軍神の御剣
第四章「Crimson Leo」


 一九八三年二月一日。
 リベル人民共和国南西の街、ルエヴィト。
 リベル人民共和国首相 アルバート・クリフォードに対し、叛旗を翻した『リベル解放戦線』――通称『解放軍』――司令部はこの地にある。
 もっとも司令部と称してはいるものの、ルエヴィトの高級ホテルを借用し、使っているだけであるが。
 平和な時であれば、パーティーでも開かれて、皆が美味い食事に舌鼓を打ち、談笑を楽しんでいたであろうホールは『リベル解放戦線』の面々が走り回っていた。
「第二防衛ライン、突破されました!」
「むぅ………」
 これで四つある防衛ラインの二つが突破されたことになる。
 『リベル解放戦線』総司令官のミハエル・ピョートル中将は憂慮の色を浮かべていた。
 ピョートルの襟元にはリベル陸軍中将の階級章が光っている。これは模造品ではなく、正規の品である。彼は本物のリベル陸軍中将であったのだ。
 しかしクリフォードに対して反感を抱き、今では解放軍を率いる立場にある。
 ピョートルは肉付きの厚い顎を手のひらで撫でながら呟いた。
「政府軍の主力部隊が本当にでてきておるとはな………」
 解放軍などと名乗っていても、所詮は民兵を中心とした組織。政府軍に敵う存在にはなれないものか………
「アシャ! 傭兵部隊はどうなっておる?」
 ピョートルは大きな声で呼んだ。
 基本的にはピョートルの部下でありながら、ピョートルとはまた違う指揮系統を持つカシーム・アシャ。
 彼は傭兵派遣会社『アフリカの星』より派遣されてきた傭兵部隊の司令である。
「常に最前線で戦っております。ただし、今は弾薬補給のために後方に下がらせておりますが」
 要するに振っても何もでないってことである。
 傭兵部隊の錬度は極めて高く、政府軍に対して唯一まともにやりあえる部隊なのだが………
「何てこった………八方塞だというのか………」
「何、政府軍もそれなりに消耗しています。第三防衛ラインの兵力を退かせ、そこに全空軍機を用いた空爆を行いましょう。先の北リベル飛行場奇襲の余波で未だに政府軍の航空機は足りていないはずですから」
「むぅ………」
(司令、本当にそうなんですか?)
 アシャの傍らの副官 サーラ・シーブルーが心配そうな表情で、小声で尋ねた。稀に見る美女であるサーラの顔に憂いの色。うん、より一層サーラ君の顔が美しく見えるね。これで彼氏持ちじゃなけりゃあねぇ。
(う〜ん………実を言うと俺にもわかんないんだよねぇ、政府軍の航空機数は)
 内心のことはおくびにも出さずにアシャはあっけらかんと答えた。
(そんな無茶苦茶な………)
(ソ連がどれだけ本気で政府軍を支援しているかにかかっているが………何、短時間で北リベル飛行場での損失が補えはしないだろう)
 アシャはそう言うと、未だに悩み続けるピョートルを尻目にコーヒーを淹れる。
「さぁて………どう戦いますかね」



