ハピネス・ヒルの町に最も近いハルニチの村にある、酒場「ソイ・クンフー」は店のあちこちに工夫が施されていた。
窓が少ない店構えは昼でも照明が必要となるが、それ故に昼間から酒を飲むという罪悪感を薄めてくれる。そして店の中心には大きめなテーブルを配置。店内の客が一丸となって楽しめるように注意していた。
そして今日も「ソイ・クンフー」の大テーブルは人が多く集まっていた。集まった客の視線は机の端と端に向かい合って座る二人に集められていた。
左端に座るのは二〇代半ばのモンスターハンターの男。男は脂ぎった顔に焦りの表情を浮かべて、配られた紙切れを手に取る。
対して右端に座るのは一五、六歳程度の少女であった。まっすぐ伸びた紅い髪と対照的な青い瞳。見た目とは対照的に、少女は落ち着き払っていた。
「ショウ・ダウン」
少女の小さな唇が静かに告げる。少女の声を待っていたモンスターハンターは、手にしていたトランプのカードを机に叩きつけるように差し出した。カードに描かれているのはダイヤの王子、クローバーの七、スペードの七、ハートの三………そしてハートの七。
「どうだ、七のスリーカードだ!
幸運を意味する数字を引き当てた自身のカード運に、男は鼻を鳴らす。これを今までの負けを取り返す反撃の合図とするのだ! 男のギラつく瞳はそう語っていた。男と少女の勝負を見守っていた観客たちも同じように考えたのだろう。観客たちはモンスターハンターの幸運をはやしたてる。
しかし少女はあくまで淡々としていた。
「奇遇ね、アタシもスリーカードなの」
少女が公開した手札もスリーカードの役をそろえていた。そうなれば問題は数字の強さが焦点となる! 観客とモンスターハンターは喉を鳴らして少女の手札を凝視した。
ダイヤの六、クローバーの六、スペードの六………六のスリーカード! ならばラッキーセブンな男の勝利となる………ッ!!
「やったぜ!
勝ち誇って鼻息の荒い男に、少女は微笑んでカードを指差した。
「よく目を凝らしてご覧なさい。これのどこが
「ん………ああ!」
よく見れば少女が出した手札のカードは一部が上下逆になっている。それにこの勝負で使われているのは、トランプに描かれている記号の数がそのまま札の数を表すデザインのトランプだ。少女の出した手札をよく見れば、スペードの六ではない! それはスペードの九であった!!
「と、いうことは………」
ダイヤの六、クローバーの九、スペードの九、ハートの九、クローバーの二! 少女の役は六六六ではなく、九九九のスリーカードだったのだ。
「彼女の、彼女の勝ちだ!」
「おい、ということはあのハンター………」
「ああ、あのハンター、一〇〇〇Gの大負けになったぞ!」
ざわ……ざわ………
大負けの恐怖で輪郭をグニャリと曲げているモンスターハンターの男に、少女は満面の笑みで告げた。
「さ、次の勝負といきましょうか?」
「とりあえずハンターオフィスに登録して、モンスターハンターになったけど………どうしよっか?」
「そうですね………とりあえずハピネス・ヒルから一番近いハルニチの村へ行くのはどうでしょう?」
ニモは掘り返した瓦礫の中から見つけた回復カプセルの泥を手で払い落としてから袋に入れた。
「ハルニチで武器を買わないと………僕の改造トイガンしか武器がないハンターなんてすぐ死んじゃいます」
「だよなぁ………でも先立つものがない、か」
ハヤトはため息一つ、空を見上げる。雲ひとつない空では今日も太陽が容赦ない日差しを浴びせてきていた。
「はぁ、アーバインにああ言ったものの、このままじゃ何もできないまま日がすぎちゃいそうだな………」
『オレは、お前を倒すモンスターハンターになってやる!!』
あの日、ハピネス・ヒルが燃えたあの日に宣言したハヤトとニモだったが、出だしからいきなり躓いていた。
「やっぱりハピネス・ヒルの瓦礫にはもうたいした物がないですね。武器屋だった場所はアーバインさんに入念に破壊されて銃弾一つ見つかりませんでしたし………」
「結局、何が見つかったんだっけ?」
「回復カプセル四セット、手榴弾一個、野球帽一つ、金属バット一本ですね」
「まぁ、とりあえずハルニチ、行くかー」
ハヤトはそういうと野球帽をニモに被せ、自分は荷物が納められた背嚢と金属バットを片手に歩き出す。ニモもハヤトの後ろに続いて歩き始める。
二人ともハピネス・ヒルに未練はなかったのだろう。後にして思えば、生まれてからずっと暮らしていた町を出て行くというのに、二人は何の感慨も抱いていなかった。ハピネス・ヒルを出た二人は振り返ることなく、まっすぐハルニチの村へ向かったのだった。
