「何コレ! コレ、本当に夢じゃないのよね!!」
 宝石のように瞳を輝かせて両手を組みながら肢体をくねらせるお  嬢ウルリーカ。確かにお嬢の目の前には、俺、グレイゴですら乙女チックにクネクネしたくなるような光景が繰り広げられていた。
 二〇〇ミリを上回る超大口径主砲。
 伝説の 聖剣エクスカリバーと同じ名前と、同等の脅威を誇るS     Eエクスカリバー
 群れる敵を一網打尽にできる大口径回転式機関砲。
 重装備をものともせず、爆発的な加速力を生み出すことができる大馬力発動機。
 どんなヘタクソでも主砲を命中させることができるほどの射撃補正を行える高速演算Cユニット。
 おおよそモンスターハンターが夢に描く「理想の戦車」がそこにはあった。それも一台ではない。数十台という規模でそれが目の前に保存されていた。
 まさに夢なら醒めないでくれといいたくなるほどの状況だ。
「でも、これからどうするんですか?」
 お嬢と俺の背中から聞こえる小さな声。それは穏やかならざる心を素直に反映していた。
 声の主、ニモが眉をハの字にして続ける。
「あのモンスター、まだ近くにいるみたいですよ………」
 ニモの声に呼応したわけではないのだろうが………数十台の戦車が格納できるほどの巨大倉庫が震えるほどの大声量で発せられる雄叫び。
 俺は内心の不安を隠すため、瞳を閉じながら頭をかいた。
 さぁて、どうしたものかな………。

メタルマックス外伝
我が求めるは黄金郷

My Request El’DORADO
第七話「探検、発見、大遭遇! 最強の戦車と最悪のモンスター」


 話は冒頭から三時間前に戻る。
 グレイゴの兄であるテイラーから得た情報を元に、武装トレーダー『ツルノス』は北へと向かった。北の旧軍事施設に埋もれているという戦車を探すためだ。
「北、ねぇ。確かに北には大破壊前は軍港があるそうだけど………」
『ツルノス』の大型輸送用トラックの助手席の窓を開け、肘をついたラフな姿勢でウルリーカが独り言ちていた。
「でも、クシュウの北部は大破壊での汚染が今でも残っているって聞きますよ?」
 後部座席でノートPCのキーボードを叩くニモ。彼のノートPCの、端が欠けた液晶画面にはクシュウ北部の地図が表示されていた。といっても大破壊が起こる前の地図であるので今のツルノスにとって何の役にも立たないのであった。
「まぁ、元が軍港だったからか、大破壊の際に何発も核ミサイルが打ち込まれたという話は残っている。だが、逆に考えれば、軍が使用していた施設で、他人の手が伸びていない秘境だともいえる」
 トラックのハンドルを握り、アクセルを踏みしめながらグレイゴが言った。………この情報がテイラーからの提供であることを、グレイゴは巧みに隠しきっていた。
「でもここらへんの汚染レベル、全然大したことないぜ?」
 BSコントローラーに大気の汚染レベルをチェックさせていたハヤトが口を挟んだ。
「ここ数年で汚染のレベルが落ちたか………それとも汚染なんか最初からなかったか」
 グレイゴはハンドルを右に切る。ツルノスのトラックは雨水が溜まって池ができるほど大きなクレーターの傍を通過する。
「何にせよ、これだけ大きなクレーターがあるんだ。大破壊で散々やられたのは事実なんだろうな」
「いい戦車、見つかるといいね、ウリちゃん!」
「そうね………ねぇ、グレイゴ、アレ見て!!」
 ウルリーカの指差す先に目を向ける一行。そこにはクレーターがあるだけでなく、クレーターの底で哀れな残骸と化した戦車の姿があった。グレイゴがトラックを残骸のすぐ近くに停める。
「………さすがにこれじゃ破壊されすぎてて、修理もパーツ取りもできなさそうですね」
 戦車の周囲をグルリと回ってからニモが告げた。戦車の残骸は上から重いものの直撃を受けたのだろう、天蓋がぐしゃりと崩れていた。
「ふーん………見るからにボロボロだもんなぁ。んじゃ、しょうがないよなー」
 転輪を軽く脚で小突くハヤト。ハヤトは力を込めたつもりはなかったが、転輪を付けていた部品がバキンと割れてしまい、転輪が外れて倒れた。
「………この戦車、結構最近に破壊されたんじゃない?」
「え?」
 ウルリーカが左手をあごに添えたシンキングポーズのまま戦車の後ろへ歩いていく。そしてすっと屈んで地面を撫ぜる。それは残骸となった戦車が確かに稼動していた証たるキャタピラの轍であった。
「だって大破壊の際にこの戦車が破壊されたのなら、この轍はどう説明するのよ? 大破壊の頃の轍が残っているなんてありえないわ」
「えぇと、じゃあこの轍はどこに続いているかというと………」
 ハヤトが轍を追って砂で煙る向こう側を見やる。その先にあるのは、今回の目的地である旧軍事施設であった。
「誰かが訪れた後って線は多そうね。ま、それでも取りこぼしがないかどうか確認しに行くつもりだけども」
 ウルリーカはそういうと再びトラックに乗り込む。
「さ、行くわよ」



