機械人間の投げつけた手榴弾の爆風がシルバーフロンティアの装甲タイルをはがす。
 銀色の装甲タイルに覆われていたシルバーフロンティアは、もはや銀色の部分を探す方が難しくなっていた。
「………さすがに無謀だったか?」
 究極の砲熕兵器であるレールガンを搭載したシルバーフロンティアの射程距離と攻撃力は群を抜いており、リカルドは敵の射程外から砲弾を浴びせ続けていた。
 しかしそれが通用しなくなるほどに敵の数は多かった。レールガンの直撃を受けて破壊される機械人間の残骸を踏み越えて駆け寄ってくる機械人間の群れは、鋼鉄の波であった。波はシルバーフロンティアという防波堤に容赦なく攻撃をしかける。
 シルバーフロンティアの砲塔にRPG−7の成形炸薬弾が突き刺さる。弾体から爆風がシルバーフロンティアの装甲に超高圧で噴射される。だが、炎の激流はシルバーフロンティアの装甲を貫通する事はできなかった。砲塔は戦車の中でも一番装甲が分厚い箇所だ。いかにRPG−7といえども貫通する事はできない。
 リカルドは副砲の三五ミリバルカンでシルバーフロンティアに接近していた機械人間を掃射する。三五ミリ弾の猛射によって機械人間たちが次々と残骸へと変わっていく。
 だが、三五ミリの雨は唐突にやんでしまった。リカルドは右手でシルバーフロンティアのハンドルを操りつつ、左手でCユニットを操作し、三五ミリバルカンに何が起こったのか説明を求める。
 その答えは装弾不良であった。
 雨か霰かと三五ミリ弾を吐き出していたバルカン砲だったが、あまりに多くの三五ミリ弾を吐きすぎて加熱が許容範囲を超えたのか、それとも早すぎる発射速度故に排莢不良ジャムが生じたか。
 ともかくシルバーフロンティアは副砲を失った。レールガンを二門搭載したため、SEを搭載できないシルバーフロンティアにとって副砲は貴重とすらいえる速射兵器であった。バルカン砲による制圧射撃を受けなくなったモンスターたちはシルバーフロンティアに集中攻撃を浴びせる。
 四方八方からの攻撃にシルバーフロンティアはよく耐えていた。だが、自慢のレールガンも一門がへし折られ、まるで墓標のように荒れた野に突き刺さる。それはシルバーフロンティアという超戦車がモンスターの群れに屈しようとしている証であった。
 満身創痍のシルバーフロンティアにトドメを刺さんとATエレファントと呼ばれる重戦車型モンスターがシルバーフロンティアの後背、三〇〇メートルに迫る。この距離で、自慢の長鼻から砲弾を放たれればシルバーフロンティアの装甲も膝を屈するであろう。
「………ヨハン君、後は頼むよ」
 リカルドの口からこぼれたのはヨハンを気遣う言葉だった。彼は自分の命に未練は持っていなかった。ただあるのは使命に対する責任だけであり、彼の使命はヨハンの地球救済センター突入を援護することだった。故に………リカルドは満足気に終焉が訪れるのを待った。
 だが、終焉はリカルドではなく、ATエレファントに訪れた。
 右側面に徹甲弾を受けたATエレファントは内部の砲弾が誘爆したのか、象の鼻に喩えられる長砲身大口径砲が搭載された砲塔が吹き飛ぶほど派手な爆発を見せた。そして爆発から遅れて聞こえる主砲の発射音。それは長距離砲撃が行われた事を意味している。レールガンほどではないが、五〇〇〇メートル以上の距離で正確かつ強力な射撃ができる主砲。それを搭載する戦車は数少ない。
「まさか………」
 リカルドはCユニットに周辺の状況を検索させる。その結果が表示されるよりも早く、疾風の如き速さと怒涛の如き攻撃が機械人間たちに襲い掛かった!