 最前線。
「ぃようし、補給完了だ! 傭兵! 今すぐ再出撃してくれ!!」
 PAの武器の弾薬補充は割りと簡単である。
 弾薬の詰まったマガジンを受け取り、交換するだけでいいからである。特にボフォース社製四〇ミリ機関砲APAGはそのようにして弾薬補給が非常に簡単にできることが強みであった。
「やれやれ………少しワーカーホリック気味だぜ」
 ドイツ製PA パンツァー・カイラーのコクピットのシートに腰かけながらボヤくエリック・プレザンス。いつもは気楽な冗談を飛ばしている彼もさすがに疲労の色がみえていた。
 何せ政府軍の本格攻勢開始以後、ずっと最前線で戦い、休み暇は補給の時程度である。
 如何に戦うのが仕事の傭兵といえども疲れるのは至極当然であった。
『エリックさん。それをいうならオーバーワークでは?』
 通信機から聞こえるハーベイ・ランカスターの声。その声には微笑の色が窺える。
「う、うるせぇ! アメリカじゃそういうんだよ、アメリカじゃあ!」
 素で言い間違えたエリックは恥ずかしさで顔を赤くしながらもそう言った。
『ちょっとエリック? アメリカ人をバカみたいに言わないでよね』
『あ、そういえばマーシャさんもアメリカ国籍でしたっけ?』
『そ。そこのバカはUSアーミーでアタシはマリーンだったのさ』
『へぇ。傭兵になる前から知り合いだったんですか?』
『まさか。傭兵になってから初めて会ったよ』
『そこまでだ』
 ハーベイとマーシャの会話が盛り上がろうとしたその時、唐突に通信に割り込んできた男がいた。
『そろそろクライアントの依頼を果たす。出撃だ』
 ハーベイたちが所属する傭兵PA部隊『ソード・オブ・マルス』隊長のエルウィン・クリューガーであった。
 クリューガーは決してジョークを解さない、つまらない人間ではないが、仕事の時とプライベートの時の分別はある。今の彼は隊長として、ハーベイたちの会話を止めたのだ。
『了解!』
『本来ならばFA(ファーストアタッカー)はハーベイの役目だが、まだまだ心もとない所がある。俺がFAをやる。いいな?』
『そんな! 隊長、俺だって………』
 クリューガーの決定に抗議の声をあげるハーベイ。
「おい、ハーベイ。隊長の言う通りにしておけって。あの人のいうことに間違いはないからよ」
『は、はい………』
『ハーベイはマーシャと共にSA(セカンドアタッカー)をやってもらう。エリックと父っつぁんはいつもどおり。エリックがSu(サポート)。父っつぁんがTE(テールエンド)だ』
「OK」
『よし。ではソード・オブ・マルス、出るぞ!』
 クリューガーがそう言うと真っ先に飛び出す。
 彼らは再び戦場へと自ら足を運ぶのであった。



 さて、ここで先ほどでてきた役割について説明をさせてもらおう。
 ソード・オブ・マルスの隊長であるクリューガーはFA(ファーストアタッカー)をやると宣言した。
 FAの役目。
 それは敵部隊に対して先陣を切り、敵部隊をかき乱すことにある。
 この任務にはPA−3 ガンスリンガーが適任であるが、ハーベイはまだまだPAの操縦に難を抱えているといわざるを得ないのもまた事実。
 やはりエリックの言うようにクリューガーの言う事は正しかった。
 クリューガーのガンスリンガーはAPAGを両の手に抱えている。
 そして二丁のAPAGを同時に放つ。
 その投射率は単純計算であるが二倍。
 クリューガーのガンスリンガーの放つ四〇ミリ弾は政府軍のP−71の部隊に襲いかかる。
 しかしP−71も背部のブースターを用いて急加速。クリューガーの弾幕をさける。
 だが今まで計算された、綿密な陣形を組んでいた政府軍の部隊の連携は完全に乱された。
「よし。マーシャ、ハーベイ! お前たちの出番だ!!」
 政府軍の陣形が完全に崩れたのを見て取ったクリューガーはガンスリンガーのコクピットで会心の笑みを浮かべ、呟いた。


