眞鐵の随人
第十三章 終局のプロローグ


 「ヒドイものだな・・・・・・」
 連合艦隊参謀副長である結城 繁治は開口一番にそう呟いた。
 北九州は福岡。
 この地は先日より開始された、米軍の新型爆撃機による空襲を受けていた。
 その爆撃機の名はB29。愛称は「スーパーフォートレス」。和訳するならば「超空の要塞」・・・・・・
 排気タービンを装備した大出力エンジン四基を装備し、日本軍機では上がる事が困難な高度を飛翔する悪魔の鳥・・・・・・
 「ヒドイものだ・・・・・・」
 結城はもう一度そう呟いた。
 彼の眼下には廃墟と化した福岡の街があった。
 昭和一九年五月一〇日より開始されたB29による本土空襲。
 その初日は陸軍の飛行隊の奮戦もあり、被害は軽微で戦果は大きいという日本軍の勝利であったのだが、五月の終盤頃から徐々に被害が拡大し始めて、六月の中ごろには福岡の工業地帯は壊滅寸前にまで追い込まれていた。
 なにせ敵のB29は中国の奥地から飛来するので防ぐのが非常に困難であった。だがそれでもまだマシなほうである。
 「基地が中国にある以上は九州地方しか爆撃できないはずだ・・・・・・」
 結城はそうも呟いた。
 彼のみならず、軍の計算ではB29の航続力で帝都東京などの本州の主要都市を爆撃するにはマリアナ諸島がギリギリのラインのようである。先日のマリアナ沖海戦に勝利できたのは幸いであった。あれに負けていれば今ごろは東京や名古屋、そして結城の故郷の大阪が廃墟になりかねなかった。
 結城は現地の部隊などから事情を聞き、調査をまとめてから一式陸攻に乗り、横須賀の連合艦隊司令部に帰っていった・・・・・・

 「で、どうだったね、福岡は?」
 山本 五十六連合艦隊司令長官が憂鬱そうに結城に問う。
 「ヒドイ被害でした・・・・・・早期に高高度迎撃機を開発する必要がありますね」
 結城はそう報告しながら山本に勧められた紅茶を飲む。さすがにGF(連合艦隊)長官の紅茶は品質も、味も、すべてが一級品であった。結城はしばしその香りを堪能する。
 ・・・・・・紅茶は英国人が生んだ最大の文化の一つだな。もう一つはシェイクスピアだが・・・・・・
 「結城君?」
 結城は紅茶の香りと英国文化に思いを馳せており、山本の呼びかけに気付けなかった。
 「あ、は、はい?!なんでしょうか?」
 「いや、それよりも乙計画は何時発動させるつもりかね?それ次第で今後の展開を考えねばならんぞ」
 結城はカップをコースターに置き、山本のほうに向き直り、言った。
 「はい。それですが・・・・・・」
 そう言うと結城は持ってきていた鞄から一冊の報告書を取り出した。
 「六月六日に米英連合軍がノルマンディーに上陸しました・・・・・・」
 そう、このノルマンディー上陸作戦により友邦のドイツ軍は新たに西部戦線を形成され、著しく不利となったのだ。
 「そして太平洋戦線では先のマリアナ海戦の結果、まだ『日本手強し』の感が強くなったのでしょう・・・・・・今、合衆国の兵器廠では陸軍の装備を優先的に作っていて、船の建造も駆逐艦や輸送船が中心となっています」
 「つまり・・・・・・」
 山本が結城の後を引き取った。
 「アメリカは先にヒトラーから潰す事にした、と言うのだな?」
 「そのとおりです。おそらくドイツ軍は今年中に崩壊するでしょう・・・・・・そして来年には全兵力を持って我が軍にあたるつもりです」
 山本はソファーにもたれかかった。ふぅ、と溜息をつく。
 「来年が勝負、か・・・・・・」
 「はい。今のところアメリカの空母は一八隻にまで達しており、新規建造はないそうです」
 「一八・・・・・・」
 その数は山本を絶句させるに充分であった。
 「結城君、確か来年の四月を決戦に定めていたよな?」
 結城は黙って頷いた。山本は手が汗ばんでくるのを感じている。おまけに喉が渇いてきた。カラカラの喉のまま山本は続けた。
 「その決戦時ですら我が軍の空母は・・・・・・」
 「一二、三隻が限界ですよ・・・・・・」
 山本と結城は互いの表情を観察しあった。お互いに胃が痛くなりそうな表情だ。
 「・・・・・・勝てるのか?」
 山本の問いに結城はこう言ってのけた。
 「ええ、勝ってみせますとも・・・・・・それが私の存在意義ですから・・・・・・」

