・オブ・ピースの次期主力機です」
 装甲阻止力研究所、通称甲止力研究所の田幡 繁は徹夜続きで伸び放題となった髭を撫で回しながら言った。
 田幡が言う次期主力機は純白の化粧とそうが施されていて、曲線主体のフォルムは実に流麗であった。だが流麗なだけではなかった。肩には長大なキャノンが搭載されていた。
 だが何よりも目を引くのが次期主力機が背中に背負うバックパックであった。バックパックには折りたたみ可能な翼がつけられており、肩のキャノン砲と併せて、まるで田幡が生み出した史上最強の特機 ガンフリーダムを思わせる。いや、ガンフリーダムを思わせて当然であった。何故ならばその機体はガンフリーダムを元に開発されているからだ。
「このPAの名はドラグーン。ガンフリーダムのデータを元に開発した龍騎兵です」
「で、この機体を我々が使ってもいいのか?」
 田幡にそう尋ねたのはソード・オブ・ピースのPA部隊『クリムゾン・レオ』隊長のレオンハルト・ウィンストン中佐であった。レオンハルトは中東決戦の際の戦功で中佐に昇進していた。
「ええ。量産型の初期ロットはクリムゾン・レオに渡すように上から言われてますので」
「それだけ私たちが期待されているってことね。これじゃヘタに手を抜けないわね」
 ドゥルディネーゼ・ブリュンヒャルト――通称ルディが偽悪的に言って肩をすくめた。
「ではさっそく慣熟訓練とさせてもらおうか」
 田幡が持つドラグーンのマニュアルも受け取らず、レオンハルトはドラグーンのコクピットから伸びているウインチに足をかけ、スイッチを押してウインチを巻き戻させてコクピットに潜り込んだ。NATO軍共通規格で作られたドラグーンのコクピットのレイアウトは、東側兵器で戦い抜いてきたレオンハルトにとって馴染みの浅いものであった。しかし西であろうと東であろうとPAのコクピットであることに変化はない。レオンハルトはコクピットのレバーやスイッチが、それぞれ何を意味するのかを一瞬で見抜いていた。
 だからレオンハルトはドラグーンのマニュアルを見ることもなく、ドラグーンを起動させることに成功した。ドラグーンの目玉の一つでもある全周囲モニタースクリーンが黒から色彩豊かに変貌する。従来型はメインカメラが映す景色しかスクリーンに映さなかった。メインカメラはPAの頭部に設置されているので、つまりスクリーンにはPAの「眼」から見た景色しか映らなかったのである。だがドラグーンは機体の各部にメインカメラが無数に仕掛けられている。そしてその映像をコクピットという空間のすべてを使って映し出すのだ。今まではメインカメラ、すなわち頭部を動かさなければ視界は動かなかったが、ドラグーンは操縦者が視線を逸らすだけで視界を確保できるのだ。その一アクションの省略は大きいといえよう。
「なるほど………これはいいな」
 レオンハルトはしみじみとそう呟いた。だが同時にこうも思った。
 全周囲モニターの採用によって、今まで視界を確保するためにあった頭部・・は不要になったはずだ。だのにドラグーンを設計した田幡はドラグーンに頭部を設けていた。ガンフリーダムの流れを汲んだ、美麗なる顔立ちの頭部である。もはやPAに頭部は不要であるはずなのに………何ゆえに田幡はこのような無駄を設けたのだろうか?
 不意にレオンハルトは気付いた。
 田幡がドラグーンに頭部を設けた理由にである。田幡は技術者であるが、その前に人間である。田幡は人間として、人間の形を残した兵器ドラグーン機械マシンヘッドに勝ちたかったのではなかろうか?
 確証は無い………。確かめるつもりも必然も無い。
 レオンハルトは自分の出した結論で満足した。
 何故なら………彼もまた人間として機械マシンヘッドに勝ちたかったからであった。



