………「荒野の只中にそびえるビルの中に戦車がある」。偶然立ち寄った元・サービスエリアの廃墟のPCからその情報を入手したツルノスのハヤトとウルリーカ。
 戦車が喉から手が出るほど欲しい二人は情報にあったビルディングの中へ侵入する。
 しかしそのビルディングの中は大破壊前に存在した企業、神話警備保障の最新鋭警備システムによって守られていたのだった。
 ビルから逃げ出す道を封じられたハヤトとウルリーカはビルの中を彷徨い、そしてかつて戦った究極求道者アルティメットクエスターと遭遇したのである。
 だが自分たちと同じ境遇に究極求道者アルティメットクエスターが陥っていることに気付いたウルリーカはかつての強敵に対して休戦を提案し、究極求道者アルティメットクエスターもその提案を受け入れたのであった。
 かくしてツルノスと究極求道者アルティメットクエスターは共同戦線を張り、神話警備保障の警備システムの突破を図っていたのだった。

メタルマックス外伝
我が求めるは黄金郷

My Request El’DORADO
第一〇話「恐怖! 食人建築の真相」


「どうやらこの部屋は安全なようだな」
 ビルの五階にある八畳ほどの広さの空間を調べていた究極求道者アルティメットクエスターのヘッシュがそう結論付けた。大破壊によって文明が滅びるまでは喫煙室として使われていたと思われる空間には、バルカンホールや監視カメラが現れるための穴が天井にも床にもなかった。それがヘッシュの言葉の根拠である。
「ふぅ、さすがに戦闘続きで疲れたわ」
 左手で自分を扇ぎながらウルリーカがペタリと床に座り込む。
「オレもお腹空いちゃったよ………」
 ハヤトも床に腰を下ろそうとする。しかし不意に左太ももに痛みが走ったために顔をゆがめる。糊付けしたかのようにパリッとなっているハヤトのズボンのすそを強引にめくりあげてみると、太ももがざっくりと裂けていた。ズボンが硬くなっていたのは糊付けをしたのではなく、流れ出た血が乾いたためだったのだ。
「おい、クソガキ! どうしたんだ、その脚は!?」
 ハヤトの脚が大きく裂けていることに気付いた獅子顔のミュート、マグナムが毛を逆立たせるほど驚いた声をあげる。
「んー、バルカンホールか何かの攻撃がかすってたみたい。でも血はもう止まってるし、大丈夫だよ………ちょっと痛いけど」
 この安全空間の部屋に入るまで緊張の糸が張り詰める展開が継続していたのだ。緊張の糸がハヤトの痛覚を縫いとめていたのだろう。休憩ができるようになった今にして負傷に気付いたのが何よりの証拠であった。
「血が止まってるからってほったらかしてたら脚が腐っちまうぞ。ホレ、消毒してやるから脚出せ、脚」
 そういうとマグナムは自分の荷物から消毒薬と回復カプセルを出してハヤトに渡す。共同戦線を張っているとはいえ、かつて殺し合いを行ったマグナムに傷の治療をしてもらうというのはなかなかに不思議な感覚であった。
 しかしハヤトは邪気のない笑顔を満面に浮かべて応えた。
「ありがと、マっちゃん」
「マグナムだ。変なあだ名つけんな、クソガキ。あ、あと勘違いするなよ、クソガキ。お前はオレ様とヘッシュの弾除けになるからこうやって治療してやってんだ。ここから出られたらぶっ殺してやんだからな!!」
 ピー。マグナムの照れ隠しの成分が多い言葉を聞いたウルリーカが小さく口笛を吹き、ヘッシュと顔をあわせる。
「何、アレ? ツンデレ?」
「ツンデレツンデレ」
 少女と虎頭のミュートがあきれ気味に肩をすくめる。
 何だかんだでツルノスと究極求道者アルティメットクエスターの共同戦線は順調であった………。



