………これはすべてが始まった時の記憶。けして戻らない時空への追憶。
 その夜、空は厚い雲に覆われて星はおろか月すら覗く事はなかった。雲からあふれ出た滴は雨となって大地に降り注ぐ。大破壊によって激変した環境によって雨の色は汚く濁り、雨は大地に突き刺さるかのように降り注ぎ、傾いたビルのコンクリートを容赦なく溶かして侵食する。
【ゼェ、ゼェ、ゼェ………】
 濁った雨の中を一匹のサルモネラが憔悴しきった面持ちで歩いていた。このサルモネラこそ若き日のドン・サルートである。当時のサルートはまだサルモネラ一族を束ねるほどの力を持っておらず、数あるサルモネラ・ファミリーの一つの長でしかなかった。
 ふらつく足を必死に動かし、一歩でも前に進もうとするサルート。不意に彼は足を止めると近くにあったビルの影にその姿を隠し、息を潜める。夜の闇を切り裂く稲妻によって一瞬だけ照らされるサルートは体のあちこちから血を流していた。
【どこに行った? 探せ、探せ! サルートを仕留めればこの辺りのシマは俺たちクーロンズファミリーのモノだ!!】
 短機関銃で武装したサルモネラたちが辺りを見回しながら走る。サルートは追っ手の気配が充分に遠ざかったのを確認してから安堵の息を吐く。
 サルートの率いるファミリーはサルモネラ・ファミリーの中でもまだまだ弱小。しかしサルート自身の豪腕とアーノルドの射撃術があれば決して負けることはない。そう思っていたのだが………。
【俺としたことが………ドジっちまったか】
 サルートは葉巻を吸って気を紛らわせたいと思ったが、あいにく今のサルートは葉巻どころか何一つ持ち合わせてはいない。そう、何も持っていないからこそ彼の脇腹から流れる赤い血は放ったらかしになっているのであった。流れる血は濁った雨にとける為に跡にはならなかった。それはサルートにとって不幸中の幸い。
【致命傷じゃねぇが………早く安全な場所を見つけて治療しねぇとなぁ】
 サルートは脇腹を押さえながら再び足を動かそうとする。
【ひどいケガだね】
 そんなサルートの足元から聞こえる優しい声。追っ手かと身構えるサルートであったが、その声が追っ手であろうはずがない。追っ手はサルートのケガを気遣うはずがないし、そんなに優しい声で話しかけはしない。サルートが立っていたすぐ近くの床がパカッと開く。
【おクスリ、あげるよ】
 声の主はサルートが姿を隠す事に使ったビルの地下シェルターに住んでいるようだった。といっても傍目にはシェルターがあったことなどわからなかった。おそらく核戦争用に作られたのだろうが、大破壊があまりに唐突に起きためにこのビルの持ち主であった人間はせっかく作ったシェルターに入り損ねたのだろう。そのシェルターから顔を覗かせるサルモネラは人間の子供より小さな小猿であった。しかし綺麗な眼をした小猿である。
【………どうしたの? はやくおいでよ】
 小猿はそう言うとサルートにニッコリと微笑んだ。邪気など一片も感じられない、純粋な微笑みであった。サルートは言われるがままにシェルターの階段に足をかける。



