軍神の御剣
第一一章「Groundship Ural」


 一九八三年三月一二日夜半。
 内戦の只中にあるリベル人民共和国。
 俗に反政府側と呼ばれるリベル解放戦線側の最前線。


「今日は雲が多いな………」
 傭兵歩兵分隊『ミスター・カモフラージュ』のエンリケが空を見上げながら呟いた。
「星の一つも見えやしねぇ」
「また雪が降るかも知れんな」
 若く張りのあるエンリケの声とは対照的に、年季を感じさせる低く、渋い声。
 同部隊のモンゴメリの声であった。
 モンゴメリは東欧の冬の寒さを温かい紅茶で紛らわせていた。ちなみに彼はイギリス人だ。
「雪? ここってそんなに寒かったっけか? もう三月だぜ?」
「そうはいうが、ここ最近は二月に逆戻りしたかのような寒さだ。………まぁ、フォークランドよりはマシだがな」
「あれ? モンゴメリってフォークランド行ってたっけ?」
「うむ………」
 フォークランド紛争からほんの一年弱しかあれから経っていないはずなのだがモンゴメリには太古の昔のことのように思えた。
「む?」
 モンゴメリの聴覚は何かが空を切る音を捉えた。
「全員、伏せろ!!」
 モンゴメリの怒声に近い叫びが周囲を圧する。
 『ミスター・カモフラージュ』の者たちのみならず、前線の警備に当たっている全将兵がモンゴメリの言葉に倣い、頭を抑えて伏せた。
 鼓膜を突き破りかねないほどの轟音とはらわたをかき乱す衝撃。
 傭兵となる前は英国海兵隊にいたモンゴメリであるが、これほどの衝撃を受けたのは始めてであった。
 もしや重砲が自分を直撃したのか?
 そう思えるほどの衝撃であった。
 だがモンゴメリは自分がまだ生きていることをわかっていた。重砲弾は自分たちを直撃したわけではない。
 しかしどういうことだ………これほどの衝撃を発生する砲弾など滅多にあるものではないはず………
 重砲弾の着弾と炸裂で巻き上げられた土砂が、伏せるモンゴメリに降り注ぐ。
 土の味を噛み締めさせられたモンゴメリであるが、英国紳士らしく罵声をあげることはなかった。
「こりゃ………まるで艦砲射撃だな」
 『ミスター・カモフラージュ』のマックスが砲撃の合間に感想を漏らした。彼はアメリカ海兵隊所属であるが、今は本職を休んでこのリベルの地にいる。理由は………尋ねても笑って誤魔化されるだけであった。
「艦砲射撃? ここは陸上。最も近い海岸線でも一〇〇キロ以上は離れているぞ」
「政府軍はソ連から兵器の供給を受けてるんだろ? イワンどもは大口径砲フェチだから、二〇〇ミリクラスの重砲でも開発したんじゃねぇのか?」
 エンリケの言葉にモンゴメリは何かを言い返そうとした。
 だが一人の青年がそれより先に口を開いた。
「政府軍がどんな兵器を使っているかは関係ない。ここは一旦離脱したほうが賢明だ」
 『ミスター・カモフラージュ』のリーダー格である野本が言った。彼は日本人の大学生であるが、このリベルの戦場で戦っている。試験と履修の間だけは日本に帰還しているらしいが。
「うむ………その方がよさそうだな」
「やれやれ………泥まみれになって逃げるか………」
「ボヤくな、エンリケ」