 ドラグーンの初陣は一九八六年一月一五日であった。
 マシンヘッドの部隊がインジアナポリス北七六キロ地点に築かれたソード・オブ・ピースの陣地を攻撃した時であった。
 マシンヘッドの数はMH−01 コロッサス六七機、MH−02 ファイアボール二六機、MH−03 ハンマー一五機という編成であった。さらにこのマシンヘッドに航空支援としてゴーストX−9が一〇機飛来していたが、ゴーストX−9隊は旧アメリカ空軍のF22 ラプターによって食い止められていた。ソード・オブ・ピース設立寸前に設計されていたF22 ラプターは高いステルス性能を誇る新世紀の主力戦闘機となるはずだったが、ラプターを持ってしてもゴーストX−9の高すぎる空戦能力を相手にして不利は否めなかった。
 ラプター隊の隙を突いてファイアボールが地上襲撃を行う。ファイアボールに搭載されている三〇ミリガトリング砲 フロアガンはまるでミシン縫いでも行うかのようにソード・オブ・ピースのM1 エイブラムス戦車を間断なく撃ちぬく。
 ソード・オブ・ピースのPAやM163対空自走砲が弾幕を張り巡らせる。まるでクモの巣のように逃れるのことできない弾幕。しかし………クモの糸では炎玉ファイアボールを止めることなど叶うはずがなかった。
 ファイアボールの装甲は弾幕にも耐え抜いたのだった。ファイアボールは空対地ロケット弾 フレアボマーを放つ。煙を後に残して次々と大地にロケット弾が突き刺さり、大地を人間ごと掘り返す。
 だがそこにクリムゾン・レオが到着したのであった。
 ドラグーンはガンフリーダムが使っていたフライヤーシステムのMk3を搭載していた。フライヤーシステムもMk3ともなると洗練され、Mk1ではよほどの熟練パイロットでなければ空を舞うことができなかったが、ドラグーンは全機が安定した飛翔を見せていた。
 ドラグーンが装備するのは新たに開発された対機甲用五〇ミリリボルバーカノン シューティングスターであった。流星と名付けられるだけあって、シューティングスターは高初速の五〇ミリ弾を超連射で発射していた。流星の弾幕はファイアボールの装甲を易々と貫き、ファイアボールの燃料タンクを引火させて文字通りの火球へと変貌させた。
 火球となって墜落していくファイアボールの傍をフライパスしたドラグーンはもう一機のファイアボールを狙う。だがその照準はわずかにブレていた。ファイアボールは人間では不可能な判断を機械の力で易々と成し遂げ、そのことを悟った。だからそのファイアボールは回避が不要であると判断し、まっすぐ飛ぶことを選択した。
 シューティングスターの銃口が赤く煌く。五〇ミリ口径の砲弾はカーブを描きながら突き進み、ファイアボールの装甲を穿ち抜いた。
「こりゃ………凄いな」
 レオンハルトはコクピットで思わず呟いた。
 シューティングスターの五〇ミリ砲弾は特殊な砲弾で、砲弾が自らの判断で軌道を変更し、目標に命中するようにできているのだった。つまりはシューティングスターが放つのはスマート・ブレット、賢い弾丸なのであった。一発辺りの単価が高いとされるスマート・ブレッドであるが、人類最大の危機とあっては値段など気にしてはいけないとドラグーンのシューティングスターに大々的に使われる事となったのであった。
 深紅の獅子クリムゾン・レオ龍騎兵ドラグーンは瞬く間にファイアボールを全滅させる。
『こりゃ、凄い機体じゃないか!』
 ドラグーンは従来の機体では苦戦するばかりであったマシンヘッドのスペックをはるかに上回っている。そのドラグーンの活躍を見たソード・オブ・ピースの誰かが無線のスイッチを入れたままで感動を口にした。
 現状では最強の火力と装甲を持つ重マシンヘッド ハンマーがミサイルを放つ。一機で一二〇発も搭載されているミサイルが、一度に放たれたのだ。その回避は誰の目にも不可能であった………。
 否。
 不可能なのは従来機の場合であった。レオンハルトは自らのドラグーンを最大出力の全速力でミサイルから離れさせる。このまま逃げ続ければミサイルの燃料が尽きてただの鉄の塊となるだろう。だがハンマーの放ったミサイルは一本二本ではない。一二〇本ものミサイルが前後左右からレオンハルトを狙っていたのだった。
 レオンハルトはフットバーをしたたかに蹴りつけ、操縦桿を後ろに引いた。ドラグーン背部のフライヤーMk3の推力ノズルが地面に対して直角を向き、ドラグーンは垂直に上昇していく。ミサイルはこのドラグーンの機動についていけなかった。目標をロストした一二〇本のミサイルはヨタヨタと飛ぶばかりで燃料を浪費し、最終的には何も無い地面に落着するだけであった。三次元戦闘が可能となったドラグーンならではの回避方法であった。
「今度はこっちの番だな!」
 レオンハルトはお返しだとシューティングスターをハンマーに放つ。しかしハンマーは機動性を犠牲にする代わり、戦車以上の装甲を手にした重マシンヘッドである。いかに高初速の対機甲用五〇ミリ弾であってもハンマーの分厚い装甲を抜くことはできなかった。せいぜいハンマーのボディに引っかき傷のような痕を残すだけであった。
 ならば、とレオンハルトはドラグーンが肩に装備するキャノン砲を構える。ハンマーの機動性は最悪だ。外しようがないくらいに………。
 レオンハルトは武装選択のボタンを叩き、肩のキャノン砲を発射準備に移行させる。
 さて、ドラグーンの元となったガンフリーダムは核融合炉を動力とし、その膨大なエネルギーをもって戦略ビーム砲であるG−Mk2を放つことができた。では通常動力PAであるドラグーンの肩のキャノン砲は何を放つのだろうか?
 答えは八八ミリ砲弾だった。ただしただの八八ミリ砲弾ではない。音をはるかに越えた超高初速である。超高初速で放たれた八八ミリ弾はハンマーの重装甲を紙でも貫くかのように易々と撃ち抜いた。胴体に大きな穴をあけられたハンマーはグラリと大地に崩れ落ちる。無表情な機械マシンヘッドであるはずのハンマーだが、その残骸は「信じられない」と言いたげであった。
 ドラグーンが肩に装備するのはただの八八ミリ砲ではない。八八ミリ電磁砲レールガン マス・ドライバーJr.である。基本概念はガンフリーダムのメイン武装であるGガンと同じレールガンである。だがマス・ドライバーJr.の口径はGガンより一回り二回りも大きな八八ミリ。実質破壊力はGガンを上回るのだ。さしもの重マシンヘッドもその直撃に耐えうるはずがなかった。
 ドラグーンは機動性、火力共に従来のマシンヘッドより強力な機体であった。
 上層部が応援としてこの戦線に皇武を派遣したが、シャインの駆る皇武が到着した時にはすでに戦闘は終結していたと言う。
 辺りに散らばる残骸はマシンヘッドのものが中心で、人類側の残骸は旧式機ばかりであったという。シャインは皇武のコクピットで口笛を吹き鳴らして呟いた。
「こりゃ………俺たちも負けてらんねーな」
 人類は、選ばれし者でなくともマシンヘッドに対抗しうる力を手にしたのだった。
 この意味は大きい。とてつもなく、大きい。



