伝説の大破壊によって荒廃した世界。
 辺り一面を見渡しても目に映るのは乾いた大地。頬を撫ぜるのは乾いた風。風によって舞い上げられた乾いた砂が外套として纏っている布を叩く。
 そんな場所にただ独りで穴を掘っている男がいた。男は手馴れた手つきでスコップを扱い、穴を掘り拡げる。ものの五分で男は自分の身が隠せるほどの穴を掘ってみせた。
 男は穴を掘っていた場所のすぐ近くに停めておいたサイドカーに載せてある愛用の銃を手に取る。全長二メートル以上もあるとても長い銃だ。長いだけでなく、その重さも三〇キロを超えている。大の大人でも全力で抱えなければならないだろう。しかし男はこの銃を片手で軽々と持ち上げると革のバンドを引っ張って肩に提げた。次いで男はサイドカーにシートを被せる。サイドカーに被せられたシートはスイッチを入れることで背景に完全に溶け込む。よほど近くによって目を凝らさないとそこにサイドカーがあるなどと気付くこともないだろう。このシートは迷彩シールドと呼ばれる車載道具であった。
 男は迷彩シールドの動作を確認すると自分で掘った穴に飛び込む。穴の深さはちょうど男の胸の辺りが地面の高さとなるくらいだ。横幅は寝そべるまではできないが、ある程度なら体を動かせるほど。これはいわゆるタコツボ陣地という奴だ。急造の陣地だが、しかしある程度の安全は確保できている。男は肩に提げていた銃を降ろし、構えてみせる。銃を構えたまま右から左へ視線と銃身を動かせる。
「ん………」
 男は満足気に頷くとこの穴の中に座りこんで時間が過ぎるのを待つ。どれだけ待つか。それは目標が彼の目の前に姿を現すまでだ。