 大破壊の災禍によって人が住めなくなった旧軍事施設。その実態は海に面した軍港であった。
 唐突に発生した大破壊によって撃ち込まれた核ミサイルは、軍港に停泊していた艦隊のすべてを吹き飛ばしていた。横倒しになり、赤い艦底を晒す巡洋艦。竜骨が折れ、艦体を真っ二つにして沈んでいる駆逐艦。そこは海軍の墓場だった。
「うぅ、臭ッ! なぁに、この臭い………」
 海の方から吹いてくる風が運んでくる臭いはウルリーカにとっては不快なようだ。
「これが『潮の香り』なんでしょうか?」
「………戦前の本とかで確かによく聞く表現だけど、本に載ってる海水はこんな毒々しい緑じゃないでしょう、ニモ?」
 鼻をつまみながら海水に毒づくウルリーカ。髪にこびりつきそうな汚染された海の臭いを振り払うように髪をかきあげる。
「ああ、何だか風も粘つくようで不快ね」
「ウリちゃ〜ん」
 グレイゴと共に軍港の周辺を確認していたハヤトたちが戻ってくる。ハヤトはどこで拾ったのか、金属製の看板を持っていた。文字が錆び落ちかけた看板からは「…セボ」が読み取れる。
「セボ? 地名でしょうか?」
「まぁ、別にここが何と呼ばれてても別にいいけどね。で、何かモンスターの姿はあった?」
「いえ、モンスターの姿は見当たりません」
 グレイゴも言うように、このセボの軍港に動く影は自分たちだけのようだった。だったら安心して探索ができそうだ。しかし………
「あ!」
 ハヤトが何かを見つけ、急に声を上げる。すでに何度も死線を潜り抜けてきたツルノスの一同は各々の武器を構えてハヤトの見つけたものに照準をあわせる………。だが、ハヤトの視線の先にあったのは軍艦の残骸であった。しかし単なる軍艦というわけでもない。全長が二六〇メートルを超え、主砲も三連装砲塔を三基も備えているという超巨大戦艦だった。
「すっげぇ、デカッコいい!」
「デカくてカッコいい」をハヤトなりに縮めた表現で口にする。グレイゴは毒を抜かれた表情でMG4を肩に担ぎなおす。
「ハヤト、俺たちの目的は戦車を探すことだぞ。戦艦じゃ陸を走れないからな」
 戦艦が持つ主砲は戦車のそれより倍以上の大きさを誇っている。そういう意味で最強の火力を保有するのだが、しかしモンスターハンターにとってフネは移動手段にしかならず、戦力として数えることはできなかった。
「あれ………?」
「どうしたんだ、ニモ?」
「いえ、どうして戦艦の残骸が残っているのか気になって………」
「どういう意味だ?」
「戦艦というのは大破壊が起こる半世紀以上前に絶滅した艦種だって聞きました。にも関わらず戦艦が大破壊の跡地に残ってるなんておかしくないですか?」
「まぁ、そんなの気にしたってしょうがないわよ。どんな理屈があるにせよ、あの戦艦が目の前にあることは変わらないもの」
 ウルリーカはそういって戦車探しを始めようとする。しかし彼女の眼が、戦艦の甲板で動くものを捉えた。
「え………」
 それはにわかには信じられない光景だった。
 眼を腕でこすってみる。それでも彼女の視界は変わらない。彼女の眼に映るのは、廃墟と化した戦艦の主砲が鎌首をもたげるように、仰角をとりつつあるという光景だ。
「グ、グレイゴ! あ、あれッ!!」
 グレイゴの袖をつかんで引っ張るウルリーカ。戦艦の方を向いていなかったグレイゴがウルリーカの方へ振り向こうとした時、「戦艦の主砲」が吼えた。
 砲声ではない。純粋に、獣が威嚇のために発する鳴き声であった。
「な、何だ、あれは………モンスターだというのか?」
「戦艦の主砲」が発した鳴き声はグレイゴですら立ちすくむほどだった。そしてその異形はグレイゴの想像をはるかに超えていた。
 戦艦が搭載している三基の三連装主砲の一門一門が、ホオズキのように真っ赤で巨大な眼を持つヘビの頭になっている。
 よく見れば戦艦の船体には途中で裂け目がある。その裂け目から覗くのは濃緑色の鱗であった。
 そう、この戦艦は八つの頭を持つ大蛇が纏っている鎧なのだった。大破壊よりはるか昔、神話の時代に猛威を振るった大蛇と、最大最強でありながら時代に恵まれずに沈んだ大戦艦、その二つを連想させる超弩級大型モンスター。その名は、ヤマトノオロチという。



