………シティ・ガーディアンズ本部のあるノブタイでモンスターの大群とシティ・ガーディアンズの部隊が戦闘状態に入って二時間あまり。
 砲声と破壊音によって奏でられる戦場音楽は最終楽章にさしかかろうとしていた。シティ・ガーディアンズ側の敗北という名の最終楽章を。
 シティ・ガーディアンズ本部地下にある司令室のスクリーンに映し出されるのは、シティ・ガーディアンズ本部を囲むかのように増える赤い点ばかりであった。赤に対抗する青い点は残り少なく、さらに時間が過ぎれば過ぎるほどにその数を減らしていた。
「ワイズミの防衛に出て行った部隊と連絡は取れた?」
 シティ・ガーディアンズ社長代理のブレンダがオペレーターに尋ねた。ほっそりと痩せたオペレーターは焦りをにじませて裏返った声で報告する。
「連絡は取れましたが、どれほど飛ばしても到着まであと一時間半はかかるとのことです」
「一時間半………持ちこたえられるかしら」
 ブレンダは誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた。その声は自分の意識に尋ねていた。そしてブレンダの意識が下した判断は、「No」であった。
 このシティ・ガーディアンズ本部は大破壊の前から軍事施設として使われていたこともあって、攻めるに難く、守るに易い造りとなってはいる。しかし兵力が致命的に足りていないため、要塞として機能するかは疑問であった。
 では、この場を脱出してはどうだろう。
 しかしブレンダはその考えをすぐさま捨て去った。脱出するにしても、クルマが圧倒的に足りていない。徒歩でモンスターの大群から逃れられるとは到底思えなかった。
 即ち打つ手ナシ。シティ・ガーディアンズは袋小路に追い詰められているのであった。
「おやおや、どうやら状況ははかばかしくないようですね」
 状況をわきまえているのかどうか、にわかには判別しがたい暢気な声。ブレンダのみならず、司令室の視線が一斉に声の方向へ向けられる。その声を発したのはハンターオフィスの代表を務めているジェイクという青年であった。
「貴方、一体どうしてここに………?」
 この司令室は関係者以外立ち入り禁止であるし、入るにはIDカードが必要だ。シティ・ガーディアンズにとって無関係者であるジェイクがおいそれと入れる場所ではないのに………。
「申し訳ありません。私が入れました」
 そう言って頭を下げたのはブレンダが秘書として雇っている初老の男、ダドリーであった。そしてダドリーは「応接室の近くに砲弾が落ちたので、この場におつれしたのです」と続けた。
 なるほど。確かにハンターオフィスの代表という、この世界における権力者の一人を危険に晒す訳にも行かないか………。本来、ブレンダが真っ先に思い当たらなければならないことなのだが、今のブレンダは焦りから思考力が低下していたのだった。ゆえにそんな当たり前のことも見逃してしまう。
「そういうことならかまわないわ。でも、ジェイクさん」
 ブレンダは肩をすくめながら言った。
「貴方も運が悪いわね。シティ・ガーディアンズを訪れたと思ったらモンスターの大群が襲撃してくるなんて」
「何、後悔はありません。私は彼に会いにきたのですから」
「彼………?」
 ジェイクの言う「彼」が誰なのかわからず怪訝な表情を浮かべるブレンダ。その時、鉄製の靴底が床を蹴る音がブレンダの聴覚を刺激した。靴音は司令室の扉の前で止まる。
「……………?」
 この靴音は、一体誰のものだ? 皆の視線が今度は扉に注がれる。その中、ただ一人ブレンダだけは懐から拳銃を取り出し、安全装置を解除して銃弾を装填した。
 カシャー
 司令室の扉が開き、靴音の主が姿を見せる。その正体は一五〇センチにも満たない、小さな子供であった。
「彼がヨハン………」
 子供の名を呟いたのはジェイクだった。ブレンダは何も口に出すことはなく、ただ黙って拳銃の引き金を引いた。
 乾いた銃声が一度だけ轟く。銃弾はヨハンの左頬を掠め、ヨハンの頬に浅い傷跡を残す。
「ブレンダさん………」
 ヨハンにとって母親の妹、つまり唯一の血縁であるブレンダは殺気に満ちた眼でヨハンを睨み、吐き捨てるように言った。
「いよいよ来たわね、ヨハン。今度は私から何を奪うつもりなの?」