 リベル解放戦線の前線から三〇キロほど離れた地点。
 平原のド真ん中にそれは堂々と鎮座していた。
 全長は二〇〇メートルを超え、全幅も三〇メートルを超える巨大な鋼鉄の塊。
 それは史上類を見ない陸上兵器であった。
 『陸上』兵器と断ったのには理由がある。
 それとよく似た兵器は陸上ではなく海上にならば存在していたからだ。
 そのよく似た兵器とは戦艦。
 そう、今リベルの草原に身を横たえているのは戦艦そのものであった。
 前部に二門、後部に一門、三連装砲塔を持つ。その砲の口径は三六センチに達する。
 そして中心部に塔の如くそびえる艦橋。
 艦橋の周囲を埋め尽くさんかの如く備え付けられるミサイル発射器、そして対空機銃。
 これぞリベル政府軍の秘密兵器である陸上戦艦 ウラルであった。
「まったく………これは凄いな」
 陸上戦艦 ウラル艦長であるユーリ・ビクトール中佐は心からそう言った。
 戦艦の艦砲射撃の威力は、陸軍の重砲をはるかに上回ると昔から言われている。
 だが戦艦は海に浮かぶものであり、艦砲射撃の脅威は海岸線に部隊を配置しなければ除くことは容易であった。
 しかしこのウラルは違う。
 このウラルは地上を、戦車や自走砲のように駆ける事ができる。つまりは艦砲射撃を内陸部にも届かせれるのだ。
 ウラルという名前からもわかるように、これを作ったのはソ連であり、新兵器の実験としてリベル政府軍に給与されたのだ。
「コイツは陸戦の歴史を塗り替える………まさに革命的兵器であるな」
 今までは叛乱軍、つまりはリベル解放戦線が雇っていた傭兵たちにてこずり、一進一退の攻防となっていた。
 だがそれも過去の事になるのだ。
 この陸上戦艦 ウラルが、陸戦を変えるのだ!
 そしてウラルを始めて指揮した俺の名前は確実に歴史に刻まれるのだ!!
 そう思うとユーリの顔は自然と緩やかになる。彼も人の子。歴史に名を刻みたいという欲望はあるのだ。
「よぅし! ウラル発進! このまま叛乱軍の本拠地であるルエヴィトを落とすぞ!!」
「了解。ウラル、発進します!」
 ユーリの号令と共に艦橋のスタッフがウラルを発進させるべく様々な最終チェックを行う。
「レーニン炉、出力全開! ………安定、よし!」
 レーニン炉とはこのウラルに搭載されている機関のことである。
 そして驚くこと無かれ。
 このレーニン炉とは何と核融合炉なのである!
 核融合炉とは太陽などの恒星の内部で起きている核融合反応を人為的に制御し、発生したエネルギーを利用するための装置である。これは従来の核分裂炉による発電に比べ、ウラン資源の制約がない,放射性廃棄物の量が少なくてすむなど長所があるのだ。
 このレーニン炉の膨大な電力でウラルは動いているのだ。
 レーニン炉で作られた電力によって、ウラルの後部から生えている超巨大ファンが周囲の空気を猛烈な勢いで吸い込む。
 吸い込まれた空気はその勢いを残したままにウラルの艦底部に噴出される。このジェット奮流によってウラルは揚力を得、何と地面から浮き上がるのだ。
 そして艦底部の空気枕のようなカバー。これによって揚力は増大し、ウラルの巨体を持ち上げやすくするのだ。
 そう。この陸上戦艦 ウラルの正体は巨大ホバークラフト戦艦である。だから本当はウラルは海上でも使用可能。まさに最強の万能艦である!
「ウラル、浮揚完了!」
「ウラル、前進開始!」
 そしてゆっくりと前へ進み始めるウラル。
 さすがにウラルほどの超巨体となると一般的なホバークラフトのイメージである軽快な動きはできない。ウラルの最大速力はせいぜい二三ノット程度が限界であろう。ちなみに二三ノットは時速四一.四キロで、それは戦車よりも遅いことになる。
 だがその威圧感は本物。いや、威圧だけではない。実力も本物である。
 ゆっくりとウラルはリベル解放戦線の勢力圏の奥深くへの進撃を開始した………