 地下シェルターは決して広いとは言えなかったが、しかし電力も生きており、住むには充分な設備が整っていた。
【ちょっとまっててね。いまおクスリだすから】
 小猿はそう言うと色んな物が雑多に散らかされた床から傷薬を探そうとする。恐らくこのシェルターをここまで散らかしたのはこの小猿なのだろう。
【あれ………? おかしいな、このへんにあったと………】
【………薬ってのはこれじゃねぇのか?】
 小猿が探している方向とは見当違いの方向に傷薬とかかれた瓶を見つけたサルートが声をかけた。小猿はそう言われて初めて自分が全然違う場所を探していたのだということに気付いたようだ。
【あれ? まぁ、いいや】
 小猿は大して気にもとめず、傷薬の瓶の蓋を開けてサルートの傷口に塗る。
【だいじょうぶ? いたくない?】
【………ああ、そんなヤワじゃない】
【ホント!? すごいなぁ………ボク、いつもこのおクスリぬったらないちゃうんだ、しみるから】
 よく見ると小猿の体のあちこちに傷痕が見える。毛も一部は焼かれたのだろう。不自然に短い部分がある。
【ハンターにやられたのか】
【ううん。トモダチに。ぼく、いつもトモダチにおこられるんだ】
 小猿はサルートの脇腹に傷薬を塗った後に包帯を巻いた。危なっかしい手つきではあったが、しかし本気でサルートの傷が治る事を祈ってくれているのがわかった。
【はい、かんせい!】
【おお、ありがとよ】
 サルートは感謝の言葉を口にすると小猿に頭を下げる。小猿は嬉しそうにはにかむ。
【しかし………いい場所だな】
 サルートはシェルターを見回しながら感想を呟いた。外からはまったくと言っていいほどわからない場所にありながら、その居住性は決して悪くない。最高の隠れ家という奴だ。
【ところで、すまねぇがこの傷が完治するまでここにいさせてくれねぇか?】
 脇腹の包帯を撫でながら尋ねるサルート。小猿はパァッと嬉しそうに表情を明るくして応えた。
【オッケィ! うちに泊まる人なんて初めてだよ!!】
 小猿は嬉しそうにシェルターの中を跳ね回る。サルートは小猿を見ていると思わず双眸が緩んでしまう。
【はは、そいつは光栄だな】
【………ねぇ、名前は?】
 そこでようやく小猿はサルートの名前を聞いていないことを思い出したらしい。
【俺の名はサルートだ。おめぇは?】
【ぼくはフラックス。よろしくね、サルート!】

メタルマックス外伝
鋼の聖女
FULL METAL MARY

第一三話「破壊の堕天使」



【そういやぁ、さっき言ってたが………】
 シェルターの中、サルートは小猿フラックスの言った事を思い出した。シェルターの中にあった石鹸を水に溶かし、シャボン玉を作って遊んでいる小猿フラックスにサルートは尋ねる。
【おめぇ、その傷薬をトモダチから受けた傷に使ってるって言ったな?】
【え? う、うん………】
【トモダチは、おめぇのこと殴るのか?】
【ぼく、からだちいさいからてっぽうつかえないんだ。だから………】
 サルモネラ一族は集団で群れて行動する性質がある。そしてサルモネラ一族のオスは人や敵対する種族を襲って金品食料を巻き上げたり、もしくはそれらの襲撃からファミリーを護らなければならない。そんなサルモネラ一族では体が小さく銃も使えないほど非力なオスは群れからはぐれ、そして何も出来ずにのたれ死ぬのだった。たまたまこの小猿フラックスはこのシェルターを見つけたからこそ命を繋いで来れたのだろう。
 同じくサルモネラ一族としては小さい部類に入るサルートも一歩間違えば小猿フラックスと同じように群れからはぐれてしまったのかもしれない。しかしサルートには他のサルモネラ以上の運動神経と怪力という武器があったのでサルモネラ・ファミリーのドンとなるまでになったのだった。
 サルートはフラックスに言った。
【いいか、フラックス。自分を殴ってくるような奴はトモダチなんかじゃねぇ】
【え? で、でも………】
【本当のトモダチってのは、自分を犠牲にしてでも誰かを護ろうとする奴の事だ】
 サルートの言葉に眼を丸くする小猿フラックス。
【いいか、俺が天下取ったらおめぇに沢山本当のトモダチが作れるようにしてやるぜ】
【え?】
 この俺には夢がある。そう前置いてサルートは続けた。
【俺はいつか必ずこのサルモネラ一族を統一する。そしたらおめぇみたいな弱いサルモネラも決して仲間はずれにならないような、立派なサルモネラ一族の社会ってもんを作り上げてやるっていうこった】
【………サルート】
【まぁ、今日のところは俺がおめぇのトモダチ一号だ。よろしく頼むぜ、トモダチ。そのうち一〇〇号以上作れるようにすっから、楽しみに待ってろよ】
【トモダチ………サルート、ホントにぼくのトモダチになってくれるの!?】
【ああ、もちろんだとも】
 サルートは口元に笑みを浮かべて頷いた。小猿フラックスは初めてできた本当のトモダチに喜びが止まらないようだった。キャッキャッと狭いシェルターの中を飛び跳ねている。サルートはそんなフラックスを優しい眼差しで見守るのであった。