メタルマックス外伝
鋼の聖女
FULL METAL MARY
一九話「明かされる謎」



「奪う………?」
 ブレンダの言葉の意味がわからず、ヨハンはブレンダに尋ねる。
「それ、どういう意味ですか?」
 しかしブレンダはヨハンの質問に答えない。引き金にかけられた指に、再び力をこめるだけだった………かと思えば、ブレンダが手にしていた拳銃が横からの圧力に屈し、銃口があらぬ方向を向いてしまう。横から圧力を加えたのは、硝煙の臭いがこびりついた手だった。
「やめたまえ、ブレンダ」
 そう言ってブレンダから拳銃を取り上げたのはシティ・ガーディアンズ代表のリカルドだった。底知れぬほど深い眼差しはブレンダの顔を見つめていた。
「しゃ、社長!?」
 い、一体いつの間にこの司令室に………? リカルドは娘のマリィと共にシティ・ガーディアンズの一室に監禁していたはずだ。それがいつの間にか司令室に入り、私から拳銃を取り上げている。これは一体………?
 ブレンダは二度だけ頭を横に振ると、ばかばかしい疑問を打ち払った。リカルドは呼吸をするかのような自然さでモンスターを倒してきた、伝説のモンスターハンターだ。そんな男を一室に監禁し続けられると思う方がどうかしている。おそらくはそういうことなのだろう。
「お父様………」
 一足遅れて司令室に入ってきたのはリカルドの娘であり、ヨハンが命に代えてでも救出しようとしていたマリィという少女だった。少女は父の名を呟く。父の真意が測りきれない様子だった。監禁されていた部屋を抜け、ヨハンと合流したリカルドは、このノブタイから逃げようとせず、かといってモンスターの大群と戦おうともせずにこの司令室へ足を向けたのだった。その真意は本人以外にはわかるまい。
「マリィ、もう少しだけ待ってくれ。もう少しで役者がそろうんだ」
「役者? 社長、それは一体………?」
 リカルドの言葉を聞き流せなかったブレンダが尋ねる。リカルドはブレンダに視線を向けると、ゆっくりと足を進めて司令室の開いている椅子へ腰掛けた。そして静かに両腕を組んで眼を閉じる。どうやらリカルドが望む「役者」がそろうまで何一つ話すつもりはないらしい。
 そんなリカルドの態度を楽しげに見つめるのはジェイクだった。
 司令室は不気味な緊張に包まれたまま、時間が流れることに身をゆだねるのだった。



「ヨハン、無事か!?」
 司令室にビリーとライラの二人が踏み込んでくる。ライラはともかく、ビリーが健在であることにヨハンは驚きを隠せない様子だった。しかしヨハンはビリーのことを尋ねる暇を与えられなかった。彼はこの二人が来るのを待っていたのだった。
 リカルドは、重い腰をようやく上げた。音も立てず、ただ立ち上がっただけ。にも関わらず、この司令室の空気は劇的な変化が生じていた。
 ゴクリ
 誰かがつばを飲む音が聞こえる。リカルドの言葉を待つあまり、どんな些細な音でも大きな騒音に思えてしまう。
「………さて、一つ昔話をしようか」
 リカルドは神妙な面持ちで口を開いた。
「昔………」
「………話?」
「そう、昔昔の出来事だ」
 リカルドはそう前置くと、彼の知るすべてを話し始めた。