 機関砲と火炎放射機を搭載し、大馬力エンジンによる高速戦闘を得意とする軽戦車疾風怒濤シュトルムウントドランクを駆るファイター兄弟の兄、スピリッツと呼ばれるモンスターハンターがリカルドに言った。
『援護します、社長は後退して下さい』
 五〇ミリ対機甲用機関砲の猛射とバーナードラゴンによる火炎放射。鉄と炎によってシルバーフロンティアを包囲していた機械人間たちの一角が崩される。
 五〇ミリ機関砲弾は戦車の装甲であっても容赦なく噛み砕く。転輪を粉々に砕かれ、身動きが取れなくなったATエレファントが砲塔を旋回させて反撃を試みようとする。
 だが、疾風が過ぎ去った後に襲い掛かるのは超遠距離から放たれる高速徹甲弾であった。一二〇ミリ六四口径砲に火薬量三〇%増しの装薬を込めて放つ豹の鋭利な牙。それはレオパルド・マグナガンと呼ばれる特殊戦車のみが可能とする必殺の戦術だ。
「疾風怒濤にレオパルド・マグナガン………ファイター兄弟か!」
 レオパルド・マグナガンに乗るアローがリカルドに挨拶する。
『お久しぶりです、社長。いい戦いをしましょう』
 アローの言葉を補足するかのようにスピリッツの声が重なる。
『いい戦いとは、それを通じて何かを生み出す戦い』
 そう、あの時、ヨハンと戦った時はヨハンの決意を聞き出せた。
『我ら兄弟、この戦いで人類の未来を生み出す!』
 だが、いかにファイター兄弟が参戦したといえども所詮は二両の戦車にすぎない。モンスターの数は未だ一〇〇〇の数を下回らない………。
 その時であった。
 モンスターの群れに次々と砲弾が降り注ぐ。爆風と鉄の嵐がモンスターの群れをかき回す。
「これは一体………?」
『社長、ご無事ですか?』
 艶やかな女性の声がシルバーフロンティアの無線から聞こえる。リカルドはその声をよく知っていた。幼馴染の義妹であり、娘の恋人の叔母であり、そして何より私を愛してくれる女性。
「ブレンダ………間に合ったのか?」
『はい! シティ・ガーディアンズ、全戦力で駆けつけましたわ!!』
 ブレンダの声は興奮で上気している。色々とあったが………今こそシティ・ガーディアンズは本道に立ち返り、戦闘を開始するのだ。
『社長!』
『社長!』
『命令を!!』
 リカルドは満足気に一度だけゆっくりと頷くと、一声だけ命令を発した。
「全軍突撃せよ!」
 シティ・ガーディアンズにはその命令だけで充分だった。
 シティ・ガーディアンズの総攻撃で地球救済センターに集結していたモンスターの大群は、わずかずつではあるが後退を始めていた………。



 一方、地球救済センターの地下では男と男の一騎打ちが繰り広げられていた。
「くたばれ、ポンコツ!」
 ビリーがパイルバンカー・カスタムと呼ばれる対戦車ライフルを連続で三発、発射する。右へ避けても、左へ避けても、正面に突進してもパイルバンカー・カスタムの一七ミリ弾が命中する、いわば最高の射撃である。
 だが、オズワルドの姿をした機械人間は最高の射撃に対して上へと跳び、上空から重力と共にビリーに襲い掛かる!