 ………どれだけ待っただろうか。東の空で輝いていた太陽は西に傾き始めている。男の聴覚はその時初めて風が吹く以外の音を捉えた。男はポケットから双眼鏡のような機械を取り出すと、ゴム製のバンドによって目の前で固定し、機械から伸びるコードを銃に接続する。この機械はこの銃の照準と同調するスコープだ。今、彼の目線と銃身の先は完全に一致している。男は機械のダイヤルを調節してスコープの倍率を変える。地平線の向こうに男が捜し求めていた目標を見つける。
 男は乾ききった唇を舌で舐める。彼の視線と銃口の先には全長六メートル近い巨体を誇るサイが巨体を揺さぶりながら歩いていた。かつて北方で暴れまわっていたお尋ね者モンスターのサイゴンと同種のモンスターであった。サイの背中から伸びる重砲の砲身が太陽の光を浴びて鈍く光る。
 だがこのサイゴンはまだ男に気付いていないようだった。警戒心すら抱かず、サイゴンは巨体をのそのそと歩ませる。
 男は銃の引き金を静かに引いた。一七ミリ口径の銃口が一瞬眩い光を噴く。吐き出された一七ミリ弾はサイゴンの左脇腹にあやまたず命中する。突然の苦痛にのたうつサイゴン。だが一七ミリ弾を受けてもサイゴンが倒れる様子はない。
 男はさらに引き金を引く。再びサイゴンの体に一七ミリ弾が着弾。サイゴンはようやく自分を狙う不届き者の位置を把握した。自慢の角を男の方に向けると大地を揺るがせながら男に向かって走り始める。
 ドタッドタッと腹に響くほど大地を揺らしながら迫るサイゴン。ただ走るだけでなく、背中にはやした重砲も放ちながら男の許目掛けてまっしぐらだ。しかし重砲は男が身を隠すタコツボ陣地の近くの土を巻き上げるだけだ。全速力で走り、身を揺するサイゴンに正確な照準など望めるはずがない。つまり重砲で撃たれるという恐怖にさえ勝つことができれば、男にとってこの状況は何の問題もないのだ。
 男は三度引き金を引く。今度はサイゴンの右前足に一七ミリ弾が突き刺さる。サイゴンは右前足を撃ち抜かれて苦しそうに吼える。だがそれも一瞬のこと。足を撃ち抜かれたなど関係ないとでも言わんばかりにサイゴンはまっすぐ突き進む。
 男が四度目の引き金を引くことはなかった。長年使い続けてきたこの長銃は三発しか装填できないからだ。代わりに男はある装置を取り出した。ブースターのようなノズルが後部から伸びた装置で、前面部では四〇センチ以上の長さを誇る杭が異彩を放っていた。男はこの装置を長銃に銃剣を着剣するかのように取り付ける。これにより男の長銃はまるで中世の騎士が装備していた長槍のようになる。
「おおおおおお!」
 男は自身を奮い立たせるために大声をあげながら穴から飛び出した。まさか陣地から飛び出るとはサイゴンも考えていなかったようだ。完全にサイゴンは意表を突かれたカタチとなる。
 男はサイゴンの傍まで一気に駆け寄る。サイゴンは角を振り、前足を叩きつけて男の接近を拒もうとする。足を叩きつけた際に舞い上がった土砂が男の右頬を切る。だが男は一瞬たりとも怯まず、目の前に叩きつけられた前足を階段代わりにしてサイゴンの背に登る。サイゴンはその身をよじって自分に乗っかった男を振り落とそうとするが、男は長銃につけた杭の先端をサイゴンの背に突き刺して橋頭堡だと言わんばかりにしがみつく。男は右手でサイゴンに突き刺した長銃をしっかりと握り、そして左手で先ほど切った右頬の傷を撫ぜる。左手が生温かいモノで濡れる感覚。男は左手を右頬から左頬に、ゆっくりと動かす。自分の血で濡れた指が右から左に口元をなぞる。まるで迷彩のように化粧を施される口元。それは男の勝利宣言であった。
 男は両の手で長銃を持つと、サイゴンの背に突き刺さるそれを一気に引き抜き、そしてサイゴンの頭部にその槍先をあわせる。
 ズドゥッ!
 男が引き金を引くと長銃に装着された杭は炸薬の力で前へと射出される。その際に発生したエネルギーはすべてブースターのようなノズルから排出され、男に反動は一切こない。バズーカと同じ理論である。そして射出された杭はサイゴンの頭蓋骨を易々と貫いた。頭蓋骨を突き破った杭はそのままサイゴンの脳を穿ち抜く。脳を潰されて生きている生物はいない。賞金を賭けられるほどのモンスターであったとしてもそれは例外ではない。
 サイゴンはゆっくりと大地にその巨体を委ねた。もはや起き上がることもない。男はサイゴンの絶命を確認すると、迷彩シールドで隠しておいた自分のサイドカーの元へ向かう。このサイゴンを探すためにずっとあちこちを回っていたが、それも今日で終わりか。サイゴンの賞金で何か美味い物でも食うとするか。保存食はもう食い飽きた。男はそんなことを考えながらサイドカーの側車に自慢の長銃を置くと、バイクに跨ってエンジンを始動させる。
 男の名はビリー。戦車に乗らず、その身一つでモンスターと戦う「ソルジャー」と呼ばれる類のモンスターハンターだ。
 そして男が使う長銃はHS−SAT。一七ミリ口径の対物ライフルだが、その真価は接近戦の際に使用されるパイルバンカーのアタッチメントだろう。故にこの銃はパイルバンカー・カスタムと俗に呼ばれている。サイゴンとの戦いを見てもらえばわかってもらえると思うが、その威力は折り紙付だ。しかし接近戦でなければパイルバンカーを使うことができないために上級者向けだと言われている武器だ。並のソルジャーではモンスターに白兵戦闘を挑むことすらできまい。
 ビリーはこの威力は凄まじいが扱いづらい長銃で何体ものお尋ね者を倒していた。故に彼はモンスターハンターの仲間たちにこう呼ばれている。