 一方、アメリカ合衆国、西海岸最大の軍港サンディエゴ・・・・・・
 三機の戦闘機が空戦を繰り広げていた。
 二機は見慣れた機体。F6F ヘルキャットである。そのズングリとした機体は「美」を感じさせはしないが、生産性は高そうで、おまけに頑丈極まりない印象を与える。そしてその与えてくれる印象こそがF6Fの最大の武器でもあった。
 F6Fは得意の急降下、急上昇。つまりダイブ&ズームでもう一機に立ち向かう。
 だがその「もう一機」の速度は速かった。それこそF6Fがあっさりと振り切られるほどに・・・・・・
 F6Fは逃げようとするが逃げれない。その「もう一機」の速力に勝てはしないからだ。
 そこでF6Fは敢えて不得手の格闘戦に持ち込もうとする。だが「もう一機」はまるで蝶か何かのような軽快な身のこなしでF6Fよりも小さく旋回し、F6Fを追い詰める。
 F6Fの完敗であった。
 F6Fは二倍の数で挑みながら、劣位戦でも優位戦でもいとも簡単に敗北した。
 そして三機の戦闘機は次々と着陸してくる。
 先ず降り立った一機のF6Fのコクピットから降り立ったのはアメリカ合衆国海軍が誇る撃墜王。ディビッド・マッキャンベル少佐である。
 「残念だったな、少佐」
 マッキャンベルは恐縮そうに声をかけてきた男に敬礼。
 「あばずれも熊には勝てず、か・・・・・・」
 男は機嫌良さそうにガハハハハと笑う。そう、彼こそは合衆国海軍最強の闘志の塊にして、通称「猛牛」、もしくは「ファイティング・セイラー」。ウィリアム・フレデリック・ハルゼー大将である。
 「しかし凄いですよ、あの新型は」
 「おう、そうだな、マッキャンベル。アイツさえあればサム(現在の帝国海軍の主力戦闘機 烈風のこと)なんぞ恐れるに足らず、だ!!」
 そして最期に着陸する事になったその新型はF6Fより遥かにスマートな機体であった。その総重量は明らかにこちらのほうが軽量である。それ故にF6Fと大して変わらないエンジン出力でありながら圧倒的なまでの速度差と旋回性の差を見せ付けれるのだ。
 その機体の名はF8F ベアキャット。戦闘機の老舗、グラマン社が送り出してきたキャットシリーズ。その今次大戦でのトリを務める戦闘機である。
 「速度、旋回性などのすべてにおいて零戦を上回ること」。それだけを開発コンセプトにしてきた戦闘機であり、最強のJ(日本機)キラーとなることを宿命付けられた「蒼空の熊猫」である。
 エンジン出力はF6Fとより僅かに一〇〇馬力ほど上がっただけであるが自重がF6Fと比べて約一四%の軽減に成功している。
 それだけに最大速力は六八〇キロを超える。これはF6Fよりも八〇キロ近く速く、現在の帝国海軍の主力艦戦である烈風、その改良型で発動機を、待望の二〇〇〇級エンジン、三菱 ハ四三に換装した「烈風改」ですら及ばない。
 さらに米海軍の新鋭機はそれだけではない。
 超低空を飛行する四機の飛行機がハルゼーたちの上空をフライパスする。
 グオオオオォォォォォォォォォ
 ライト・サイクロンエンジンの唸るような大音量が轟き、その作り上げる風はハルゼーの帽子を吹き飛ばした。
 「まったく・・・・・・」
 ハルゼーは飛ばされた帽子を拾い、被りなおしてその新鋭機を見つめた。
 大きい。
 その新鋭機を一言で表せばそうなるであろう。破格の大きさといえる。そしてその巨体を二五〇〇馬力という破格の大出力エンジンで牽引し、その最大時速は六〇〇キロすら超える。
 だがそれだけではない。この機体の真の恐ろしさはこの機体が何でもこなす事にある。
 これまで艦載機は大まかに分けて三種類の艦載機が必要であった。
 艦戦、艦爆、艦攻・・・・・・
 だが三種類の別々の機体を搭載するのは生産上、整備上からみて宜しくはない。そこで艦爆と艦攻を統合することになったのだ。そしてこの機体こそがその第一陣。
 新たに設けられた機種「攻撃機」のイニシャル、Aの名を持つ機体。
 AD スカイレーダー。
 それがこの新鋭機の名であった・・・・・・
 「これらがあればジャップも恐れる事はない」
 そう呟いたのはマーク・ミッチャー少将。ハルゼー提督の旗下で任務群の一つを受け持つ指揮官である。
 「・・・・・・ですが生産は陸軍の機体が優先されています。先にヒトラーから潰すようですね」
 そう言ったのはフレデリック・シャーマン。彼もまたハルゼー旗下の任務群の勇将の一人だ。
 「まぁいいさ。どうせ戦うなら強い敵がいい。次の決戦はパーフェクトゲームにしてやるさ!」
 「油断は禁物だぞ、マッケーン」
 ハルゼーは最後の一人を戒めた。彼の名はジョン・マッケーン。彼もハルゼー旗下の提督群の一人であり、その積極果敢な用兵は「二人目のハルゼー」と言って過言はない。
 「ですが武人たるもの、常に強敵を求めるものでしょう?」
 ・・・・・・貴方達も強い敵と戦いたいでしょう?とマッケーンの目は語っていた。
 その視線に対し、ミッチャーは頷き、シャーマンは同意を示したものの複雑な表情を見せた。おそらくは軍人とは如何に因果な商売かを考えているに違いない。そしてハルゼーは・・・・・・
 「キル・ジャップス!!」
 と親指を立てて、足元を指し示した。

