大火葬戦史外伝
「『アフリカの星』誕生」


 一九四六年一二月四日。
 中国華中にある小さな飛行場。この飛行場には中国国民党の旗と共に、白地に赤く日の丸を染めた日本の旗がたなびいていた。
 ここは中国の国共内戦に伴って送られた帝国義勇軍の基地施設なのだ。
 そしてこの物語はここで始まることとなる。
 ウ〜〜〜ウ〜〜〜〜
 耳障りなサイレン音がこの飛行場を覆う。しかしそのサイレン音は男たちにとって、自分たちのお仕事の時間を告げるチャイムでもあるのだった。
 スクランブル発進。何故か大日本帝国ではこのことをスクランブルダッシュと呼んだりもするようだが、まぁ、今はどうでもいいことだろう。
 しかし列線に並ぶ戦闘機に駆け出す面々は異様であった。
 金色の髪をしていたり、青い瞳を持っていたり、白い肌を持っていたり………
 つまりその中に誰一人として日本人はいなかった。
「始動準備………始動!!」
 機首についた整備員が必死にハンドルを回す。
 パパパン………パララララララ
 メインエンジン始動用の豆エンジンは正常に動いたようだ。これでメインエンジン始動に必要な電力は完璧に得れる。整備員は満足げに頷くとさっさと機首から離れ、合図を送る。
 コクピット内にすでに腰掛け、発進準備が整うのを今や遅しと待ち構えていた金髪の美丈夫はその合図を見るや大声で宣言した。
「コンターック!!」
 そしてその光景はこの基地のあちこちで繰り広げられていた。
 その光景は、列線に居並ぶ猛禽たちの鋼の心臓が脈を打つことを意味している。
 キィィィィィ…………
 ジェット機特有の金切り声が飛行場を満たす。コクピット内はその甲高い音に完全に支配され、もはやスクランブルのサイレンすら耳に入らないほどだ。
「ようし、発進する!!」
 カチリ
 男はスロットルを全開に開き、一気に加速し、滑走路を走り、天空へ駆け出した。
 彼に引き続いて一七機の烈火も炎の尾を引きながら天を舞う。
 ハンス・ヨアヒム・マルセイユ。
 かつての日米戦争を大日本帝国の傭兵として駆け抜けた男は今、中国の大地にいた。


「………まったく、心地いいったらありゃしないぜ」
 マルセイユはコクピット内で独りごちた。
 彼の愛機の帝国空軍 五式戦闘機 烈火のメインエンジンであるアヤガネ改は順調そのもの。
 烈火はグングンと上昇して行く。高度計の針は従来のレシプロ機ではありえない速さで回転している。
「………俺の祖国、か」
 烈火の設計を行ったのは日本人ではない。マルセイユの生誕地でもあるドイツからやってきた移住技術者が作り上げたのだ。
 その名はエルンスト・ハインケル。ドイツにて虐げられたので海外で一花咲かせようと来日した技術者であった。
 しかし日本に移住しても彼は基本的にツいてなかった。
 何せ自身が熱心に推し進めた噴進(ジェット)戦闘機も仇敵ともいえるメッサーシュミットに破れ、おまけに新進気鋭の和泉 賢武の設計した麗風にも敗れる始末。
 戦後に陸軍と海軍の航空隊が合わさる形でできた空軍の主力戦闘機となるべく開発されていた烈火も麗風の陸上機版、麗火に負けてしまうのであった。
 では何故、中国に烈火がいるのであろうか?
 答えは烈火の運用性の高さにあった。
 烈火は元々手軽に作れる戦闘機として(余談だがハインケル博士は『国民戦闘機』と称していた)設計されており、初期型のジェット機とは思えないほど悪環境に強かったのだった。
 そこで帝国本土よりはるかに環境の劣る中国での運用には優れている、と中国国民党軍と帝国義勇軍に大量に配備されたのであった。
 だから今、マルセイユは烈火に乗っている。しかしマルセイユにとって烈火の裏事情なんてどうでもよかった。
 彼にとってもっとも重要なのは烈火の性能のみであった。
「見えた………」
 一気に高度七〇〇〇まで駆け上がると眼下に中国共産党軍の戦闘機群れが見える。全機がまだプロペラのついたレシプロ機であった。数だけは多いが、ジェットの敵ではない。
「ようし、全機………突撃!!」 
 マルセイユ率いる計一八機の烈火は文字通り炎となって共産党軍の戦闘機を焼き尽くした。
 次いで後方に控える爆撃機隊に襲い掛かるマルセイユ。
 ソ連製のシュトルモビクを一撃で叩き落しながらマルセイユは自分の歩んできた人生について考えた。
 思えば彼の人生はあの瞬間から転機を迎えたのだから。