「うおー、デカッコいい!!」
 ヤマトノオロチの咆哮に唯一ひるまなかったのがハヤトだった。恐怖を跳ね除ける勇気というより、単に事態を把握し切れていないだけという表現の方が似合っていたが。
 しかしハヤトの暢気な言葉に我に返ったのがウルリーカだった。
「バカ騒ぎしないの! ………アイツ、こっちに気づいたかしら?」
 ウルリーカはハヤトとニモの手を引いて近くの堤防に身を隠す。グレイゴもそれに続く。
「いえ、どうやらこちらには気づいてない、というよりは我々は眼中にないようですね」
 ヤマトノオロチはグレイゴのいうように、ツルノスには気も向けず、ゆっくりと軍港の中を航行している。そして石油タンクに首の一本を伸ばしたかと思うと、中の重油に吸い付いていた。
「どうやら肉食ではなくて、重油を飲むようですね」
「重油ておいしいのかな?」
 好奇の眼で重油をすするヤマトノオロチを見るハヤト。
「………人間には飲めたモノじゃないのは確かだな」
 ともあれ、あれほど巨大なモンスターが敵意を向けてこないのは幸いである。こちらに無関心な内に、この軍港跡の探索を行うのみだ。
 が、しかし………。
 グオゥ!
 どんな勇者でも身をすくめてしまうほどの轟音が突然に発せられる。堤防の向こう側で衝撃の波がうねりを上げているのがわかる。何が起きたのかは見る間でもなく瞭然だ。
 ヤマトノオロチが砲撃を行ったのだ。
「何だ………!?」
 グオゥ、グオゥ!
 一度だけではなく、何度も繰り返される砲撃。それはヤマトノオロチの主砲、二番砲塔と三番砲塔の後ろに搭載されている副砲の砲撃であった。砲撃目標はツルノスではなく、軍港の方角とは真逆、海の方であった。しかし副砲の砲撃が立ち上げる水柱はハヤトたちの肉眼でも確認できるほどに巨大であった。
「あのモンスターが気まぐれでもこっちに撃ってきたら一巻の終わりですね」
「奴を刺激しない内に、どこかの建物の中に隠れた方がよさそうだな」
 グレイゴの言葉に反対を口にする者はいなかった。
 そしてグレイゴの言葉に従って、すぐ近くにあったカマボコ型の倉庫と思しき巨大な建物に向うツルノス。その足並みがいささか慌てたものになっているのは気のせいではなかった。
 おあつらえ向きなことに倉庫の扉は半開きになっており、三メートル以上の隙間が開いていた。根本的な解決にはならないが、ヤマトノオロチの姿が見えなくなるだけで少し気分が軽くなった気がした。
「………ん?」
 倉庫の中に入ろうとしたハヤトが首を傾げたが、次の瞬間には前を歩いていたニモを横に突き飛ばしていた。
「キャッ!?」
 突き飛ばされる前にニモがいた場所を機械仕掛けの猛獣が通り過ぎる。機械仕掛けの猛獣の正体、それは誰の目にも強そうに映る戦車であった。
「何だ、誰かいたのか………すまん! ケガはないか!?」
 戦車からひょっこりと顔を出したのは一人の青年だった。声の調子もそうだが、表情が喜びの色で緩みきっている。人を轢き殺しかけておきながらそんなふざけた表情を見せてくるというのは、ウルリーカの怒りの琴線をベケベンとかき鳴らした。
「危ないじゃないの!」
 肩を怒らせてズンズンと歩み寄るウルリーカ。しかし青年は喜色満面の表情を崩さなかった。
「別にケガしなかったんだろ? だったらいいじゃねーか」
「それにしたってもう少し申し訳ない顔を見せなさいよ! アンタ、嫌われるわよ」
 青年はウルリーカの罵声も何のその、どこ吹く風であった。
「ヘッ、この倉庫の奥、お前たちも見て来いよ。俺みたいに笑いが止まらなくなっちまうぜ、絶対にさ!」
 青年はそういうと再び戦車の操縦席に戻り、戦車はキャタピラを軋ませながら前へ進み始めた。
「何なのよ、アイツ。感じ悪ぅー………ニモ、本当に大丈夫?」
「ボクなら大丈夫です。ところで、どうやらこの奥に戦車があるようですね。さっきの人の口ぶりだと一台だけではなく、何台かあるようですし、見に行き………」
 見に行きましょう。そう言おうとしたニモの言葉がブツリと途絶える。いや、ニモははっきりとそう口にしていた。ただ、それがまったく聞こえなくなるほどの超巨大砲声が突如発せられただけなのだ。
「まさか………ッ!」
 大慌てで倉庫の外を見やるグレイゴ。グレイゴの視界の先では例の超巨大戦艦型モンスター、ヤマトノオロチが副砲ではなく、主砲を発射していた。
「ハヤト、ニモ! 口を空けて伏せ………」
 ヤマトノオロチから直線距離にして六〇〇メートルは離れているはずだった。しかしそれにも拘らず、ヤマトノオロチの蛇の頭が砲弾を発射する衝撃がツルノスを襲う。ビリビリと体が衝撃波を浴びて震える。まるで水を吸って重くなったタオルをぶつけられるような感触だった。
「グ………」
 衝撃波でもつれかかる脚を強引に伸ばして倉庫の中に入るツルノス一行。衝撃波と砲声を防ぐために倉庫の扉を閉めるが………。
「………何か耳がキーンとする」
 ハヤトが耳を抑えてうずくまる。
「アタシは目が痛いわ。何か目玉が揺らされたせいか、気持ち悪い」
「大丈夫か、ハヤト、お嬢?」
 ………ヤマトノオロチの副砲ですら、撃つと遠くに立った水柱が肉眼で確認できてしまうほどである。主砲を発射すればどうなるか? その答えが今のツルノスであった。だが、驚きはまだまだ連続するのだった。
 砲声と衝撃波の次にツルノスが感じたのは地震であった。もちろんそれは天変地異が震源ではない。彼らが感じた地震の震源は、ヤマトノオロチが放った主砲砲弾が地面に着弾した衝撃なのだから。
「わわッ!?」
 あまりの揺れに立ってられなくなったニモが尻餅をつく。揺れがようやく収まってから、ニモが恐る恐る口を開いた。
「もしかしてさっきの砲撃が狙ったのって………」
「……………」
 ハヤトとウルリーカが顔を見合わせて押し黙る。
「戦車の情報なら二つある。だが、どちらも簡単に入手できた情報の割に、実際に入手したという話を聞かない」
 グレイゴの兄、テイラーはそう言っていた。今になってグレイゴはその真相を知ることができていた。
 実際に入手できた者はいたのだ。ただ、戦車を皆の所まで持って帰ることができなかった・・・・・・・・・・・・・・だ。
「ま、いいわ。とりあえず戦車を見てみましょう」
 すっくと立ち上がって倉庫の奥へ進みだすウルリーカ。しかし現実に目をそむけるような口ぶりに力強さは感じられなかった………。