 遠い昔、まだ世界中に人間がいて、文明を謳歌していた頃。
 ただし、人類に懸念がなかったわけじゃなかった。
 人類の文明は地球環境を確実に食い荒らしていた。文明がいくら発達しても、地球環境が滅んでしまっては元も子もない。
 そこで人類はある施設を作り上げた。
「施設………?」
 そうだ、ヨハン君。その施設の名は「地球救済センター」。その名の通り、地球環境を救うための研究を行う施設。そうなるはずだった。
「はずだった? どういうことだ、社長?」
 ………地球救済センターの目玉は、地球環境再生のためのシミュレーションを行うスーパーコンピュータだった。既存のコンピュータとは次元を異とするほどの高性能を誇り、瞬く間にシミュレーションを完了させて未来を見つめる装置。
「ノア………もしかして、そのスーパーコンピュータの名前って、ノアですか?」
 ほう。ヨハン君はその名前を知っていたのか。どこで知ったんだい?
「トーナの町にいた頃、シウンという強酸性の霧のモンスターと戦った時、そのシウンを作ったという研究所で見ました」
 そうか。地球救済センターにあったコンピュータの名前は、ヨハン君の言うようにノアだ。この地球を、生命が住まうかけがえのない箱舟とできるようにという願いがこめられた名前だった………。
 ノアは繰り返した。地球が緑豊かな星となるためのシミュレーションを。何万、何億、何兆………気が遠くなりそうな回数を繰り返しても、ノアの結論はいつも同じだった。
「………いつも同じ・・・・・?」
 そう、ノアのシミュレーションは、すべて人類によって頓挫を余儀なくされた。そしてノアは結論を下した。人間が人間である限り、地球の再生は望めない。
「……………」
 これが大破壊の真相だ。各国の軍隊が保有する核ミサイルのプロテクトを解除して発射することなど、ノアにとっては児戯に等しかった。人間たちの文明は瞬く間に滅ぼされ、荒野と瓦礫だけが残った。
 だが、それでも人類は死滅しなかった。
 おそらく、これはノアにとっても予想外のことだったんだと思う。ノアは慌てて人類完殺のための兵力を生み出し、送り出した。これがモンスターだ。それを倒すのが我々、モンスターハンターというわけだ。モンスターとモンスターハンターとの戦いがどれほど激しいかは君たち自身が一番知っているだろう?
「で、そのノアってのはどうなったんだ?」
 ………モンスターとモンスターハンターとの戦いはノアにとってまったく予想外の展開となった。ノア自身が三人のモンスターハンターによって破壊されてしまったのだ。この三人はノアのことを知って戦っていたんじゃない。彼らは、まったくの偶然でノアを破壊したんだ。
「何と………しかし、モンスターは一向に減らないぞ? これはどういうわけだ?」
 ノアは確かに破壊された。だが、ノアは自分自身が破壊された時のことを考えていた。自らのメモリーを保存したバックアップを用意していた。それは戦車砲でも破壊できないほど強固なレアメタルで守られ、決して失われることがないノアの怨讐だった。
「その話なら聞いたことあるわ。確か、ノアシードとかいう奴でしょ?」
 そう、ノアシードだ。だが、そのノアシードも今では無い。いかなる運命のいたずらかは知らないが、ノアを破壊した三人のモンスターハンターのリーダーだった男の息子が破壊した。
「じゃあ、ノアの脅威はなくなったということ?」
 そう思いたいが、しかし事はそれほど単純ではなかった。
「?」
 ノアは巨大なコンピュータだった。故に地球救済センターから動くことはできない。ノアはそれを弱点だと考え、自らの使命である人類完殺を行うため、自分の意思を共有した端末を多く作り上げていた。かつて東方で猛威を振るっていた戦車型モンスター ロンメル・ゴースト、北方で核ミサイル遺跡を再起動させようとした人間型モンスター アレックス、それらはノアの端末の一部だ。彼らにはノアシステムと呼ばれるCユニットが組み込まれて、それに刻まれている抹殺プログラムに従って今も活動を続けている。モンスターの数が減らないのも、彼らが活動を続けているからだろう。まだ人類の知らないモンスター生産プラントがあるんだろうな。
「ノアの端末………そんなものがあったなんて」
 ライラ、と言ったね? 君たちもノアの端末を一度破壊している。気づいてはいないだろうけどね。
「え?」
 サルモネラ・ロンダーズのフラックス。彼はサイボーグ手術を受けた際にノアシステムを埋め込まれている。だからダイダロスの残骸を再生して大破壊をもう一度起こそうとしたんだよ。
「あれにそんな意味が………」
 と、まぁ、これが私の知る大破壊の真相なのだが、概ね間違っていないだろう、ジェイクさん?