 だがリベル解放戦線も黙っている訳はない。
 前線に未知の兵器が登場したとの報せを受け、間髪いれずにリベル解放戦線所属の空軍機を全機スクランブル発進させたのだ。
 ちなみにリベル解放戦線の空軍戦力も傭兵派遣会社『アフリカの星』から借りている。
 『アフリカの星』の戦闘機は西側の最新鋭機が多く、さらに乗員の錬度も極めて高いのでかなり頼りにされているのだ。
 攻撃隊の隊長は傭兵航空部隊『荒ぶる天馬』のベスト・ライナー。彼は傭兵パイロットとして二〇年以上洗浄の空を飛んできた大ベテランである。
 そしてそんな彼の乗機はアメリカ空軍が誇る対地攻撃機であるA10 サンダーボルト2である。その防弾性能は凄まじく、二三ミリ弾を喰らってもピンピンしているというタフネスさが最大の自慢の傑作対地攻撃機である。
「いいか、全機よく聞け! 相手はどうもソ連の新型兵器。それも陸上戦艦とかいうゲテモノらしい」
 ライナーはベテランらしく、戦場の空気に浮ついた様子も見せずに言った。
「俺はガキの頃からSF小説が好きで、結構読み漁ってきた。そしてSF小説にはよく陸上戦艦とかそういうシロモノは出てきた。だがそんなものは小説の中で充分だ! そんなシロモノは俺たちの攻撃で、小説世界へとお引取り願うぞ!!」
『おお!!』
 ライナーの言葉で意気、大いに盛り上がる。
「ん? ………見えたぞ! 全機、攻撃開始!! 俺に続けェ!!!」



「敵攻撃機迫ります! その数、四〇………いや、四五!! 密集体系で突っ込んできます!!!」
「防空システムを作動させろ!」
 ユーリの指示と同時にウラルは防空モードに切り替えられ、ハリネズミのように多数装備されている対空機関砲が獲物を探して不気味に動く。
 ウラルの電子部品には裏ルートから仕入れた西側の電子部品が使われており、電子技術に劣るソ連であっても決して西側に劣るものではないとユーリは聞いている。
「………そうだ。アレは使えるか?」
 ユーリは何かを思い出したかのように呟く。
「『アレ』というのが『もう一つの太陽』を指すのでしたら使えます」
 ユーリの言葉に即座に答える砲術長。
「よし、ならばそれで一網打尽にしろ!」
「了解!」



「ム? 主砲が動いている………」
 ライナーは首をかしげた。
 主砲が対空攻撃に使えるはずがない。
 使えるはずがないのだが………さて、あの行動はどういう意味なのだ?
 そう思った時、ウラルの主砲が傲然と吼えた。
 そして『もう一つの太陽』が煌いた瞬間、ライナーはこの世から消失していた。いや、ライナーだけではない。攻撃隊の大半が消えてしまっていた………



「やった!」
「敵攻撃隊の七割を撃墜! 残存の機体もパニック状態にある様子です!!」
「後はミサイルと機銃で撃墜だ! 奴らを一機たりとも生かして帰すな!!」
 そして結果はユーリが命令した通りとなった。
 ウラルの放った必殺の気化砲弾『もう一つの太陽』の一撃で攻撃隊は大半を失い、生き残った機体もすべて撃墜されたのであった。



「大変なことになりましたな………」
 傭兵派遣会社『アフリカの星』リベル方面陸上部隊総責任者であるカシーム・アシャは沈痛な面持ちで呟いた。
「何とかならんのか、アシャさん………」
 リベル解放戦線総司令官のミハエル・ピョートル中将はすがるような眼でアシャを見た。いつもはアシャを呼び捨てているが、状況が状況なだけに『さん』付けになっている。
「まさか政府軍がソ連の最新鋭兵器である陸上戦艦の給与を受けているとは思いませんでした………想定していない状況である以上、有効な手はありませんよ………」
「何ということだ………奴はルエヴィトを目指して迫ってきておる………他の政府軍の部隊もそれに呼応して前進してきているし………」
「今、本社の連中にウラルに対抗できる兵器が無いかどうか探してもらっています。それが届くまで何とか時間を稼げれば………」
「時間稼ぎか………地雷原の敷設はどうだろうか?」
 アシャはピョートルの言葉に首を横に振った。
「ダメです。相手は浮いているホバークラフト戦艦です。それに地雷如きでは大した効果が認めれないでしょう」
「司令」
 アシャの副官であるサーラ・シーブルーが口を開いた。
「時間を稼ぐなら、陸上戦艦の足を封じればよいのではないでしょうか?」
「足を封じる? ………なるほど。相手はホバークラフトだから有効といえば有効かも知れんな」
 アシャはようやく表情を少しであるが緩めた。サーラの提案は賭けるだけの価値はある。
「ではこちらの全PA部隊を動員して、いっちょ暴れますか」
 アシャは肉食動物のような笑みで呟いた。