 ナイフのように伸びたオズワルドの爪がビリーの左胸に突きたてられる! 心臓を貫き、オズワルドはビリーの血で自らを赤く化粧するのだ。
「死ねぇ!!」
 ザシュッ
 オズワルドの爪がビリーの心臓に突き刺さ………らない! 爪はビリーの心臓どころか皮一枚斬り裂くことはなかった。
「バカが! 上から来る事くらい、考えてんだよ!!」
 ビリーの勝ち誇った声を聞いた時、オズワルドは失敗を悟った。ビリーはポリマーリキッドと呼ばれるプロテクターを装着していたのだ。ポリマーリキッドはオズワルドの爪で斬り裂かれ、衝撃吸収剤として使われている粘性の高い液体がこぼれ落ちる。だが、そのポリマーリキッドの犠牲のおかげでビリーは無傷であり、そしてオズワルドは無防備であった。
「おおおおおおお!!!」
 ビリーは雄叫びと共にパイルバンカー・カスタムの銃身に装着された杭打ち機のアタッチメントをオズワルドに突き立てる。後は引き金を引けば、装薬の圧力で発射された杭がオズワルドの体を貫くだろう。これがビリーの切り札であった。
 しかし切り札とは最後の最後に切った方が勝つのだ。そう、オズワルドはまだすべてのカードを切っていなかった。切り札という点では、オズワルドのそれの方が意表をついていたと言える。
 その瞬間、ビリーは何が起こったのかわからなかった。あっという間も与えられず、ビリーはオズワルドの胸部から発射された散弾を正面から浴びていた。ビリーの手からパイルバンカー・カスタムが落ち、ライラの足元に転がる。
 ………オズワルドは自らの胸部にクレイモアと呼ばれる指向性の散弾発射地雷を仕込んでいたのである。
 ビリーが愛用し、切り札としているパイルバンカー・カスタムの杭打ち機に対抗するための切り札としていたが………その効果はてき面であった。ビリーは全身から血を流してうつ伏せに倒れこむ。
「ビリー!」
 ライラが悲鳴でビリーの名を呼ぶ。だが、ビリーはライラの声にピクリとも動かない。ライラはビリーに駆け寄り、応急処置を施そうとするが………ライラの足元に刃が突き刺さる。オズワルドが爪を一本抜き、投げたのであった。
「姉さん、そこを動かないでもらおうか」
「オズワルド………」
「姉さんはそこで見ていてよ。ノアが新しく生まれ変わる瞬間をね」
 ライラの記憶にあるオズワルドと寸分違わぬ笑顔で微笑む目の前のオズワルド。でも、私の目の前のオズワルドは………。
「ぐ、く………」
 うつ伏せに倒れていたビリーの左手がわずかに動く。オズワルドは笑顔のままで感嘆の声を漏らした。
「へぇ、まだ生きてたんだ。驚きだね」
 そう呟くとオズワルドはビリーのアキレス腱に爪を突き刺し、そして鍋をかきまわすかのようにゆっくりと回し始める。
「ぐぉ、ああ………!」
「薄汚い人間のクセに、生命力だけは強いとは………。大人しく絶滅して、地球に孝行しなよ。それが地球環境を破壊し続けた人間に対する償いだよ」
 ビリーの生命線はもはや針よりも細くなっている。オズワルドはその生命線を加減して引っ張り、弄んでいた。
「あ、ああ………」
 ライラは涙が止まらなかった。もう、何に対して泣いているのかすらわからないほどに。
「さぁ、終わりにしようか」
 オズワルドはそう言うと右手を大きく振り上げた。そしてビリーの首目掛けて振り下ろす!
 ズドゥウウウゥゥゥゥゥ………
 オズワルドは自分の胸を突き破った杭を、笑顔のまま見つめていた。パイルバンカー・カスタムから杭打ち機のアタッチメントだけ外し、それでオズワルドの胸を突き破ったライラは泣きながら肩で息をしていた。
「姉さん、どうして………?」
「………がう………」
「………姉さん、どうし「違う!!」
 ライラの絶叫が木霊する。ライラの手からこぼれ落ちた杭打ち機がガシャンと音を立てる。それを合図にしたかのように、オズワルドも仰向けに倒れた。
「あなたは………あなたは、オズワルドなんかじゃない………!」
「姉さん、僕は………」
「これ以上、これ以上、あの子の思い出を汚さないで!」
 両手で耳を塞ぎ、うずくまるライラに、オズワルドは変わらぬ笑顔で囁いた。
「姉さん、愛してるよ」