 時は一九四一年の春のこと。
「ハンス・ヨアヒム・マルセイユ、出頭いたしました!」
 ドイツはベルリンのルフトバッフェ総司令部。
 その一室にマルセイユは呼ばれたのであった。
「マルセイユ准尉か………よく来てくれたな」
 彼の上官であるヨハネス・シュタインホフ大佐が苦虫を噛み締めた表情でマルセイユを迎えた。
「司令、一体何事ですか? たかだかルフトバッフェの准尉に過ぎない私が直々にベルリンに呼ばれるなんて………今は戦争も無い平和な時。勲章授与なんかないですよね?」
 極めて明るい口調でシュタインホフに対して口を開くマルセイユ。
「マルセイユ准尉。君もわかっているはずだ。何故に自分が呼び出されたか………」
 シュタインホフは右手の親指と人差し指で眉間を揉んだ。
「はて? 小官にはわかりかねますな。何分、浅学な故に………」
 バンッ
 シュタインホフが机を叩く音が木霊する。
「マルセイユ准尉! ふざけるのもたいがいにしたまえ!!」
「…………やれやれ。あのデブ元帥、俺にヒルダを寝取られたのがそんなに気に食わなかったのかね」
 まったく悪びれた様子もなく、飄々としているマルセイユ。
 ハンス・ヨアヒム・マルセイユはドイツ人であるが、ドイツ的な厳格さではなく、どちらかというとラテン系のような軽いノリと女性を愛する男であった。そして彼は昨日、とある女と寝た。それが件のヒルダだ。
 そしてそのヒルダはドイツ空軍元帥 ヘルマン・ゲーリングの愛人として一部に知られている存在である。
 しかもマルセイユのテクニックにヒルダが完全にのぼせ、ゲーリングを振ってしまったのだ。
 たかだか准尉に愛人を寝取られた元帥というのは前代未聞であろう。
 これはあくまで推測であるが、その時のゲーリングの怒りは並大抵ではなかっただろう。
 だからマルセイユは今日、呼び出されたのであった。本当はそれくらい彼にもわかっているつもりであった。だが本当にこんなくだらない理由で元帥が自分を処罰するとは思っていなかったのだった。
「………貴様のそういう態度が……………」
 シュタインホフは額に青筋を浮かべ、マルセイユを糾弾しようとする。だがすぐにその無意味さを悟ったのだろう。椅子に深々と腰を預け、ふぅ、と大きく嘆息した。
「いや、貴様に言っても詮無いことか」
「そうですね。俺が女好きなのも主が私に与えたもうた素質なんですよ。私は主の導きに従って女性を愛しているのです」
「……………………」
「あははは。そんなに見つめないで下さいよ、司令。俺、男に見つめられると鳥肌が立つんで」
「はぁ。………元帥からお前に渡すようにと言われた封書だ。期限は一週間だそうだ。一週間経って、まだこの封書の命令を実行しなかった場合、銃殺に処すそうだ」
「それはそれは。随分と過激な話ですな………」
 あくまで飄々としているマルセイユであったが、その封書の中身を読んだ時はさすがに愕然とした。
「え?」
 その封書にはこう書かれていた。
『ハンス・ヨアヒム・マルセイユ准尉。貴官の軍籍を剥奪す。尚、貴官のドイツ国籍も剥奪す。貴官のようなアーリア人の面汚しは即刻この国から出て行け』
 品性の欠片もないその文面にマルセイユは吹き出しそうになる。
「………男の嫉妬は怖いようですね、司令?」
「そうだな。もう少し早くそれを知っておれば貴様も国外追放にならずにすんだのにな」
「まぁ、いいです。じゃ、私はこれで。………縁があればまた会いましょうね、司令」
 マルセイユは努めて明るく退室した。
 ここに一人の無国籍の男が誕生したことになった。