「艦長、叛乱軍のPA部隊です」
「懲りない奴らめ………このウラルに敵うはずがなかろうに………」
 眠気覚ましのコーヒーを一気に呷るとユーリは艦長専用シートに深々と座りなおした。
 進撃を開始してから早三日。
 ウラルの速力がゆっくりしたものであるのでまだルエヴィトには辿り着けない。
 他のスタッフは三交代制ができるほどに用意されているが、艦長はユーリ一人しかいないためにユーリは休める間に休むようにしていた。
 そして彼が仮眠を取ろうとした時、警報によって彼は叩き起こされ、艦橋の艦長専用シートに再び腰かけることとなっていた。
「対PA戦闘用意!」
「了解。周囲の部隊も呼び戻します」
 進撃はウラルだけで行われているわけではない。ウラルの周囲にはPA三個中隊が待機していた。
「おう、頼むぞ」



「やれやれ………ここからでも確認できちゃうほどデカイったぁねぇ………」
 チャールズ・ボブスレーは三八式装甲巨兵のコクピットに吊り下げたポケットウィスキーの瓶を手に取り、少し口に含んで呟いた。
『確かに凄いけど、ありゃどっちかっていうと『開いた口がふさがらない』的な凄さだよなぁ』
 エリックの声は呆れた色を含んでいる。
『その『開いた口がふさがらない』シロモノに前線を崩されて攻めて来られたんで、あまりバカにしたものじゃないと思いますよ』
『隊長のいう通りだね。さぁ、さっさとあのデカブツの足を止めに行きましょうか』
 そういうとマーシャ・マクドガルの四〇式装甲巨兵 侍が歩き始める。かと思うと次の瞬間には背部のブースターを使い、高速移動に入っていた。
「じゃ、俺らも行くべ」
 もう一口だけ口に含むとボブスレーは三八式装甲巨兵を動かし始めた。
 この機体は世界初のPAとして設計され、そして第三次中東戦争の際にボブスレーはこの機体で大戦果を挙げ、世界にPAの有用性を照明した。
 いわば今の兵器体系はボブスレーのおかげで作り上げられたといっても過言ではない。
 ふん。第三次中東戦争か………忌々しい思い出しか残っていないぜ。
 ボブスレーがチッと舌打ちすると同時に政府軍のP−71がモニターに多数映る。
「ケッ………ちょうどムシャクシャし始めてた所だ。派手にやらせてもらおうか?」
 今回の作戦でボブスレーの三八式が装備していたのは戦車砲を改造した一二〇ミリライフルである。
 PAは人型であるがために重心の関係から一二〇ミリライフルなどの重火器を使用する際は片膝を付き、姿勢を安定させなければならないという欠点がある。
 だがボブスレーは三八式の動きを止めることはなかった。
 高速移動を続けながらボブスレーは一二〇ミリライフルを連続で放つ。
 ライフル持ちは撃つ際に片膝を付くという常識を知っていたが故にボブスレーを脅威と見なしていなかった政府軍のP−71はその一撃を避けようとすらしなかった。当然ながらボブスレーの一撃はP−71の装甲を易々と穿ち、破壊する。
「バカが………三八式は世界で唯一走行中ライフル射撃が可能なPAなんだよ!」
 ボブスレーの三八式の突然の射撃に政府軍PA部隊は色めき立つ。
 歴戦の『ソード・オブ・マルス』の面々がその好機を逃すはずはなかった。
 ハーベイのガンスリンガーが西側最優秀とまで称される高機動性を最大限に活かし、政府軍のPAを舞うように撃墜して行く。
 エリックのパンツァー・カイラーも負けじと続く。
 エリィのアルトアイゼンは可憐な彼女の容姿とは対照的に、リボルビングステークでP−71の頭部を貫き、吹き飛ばす。
 『ソード・オブ・マルス』のみならず他の傭兵部隊も次々と政府軍のPAを破壊する。
 こうして政府軍のPAの防衛ラインに穴が開き、そこにマーシャが飛び込み、抜ける。
 目指すは陸上戦艦 ウラルのみである。