メタルマックス外伝
鋼の聖女
FULL METAL MARY

第八話「杭打ち・ビリーパイルドライバー・ビリー



「そっか、親父さんが………」
 魔の霧の谷での戦いの後、ヨハンとマリィはトーナの町に戻り、そしてシウンとの戦いで傷ついた戦車の修理、そしてメンテナンスをビンセントの店で行っていた。ビンセントたちが修理を行う間、ヨハンから話を聞いていたドモンは表情に困っていた。
「その、何と言ったらいいのかよくわかんないが………気をしっかり持てよ? な?」
「ドモンさん、僕なら大丈夫ですよ。こんな時代です。おまけにモンスターハンターやってるんだし、いつ死んだっておかしくはないんですよ。父も、僕も覚悟はできていましたから………」
 ヨハンはそう言って目を細め、口元を緩めた。ドモンは内心で安堵の息をこぼす。この様子なら大丈夫だろうか。父の死に際してもヨハンは気丈であった。
 だがモンスターハンターとして戦場にその身を置いていた経験を持つビンセントは異なる感想を抱いていた。ビンセントはリトル・ユニコーンのエンジンルームに身を埋め、エンジンの汚れを落としながら言った。ビンセントのすぐ傍には彼を手伝うマリィの姿があった。
「目の前で親父に死なれて、平気な息子がいるものか。ヨハン君が平静なのは上辺だけだ」
 そのことはわかっているな? ビンセントの確認にマリィは静かに頷いた。
「いいか、マリィちゃん。誰か頼りにできそうな人を探して、一緒に旅をするように頼むんだ」
 ビンセントはエンジンルームから顔を出すと油で汚れた顔をタオルで拭いながら言った。
「彼も、君も、まだ若い。若い君たちだけで旅を続けるなんて危なっかしいからね」
「はい………。あの、ありがとうございます」
 クレメントというパーティーの要を失ってこれからに迷う少女たちに親身に対応してくれるビンセント。その言葉はマリィの胸に温かく溶け込む。マリィは思わず頭を下げた。
「例はいらんよ。君たちのおかげで息子と和解できたんだしね」
 ビンセントがそう言ってメンテナンスの続きを行おうとした時、一人の男がバイクを押しながらビンセントの店の門をくぐった。男が押すバイクには側車がついていて、二メートル以上ある長い銃が側車の座席を占拠していた。いわゆるサイドカーという奴だ。男は長かった労苦がようやく終わった時特有の安心しきった息を吐いた。よく見ると男の吐くブーツと男がまとう外套は砂と埃で汚れきっていた。本来は紅茶のような色をしている髪も砂と埃で黄色がかって見えた。
 ビンセントはヨハンたちの戦車のメンテを一先ず中断し、愛想のよい声と表情で尋ねた。
「いらっしゃい、どうかしましたか?」
「いや、参った参った。このポンコツ、急にエンジンが止まりやがって。まぁ、近くにこの町があったのはラッキーだったんだが………」
 男はそう言うと厚手のレーサーグローブを外した手で髪と外套についた汚れを叩き払う。
「ちょいと見てくんねーか?」
「アイアイサー。ただ、先客がいるんで少し時間をもらいますよ」
「ああ、別に構わんよ。さすがに疲れたんで今日明日くらいはこの町でゆっくりするつもりだしな」
 そう言うと男は側車から荷物を取り出す。中に荷物を入れすぎたために歪な形に膨らんでいる大きめのリュックサックや水筒などもあったが、やはり男の身長よりも長い長銃が目に付いてしまう。周囲の視線に気がついた男はこの長銃の黒光りする砲身を撫でながら口を開いた。
「ああ、これは俺の得物でパイルバンカー・カスタムってんだ。俺はビリー。杭打ち・ビリーパイルドライバー・ビリーって呼ばれてる」
杭打ち・ビリーパイルドライバー・ビリー?」
 その名に反応したのはヨハンだった。他はきょとんとした面持ちだ。ヨハンが目を輝かせながらビリーに尋ねた。
「あの、モンスターに肉薄してパイルバンカーでトドメを刺すという凄腕ソルジャーのビリーさん!?」
「へぇ、よく知ってるじゃねーか、坊主」
 ビリーは修理の途中のリトル・ユニコーンに視線を移し、そして尋ねた。
「ところでこの戦車は誰のモノなんだ? そこの兄ちゃんのか?」
 ビリーの視線の先にいるのはドモンだった。ドモンは頭を振って否定する。
「いや、俺はこの町で蕎麦屋を開く予定の一般人さ。その戦車ならヨハンのだぜ」
 ドモンはヨハンを指差して紹介する。ヨハンはペコリと頭を下げた。
「へぇ、その若さでハンターか。俺がソルジャーになったのは一六の時だったけどな」
 ビリーは感心した様子で何度も頷いた。そしてヨハンの眼を少しの間じっと観察して尋ねた。
「お前、ヨハンって言ったな? 今、誰かとパーティー組んでるか?」
「え………?」
「いやな、そろそろ俺も一人旅じゃ限界を感じてきててね。誰かとパーティーを組めたらいいな、と思ってたんだ」
 ビリーの言葉を聞いたマリィはビンセントと目を合わせ、そして互いに頷きあった。マリィは小走りでヨハンの許に駆け寄る。
「ヨハン、どうするの?」
「おや、そちらのお嬢ちゃんは………?」
「私はマリィと言います。ヨハンとパーティーを組んでいるメカニック………見習いです」
 マリィはそう言うと体を深く曲げて頭を下げた。
「へぇ」
「でも、ビリーさんは僕らなんかでいいんですか?」
 ヨハンの口から紡がれた言葉はビリーの予想の外にあった。
「と、言うと?」
「ビリーさんはモンスターハンターの中ではかなり有名なソルジャーじゃないですか。そんな人が僕みたいなヒヨッコと組むなんて………」
「お前がヒヨッコ? そりゃ嘘だ」
 ヨハンの言葉をビリーは即座に笑い飛ばした。
「お前は確かにガキと言われてもおかしくない年齢だが、しかしお前の眼は百戦錬磨のベテランハンターのそれだぜ」
「え………?」
「お前の眼を見たら、お前に背を預けてもいいと思えるんだ。なかなかそういうハンターはいないぜ」
「………後で『ありゃ見間違いだった』だなんて言わないで下さいよ?」
 ヨハンの答えはそれであった。ビリーは楽しそうに笑うと、ヨハンとマリィの肩を掴み抱き寄せて言った。
「じゃあこれで決まりだな。よろしく頼むぜ、ヨハン、マリィ」