「うっし! 行くよ、ハーベイ君!!」
 マーシャの駆る機体はPAの生みの親である大日本帝国製である。
 大日本帝国陸軍第三世代PA 四〇式装甲巨兵 侍。
 大日本帝国のPA設計は、それまではずっと陸軍装甲阻止力研究所(通称:甲止力研究所)が担当していたが、同研究所にて開発される機体は性能は高いものの、整備性に難を抱えるものばかりであった。
 その稼働率の低さに頭を抱えていた帝国陸軍は三菱に新型PAの設計を依頼。そうして完成したのが四〇式装甲巨兵 侍であった。
 マーシャの侍がハーベイのガンスリンガーを後ろに従えながら政府軍のPA小隊に突撃を仕掛ける。
 侍の性能は第三世代としては標準的であり、技術的冒険は行われていない。だがそれ故の安定性の高さこそが最大の武器であった。
 それに『第三世代としては標準的』であっても第二世代機が相手であるならば、負けることはない。
 侍は、右に左に飛び、P−71が放つS−60Pの五七ミリ弾を回避する。
「えぇい!!」
 マーシャはそう叫びながら操縦桿を引き、フットバーを蹴る。
 侍はマーシャの操縦に対し、最高の反応で答えた。
 侍はその脚力で大地を踏みしめ、そして跳んだのである。
 その挙動は完全に敵P−71の意表を突いた。
 P−71の弾丸は空を切るのみであった。
 そして侍は跳躍の最中にAPAGを両手で構え、万有引力の法則に従って地に引かれ、落ち始める所でAPAGを放つ。
 バババ
 マーシャの放ったAPAGの発射音は短かった。だが短い射撃であってもその射撃は正確無比。確実にP−71のコクピット部分を撃ち抜いていた。
「まずは一機!」
 そして着地。APAGの銃身のブレを押さえるためにAPAGに添えていた左手をAPAGから放し、両足を開き、左手を地面に突き、先のダッシュ&ジャンプの余勢を抑える。勿論、抑えながらも残された右腕でAPAGを放ちながら。今度の射撃は敵への牽制の意味が強いので乱射である。
 そして余勢をある程度まで殺すとマーシャは侍に再び駆けることを指示。
 侍は主人の命令に対し、何も言わずに答えた。再びブースターの炎を煌かせて地を駆ける侍。
 一方でハーベイのガンスリンガーも任務を着実にこなしていた。
 ガンスリンガーの最大の特色である緊急回避プログラム『ウラヌス』に頼っている様子は無い。
「やるじゃないの、あの子!」
 射撃の腕も悪くない。いや、むしろ………
 マーシャは自分がまだ戦場に出たてころを思い返す。
「あの子、天才って奴かもしれないわね………」
 マーシャは頼もしげに呟いた。
 だが当の本人はそんなことを考えている暇も無かったが。
 そして今回のマーシャとハーベイの任務であるSA(セカンドアタッカー)とはこういう任務であった。
 FAの攻撃によって陣形が乱れ、連携が不可能になった敵を確実に仕留める。それが任務であった。


「ク、クソッ!」
 リベル人民共和国陸軍のユリウス少尉は敵FAの攻撃によって陣形を完全に乱され、連携が取れなくなった所を次々と撃破されていく自分の小隊を歯噛みしながら見ているしかできなかった。
 敵兵の錬度はかなり高かった。
 ユリウスは指揮を継続することを放棄し、自分が生き残ることを最優先にしなければ生き残ることはできないと咄嗟に判断。部下への指示を出すことを止め、自分が生き延びるように戦っていた。
「えぇい、この畜生がァ!!」
 やや逆上気味にS−60Pを放とうとするユリウス。
 しかし彼のS−60Pは火を吹くことは無かった。
 激しい衝撃が急に襲い掛かる。
 ユリウスはその衝撃で頭部をコクピットにしたたかに打ちつけてしまった。頭がクラクラとする。
 朦朧とする意識で被害を確認すれば、彼のP−71の右腕は破壊されていた。
「な、何!?」
 その被害はAPAGによってもたらされたものではない。四〇ミリ弾ではそこまでの破壊力は無いからだ。
「スナイパー!!」


「ヘヘヘへ。敵さん、泡食ってるな」
 楽しんでいるような口ぶりでエリックは呟いた。
 彼の愛機であるドイツ製第二世代PA パンツァー・カイラーは片膝を突き、左腕でラインメタル社製一二〇ミリスナイパーライフルの遊底を引く。
 スナイパーライフルより飛び出した一二〇ミリ弾の薬莢が土煙をあげて大地にめり込む。
「さて、次はコクピットをやらせてもらうぜェ………」
 再装填を終えたライフルを再び構え、照準を定めるエリック。
 パンツァー・カイラーは第二世代のPAであるために性能はさほど高くは無い。だがFCS関連はまだまだ第一線でも通用し、それ故にエリックはこの機体を愛用しているのであった。
「I get you!」
 バグォォォン
 一二〇ミリライフルが吼え、砲弾(そう、砲弾。決して銃弾ではない)が飛び出す。
 APAGの四〇ミリ弾ですら防げないほどにPAの装甲は厚くない。
 そんなPAが一二〇ミリもの大口径砲弾を喰らえば………
 そう。一撃にて粉砕された。
 右腕に続き、胴体部をつぶさる。ユリウス少尉は無論、戦死であった。
「Year! HIT!!」
 射的ゲームの的に命中させたかのように歓喜を爆発させるエリック。
 エリックのSu(サポート)はスナイパーライフルを用いて遠距離からFAやSAの援護を行うのが任務。狙撃を得意とするエリックにとってその任務はまさに適任であった。