 その言葉を最後にオズワルドの姿をした機械人間は活動を停止した。ライラはもはやオズワルドには目もくれず、重傷を負ったビリーの応急処置にかかるのだった。オズワルドに対する想いを振り切るかのようにビリーの傷を手当てするライラは顔中が涙で濡れていた。



「………私はノア………マリィ・ノア……………」
 地球救済センターの最深部。この世でもっとも人間から遠い場所。
 そこには神が生まれる神聖な祭壇が設置されていた。
 この荒れ果てた世界を作り上げた神、マスターコンピュータ「ノア」。
 それにもっとも近い存在であるノアシステムNo.Mを用いて生み出された新たなノアは、自らを「マリィ・ノア」と名乗った………。
「おお、神よ………」
 ノアシステムNo.J、ジェイクが感極まった声でマリィ・ノアに両手を広げる。
「さぁ、今こそ! 再び人類完殺を宣言してください! 我らは神託を今すぐ実行しましょう!!」
「マリィーッ!」
 マリィ・ノア誕生に酔いしれるジェイクとは対照的に、ヨハンはマリィ・ノアの核とされたアンドロイドの少女の名を呼びながら、マリィ・ノアが収められた強化ガラスの筒を叩く。サイバーウェアを施されたヨハンの力でも強化ガラスはおいそれと破る事はできなかった。
「No.J………」
 マリィ・ノアがジェイクの名を呼ぶ。ジェイクは直立不動の姿勢でマリィ・ノアの次の言葉を待つ。
「初代ノアのデータ復旧は完了しました。………私の、マリィ・ノアの結論を告げます」
「ハッ!」
「………ノアは、初代ノアは何と愚かな真似をしたのでしょう」
「!?」
 滑らかな球体であるマリィ・ノアで、唯一認められるオブジェ。下半身と両手を球体に埋めたマリィは哀しげな表情を浮かべた。
「初代ノアは幾億、幾兆という回数でシミュレーションを行いました………。地球という星に緑を蘇らせるにはどうすればよいかというシミュレーションを」
「そう、それらはすべて失敗に終わった! すべては人類という、知恵を身につけた悪魔のために!!」
「No.J、初代ノアのシミュレーションは失敗に終わって当然です。初代ノアは………あまりに人間を知らなさすぎた」
 ヨハンはマリィ・ノアの言葉に驚きを隠せなかった。ヨハンですらそうなのだから、ジェイクの驚きは尋常ではなかっただろう。ジェイクはマリィ・ノアに強い口調で問いかける。
「に、人間を知らない………? どういう意味だ、それは!?」
「………初代ノアがシミュレーションで使った人間のデータは、実際の人間よりもはるかに矮小に見積もられています。これでは成功するはずがない」
「そんなバカな! ノアが間違っていたなどと、どうして断言できる!!」
「私はマリィとして、ずっと人間社会で暮らしていました。私が見た人間は皆、夢を持ち、夢をかなえるために努力する………誰もが素晴らしい心を持っていました」
「それは一面だけだ! 全体で見れば………人間はつまらない存在に決まっている!!」
「確かに、今のは私の主観かもしれません。ですがNo.J、ならば人間はどうして大破壊で絶滅しなかったのでしょう? 初代ノアが人間を熟知しているなら、人間は一人残らず絶滅していたのではないでしょうか?」
「う………」
「大破壊の後も人間は生き残り、初代ノアはモンスターを放って人類完殺を計りましたが………結果、初代ノアは人間によって破壊されました。やはりノアは、人間を過小評価していたのです」
 マリィ・ノアは哀しげに首を横に振った。初代ノアの間違いのために何十億という命が散らされた。その罪は………あまりに大きすぎた。
「私はマリィ・ノア。新たに生み出されたマスターコンピュータ………私はノアの代わりに結論を告げます」
「やめろーッ!!」
 マリィ・ノアの声を遮るために、あらん限りの声で叫ぶジェイク。だが、それは虚しすぎる抵抗だった。マリィ・ノアはジェイクの叫びを意にも介さず、答えを導き出した。
「人間を滅ぼす必要はない………。私が集めた人間のデータと、初代ノアが用いていた人間のデータ、この二つを比較した結論です」
「マリィ………」
「そんな、そんな結論を聞くためにお前を復活させたわけではない!」
 ジェイクはそう怒鳴ると、拳を握り締めてマリィ・ノアに襲い掛かろうとする。だが振り上げた拳はヨハンに手首を掴まれたために振り回すこともできなくなった。