 一方、その頃………。
 トーナの町からはるか南では一つの戦いに終止符が打たれようとしていた。
「ウガアアアアア!」
 獣の咆哮をあげながら振り下ろされる鉄拳。その腕のみならず全身は黒い毛で覆われていた。
 ズガン
 振り下ろされた鉄拳は容赦なくコンクリートの床を叩き割る。物凄い怪力だ。しかし人間ではない彼らにとっては驚くには値しない。鉄拳を振り下ろしたのは三メートル近い身長を誇る大きな猿だった。床を叩き割ったバケモノ猿だが、不満気にグルルルと喉を鳴らす。この猿が拳を叩きつけようとした目標は必殺の拳をよけていたからだ。
【フン、いいかげん観念したらどうだ?】
 目標がバケモノ猿同士にしかわからない言語で伝える。目標も同じく猿であった。ただこちらは身長一メートル五〇センチ程度と目の前の猿に比べてかなり小さかった。小さい方の猿は懐から葉巻を取り出し、咥えるとジッポライターで火を灯す。そして美味そうに葉巻をくゆらせる。大きな方の猿は怒りに打ち震えながら再び右手を小さい方に振り上げる。体は大きいが、この猿の方が明らかに小物であった。
【やれやれ………】
 小さい方の猿は葉巻を咥えたまま左手一本で大きな猿が振り下ろした右腕を受け止めてみせた。小さくすばしこいだけではない。この小さな猿は力の面でも上回っているのだった。小さい方の猿は左手で受け止めた拳を瞬間で握りつぶす。まるで風船が破裂するかのような音を立てて破裂する腕。小さな猿の圧倒的な握力によって膨張した血管が破裂した結果だ。
「ウゴオオオオオオオオオ………」
 オシャカになった右腕。そして絶え間なく襲い掛かる痛覚。猿は巨体をのたうちながら苦しむ。だがその苦しみは長くは続かなかった。小さな猿が醜く転げる大きな猿の頭を踏み潰したからだ。スイカのように割れた頭から飛び散る鮮血と脳しょう。それは二匹の猿が争っていた部屋を赤く化粧する。勝ち残った猿は何の感慨もなく葉巻を吹かし続ける。
 猿は吸い終えた葉巻を灰皿に押し付けて消すと部屋を出る。この小さな猿に率いられた軍勢はすでにこの施設の制圧をほぼ終えているようだ。小さな猿の舎弟たちが次々と歓喜を爆発させながら「勝利は近し」と報告する。小さな猿は敵対していた猿の死骸で舗装された廊下を歩く。途中、どのような死骸を見かけても猿は表情を変える事はなかった。
 だがその小さいが強い力と心を持った猿でも廊下の先にある部屋ではさすがに顔をしかめた。
 その部屋では金色の何かが赤い眼を光らせながら殺戮を楽しんでいた。
「キャハハ! キャハハハハ!!」
 金の装甲に身を覆われた人型のロボットはマシンガンになっている左手を連射しながら哄笑を浮かべていた。マシンガンの射線の向こうにはひき肉よりも酷くグチャグチャとなった猿の死骸があった。
【おい、フラックス。そこまでにしねぇか】
「ん〜? おお、サルートか。終わったのか?」
 金色のロボットフラックス小さな猿サルートに気がつくとマシンガンの射撃をやめた。そして鼻につく声で喋り始めた。
「おめでとう、サルート。これでお前がサルモネラ一族を取り仕切ることになったな」
【ああ、おめぇのおかげだ、フラックス】
【サルート親分! 全館の制圧が終わりやしたぜ!!】
【おぅ、ご苦労だったな、てめぇら】
 サルートは満足気にそう言うと広場に生き残った者と捕虜になった者を集めるよう舎弟たちに指示した。