 安全地帯に円座になって腰掛けるツルノスと究極求道者アルティメットクエスター。ツルノスはぬめぬめ細胞の缶詰を、究極求道者アルティメットクエスターは肉の燻製で食事を取っていた。そんな中、ふとウルリーカが口を開いた。
「………そういえばアンタたち、究極の戦車をつくろうとしてるんですってね?」
「へぇ、よく知ってるな」
「そりゃそうよ。うんざりするほど続いた人類とミュートとの戦争がせっかく終わったのに、その休戦協定を無視して傍若無人に振舞う究極求道者アルティメットクエスターのことなんて、少し調べれば簡単にわかるわ」
 ………もっともそれを調べたのはアタシじゃなくて、グレイゴやニモだけども。そのことは伏せたままウルリーカは言葉を続ける。
「究極の戦車でアンタたち、何をするつもりなの? このクシュウをミュートのものにするの?」
 ウルリーカの言葉にマグナムとヘッシュは思わず噴出した。一しきり笑ってから、なおも含み笑いを忍ばせた口調でヘッシュが応える。
「まさか! 我らは同族、即ちミュートたちにも命を狙われている立場だぞ」
「まぁ、確かにタカ派のミュートの中にはオレ様たちを英雄視する奴はいる。だが、基本的にオレ様たちはミュートも、人類とも敵対しているのさ」
 ミュートと人類の休戦に一定の影響力を行使したのはハンターオフィスだった。クシュウのハンターオフィスはミュート、もしくは人類にとって脅威となりうるモンスターに賞金をかけている。そのハンターオフィスに賞金をかけられている究極求道者アルティメットクエスターは確かに人類とミュートの両方を敵に回していると言えた。
「………じゃあ、何のために究極の戦車を求めているの? 自分たち以外のすべてを敵に回すほどのリスクを背負いながら」
「決まってる!」
「この世界を見ろ! 荒れ果て、秩序なんて存在しない世界だ。今日を生きるために他人を殺すことすらまかり通る、地獄に等しい世界だ。だからこそ、この世界で我を通すためには強くあらねばならぬのだ」
「オレ様たちはオレ様たちの好きに生きる。そのために、我を通すために誰よりも強い力が欲しい。そして力といえば戦車だろ? 究極の戦車を持つということは、この世界で最強であるということなんだから」
「………そ、そんなことのために究極の戦車を求めているというの?」
 自分たちの都合をこの荒れ果てた時代に押し通す、それが可能なほどに強い力の象徴として究極の戦車を求めるという究極求道者アルティメットクエスター。その理想はウルリーカに理解できるものではなかった。それを表情で読み取ったヘッシュがぷいと視線を外して言い捨てた。
「まぁ、お前たちに我らの考えを理解できるとは思っていない」
「じゃあ今度はオレ様たちが尋ねるけどよ、お前らは何で戦車を欲しがるんだよ? お前ら、本業はトレーダーなんだろ? 武器なんか取らず、つまらん商品を面白おかしく高値で売りつけてる方が楽だし、儲かるんじゃねぇのか?」
「アタシたちは………混沌の炎カオスフレアを倒すためよ」
「トレーダーがなぜ混沌の炎カオスフレアを倒そうとする? 奴にかかっている賞金が目当てではあるまい?」
「アタシは混沌の炎カオスフレアにパパを殺されたのよ。ハヤトだって混沌の炎カオスフレアに住んでいた村を焼かれたわ。混沌の炎カオスフレアを倒そうとする、立派な理由だわ」
 究極求道者アルティメットクエスターをまっすぐ見据えながら、ハッキリと言い切るウルリーカ。
「ハッ、バカらしい」
 しかしウルリーカの真剣をマグナムは鼻で笑い飛ばした。
「何ですって………ッ!?」
「人間にせよ、ミュートにせよ、死んじまったら何もかもがお終いだ。たとえ混沌の炎カオスフレアを倒せたとしても、それで死んだ奴らが喜ぶと思うのか? まぁ、思うから混沌の炎カオスフレアを倒そうとしているんだろうが、それをどうやって確認するってんだ? 死人と会話が出来んのか?」
「……………ッ」
「結局、お前がやろうとしているのは人生の浪費なのさ。復讐を果たして、自分も死者も満足できると言い切れないのが人生の浪費である何よりの証拠ってもんよ。まぁ、考え方を変えてみれば、人生を無駄にすることほど贅沢なことはないのかもしれんがな!」
「何ですって………ッ!」
 互いに、互いが戦いに身をおく動機を理解できない。それはツルノスと究極求道者アルティメットクエスターの共同戦線にひびを入れるに充分な理由であった。
 一触即発。火薬に似た、むせるような空気が部屋の中にたちこめていく………が、
「グゥ〜………シュピー………」
 針のむしろか、サボテンの椅子かと言った斬り裂かれるような緊張感にまったくそぐわないイビキ。缶詰を食べ終えたハヤトが仰向けで眠りこけ、大イビキをかいていたのだった。
「………ハァ」
 マグナムとウルリーカが同じタイミングでため息をついた。ハヤトのKYなイビキが部屋に蔓延していた悪い空気を吹き飛ばしたのだった。
「チッ、あと一五分ほどしたら行くぞ」
 毒気を抜かれたマグナムは、そう言うと残っていた燻製肉を大きな口に放り込んでクッチャクッチャと咀嚼してから飲み込んだ。そして床にゴロンと寝そべる。ウルリーカもマグナムに背を向ける形で横になる。
(………パパの仇を討つ。それが当然のことだと、ずっと信じてた。でも、それが間違っていたら、アタシは………)