 マルセイユはその日のうちにドイツを離れた。
 そして彼はフランスに渡り、そこでご自慢のテクニックを駆使して女をとっかえひっかえしながらその日を暮らしていた。
 しかし彼はなんだかんだいって空に戻る機会を窺っていた。
 そして一九四一年一二月二四日の日米開戦の報を彼はフランス人人妻の家のベッドの中で聞いた。
 彼はこれをチャンスだと考えた。
 日本とドイツは友好国のはず。なら元ドイツ人の俺を義勇兵として認めてくれるはずだ。何せ俺は腕には覚えがあるからな。
 彼はすぐさま思いを行動に移した。
 フランス人の富豪の人妻をこまし、軍資金を稼いだ彼は日本に渡り、自分を入隊させるように交渉した。
 そして彼の願いは彼自身が呆気に取られるほどにあっさりと受理された。
 日米間での人口構成比の差を痛感していた日本軍としては腕利きのパイロットであれば出自を問うつもりはなかったのだ。
 そのおかげで当時の最前線であったマリアナ諸島に翔虎隊と肩を並べて戦うことになる傭兵戦闘機隊が誕生したのであった。
 彼自身はマリアナ攻防戦の後の本土防空戦にも参加し、日米戦中に六〇機以上の敵機を墜とし、傭兵戦闘機乗り一の撃墜王として歴史にその名を刻むこととなった。
 そして戦後、彼は中国の国共内戦に再び傭兵として参戦していた。



 中国共産党軍の使っている戦闘機はソ連製のヤコブレフYak9であった。
 時速六〇〇キロ以上を誇り、レシプロ戦闘機としては充分に及第点といえる機体である。
 だがしかし。
 一九四六年の空においてはその性能はもはや旧すぎた。
 時速八〇〇キロ以上で突っ込んでくる烈火。
 おまけに太陽を背にして突っ込んで行ったので敵はまだこちらに気付いてすらいない。完璧な奇襲であった。
 機首に収められている二門の二〇ミリ機関砲の一撃でYak9はバラバラに吹っ飛んだ。
 ジェット機である烈火から見ればYak9は止まっているようであった。
 あまりに一方的な殺戮。
 烈火隊はわずか三分で二七機を超える敵機を叩き落し、共産党軍の部隊を撤退に追い込むことに成功した。
 作戦終了。それも我が方の大勝利。
 基本的に日本という後ろ盾のある国民党軍の兵器の質は極めて高い。
 しかしこのような大勝利は実は久方ぶりなのだった。
 何故なら日米戦争によって経済的に大打撃を受けた日本軍は以前のように大部隊を中国本土に駐留させることができなくなっていたからだ。
 それゆえに一時は勝利まで間近という感じであった戦線も次第に後退を余儀なくされ、今では一進一退の泥沼の状態になってきているからであった。
 国民党軍は何とか世界各地から傭兵を集めて何とか対抗しているものの、劣勢なのは拭いきれない。
 今の第二次国共内戦はそのような戦況であった。