「クッ………やはりPA同士の戦闘となると我々が不利か………」
 目の前で政府軍のPAが押されるのを見たユーリは唇を噛み締める。
「一旦PA部隊を下げさせろ! こうなれば本艦で傭兵どもを蹴散らす!!」
「艦長! 叛乱軍のPAが数機、本艦に取り付こうとしています!!」
「チッ………一先ず対空機銃で追い払え!」



「ヒョ〜。こりゃ凄い弾幕じゃないか………」
 ウラルが吹き上げる銃弾のスコールを目の当たりにしたマーシャ。しかし彼女は恐れるどころか口笛を吹き、どこか楽しげだ。
「楽しめそうじゃないの………」
 そう呟いた時、すぐ近くにいた別の部隊のガンモールが機銃弾に捉えられ、猛射を浴び、ガクリと崩れ落ちる。
「まずはあの邪魔な機銃からつぶさないとね!」
 マーシャの侍は肩に対戦車ミサイルポッドを装備している。
 対戦車ミサイルではウラルに対して通用するか不安な面もあるが、機銃座ならば確実につぶせるはずであった。
 マーシャが対戦車ミサイルを機銃座に撃ち込む。他のPAもマーシャに倣う。
 合計一〇〇本近い対戦車ミサイルがウラルに襲い掛かる!
 だがウラルにはそれ以上の機銃座があり、綿密な弾幕を形成し、対戦車ミサイルを一基、また一基と撃墜してみせる。
 最終的にウラルに命中した対戦車ミサイルはわずか三本しかなかった。
 だがウラルの機銃座は対戦車ミサイルの応対に追われ、マーシャたちを迎撃するどころではなかった。
 ウラルの艦底部の空気枕の部分に近づいたマーシャは侍の腰のラッチに搭載しておいた対PA用ナイフを抜く。刃渡り一九〇センチに達する大型ナイフであり、PA同士の近接格闘戦用に搭載されている兵器である。
「さぁ、いくよ!!」
 マーシャはそう宣言するとナイフを空気枕に深々と突き立てる。
 そしてナイフを突き刺したまま侍を走らせ、空気枕をズタズタに切り裂く。
 マーシャのナイフによって切り裂かれた箇所から大量の空気が漏れる。侍はその空気圧に少し押される。
 だがこれでウラルの足は止まったも同然となる。ウラル浮上に必要な浮力が得られなくなるからだ。
 サーラの提案した時間稼ぎとはこのことであった。
 完全に行き足の止まったウラル。
 そのウラルにリベル解放戦線の傭兵PA部隊は次々と攻撃をかける。
 だが………
 いくらPA部隊が砲火を集中してもウラルは堪えた様子すらなかった。余裕綽々でPA部隊の総攻撃を受けている感じである。
「バケモノ………」
 さすがのマーシャもウラルのしぶとさには恐れの念を抱き始めていた。
 その時であった。
 政府軍のPA部隊の後退を確認したウラルは主砲をリベル解放戦線の部隊に向けて発射したのである。
 弾種は榴弾であった(先の航空攻撃で使われた気化砲弾 『もう一つの太陽』を使うには距離が近すぎた)が、この一撃は『アフリカの星』の勇猛果敢なPA乗りたちの士気を砕いた。
 総攻撃がまったくきかないことを悟った彼らは、足を止めるという当初の目標には成功したことを頼りに一斉に後退していったのである。
 この戦闘によってウラルは空気枕の交換に一日を要することとなった。
 だがPAの武器ではウラルにまったく歯が立たないこともこの戦闘で証明されたこととなった。
 修理を終えたウラルは前以上に必勝を確信し、ルエヴィトに向けての進軍を再開した。
 そしてウラルがルエヴィトに辿り着くまで後二日を残すのみとなる所で次回へと続くこととなる。


第一〇章「Sweethearts’ Pavement」

第一二章「Lonly wilds」

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