『………いかがでしょうか、お客様、我が神話警備保障のセキュリティシステムは?』
 安全地帯を抜けた一同を、待ちかねたとばかりにマイソロジーと名乗った案内人の映像が声をかけてきた。マイソロジーの声も表情も柔和なものだが、それが逆に恐怖心を煽る………。
「フンッ、フザけたシステムだぜ」
 マグナムが液晶画面に向けて中指を立てる。
『おや、お気に召しませんでしたか? ………では、お客様だけに、お客様だけにとっておきの特別情報をお教えしましょう。きっと我が社のセキュリティシステムを見直していただけるハズです』
「………このふざけた映像が出ている間はセキュリティシステムが動かないことだけが救いね」
 ウルリーカの呟きを聞かず、マイソロジーが「とっておきの特別情報」を話し始める。
『今年に入ってこのセキュリティシステムは七人も侵入者を打ち倒しております。その侵入阻止成功率は一〇〇%となっております。この水準はもう一〇〇年以上続く、我が社自慢の成績で………』
「侵入者の阻止成功………だと?」
 ヘッシュがマイソロジーに問いただす。
「おい、まさか『戦車がこのビルの中にある』という情報を広く流し、お前たち神話警備保障のセキュリティシステムが戦車を求めてやってきたハンターを殺す。そんなことを一〇〇年以上続けているっていうのか!?」
「!?」
『………申し訳ありません、お客様。その御質問は我が社の情報保護規定により、お応えすることができません』
「大破壊を引き起こしたノアによってシステムが狂わされた結果、そうなったのか………? 何にせよ、私たちは言わば食人建築の胃の中にいるわけか」
「ええーッ! オレ、食べるのは好きだけど、食べられるのは好きじゃないなぁ………」
『お客様』
 マイソロジーが再び何かを言おうとする。しかし何かを言い終えるより早く、マグナムがレーザー拳銃、グレイブラスターの引き金を引いていた。放たれた光線は液晶画面に突き刺さり、その熱量で液晶画面が一瞬にして溶ける。
「フンッ、侵入阻止率一〇〇%がテメーらの自慢だって? じゃあ、その自慢は今日までになるぜ」
 指先でグレイブラスターを回してホルスターに収めるマグナム。マグナムの宣戦布告を受け取った神話警備保障のセキュリティシステムが再びツルノスと究極求道者アルティメットクエスターに襲い掛かるッ!
「ツルノス、マグナムを援護しろ!」
「『援護しろ』? フンッ、『援護してください』でしょーが!」
 ヘッシュに毒づきながらもウルリーカとハヤトの銃口は的確な位置に向けられている。セキュリティシステムの大群へ向かって正面から突っ込んでいくマグナムを狙うバルカンホールに向かって猛射が浴びせられる。
 ならば、とセキュリティシステムは狙いをハヤトたちに定めようとする。しかし照準の再設定を行う短時間だけでマグナムには充分だった。マグナムは両の手それぞれに持ったグレイブラスターで同時に二つの目標を狙い撃つ。その動きはまるで舞のように優雅だ。しかしマグナムの舞は確実にセキュリティシステムを破壊していく。
『ホール系セキュリティでは止められませんか………。では、神話警備保障が誇る最新鋭セキュリティロボをお見せしましょう!』