 司令室の隅でリカルドの話を黙って聞くだけだったジェイクに皆の視線が集まる。ジェイクは表情一つ変えず、リカルドに尋ね返した。
「どうして、私に答えあわせを求めるのです?」
「どうして? おかしな質問を。当事者が素知らぬ振りかね?」
「当事者?」
 ジェイクの顔とリカルドの顔を交互に見比べながらビリーが語尾上がりの疑問の声。リカルドはそんなビリーにしれっと言った。
「彼は人間じゃない。人間型の、ノアの端末の一つさ」
「何!?」
 ビリーは地面を蹴ってバックステップ。ジェイクから離れる。その際にパイルバンカー・カスタムを構えるのも忘れない。
「テメェがノアの端末の一人だと!?」
「……………」
 それでもジェイクは表情を変えない。それは余裕と言うよりも、機械の冷たさを感じさせる顔であった。
「………やれやれ、やはりあなたの目はごまかせませんでしたか」
 ジェイクはそう言うとスーツの上着を脱ぎ、放り捨てた。
「そう、私はノアの端末の一つ。ノアシステムNo.J」
 ジェイクは自らの真の名を口にする。
「フラックスにノアシステムNo.Fを埋め込んだのはお前だね?」
「そこまで知っていたか………まったく、どこでそれだけの知識を集めたのか」
「な、何てこと………」
 リカルドとジェイクが対峙する後方でショックを隠せないのはブレンダだった。ジェイクの正体がノアの端末であった。それは衝撃の事実である。だが、何よりも恐ろしいのは、ジェイクがモンスターハンターを管理・統轄するハンターオフィスの代表を名乗っていた事だ。ブレンダはシティ・ガーディアンズの情報網を使ってジェイクのことを探り、ジェイクが本当にハンターオフィスの代表である事を確認している。
 それはすなわちハンターオフィスはノアに牛耳られているということを意味している。
「何てこと………」
 ブレンダの顔は青ざめ、彼女は怖れをこらえるためにじっと唇を噛み締めた。そんな中、ブレンダはふと気がついた。ダドリーがいつの間にかヨハンの背後に立っていることに。そしてダドリーは右手を高々と掲げている。
「何?」



 それは突然の痛みであった。背中がばっくりと切り裂かれ、千切れた血管から血が溢れんばかりにこぼれていく。
 ヨハンは痛みに耐え切れず、うつぶせになって倒れこんだ。
「ヨ………」
「ヨハン!?」
 ヨハンの背中を切り裂いたのはダドリーであった。ダドリーの右手の小指の先から肘にかけて、刃物が飛び出している。その刃物はヨハンの赤い血で濡れていた。
「ダ、ダドリー?」
「社長代理、あなたとのお付き合いもこれまででございますな」
 ダドリーはいつものように丁寧な口調でそう言った。ダドリーはジェイクの方に視線を移すとうやうやしく一礼。
「No.J、この場は私にお任せを」
「あなたも、人間ではなかったというの?」
「そういうことになりますな、社長代理」
 それに私だけではありません。ダドリーはそう言うと指をパチンと弾き鳴らした。それを合図として司令室にいたシティ・ガーディアンズのオペレーターたちが一斉に立ち上がり、人肌の下から機械のフレームをみせた。
「な、何!?」
「ああ、一応言っておきますが、外にいるシティ・ガーディアンズの兵たちは本物の人間です。しかし、我らの流した欺瞞に満ちた情報のおかげで今頃は全滅していることでしょうな」
「う、うう………」
 ダドリーの足元でわずかに震えるヨハンの体。まだ彼の生命は途切れていないらしい。
「ヨハン!」
 ビリーがヨハンを回収し、エナジーカプセルを飲ませようとする。しかしそれを見逃すほど機械人間のモンスターたちはお人よしではなかった。
 パパパパパ
 指先から放たれる銃弾がビリーを寄せ付けない。ビリーはパイルバンカー・カスタムを放ち、機械人間の一体の腕を吹き飛ばすが、しかし片腕がなくなっても機械人間はまったく動じていなかった。
「クソッ、誰かヨハンを回収しろ! あのままじゃ、ヨハンが殺されちまうぞ!!」
「そ、そんなこと言っても………」
 ライラはマリィを護るので精一杯であった。ダドリーの足元で倒れるヨハンの下に駆けつけるのは難しかった。
「ふむ、No.Fを倒した人間が、こんな子供だったと言うのは意外ですが………」
 ダドリーは刃と化した右手で倒れこむヨハンを突付く。その度にヨハンは生者から死者へ一歩ずつ前進していた。
「故にここで殺しておかねばなりますまい」
 ダドリーは冷たく言い放つと右手を大きく振り上げ、ヨハンの首筋めがけて振り下ろした!
 肉が切れ、骨が断たれる感触。ダドリーはヨハンの生命を奪う事に………失敗した。
 ダドリーの右手はヨハンの体ではなく、ヨハンとダドリーの間に割って入ったブレンダの体を切り裂いていたからだ。
「ブ、ブレンダ、さん………」
 はっきりとしない、朦朧とした意識でヨハンがブレンダの名を呼ぶ。ブレンダはヨハンに覆いかぶさるように倒れた。そしてヨハンの耳元で言った。
「やはり、あなたは私のすべてを奪う疫病神だわ。お姉ちゃんも、クレムも………」
「父さんと、母さん?」
「あなたは覚えていないでしょうけど、お姉ちゃんはまだ赤ん坊だったあなたをモンスターから護ろうとして死んだわ………。クレムだって、お姉ちゃんと同じようにあなたを護ろうとして死んだ………」
「……………」
「私は二人とも大好きだったわ。だから、その二人を殺したあなたを許すつもりはなかった………。でも、今ならお姉ちゃんとクレムの気持ちがわかるわ」
 ブレンダはそう言うとエナジーカプセルをヨハンに食べさせようとする。しかし、ヨハンにはエナジーカプセルを食べる体力も残されていなかった。
「あなたには確実にお姉ちゃんとクレムの血が流れている………あなたは、死なせない」
 ブレンダはエナジーカプセルを自分の口に含むと自分の口をヨハンの口に重ねた。そしてヨハンにエナジーカプセルを飲み込ませる。
「ブレンダさん………」
 エナジーカプセルに混入されているオイホロトキシンがヨハンの痛みを忘れさせる。そしてヨハンの傷が見る間にふさがり………。
「うわあああ!」
 ぐわっと立ち上がったヨハンの拳がダドリーの顎を捉える。子供の拳と甘く見ていたダドリーだが、その威力は拳闘士のそれよりも重く、そして速かった。
「ヨハン! これを使え!!」
 ビリーがパイルバンカーのアタッチメントを投げ渡す。ヨハンは流れるような自然な動作でパイルバンカーをダドリーに突き立てる。そしてパイルバンカー発射の引き金を引いた。
 ズドゥッ!
 ノズルから排出される炎がヨハンの服を焦がす。装薬の勢いを受けて発射されたパイルバンカーはダドリーの胸を貫いていた。胸に動力源があるのだろうか。ダドリーはその一撃で行動を停止した。
 機械人間の指揮官であるダドリーが一瞬で破壊されたのはオペレーターとしてシティ・ガーディアンズに潜入していた機械人間たちの動きにも影響を与えた。わずかな瞬間であるが、機械人間たちの動きが乱れる。
 そのわずかな瞬間に、リカルドは拳銃を放つ。正確無比なその銃弾は機械人間の動力を確実に停止させていた。