 そして太陽が両の手の指では数え切れないくらいに昇ったり沈んだりしたある日のこと。
 カシャン
【………んん、ん?】
 シェルターの床で眠っていたサルートは棚の上に置かれていたシャボン玉液が入った容器が床に落ちる音で目を覚ました。床に落ちた際にシャボン玉液がこぼれていく。
【ああ、大変だ】
 サルートは雑巾を手に取ると床を拭き、シャボン玉液の拡散を阻止した。床を拭き終えた所でサルートはこのシェルターに自分しかいないことに気付く。
【フラックス………? フラックス?】
 フラックスの名を呼んでみるが、しかし返事はない。
【まさか俺のことをクーロンズファミリーに売りにいったか………】
 いや、しかしそんなことはあるまい。もしもそうするつもりならば初日にでもやっているはずだ。あれから二週間以上経った今になって行うのは不自然だし不可解だ。では、一体………。
【あ………サルート………】
 サルートの背後から聞こえる弱々しい声。慌てて声の方に振り返るサルートが見たのは、全身から血を流すフラックスの姿であった。壁に手をつき、左足を引きずりながら、荒い呼吸で階段を下りてくるフラックス。しかし途中で力尽き、そのまま床に崩れ落ちようとするフラックスをサルートは素早く支えた。
【一体、何があったんだ………この傷は一体………!?】
 サルートは抱きかかえるフラックスの肩を揺さぶる。
【そ、そとであそんでたらこわいかおしたサルモネラに………サルートのこと、きかれて………】
【まさか………クーロンズファミリーか!】
【で、でも、サルートのこと、だれにもいわなかったよ………】
 サルートに抱き支えられたまま、ゆっくりと手を伸ばしてサルートの手に触れようとするフラックス。
【サルートと、ずっといっしょに、いたいから………さ……………】
 しかしフラックスの指はサルートの手には届かなかった。ガクリと力を失って垂れるフラックスの手。いや、手だけではない。フラックスの全身から弱々しかった力が消えていた。
【お、おい、フラックス! 冗談はよせ! フラックスーッ!!】
 サルートはフラックスの遺骸を抱いたまま泣き崩れる。
 ………何がトモダチだ。自分はフラックスに頼るばかりではないか。挙句の果てにフラックスの命まで奪ってしまった。フラックスは俺が殺したも同然………っ!!
「ここに誰かいるのか?」
 ふいに聞こえる声。そこで初めてサルートはシェルターの入り口が空きっぱなしであることに気付いた。何者かがシェルターの入り口からこちらを覗いている。まさかクーロンズファミリーか………?
【うおおおお!】
 サルートはフラックスの亡骸をそっと床に置くとシェルターを覗く影に向かって襲いかかった。まるで弾丸のような勢いで跳びかかるサルート。だが影はサルートの突進を紙一重で回避した。
「ま、待て! 私は敵ではない!!」
【何………?】
 サルートを制止する声。声の主はサルモネラではなかった。シェルターを覗いていたのは背広に身を包んだ人間の男であった。
【人間か………人間ならば敵ではないか!】
 フラックスを失った怒りをぶつける相手を前に唸るサルート。
「見ただけではわからんか………」
 男はそう言うと左手首を掴み、そのまま左手首を外してみせた。外れた左手首から覗くのはフレームと様々な配線………すなわち目の前の男は人間ではなく、アンドロイドであった。人間にあらざる存在、即ちモンスターという意味で確かに二人は敵という関係ではなかった。
「さて、近くを通りかかったらこのシェルターから君の声、それも慟哭が聞こえてきたのでね。気になって覗いていたという訳だ」
 外した左手を元に戻しながら男性型アンドロイドは事情を説明した。そしてアンドロイドはシェルターの床で横たわるフラックスの亡骸に気がついた。
「なるほど………そういうことか」
 フラックスの亡骸を見て合点がいった様子のアンドロイド。アンドロイドはサルートに尋ねた。
「どうだろう? あのサルモネラを復活させてみないかね?」
【何ぃ………? そんなことできるっていうのか!?】
「ああ、できるとも………どうするかね?」
 アンドロイドはそう言うと口元の端を吊り上げた。尋ねるまでもなく、サルートの返事はすでに決まっていた。
 そして……………。