 焼け残っていたスピーカーからマイソロジーの割れた声が響く。その声を合図に、壁を突き破って三メートルはある巨大な鉄の塊が姿を現した!
「何だ!?」
 人間で喩えるなら腕にあたる部分にガトリング砲と分厚い盾が搭載され、同じく脚に喩えられる部分は六つの車輪を持つ装輪装甲車になったセキュリティロボット。その名もロボポリスである。
『侵入者発見 侵入者発見 殲滅セヨ』
 抑揚のない、無機質な合成音声を発し、肩のパトランプを回転点灯させるロボポリス。両腕のガトリング砲の銃身が回転し始め………
 ドゥララララララララララララ………!!
 銃弾の驟雨がマグナムめがけて降り注ぐ。マグナムは野獣の脚力で床を蹴り、驟雨に触れないよう飛び退る。
「ヘッシュ!」
「応!」
 ヘッシュが熱線砲、グレイボンバーを構え、引き金を引く。一瞬、紅い光がグレイボンバーの砲口に集まり、巨大な光の塊が次いで放たれる。そして光はロボポリスに命中し、大爆発を起こす!
「やったか!?」
 ………が、ロボポリスは右腕に搭載されている巨大で分厚い盾を構えることでグレイボンバーの直撃を受け止めていた。盾の表面は激しく熱され、何筋か煙を立てている。その煙の中でロボポリスのカメラアイが不気味に光る。
「ヤバッ!」
 ロボポリスが反撃の弾幕をヘッシュに向けて放つ。必殺のグレイボンバーを受け止められたという事実に衝撃を受けていたヘッシュは、ロボポリスの反撃に対して反応が遅れ………弾幕が容赦なくヘッシュを包み込む!
 いや、ガトリング砲の砲弾が貫いたのはヘッシュの背後の壁面だけだった。ヘッシュはウルリーカに突き飛ばされて弾幕の射線から逃れていたのだった。
「お前………ッ」
「死んだらお終いなんでしょ? ま、せいぜいありがたく思いなさいよ!」
 ウルリーカはステアーAUGをロボポリスに向けて放つが、グレイボンバーの直撃すら耐えうるロボポリスの盾をアサルトライフルで射抜けるはずもなかった。だが、牽制にはなる。ロボポリスの照準がウルリーカとヘッシュに向いている間に、ロボポリスの脇に移動したハヤトが手榴弾を投げつけた。ロボポリスが構える盾の内側で炸裂する手榴弾!
 ………だが、ロボポリス本体の装甲は手榴弾で打ち破れるほど柔らかくはなかったようだ。本体に傷がついたものの、戦闘には一分の支障もきたさない。ロボポリスは己の戦闘力が損なわれていないことを証明するかのように、装輪装甲車となっている車輪の脇に搭載されたランチャーからナパーム弾を放つ。
 グォウッ!
「クソッ、面倒な敵だな!」
「あの盾も面倒だが、本体の装甲もそれなりに分厚いわけか………」
 爆風と硝煙と炎の中でそれぞれの武器を構えなおす究極求道者アルティメットクエスター。しかし究極求道者アルティメットクエスターと異なり、ツルノスのハヤトとウルリーカの火力ではロボポリスに対抗するのは難しい………。
「それじゃ、アタシたちの武器じゃロクに戦えないわね………」
「あ! ウリちゃん、アレ見て!」
 不意にハヤトが何かに気付いて声を上げる。ハヤトが指差す先を見たウルリーカの相貌が、思わず暴力的な喜色オリジナルえがおに歪む。