「ふん。戦爆連合四〇機余りのうち二七機を撃墜か………」
 彼ら傭兵航空隊を預かっている中国国民党軍の劉大佐はマルセイユたちの報告をまとめたレポートを見ながら言った。その口調はなんともいやらしい、毒のある口調であった。
「………何か文句でもあるんですか?」
 劉大佐の態度に正直苛立ちながらもマルセイユは抑えた口調で尋ねた。もっとも『抑えた』というのはマルセイユの主観であり、傍から見れば充分に傲慢であったが。
「ふん。いつもこれくらいの戦果を持ってくるんだな。何のために貴様らに高い金を払っていると思っている」
「………テメエ」
 マルセイユは一歩前に進む。勿論、高慢な態度の劉を叩きのめすためだ。
「劉大佐」
 マルセイユは不意に背後から聞こえた声に手を上げるのを止めた。
「今回は太陽を背にした奇襲攻撃に成功したからこそ、これだけの戦果をあげれたのです。いわば今回の戦果は幸運に恵まれた結果であると私は思いますが?」
「……………」
 その意見は全面的に正しかった。劉は仕方なしに舌打ちするとさっさと自分の兵舎へと帰っていった。
「……………」
 こうなると劉を殴る気満々だったマルセイユは怒りをぶつけるべき者をなくしてしまうことになり、間の抜けた表情で声の方に振り向くしかなかった。
「余計なことすんなよ、ディアス」
 マルセイユの傭兵仲間であるリック・ディアスはそんなマルセイユに対して笑いながら言った。
「お前みたいな腕利きが、くだらない事でクビになったら困るからな。口出しさせてもらったよ」
 リック・ディアスはこの第二次国共内戦の初期の頃からずっと傭兵として戦っている男であり、その空戦技術はマルセイユに匹敵するほどであった。
 マルセイユはディアスにならば安心して後ろを任せることができると思っている。ディアスとはそれほどまでに頼りになる人物であった。



 そして中国を舞台とした内紛は一進一退。
 戦線はよく動いていた。しかしその動きは均等に前後に揺れるかのように動くのみで、国民党軍も、共産党軍も明確な勝利をあげることができないでいた。
 そして一九四七年五月一〇日。
 後のマルセイユの人生の方針………否、引いては世界の命運すら結する戦闘が起きた。


「チッ! 一体、どうなってやがるんだよ!!」
 マルセイユは壁を背にし、飛び交う銃弾をやりすごしながら毒づき、隙を見て自分の持つ一〇〇式短機関銃を撃った。
 今、マルセイユたちの飛行場は共産党軍の猛攻にさらされ、マルセイユたちパイロットまでもが銃を手にとって戦わねばいけない状況にまで追い込まれていた。
「畜生、畜生、畜生!!」
 マルセイユの隣で半ば狂乱気味に短機関銃を撃っていた傭兵仲間のパイロットが額を狙撃され、後頭部を派手に撒き散らす。
 嘔吐感にさいなまれてもおかしくない、阿鼻叫喚の光景であるが、今のマルセイユたちには嘔吐感を感じる暇もなかった。
「地上部隊はどこ行きやがった! 司令は!! ………畜生!!!」
 司令は後方の視察。地上部隊は「基地周辺に進出してきた敵部隊を討つ」ために出撃していない。
「何が『敵部隊を討つため』だ! 今、ここで俺たちと銃撃戦になってるのは一体何だっていうんだ!!」
「バッカス! ボヤいてる暇があったら撃て、撃て、撃て!!」
「ウァッ!!」
 今度はバッカスが右腕を撃ち抜かれ、苦悶に転がる。
「バッカス!!」
「放っておけ! 他人を心配してる暇があったら自分の心配をしろ!!」
「ガッデム! このベルゼブブが!!」
「死ぬなら勝手に死ね! だが俺を捲き込むな!!」
 チッ………俺たちパイロットが慣れない陸戦をやらされてるだけでなく、状況が状況なだけに全員の気がささくれ立ってやがる………
 マルセイユは弾倉を交換しながら内心で呟いた。
「マルセイユ、ここから逃げた方がいいんじゃないのか?」
 ディアスがマルセイユに言った。
「だがそれは契約に反する………俺にだって傭兵としての誇りがある!」
「マルセイユ! このままじゃ死ぬだけだぞ!!」
「確かにこのままじゃ死ぬが………」
「俺たちは見捨てられたんだよ、ゴミ屑のように! いい加減にそれをわかれ!!」
「だが! 日本に雇われてた時、俺は幾度と無く危機に陥ったが、彼らは………」
「助けに来てくれた? それとこれとは別問題だ! 国民党軍に、大日本帝国ほどの余裕なんかがあるもんか!!」
「!?」
 マルセイユは唇を強く噛み締めた。
 彼は劉の、高慢ちきな顔を思い浮かべていた。
 あの野郎………
 どうやらディアスの言うことが正しいようだった。
「………わかった。早く離脱しよう」
 マルセイユが折れたことで、この基地に残された傭兵たちの意見は決まったといえる。
 しかし、その時であった。
 マルセイユは不意の、横殴りの衝撃に吹き飛ばされるのを知覚した。
 そして壁に背中を強く叩きつけられる。
「グホッ、ゲホッ、ゲホ!!」
 強く咽るマルセイユ。
「………ぇぇい。重砲まで持ってくるようになったのか?」
 背中から滲む鈍痛に顔をしかめながら、マルセイユは顔をあげる。
 重砲の爆風によって、彼らの立てこもっていた司令部の窓ガラスは完全に砕け、破片が仲間たちを襲い、何名かは首筋を破片に切られ、血の川を作っていた。
 その中に、ディアスもいた。
「ディ、ディアス!!」
 慌ててディアスを抱きかかえるマルセイユ。
 しかしすでにディアスは出血多量が原因の、ショック死をしていた。
「手を上げろ!!」
 そして殴りこんでくる共産党兵。
 マルセイユは、ディアスを抱きかかえる手を離し、天に手を掲げるしかできなかった。
 こうしてマルセイユは、共産党軍の捕虜となった。