 そして物語の時系列は冒頭と重なり合う。
 倉庫の奥にあったのは混沌の炎カオスフレアが保有するケルベロスに匹敵するほどの豪華絢爛装備目白押しの戦車であった。搭載されているCユニットによれば、この戦車のシャシーはTK−Xというようだ。
「どういう理屈かは知らないけども、外の戦艦型モンスターはこの戦車を持ち出そうとする者を狙ってくるみたいね」
 TK−Xの複合装甲をコツコツと叩きながら思案顔のウルリーカ。
「ここに来るまでにあったクレーターの中の戦車の残骸。あんなのには絶対になりたくないわね………」
「どうしましょうか………」
「持って帰るのが無理っぽいなら、持って帰らなきゃいいんじゃない?」
「え? ハヤトくん、どういう意味ですか?」
「あの戦艦型モンスターがいるから持って帰れないんでしょ? じゃあ、倒せばよくない?」
 ハヤトの言葉に呆気にとられる一同。
「アンタ、物凄い度胸してるわね………。大物というか、バカ者というか………」
「でも、ここにはこんなにたくさんの戦車があるんだぜ! オレは何とかなると思うけどなー」
「そりゃ戦車は何十台とあるけど、肝心の運転手が四人しかいないじゃないの………」
 ウルリーカがハヤトの案に反論している最中、ニモとグレイゴが閃いたとばかりに膝を叩いた。
「あッ!」
「そうか………」
「え? え?」
「ハヤトくんの言いたいことがわかりましたよ」
「うむ、試す価値自体はありそうだな」
「ちょ、ちょっと二人とも、納得するのはいいけどアタシにも説明してよ」
 というかアタシだけ気付いてないって、アタシがバカみたいじゃない。む〜とウルリーカが唇を尖らせて頬を膨らませる。
「お嬢、究極求道者アルティメットクエスターとの戦いを覚えていますよね?」
「そりゃもちろん………」
「その時、僕はこのノートPCで究極求道者アルティメットクエスターの戦車のCユニットをハッキングして、自爆させました。その技術を応用して、この場の戦車をすべて動かしてしまおうというのがハヤトくんの作戦ですよ!」
「………おお! って、そんなこと本当にできるの、ニモ?」
「少し時間はかかると思いますが、できると思います」
 ニモはそういうと早速ノートPCを開いてTK−XのCユニットを管制するプログラムの作成に取り掛かり始めた。これといった仕様書も起こさず、いきなりプログラミングを開始するニモ。その仕草は電脳の錬金術師と呼ぶに相応しかった。
「じゃあアタシたちはTK−Xに砲弾とかちゃんと詰まってるのか確認しましょう。ニモ、プログラムができたら呼んでね」
「あと、あまり無理するんじゃないぞ。根を詰めすぎるなよ、プログラムができた後にも大立ち回りが残ってるんだからな」
 ニモの肩を優しく叩いてからTK−Xの状態を確認しに行く三人。ハヤトが立案した作戦がうまくいく。それだけを信じて四人は一丸となったのだった。