「お〜お〜。一旦撤退するみたいだな」
 ポケットウィスキーの瓶を傾け、中に入っている液体を喉に流し込みながらボブスレーは呟いた。
 彼のいうように政府軍の部隊は一時撤退し、部隊を立て直すつもりらしい。
「だけどただで逃がすわけにもいかねぇんだよなぁ………恨むんじゃねぇぞ」
 そう呟くと、今までもやがかかっていたボブスレーの瞳に精気が戻る。
「………ターゲット・ロックオン。ファイア!!」
 ボブスレーの愛機PA−2A1 ガンモール。
 今日のボブスレーのガンモールは両肩と両足にミサイルポッドを搭載しており、そのポッドからTOW対戦車ミサイルが放たれる。
 白い噴煙の尾を引き、まっすぐ政府軍のP−71に襲い掛かるTOW。
 P−71は後退しながら必死にチャフやフレアを撒き、TOWの電子の目から逃れようとする。
 だが逃れることはできなかった。
 TOWの直撃によって大破炎上するP−71。
 ボブスレーのTE(テールエンド)とは重火力で後方から援護するのが主任務である。作戦によってその装備を変えることはあるものの、基本的にはミサイルや重砲などの火力の高いものを装備している。
「さぁ、次といきますか!」
 そして次弾を発射するボブスレー。
 だがそのTOWは命中する前に爆発四散した。
「何ィ!?」
 突如、発射したミサイルが全発爆発したことに驚きを隠せないボブスレー。目を剥いて大きな声で叫んだ。


「傭兵どもに好きにさせるな! ハイエナどもに正義の鉄槌を下すのだ!!」
 P−71のコクピットシートに腰かける若い男。
 肩まである長い金髪を持ち、整った顔立ち。まさに彼は美青年であった。
 彼、レオンハルト・ウィンストン大尉は無線に向ってそう怒鳴ると彼の愛機であるP−71を全速でソード・オブ・マルスに向わせた。
 そしてレオンハルトに遅れまじと数機のP−71が続く。
 レオンハルトに続く者たちのP−71は、全機が右肩に獅子の紋章をつけていた。


「あれは………」
 ソード・オブ・マルスに立ちはだかるP−71の部隊。
 規模としては一個半小隊であるが、その動きは今までの政府軍のそれとは比べ物にならないほどに機敏であった。
 咄嗟にモニターを拡大し、敵P−71の右肩にカメラを向けるクリューガー。
「『クリムゾン・レオ』! 政府軍の『紅き獅子』か!!」
『チッ! クリューガー。政府軍の奴らも本気のようだな』
 無線から聞こえるのはボブスレーの声。
「父っつぁんか。マズイな………」
『だが奴らも前回の戦闘で相当の被害を負ったはずだぜ?』
『あの………前回って?』
 恐る恐る尋ねるハーベイ。ハーベイはまだリベルに来てから日が浅く、『紅き獅子』と戦ったことは未だなかった。
『手っ取り早く説明すると、奴らは政府軍の精鋭部隊だ。お前がここに来る前まで俺たちと共に戦っていたアンディが死んだのも奴らとの戦闘でだ』
「そうだ。アンディはベテランだった。そして最期の時もそう不利な状況で戦ったわけではなかった。正面から堂々と戦い、そして俺たちは負けた………」
 クリューガーが悔しそうに歯噛みする。
『隊長、来るぜ!!」
 エリックが牽制のためにスナイパーライフルを放つが『紅き獅子』の動きは敏捷で、エリックの弾はあたるどころか、かすめることすらなかった。
「全機、相手が旧式機だからとて油断するな!!」
『了解!!』