 ロボポリスのガトリング砲の掃射で壁が吹き飛ばされたのは、神話警備保障の「暴徒鎮圧用装備」の展示ルームだったのだ。サブマシンガンやアサルトライフルなど問題にならないほどの大火力武器がそこに展示されている。そしておあつらえ向きなことに、それらのすぐ傍に実弾も展示されていた。
「こりゃいいじゃなーい!」
『お客様、そちらの商品は展示品でして、勝手に手に取られては困ります』
 マイソロジーの声を無視し、展示されていた八一ミリハンマーに、展示されていた通常弾頭を装填するウルリーカ。もちろん装填するだけで満足できるはずもなく、砲口をロボポリスに向けて引き金を引く。
 ボシュッ……ルルルル………ズグヮン!
 ハヤトが投げつけた手榴弾よりはるかに巨大な爆発! 強烈な爆風で飛ばされる弾片が盾にザックリと突き刺さる。
「んじゃオレは………コレ!」
 ハヤトが手に取ったのはバズーカ砲だった。やはり展示されていた専用の弾頭を装填し、引き金を引く。
 ズショッ! という音を残してロケット弾頭が放たれる。弾頭の軌跡を示すかのように煙が残され、弾頭がロボポリスの盾をしたたかに叩く。盾に命中したロケット弾頭が炸薬を爆発させ、炸薬から発せられた超高速の金属噴流がモンロー効果とノイマン効果を発揮し、ロボポリスの盾を穿ち貫いた! バズーカ砲とロボポリスという矛盾の対決は、バズーカ砲に軍配が上がったのである。
 ロボポリスの盾が失われたことを確認してから最速で究極求道者アルティメットクエスターが動く。
「マグナム、今だ!」
「おぅよ!!」
 二丁のグレイブラスターとグレイボンバー、究極求道者アルティメットクエスターの全火力が盾を失ったロボポリスへ向けられる。グレイボンバーが放つ熱量の塊を挟み込むかのように伸びるグレイブラスターの光線。その三発がほぼ同箇所に突き刺さると、果たしてどうなるのか? その答えは明確であった。ロボポリスの、手榴弾の炸裂でも耐え切った胴体が瞬きする間もなく溶け、胴体の支えを失ったロボポリスの両腕のガトリング砲が床に落ちる。胴体を失ったことでロボポリスの機能が失われたのは一目瞭然であった。
「やったぁ!」
「ザマー見なさいっての!!」
 ハヤトとウルリーカが確定した勝利にハイタッチ。
「さて、マイソロジーさん、なかなかいい武器じゃない。アタシたちで有効活用してあげるわ!」
『………お買い上げ、ありがとうございます。ではお支払いですが、現金で払われますか? それともカードでなさいますか?』
 マイソロジーの言葉に対するウルリーカの答えは鉛弾だった。焼け残っていたスピーカーにアサルトライフルの銃口を向け、スピーカーを撃ち抜くウルリーカ。残骸になったマイソロジーだったモノを踏みにじる。
「さって、小うるさいのも始末したし、また探索を再開しましょうか………って、アレ?」
 そう言ってからウルリーカとハヤトは究極求道者アルティメットクエスターの姿が見えなくなっていることに気付いた。
「あれ? マっちゃんとヘッちゃんがいないね?」
「ちょっと、どういうこと………」
 その瞬間、建物が激しく揺さぶられた。地震………ッ!? いや、地震ではない、地震ならば爆発の轟音が響くはずがないからだ。
「ま、まさか!」
 慌てて来た道を引き返すツルノスの二人。