「貴様! 離せ!!」
「ジェイク………いい加減にしろ!」
 ジェイクの手首を抑えていた手を放したかと思ったのもつかの間、ヨハンの拳がジェイクの頬に打ち付けられる。ジェイクは手足を投げ出した無様な姿勢で倒れこむ。
「グォッ!」
 GZのボディを使い、機械化されたヨハンの体は人間をはるかに超えた力を生み出す。それはノアの端末であるジェイクの骨格フレームを歪ませるほどだった。
「ジェイク、お前がマリィにあの結論を導き出させたんだ。その内容にケチをつけることは許さない!」
「ヨハン………貴様が! 貴様が、神をたぶらかしたのだ!!」
 ジェイクはコンクリートの床を叩き、飛び起きる。叩きつけられたジェイクの拳がコンクリートを跳ね上げる。それはノアシステムNo.Jの全力が発揮された事を示していた。
「ヨハン、お前を殺し………神を正気に戻す!!」
 ジェイクがヨハンに跳びかかる。銃弾よりも速く突き出される拳。砲弾の直撃よりも重い蹴り。ヨハンはジェイクの繰り出す攻撃のことごとくをいなしていた。
 何度も繰り返すが、ヨハンの体はノアシステムNo.Mを護るために造り出されたGZのボディを使っているのだ。ノアシステムを外敵から護るために造られたGZのボディの戦闘力はジェイクのそれを超えていて当然だ。
「クソッ!!」
 ジェイクが両手をあわせ、全体重をこめて振り下ろす。ノアシステムNo.Jの身体能力を持ってすれば戦車ですら貫くであろう必殺の一撃。だが、ヨハンはクルリと一回転し、ジェイクの渾身の一撃を回避する。
「ジェイク、お前の………」
 ヨハンの左腕がガシャンという音を立てる。まるで戦車砲の装填が終了したかのような大きく、力強い音を聞いてジェイクは全身を強張らせて一撃に備える。
「負けだ!!」
 ズゴゥ!
 ヨハンの左肘が炎を吹いた。ヨハンの左腕は機械のフレームがむき出しになっているが、その前腕にはビリーのパイルバンカー・カスタムの杭打ち機と同じ装薬が搭載されている。パイルバンカー・カスタムは装薬が科学反応を起こした際の圧力で杭を撃ち出し、ヨハンは同じ圧力で拳を加速させるのだ。
 その一撃がジェイクに向けて放たれる。衝撃はジェイクの防御をものともせず、ジェイクを二〇メートルは突き飛ばし、地球救済センターの壁にジェイクを激突させた。
「………人間……滅ぼす………ノアの……命令………」
 ヨハンの必殺パンチを受けたジェイクは完全には破壊されていなかった。だが、損傷率は九割は超えただろう。ジェイクは全身から火花を散らしながら、ビクビクと痙攣するばかりだ。
「マリィ、今行く!」
 ヨハンは左前腕の装薬を交換すると、マリィ・ノアの方へ振り返り………そして跳んだ。
 再びヨハンの左肘が火を吐き出し、マリィ・ノアを覆う防弾ガラスをヨハンの左腕が貫いた。一点が突破されれば防弾ガラスは脆かった。左腕を起点に、ヨハンは全身を防弾ガラスの中へ侵入させる。
「ヨハン!!」
 そしてマリィ・ノアのコブ、球体に半身を埋めているマリィの元へ駆けつけたヨハンはマリィを救出した。球体から助け出されたマリィはヨハンに抱きついた。ヨハンもマリィの体を優しく抱きとめ、球体からそっと飛び降りる。
「ク、ククク………」
 それを見ていることしかできなかったジェイクは口元に笑みを湛えた。
「やはり貴方は神だよ、マリィ・ノア………。機械は、誰も愛さない。ヨハンを愛するということは、貴方は機械ではない………。きっと、神と呼ぶに相応しい存在なのだ………」
 自分は確かに神をこの世界に誕生させたのだ。それを見届けながら停止するのだから………案外、悪くないのかもしれないな……………。
 グシャリ
 ジェイクは静かに崩れ落ち、そして二度と動かなかった。ノアの復活を願った端末は、ノアを造りだして停止した。
 そしてジェイクの停止を最後に………地球救済センターでの戦闘は終結したのだった。

メタルマックス外伝
鋼の聖女
FULL METAL MARY

LAST EPISODE「微笑みの旅立ち」


最終章 第三幕「審判の時」


書庫に戻る
 

inserted by FC2 system