 「やあ、結城少将。お久しぶりですね」
 そう言って気さくに結城を迎えたのは空技廠の田幡 茂少佐である。
 田幡少佐はまだ三〇歳の前半であり、その若さで少佐に任ぜられたのだからその才能は如何に深いものかを推し量るには充分である。だがその見た目はおせじにも三〇代には見えない。既に髪の毛の生え際はかなりの後退を強いられており実年齢よりも一〇は老けて見える。
 結城は田幡の挨拶を丁重に無視しながらソファーに腰掛けた。そしてイキナリ本題に入った。雑談する暇すら惜しいのだ。
 「・・・・・・で、モノにできそうか?」
 結城の問いは主語を省略したものであるが、その意味は田幡には充分に伝わった。
 「そうですね・・・・・・量産化すれば多少の品質の低下のために信頼性が落ちますね」
 「信頼性はこの際、無視してかまわん。一度の出撃に耐えれれば、それでいい」
 田幡はコーヒーを結城に出した。紅茶党の結城は一瞬だけ、眉をピクリと動かしたが何も言わずに口をつけた。
 「・・・・・・決戦で使いますか?アレを・・・・・・」
 「アレ」
 ・・・・・・実に頭の痛くなる話だな・・・・・・田幡はそう思いつつも結城に聞いた。
 「それしか対抗手段はない。現にこれを見てくれ」
 と言って結城は田幡にある封書を手渡した。
 田幡がその内容を確認する。そして見る見るうちにその表情が蒼ざめる。
 「こ・・・・・・これは・・・・・・」
 「敵の新鋭機の詳細図だ。君ほどならばこれが凄い性能だと気付くはずだ」
 田幡はゴクリと唾を飲み込んだ。
 その手に握られた紙は合衆国海軍の新鋭機、F8F ベアキャットとAD スカイレーダーの設計図の写しであった。
 「烈風では勝てない・・・・・・基本的には敵の大軍を我が軍の質で押さえる。これが今度の決戦のイメージとなるはずだ。だがその質すら圧倒されては勝ち目がない。その為にアレが必要なのだ」
 「・・・・・・・・・・・・」
 田幡は黙っていた。
 ・・・・・・おい、ちょっと待てよ。アレは確かに性能は隔絶して素晴らしい。だがあの機体を運用できるのは・・・・・・
 「大鳳だけでなく、建造中の雲龍型の何隻かが改造されている。・・・・・・意味はわかるな?」
 「・・・・・・最終的には何機、使うつもりですか?」
 田幡の問いに結城はサラリと答えた。
 「一五〇」
 「一五〇・・・・・・なるほど。それならば敵の攻撃を凌げる・・・・・・」
 「なるべく早く試作機を完成させろ。あの機体を使う搭乗員の訓練を早く始めたいからな」
 結城はそう言うとソファーから立ち上がった。そして退室する。
 「クソッ・・・・・・」
 結城が退室したのを確認してから思わず田幡は頭を抱えた。
 彼の脳裏にはアレが一五〇機も乱舞する光景が浮かんでいた。
 その光景はマトモな神経を持った航空機設計者なら発狂しかねない程に、半ば狂気がかった代物であった。
 田幡はまた風呂の排水口に溜まる抜け毛を気にすることになりそうだ、と嘆息した。