「北リベル飛行場での恩を返させていただく、クリューガー!」
 レオンハルトは独り呟くとS−60Pを放つ。
 発射時間は極めて短く、一秒もなかった。
「チィッ!」
 クリューガーはガンスリンガーに咄嗟に右側に跳躍させる。五七ミリ弾がクリューガーがつい先ほどまでいた地面を抉る。
 だがレオンハルトの追撃は止まなかった。
 レオンハルトはガンスリンガーのその未来地点を勘と経験を頼りに割り出し、S−60Pの銃口をそちらに向ける。
 バリバリバリバリバリバリ!!
 ガンスリンガーの未来位置を狙って放たれる五七ミリ弾。
 だがその一撃もまた空しく大地に突き刺さるだけであった。
「何ィ!?」
 ガキィッ!!
 金属と金属が激しくぶつかり合う音がレオンハルトの聴覚をつんざく。
 そしてレオンハルトのP−71が仰向けに倒れこむ。
 クリューガーはレオンハルトが自分の未来位置に向けてS−60Pを放つことくらいは承知済みであった。
 だから咄嗟に横に跳躍したガンスリンガーのブースターを全開にし、機体をブースターの推力で無理矢理レオンハルトのP−71に寄せたのである。
 そして寄せた後、ガンスリンガーの鉄拳、より正確にはチタン・セラミック複合装甲拳を浴びせ、P−71を倒したのであった。
「クッ!!」
 仰向けに倒れたP−71。今、完全に無防備であり、レオンハルトにとっては絶体絶命。
 だがクリューガーのガンスリンガーはトドメもささず、再びブースターを灯し、飛び退って行った。
 そしてガンスリンガーが今の今までいた位置に五七ミリ弾が襲い掛かる。
『無事ですか、隊長?』
 レオンハルトも若いが無線から聞こえる声はもっと若かった。
 まだ弱冠一九歳にしてレオンハルトの相棒であるレアード・ウォリス少尉であった。
「レアードか? すまん!」
 P−71を起こすレオンハルト。
 だがもう一機のガンスリンガーがレオンハルトに襲い掛かる!
「もらったァッ!」
 勝利を確信し、興奮気味に叫ぶハーベイ。そして叫びながらトリガーを引く。
 だがレオンハルトは咄嗟にP−71をヘッドスライディングさせる。
 ハーベイはまさかレオンハルトがこの期に及んで前に進むとは思っていなかった。
 ハーベイの放ったAPAGの弾はそれ故にレオンハルトの後ろに流れた。
 そしてその隙はレアードにとって充分すぎる時間であった。
 レアードがハーベイに狙いを一瞬のうちに定め、五七ミリ弾を放つ。
 ハーベイは初弾こそガンスリンガー最大の特色である『ウラヌス』で切り抜けれたものの、レアードの放つ第二撃を回避するのは不可能であった。何故ならばレアードは端から初弾は『ウラヌス』への牽制としてしか使っていなかったからだ。


「しまった!?」
 着弾の衝撃がガンスリンガーを揺する。
 ハーベイは咄嗟にフットバーを踏み、ガンスリンガーの態勢を変え、コクピットへの直撃を逃れた。
 だがそれだけでしかなかった。
 ハーベイのガンスリンガーは右肩の部分に集中的に被弾。右腕はおろか頭部をも損傷させられていた。
『ハーベイ君!』
 トドメの一撃を放とうとしたレアード。だが今度はそのレアードがマーシャの射撃により被弾。右腕を吹き飛ばされ、後退を余儀なくされた。
『大丈夫か、ハーベイ君!?』
「え、えぇ………俺は大丈夫です、マーシャさん」
 着弾の際の衝撃で額を切り、血を流すハーベイ。切った額から痛みは感じられない。だから大丈夫。そう思っていた。
『全機、後退する』
 そこに入り込むクリューガーの声。
「え? しかしここで退いたら………」
 戦線は維持できなくなるのでは? ハーベイはそう言おうとした。
『大丈夫だ。アシャ司令が大規模航空機部隊を出してくれた。空襲で一気に叩くそうだ。誤爆を防ぐために俺たちは後退する』
『ハーベイ! お前から先に退け!! 援護はしっかりしてやるから!!!』
 エリックがそう言い、スナイパーライフルを放つ。
「ス、スイマセン………」
 ハーベイは先に後退を開始する。
 その時であった。
 今まで張り詰めていた緊張感が途切れた所為だろうか?
 切った額の痛みがハーベイに重くのしかかってきたのは。
 ハーベイは額の痛みに己の未熟さを恥じ入るしかなかった。



第三章「Mr.camouflage」

第五章「A MECHANICAL GIRL」

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