 そして五時間後。
 太陽が西の水平線に沈もうとする時間になっていた。
「こりゃ作戦は夜になるかしら?」
「夜の闇に紛れた方がやりやすい、だといいですね」
 さすがは旧軍事施設とでもいうべきか。この倉庫の中にあったTK−Xの数は三七両。そのすべてが弾薬、燃料共に満載状態となっており、いつでも戦闘が可能な状態になっていた。
「ハヤト、モンスターの様子は?」
「まだすぐ近くにいてる。だけどあんまし動かないな。寝てるのかな?」
「寝込みを襲うカタチになれば理想ね。寝起きで真っ当に戦える生物はそうそういないもの」
「あ、できました」
 ニモが眉間の辺りを揉みながらそっと立ち上がる。
「疑うわけじゃないが、もうできたのか?」
「はい。早速TK−XのCユニットにプログラムをインストールしていきますね」
 ニモはそういうとノートPCとTK−XのCユニットとをケーブルで繋ぎ、自作のプログラムを流し始めた………。
「うーん、天才っていうのはニモみたいなのをいうのかしら?」
「……………」
 ウルリーカの呟きにグレイゴは返答を返せなかった。
「ニモ、オレも手伝うよ。BSコントローラーからでもCユニットにインストールできるかな?」
「あ、はい。できるように作ってますので、お願いします」
 ニモとハヤトが二人でテキパキとTK−Xにプログラムを流していく。
 ………大丈夫。きっと上手くいく。グレイゴは自分にそう言い聞かせながら、ふと倉庫の外に目を向けた。
 水平線の下方に太陽が六割以上沈んでいる。残りわずかとなった陽光は、まるで血を思わせるほどにあかかった………。


次回予告

ウルリーカ「さぁて、細工は色々と施したんだ。絶対に上手くいく! それだけ信じてやっちまうわよ!!」
ハヤト「よーし、いっくぞ〜!!」
ニモ「プログラム、起動させます」
グレイゴ「む、ヤマトノオロチもこっちに気付いたみたいだぞ!」
ウルリーカ「もう後には退けないわ。覚悟決めて、行くわよ!!」

メタルマックス外伝
我が求めるは黄金郷

第八話「海獣大決戦! ランドパワーVSシーパワー」

ヤマトノオロチ「キシャアアアアアアッ!!」


第六話「さらば遠き日! OBはライバル?」

第八話「海獣大決戦! ランドパワーVSシーパワー」

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