 この時期・・・・・・
 連合艦隊の主力艦たちはインドネシアのブルネイの周辺に集結し、豊富なインドネシアの石油を使いながら猛訓練に励んでいた。
 「今、上で烈風を飛ばしているので飛行時間はどのくらいなんだ?」
 帝国海軍最強の第一航空艦隊司令長官である小沢 治三郎が参謀に尋ねた。
 「そうですね・・・・・・だいたい六〇〇時間でしょうか」
 「六〇〇か・・・・・・中堅になりたて、という所かな?」
 「その通りです」
 その時、旗艦大鳳上空をフライパスした烈風四機は大鳳上空で見事な編隊宙返りを披露して見せた。
 一回、二回、三回!!
 三回も宙返りをしたにもかかわらず、編隊に乱れは感じさせない。長い長期戦の末に、ベテラン不足に喘いでいる日本ではあるが米軍の矛先がドイツに向いた間に随分と搭乗員の錬度を取り戻しつつあった。

 「やりましたね、少尉!」
 レシーバーから二番機を務める小林一等航空兵の嬉しそうな声が響く。
 「ああ、これで俺たちをヒヨコ呼ばわりしていた連中の鼻を明かせれたな!!」
 先の三連続編隊宙返りの妙技を見せた四機の烈風を率いる天田 史郎少尉は上機嫌であった。
 彼の率いる小隊は先のマリアナ沖海戦を初陣としており、零戦に乗り、攻撃機を狩っていたのだ。その為に錬度が低く思われがちで、「ヒヨッコ小隊」だの「烈風はまだ早い」だの散々言われていたのだった。
 そこで彼らは一計を案じた。
 それがあの旗艦大鳳上空の三連続編隊宙返りである。一糸乱れぬ連続宙返りを成功させればさすがに悪口を叩いていた奴等も大人しくなるだろう。
 そして成功させた。
 「小沢長官にも認めてもらえましたかね?」
 三番機の竹山一等航空兵の声も弾む。
 「いや〜、何か達成感があるね」
 と四番機の山本一等航空兵も嬉しそうに言う。
 そして四機の烈風隊は母艦である空母瑞鶴に着艦態勢をとり、見事に着艦してみせたのであった・・・・・・