「ブレンダさん!」
 司令室の機械人間を全滅させた時、ジェイクはすでに姿を消していた。だがヨハンはジェイクの姿を探そうともせず、ブレンダを抱き起こした。ブレンダは意識がなく、ヨハンの声にも応えない。
「ブレンダさん! ブレンダさんってば!!」
「落ち着きなさい、ヨハン」
 ブレンダの肩を激しく揺らすヨハンを止めたのはリカルドだった。
「意識はないが、生きている。ホラ、呼吸しているだろう?」
「あ………」
「ビリー、彼女を頼む」
 リカルドはそう言うと服の埃を払う。
「どこに行くんだ、社長?」
「外のモンスターを迎撃してくる」
 まるで晩飯の食材を買いに行くような気軽さでリカルドはそう言った。
「じゃあ、俺も行った方が………」
「いや、こんな組織を作った男がいうのもなんだが、私は一人で戦うのが性にあっていてね」
「ふむ………」
「だが、その前にもう一つだけ話しておかないといけないことがある」
「え?」
 リカルドはマリィを呼ぶと、その肩を抱き寄せて言った。
「マリィのことだ」
「お父様、それは私が言います」
 そしてマリィは自分の事を話し始める………。
「これが始まりなのだ」後にビリーはそう語ったという。
 鋼の聖女を巡る戦いは、このノブタイの地から始まったのだった。


次回予告

 ………すべては明らかとなった。
 倒すべき敵、護るべき味方。俺たちはすべてを知ってしまった。
 そんな俺たちに「奴」は襲い掛かってきた。
 聖女を護る、鋼鉄の騎士が。

次回、「聖女を護る騎士」


第一八話「ビトレイヤー・ビリー」

第二〇話「聖女を護る騎士」

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