【………うぅ】
 ベッドにその身を横たえて眠っていたサルートだったが、あまりの夢見の悪さに目を覚ます。
 ここはロンダー刑務所。サルモネラ一族の統一に成功したサルートの拠点………。決してあのシェルターの中ではない。
 サルートの部屋から差し込むのは月と星の弱々しい光だけだった。しかし先ほどの夢で眠気が醒めてしまったサルートは二度寝する気にはなれず、ロンダー刑務所の中をあてもなく歩き回ることにした。
 サルモネラ・ロンダーズの若い衆が酒を浴びるように飲みながら騒いでいる。サルートの姿を見つけた一匹が【ドンもどうですか?】と尋ねるが、サルートは遠慮した。酒を飲めば眠気が再び満ち潮のようにやってくるだろうが、今眠りにつけばまたあの夢を見そうで嫌だった。
 次いでサルートが見たのは小さな子供のサルモネラを寝かしつける老サルモネラの姿だった。あの時、フラックスに語ったサルートの夢をサルートは実行に移していた。誰も敵わないほどの腕力と誰もが慕う優しさ。サルモネラ・ロンダーズがサルモネラ一族の統一に成功したのは偏にサルートのおかげであった。
 そしてロンダー刑務所の地下にサルートは着いたのであった。
「フフフ………アハハハハハ!」
 ロンダー刑務所の地下で開発されている最終兵器。この山のように大きな超巨大重戦車の完成を待ってからサルモネラ・ロンダーズの最終作戦、サルモネラ一族による世界支配が始まるのだ。そしてその最終兵器の開発を一人で受け持っているのが………。
「ハハハハハ! ………ん、サルートか。眠らなくていいのか?」
 狂ったように笑いながら超巨大重戦車の開発を行っていた金色の人型機械がサルートに振り返る。サルートを前にした時、先ほどまでの狂気は影に隠れていた。
【………フラックス】
 サルートは目の前の人型機械の名を呼んだ。フラックス。そう、あの時サルートをかくまったために命を落としてしまった小猿をサイボーグ化したのが金色の人型機械フラックスであった。もっとも小猿フラックスの脳以外はすべて機械になっているので、サイボーグという言い方には語弊があるかもしれないが。



 サルートはフラックスを人型機械として蘇らせた時のことを思い返す。
 あの男性型アンドロイドは今の時代では考えられないほど立派な設備を地下シェルターに用意してみせ、そしてフラックスの手術を執り行った。
 金色に光り輝くボディには光線兵器を反射するミラーコーティングが施され、左手の指はそれぞれマシンガンとなっている。
「この小猿の脳を補助する電子部品を組み込んでおいた」
 すべての手術を終えてからアンドロイドはサルートにそう言った。
「彼が次に目覚めた時、彼は素晴らしい力を手にしているだろう。お前の片腕とするがいい」
 アンドロイドは「あと三日もすれば目を覚ます」と言い残すとサルートに背を向け、さらなる説明を要求するサルートの言葉を一切聞かず、そのままどこかへ去っていったのだった。
 そしてあのアンドロイドの言葉通り、三日後にフラックスは目を覚ましたのだった。
「サルー………ト?」
【おお、フラックス、俺がわかるか!?】
 ムクリと上半身を起こし、生まれ変わった自分の体を信じられないという面持ちで見つめるフラックス。サルートは申し訳なさそうに言った。
【すまねぇ………。こうするしかお前を助ける方法はなかったんだ………】
「何言ってるんだ、サルート! 何だか頭もスッキリとするし、素晴らしいじゃないか、この体は!!」
【そ、そうか………。そう言ってくれると嬉しいが………】
 しかしサルートはこの金色のサイボーグとなったフラックスに違和感を感じていた。言葉では言い表せないが、このフラックスは何かが違っていた。
 その時、シェルターの壁際を一匹のネズミが走った。このシェルターに貯蔵している食料を狙うネズミは絶えず、サルートやフラックスはそのネズミを見つけるたびに捕まえて駆除しているのだが………。
 パパパパパパパパ
 サルートが動くより速く、フラックスの左手が火を吹いた。マシンガンの銃弾がネズミに突き刺さり、ネズミは一発で絶命する。しかし………。
「ヒャハハハハハ! ヒャハハハハハハッ!!」
 しかしフラックスはネズミの死骸にマシンガンを撃ち続ける。命中するたびにネズミの死骸は形を失い、そしてついには肉の切れ端になってしまう。サルートは呆気に取られながらフラックスの狂行を見るばかりだった。
「破壊だ! 破壊だ! 破壊だーッ!!」
 ネズミの死骸をこれ以上はできないほどにバラバラの細切れにすると、その返り血で赤く化粧されたフラックスがサルートに振り返った。
「ありがとう、サルート。感謝するよ」