 ………それから一〇年後のクリスマス。
 アフリカ北部の、独立してからまだ間もないリビア国。
 広大さだけが自慢といっても過言ではない、この小国に、彼、ハンス・ヨアヒム・マルセイユは降り立っていた。
 強い紫外線から眼を護るためにかけている大き目のサングラス。
 それに隠されたマルセイユの瞳を窺うことは困難であった。
「お待ちしておりました、社長」
 一足先に現地に降り立っていた、マルセイユの秘書である妙齢の女性が、マルセイユを見つけるや否や、すぐに彼の元に駆け寄り、そして言った。
 そう。今のマルセイユは社長という立場であった。
「どうだ。モノになりそうか?」
 マルセイユはそれだけ尋ねた。
「はい。航空部隊『雄々しきペガサス』も、歩兵部隊『獅子の寵児』も、戦車部隊『スルードゲルミル』も。全部隊、獅子奮迅の活躍を見せています」
「エジプト政府の反応は?」
「大喜びです。何せエジプト軍正規兵よりも勇敢で、精強で、そして知恵のまわる部隊ですから」
 しかしマルセイユはその答えが聞きたいわけではなかった。彼は眉をひそめながら、再度尋ねた。
「エジプト政府は彼らをよく扱っているか?」
 マルセイユの声にはかすかな苛立ちが紛れていた。
「あ………はい。勿論です。契約どおりに正規兵と同等の扱いを受けているそうです」
 マルセイユの苛立ちを察した秘書は、少し怯えながら答えた。
「そうか。なら、いいさ」
 そう言うとマルセイユは秘書を下がらせた。
 一九五六年の一〇月に勃発した第二次中東戦争。
 英仏イスラエルの部隊を相手に戦わなければならないエジプト軍。
 エジプト軍はすぐ近くのリビアにできたばかりのある会社に泣き付いた。
 その会社の名前は「アフリカの星」。
 そう。マルセイユが率いる傭兵派遣会社である。
 そしてアフリカの星から部隊が派遣され、エジプトで獅子奮迅の活躍を見せ、英仏イスラエル軍を相手に一歩たりとも退かず、むしろ押し返しているくらいであった。
 マルセイユはサングラスの下で眼を緩めた。彼は笑ったのだ。
 こうやって活躍することで、俺たち傭兵の地位は上がる。そう、確実に、だ。
 そうなれば………ディアス。あの時のように、捨てられることも無くなる。
 そしていつか………



 マルセイユがその時、何を誓ったのか。
 それは未だ記す時ではない。
 しかしそれはいつか、必ず明らかになる。
 東欧の地 リベルに「アフリカの星」がPA部隊である「軍神の御剣」を派遣するまで、まだ二〇年近く残っていた。
 世界が変わる時は未だ遠い………


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