 高い塀に四方を囲われた施設での戦闘はサルートたちの圧勝で幕を閉じた。
 塀の中の広場に皆を集めたサルートは小高い台の上に立つと皆を見回しながら咥えていた葉巻を右手で持って口を開いた。
【おめぇら! 東のサルモネラ本舗、西のサルモネラ元祖がクソッタレのモンスターハンターにヤられてからずっと、俺たちサルモネラ一族は内乱状態だった。いや、本舗と元祖の間で争っていたくらいなんだから、俺たちサルモネラ一族は常に内乱状態だったと言っていいだろう】
 サルートたちは大破壊の影響で高度な知能と大きな体、そして強い力を手にした猿型モンスター サルモネラ一族だった。高い知能を持つ彼らサルモネラ一族は組織を形成し、この荒廃した世界に覇を唱えようとしていたが、しかしそれは二つの大勢力の争いを生むだけだった。それが即ち東のサルモネラ本舗と西のサルモネラ元祖である。サルートもサルモネラ元祖の元でサルモネラ本舗の組織と死闘を繰り広げていた。だがその両勢力の首魁がモンスターハンターによって討ち取られたことによってサルモネラ一族はバラバラになってしまった。サルモネラ一族の中でもズバ抜けた戦闘力を誇っていた本舗と元祖の戦死によって要を失ったサルモネラ一族は「我こそがサルモネラ一族を束ねる頭である」と次々に挙兵。サルモネラ同士、血で血を洗う争いを続けていたのだった。
 だがその争いはサルートの勝利と言う形で結末を迎えたのだった。
【だがそれももう終わりだ! これからはこのサルートが、ドン・サルートがサルモネラ一族を取り仕切る!】
 サルートは左腕を空に向けてビシッと延ばす。サルモネラたちの視線がサルートの左手に集まる。
【これからは太陽さえもオレさまのコレクションだ! たった今からこの世界はサルのパラダイスとなるのだ!!】
 オオオオオオオオオ!
 サルートの言葉に感動したサルモネラたちがあげる声で大気が震える。熱狂に沸くサルモネラたちを見ながら、サルートにそっと脇に控えていたフラックスが耳打ちした。
「ところでサルート。我々の組織は何と名乗ればいいのだ? 本舗と元祖がいたのだから、サルモネラ本家でも名乗るか?」
【そんな名はダサくてイヤだな………。フラックス、何かいい案はないか?】
「ふむん。ならばこの刑務所の名を取ればいい」
 そう、サルートたちが制圧したこの施設は、大破壊の前は凶悪な犯罪者を収容していた刑務所だったのだ。名はロンダー刑務所という。
【なるほど、刑務所を本拠地にするモンスター集団というわけか! ハハ、そいつは面白ぇ!!】
 フラックスの提案を聞いたサルートはガハハと大笑い。フラックスの提案を受け入れることにしたのだった。
【よし、おめぇら! 今日から俺たちはサルモネラ・ロンダーズだ! 景気付けにいっちょ暴れるとするか!!】
 サルートは台の上からサルモネラの群れを跳び越え、ロンダー刑務所の正門前で着地する。
【さぁ、とりあえずこの近くの町を襲うぜ!!】



「さて、ヨハンたちは何か旅の目的地とかはあるか?」
 ビリーと行動を共にすることになったヨハンたち。ヨハンとマリィはビリーのサイドカーの修理が終わるのを待ってからトーナの町を出ることになった。つまりビリーと出会ってから二日後のことである。ビリーはトーナの町を出る前にそう尋ねた。
「いえ、特に目的地とかはないです」
 ヨハンはビリーの質問に対しそう答えた。
 ヨハンたちはビリーに対してマリィの父、リカルドのことは一切喋らないことに決めていた。壁に耳あり障子に目ありともいう。どこからリカルドのことが漏れるかわからないし、元々リカルドの所在は誰にも知れないのだ。ビリーに話すことはあるまい、とヨハンが判断したからだった。
「そっか。じゃあ南にでも行ってみっか?」
 南にはマイカタという町がある。そこはトーナの町以上に人が多く集まるという。ビリーはそう言った。別にどこに行くかアテがあるわけではないヨハンたちに異存などあるはずがなかった。
 一両の軽戦車と一台のキャンピングカー、そして一台のサイドカーが乾いた大地に轍の跡を残しながら南を目指し始めた。


次回予告

 ………やれやれ、とんでもないことに巻き込まれちまったな、ヨハン。
 サルモネラ・ロンダーズは今まで戦ってきたモンスターとは明らかに違う敵だ。苦戦は免れないだろうよ。
 だが、オレはお前を責めはしないさ。
 ここで戦わなければ漢じゃないって奴だからな。

次回、「ヒーローになる時」


第七話「魔の霧を払え!」

第九話「ヒーローになる時」

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