 このビルに隠されていた神話コーポレーション最新鋭暴徒鎮圧用車両、九六式戦車に搭載されていた一三五ミリキャノンの威力は絶大だった。グレイブラスターやグレイボンバーでは決して破ることの出来なかった地下のシャッターを破壊することが出来たことからもそれは窺い知ることが出来る。
「ヒューッ、スゲェじゃねぇか、この戦車」
 主砲発射のボタンを押下したマグナムが口笛を吹きながら言った。
「ツルノスには悪いが、この戦車はオレ様たちが頂いていくぜ」
 マグナムはそう宣言すると、操縦席に座るヘッシュに出発するように促した。
「………いいのか、マグナム? この戦車であの二人を襲えば、簡単に勝つことも出来るぞ?」
 ヘッシュの言葉にマグナムは歯切れ悪く応えるばかりだった。
「………そりゃ、そうだがな、ヘッシュよ」
「ま、ツルノスが狙うのは混沌の炎カオスフレアのみ。私たちの目指す所を邪魔する障害にはなるまい………と、いうことにしておこう」
「………意地の悪い言い方をしてくれるな、ヘッシュ」
「いや、すまない。だがな、マグナム。私も今日の所はツルノスと戦いたくはない。つまり、お前と同じ考えさ」
 その後、しばらくの沈黙が車内を支配する。それからマグナムが、自分に言い聞かせるように呟いた。
「………奴らは人間。俺たちはミュート。本質的に、仲良くなれるはずがない、そんなはずはないんだ………」
「………そうだな。では、行くか」
 ヘッシュが静かに頷くと、九六式戦車の傍にウルリーカとハヤトが追いついてきた。
「コラー、アンタたち! その戦車、アタシたちだって欲しいのよ! 勝手に持ってくなーッ!!」
「ハッ、こういうのは先着順に決まってんだろが!」
「せめてジャンケン! ジャンケンでどっちのものか決めましょうよーッ! あ、コラ、走り出すなーッ!!」
 ウルリーカの怒鳴り声を背に聞きながら、マグナムが九六式戦車の砲塔から姿を現す。
「アバヨ、ツルノス! お互い、目標を達成するまで死なないようにしようぜーッ!!」
 マグナムはそう言うとツルノスに向けてサムズアップ。ウルリーカは「停まれ」だの「いつの間に戦車見つけてたのよ」だのまくし立てていたが、ハヤトはマグナムに対してサムズアップを返し、それを見たマグナムは満足げに微笑むと砲塔の中に姿を消した。
 こうして人間とミュートによる奇妙な共同戦線は終わりを告げたのだった。この共同戦線が再び組まれるかどうか………それは神ならぬ彼らにわかるはずのない問題であった。


次回予告

ウルリーカ「はぁ、二度も骨折り損やるなんて、サイテーよね………」
グレイゴ「二度目の方は俺たちを置いていくからそうなったんですよ」
ニモ「まったく、ムチャしないでくださいね」
ハヤト「たはは、ゴメンゴメン。で、次はどこ行こっか?」
ウルリーカ「アテなんかないものねー」
グレイゴ「………いや、アテがないわけじゃないんですよ」
ニモ「え? どういうことです?」
グレイゴ「実は………」

メタルマックス外伝
我が求めるは黄金郷

第一一話「新天地! 筋肉幕府登場」

将軍マッスル「文明こそ人間を腐らせた原因なのだ」


第九話「呉越同舟! アルティメット・ツルノスー」



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