 結城は空技廠を出た後にとある研究施設に向かった。
 「やあ、高井君」
 元対空巡洋艦吉野砲術長の高井 次郎中佐が敬礼。だがその表情は晴れない。どうも以前の件から結城の事を避けたがっているようだ。
 「調子はどうだ?完成はしたか?」
 だが結城はそれを無視して問うた。
 「はい。既にシステム自体は完成しています。明日にでも例の艦の改装工事を開始できます」
 「そうか・・・・・・高井君、ご苦労だったな」
 そう言うと結城は財布を取り出して高井に渡した。
 「この計画に参加してくれた人たちを誘ってのみに行け。今日はもう帰ってもいい。ただし明日からはいつも通りに働いてもらうぞ」
 この言葉を聞いた研究所員は歓喜を爆発させた。
 「は、はぁ・・・・・・少将はどうするんですか?」
 高井はやや怪訝そうに聞いた。
 「何・・・・・・今日はこの上の階で研究している連中にようがあってな。ここに来たのはついでだよ」
 そう言うと結城は退室し、上の階を目指し始めた。どこか寂しげな結城の表情を見た高井は己の態度を後悔した。
 ・・・・・・畜生、何であんな態度、とったんだよ・・・・・・
 やや後ろ髪を引かれる思いの高井ではあったが他の研究所員に引き摺られるように飲み屋に向かった。

 高井たちの研究室とは違い、その部屋は汚らしかった。
 埃などが別段、多いわけではない。この部屋はあちこちに書物が散乱しているのが汚く見える主因である。
 「おい、寺西。入るぞ」
 結城の言葉を聞いても研究室の者は誰も振り返らない。結城の存在など最初から存在しなかったかのような扱いだ。
 「相変わらずの研究バカだな」
 無論、その呟きも無視されている。
 「おい、寺西!」
 結城は寺西という男の肩をグイッと掴んだ。そこで男は結城の存在に気付いた。
 「おう、結城じゃないか?いつ来たんだ?」
 男の名は寺西 肇。この結城以上の変人こそが帝国の切り札を作り上げる男の名である。結城とは同郷なだけでなく幼馴染でもある人物なので気兼ねなく話せる。
 その風貌は痩身の長身。身長は一七〇以上と当時の日本人にしては大きい。その眼鏡の下の眼光は鋭く、時には怪しげな光すら放つ。
 まあ、要するにマッド・サイエンティストである。
 「おまえの所はどうなんだ?」
 寺西は眼鏡をクイッと持ち上げた。
 「ふふふふ・・・・・・今のところ順調極まりなしだ」
 「それは片方だけか?それとも両方か?何せお前は二つの兵器の開発主任なんだからな・・・・・・」
 「勿論、両方だ。安心しろ、結城。決戦には間に合わせてやるさ」
 寺西は眼鏡を外し、汚れをふき取りながら続けた。
 「・・・・・・にしても・・・・・・」
 「何だ?」
 「いや、思わず愚痴りたくもなるさ。帝国の電子技術はアメリカより十年は遅れているな」
 結城は慙愧に絶えぬ表情で応じる。
 「そうだな・・・・・・だがアメリカとの戦争は既に始まっている。戦うからには全力を尽くすのが役目だろう?」
 「それはお前等、軍人のだろうが・・・・・・まぁ、オレも帝国がアメリカの星の一つになってほしくないから全力を尽くすだけなんだがな」
 結城は何も言わなかった。
 「とにかく早く開発しておいてくれ。場合によっては決戦が早まることもあるからな」
 「わかった」
 寺西はそう言うと下手くそな敬礼をしてみせた。
 
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 その年の一二月一八日。遂にドイツ第三帝国の首都ベルリンは陥落し、ベルリンの国会議事堂にソビエト連邦の赤い旗が翻った。
 既にイタリアは降伏しており、日独伊の三国同盟で抵抗を続けるのは大日本帝国のみとなってしまった。
 そして年が明けて一九四五年一月。
 「ようし、全艦出港だ!目標はジャップが『太平洋のジブラルタル』と自称するトラック諸島だ!!」
 旗艦空母フランクリン艦橋内にマッケーンの声が響く。
 こうして陳腐な表現を使えば、「終わりの始まり」は幕を開けた・・・・・・


第十二章 大海獣の狂宴

第一四章 乙作戦発動


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