 ドラグーンの投入によって北米戦線は一応の安定を迎えた。
 あとはドラグーンの数が揃うのを待って、一大攻勢を仕掛けるだけ………。ソード・オブ・ピースの上層部はそう判断し、その反攻作戦の骨子を組み上げようとしていた。
「今回は………正攻法なんですね」
 ドラグーン投入開始から一週間後。源 猛中佐はユウ・ブレイブを助手席に乗せて車を運転していた。
 源はユウ・ブレイブの組み上げた作戦の骨子を読んでいる。その基本計画はドラグーン大量投入による機動攻勢であった。すなわち、ドラグーンの機動性を使って敵戦力の薄い箇所を突付こうというのであった。
 ユウ・ブレイブと名乗っているが、その仮面の下はかの日米戦争で「鬼畜王」とまで言われた結城 繁治である。味方を犠牲にした奇策………いや、鬼策を張り巡らせていた結城 繁治とは思えないほどにこの作戦計画は妥当なモノであった。
「そりゃ、な………」
 ブレイブはポケットからタバコを取り出し、火を灯しながら言った。
「できることなら奇策なんか使いたくないさ。敵より多く、精強つよい兵力、そして途切れない補給が期待できるなら、俺だって正攻法を使うさ」
 戦争は遊びじゃないんだからな。ブレイブはそう言うとタバコを美味そうに吹かし始めた。
「……………!?」
 源はブレイブに対し何かを言おうとしたが、前を見てブレーキを踏んだ。キキィ、とタイヤが道路を無理やり掴もうとする音がこだまする。
「ん………どうした?」
 ブレイブも前を見やる。源たちの車の前には人だかりがいた。それも数十、数百といった数ではない。数千規模の人山が源たちの行方を塞いでいたのだった。
「な………」
 言葉もなく人だかりを見るしかない源。
 ブレイブは悠然とタバコを吸い続けていたが、それを吸い終えると車のドアを開けて人だかりの前に立った。そして慇懃な口調で尋ねた。
「何者だ………お前たちは?」


ドラグーン

全高:9.23メートル
自重:9.5トン
最大自走速度(バーニア未使用):186キロ
最大跳躍高(バーニア未使用):37メートル
最大作戦行動時間:72時間
装甲
チタン・セラミック複合装甲
動力源
ガスタービン・エンジン

固定武装
八八ミリ電磁砲 マス・ドライバーJr.(肩部に搭載)
対PA用ナイフ(腰のアタッチメントに搭載)

装備可能武装
対機甲用五〇ミリリボルバーカノン シューティングスター(マニピュレーター(要するに手)に搭載)
その他在来の武器はすべて搭載可能。


次回予告



「生きるつもりのい奴まで護る筋はいんでね」



「まるで………赤い光弾!!」



「精神波、の如し………」






葬神話
第一四話「敵、V−MAX発動」へ続く




――これは人類最新の神話である


第一二話「幕間」

第一四話「敵、V−MAX発動」

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