「………サルート、どうかしたのか、ぼうっとして?」
 再び時系列はロンダー刑務所の地下に戻る。過去を思い返していたサルートをいぶかしんで声をかけるフラックス。
【………ん? あ、ああ、すまん。ちょっと寝ぼけていたらしい】
「ふむん」
【ところで、この戦車の完成はいつになりそうだ?】
「そうだな………あと一週間もあれば大丈夫だろう」
【そうか………。ところでコイツの名前は決まったのかい?】
 サルートは開発途中の超巨大重戦車をコンコンと叩いて尋ねた。
「そうだな………クライシスと名付けるつもりだ」
【クライシス………なるほど、人間にとっちゃ確かにクライシスだな】
「完成は急ぐ。お前はその時のためにゆっくりと休んでおいてくれ」
【………ああ、わかった】
 サルートはそう言うとフラックスに手を振ってロンダー刑務所地下を後にした。そして再び自室に戻り、ベッドに腰を降ろしてポツリと呟いた。
【………どうしてこうなっちまったんだ、どうして………】
 あの日から何千、何万回も繰り返した呟き。そしていつも答えは出ない。だが今夜は違った。今宵はサルートに返答があった。
「時計の針を戻せるのは神という存在だけだということさ」
【!? 誰だ!?】
 いつの間に侵入してきたのだろう。窓のすぐ傍に一つ人影が見える。夜の闇をおぼろげに照らす星明り、月明かりを背にした人影の顔まではうかがい知れない。
【まさか………お前か、J!】
 あの時、フラックスのサイボーグ手術を勧めた男性型アンドロイドの名を叫ぶサルート。しかし人影はそっと立ち位置を変え、窓からさしこむ光で自分の顔が見えるようにした。人影の正体は長いボサボサの髪を後ろで一つに束ねた男であった。顔にはいくつかのしわが見受けられる。いわゆる中年という世代のようだ。
「まずは自己紹介をさせてもらう。私の名はリカルド。伝説のハンターとかメカニックとか言われている人間さ」
【リカルドだと!?】
 まるで呼吸をするかのように、当然のようにモンスターを狩る伝説のハンター。そして瞬く間にありとあらゆる故障を修理する伝説のメカニック。モンスターの間でもリカルドの名は死神の代名詞として広まっている。
 サルートは拳を握り、ファイティングポーズを示す。だがサルートほどの強者であっても、いや、強者であるからこそリカルドの恐ろしさが充分にわかった。サルートはどのようにしかけていいのかまったくわからなかった。だがリカルドは優しい口調で言った。
「ああ、今日の私はハンターとして君の前に現れたわけじゃない。私は君に警告しに来たんだ」
【警告だと………】
「そうだ」
 リカルドはそう言うと静かに告げた。
「このままでは大破壊が起きるぞ」


次回予告

 ………人は死んだ時の顔でそいつの人生が充実していたかどうかがわかるという。それはサルモネラにおいても同じだったようだな。
 ドン・サルート、お前さんの顔は色々な苦しみに満ちているぜ。
 だが、安心しな。お前さんの心残りは俺たちが解決してやるからよ!

次回、「ドンの最期」


第一二話「SPEED EATER」

第一四話「ドンの最期」

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