ハルニチの村まで子供の足でも一時間強程度で行くことができる。
ハヤトとニモにとって、ハピネス・ヒルの町を出て別の村へ行くことは初めての経験だった。だから自然と足が軽やかに、鼻歌もこぼれだす。
しかし子供たちは理解するべきだった。自分たちが踏む大地は誰のモノか。人類の数は何故伸びないのか。
二人は何かが風を切る音を聞いて全身をこわばらせた。恐る恐る振り返ろうとした時、すぐ後ろで何かが爆発する。爆熱が背中を熱くし、衝撃波で前のめりに倒れてしまう。
「何だ!?」
爆発を引き起こしたのは一輪のタンポポだった。ただし子猫ほどの大きさがあり、見た目はグロテスクさすら漂わせている。
このタンポポの変種も種子を風に飛ばして増えるが、この変種の種子はちょっとした衝撃で激しく爆発する習性を持っていることで有名だ。
「ボムポポ!」
花の名前を叫んだのはニモだった。ニモは自分が改造したトイガンを取り出して構える。
「ハヤトくん、ボムポポの種子は爆発を起こします! 気をつけてください!!」
「OK!」
ハヤトも金属バットのグリップを握りなおして臨戦態勢。しかしボムポポに二人を知覚する知能はない。ただただ種の本能に従って種子を飛ばすのみだ。ボムポポは風が吹くのを待っていた。
だが、ハヤトたちは風を待っていられなかった。ハヤトはバットをおおきくふりかぶってボムポポの茎を打ちつける。これでボムポポの茎の部分が切断できればよかったが、ボムポポの茎は刃物でも使わない限り、切断は難しい。そしてハヤトが勢いよく振ったバットが、ボムポポが待ち望んでいたアレを引き起こす………。
ズドン!
鈍い爆発音。ハヤトが振ったバットの風圧で飛んだボムポポの種子は、ボムポポのすぐ近くにいたハヤトに当たって爆発を引き起こす。ボムポポは自らの子孫繁栄のために飛ばした種子の破裂によって惨めに千切れ飛んだ。
「ハヤトくん、大丈夫ですか!?」
「あ、ああ、大丈………夫………」
口では「大丈夫」といってもハヤトが羽織っていた迷彩柄のジャケットがボロボロになり、ハヤト自身もあちこちから血を流していた。ニモは慌てて回復カプセルを取り出してハヤトに飲み込ませる。回復カプセルに含まれているオイホロトキシンという化学物質がハヤトの痛みを麻痺させ、ハヤトの新陳代謝を急加速させる。回復カプセルを飲んで一分も経たないうちにハヤトの傷はふさがりつつあった。
「大丈夫ですか? 他に痛む所とかありませんか?」
泣きそうな顔で質問するニモに、ハヤトは右腕をグルリと回して応えた。
「うん………とりあえず大丈夫」
「ならいいですけど………あまりムチャはしないでくださいよ」
ニモは安心のため息を吐く。ハヤトは申し訳なさそうに頭を掻くと、ハルニチの村へ続く道を再び歩き始めようと立ち上がった。
その時、ハヤトとニモの聴覚はエンジンが巻き起こす爆音を耳にした。
爆音はハヤトたちから見て左手の方角から近づいてきていた。大型の輸送用トラックだ。前一対、後二対で配置された車輪が荒れ野の小石を踏み潰す。
輸送用トラックはハヤトたちの前で停車すると、運転席と助手席から男女が降りてきた。男の方はサングラスで顔の多くを隠した筋骨隆々の大男で、女は一六歳程度の長い赤髪と青い瞳が印象的だった。
「さっきここで大きな爆発が見えたけど、あなたたち?」
先に口を開いたのは少女の方だった。凹凸の少ない細身を白いTシャツとジーンズで包んだ少女の声は、色っぽさではなく健康的に弾んでいた。
「は、はい。ボムポポと戦って………」
ニモの言葉を聞いた大男がサングラスを外し、ニモとハヤトを観察する。サングラスを外した大男は二〇代半ばの青年であった。若干童顔気味だが、髭をはやすことで外見年齢を年相応以上にしていた。
「バットでボムポポに殴りかかったな。この時期のボムポポは爆発する種子を蓄えている。近接戦闘は絶対避けた方がいいぞ」
「は、はぁ………」
「ところでお前たち、ここで何をしている? 子供の遊び場としてここは不適格だぞ」
「あ、はい。僕たちはハルニチに行きたいんです」
「そしたら途中でボムポポに種子飛ばされちゃって………参っちゃうよ」
「なるほど、そういうことね。どうかしら、よかったらアタシたちのトラックに乗ってく? アタシたちもハルニチに行くから構わないわよ」
少女の言葉に大男が頷いて付け加える。
「お嬢の言うとおりだ。こんな時代だ、人の好意は受けた方がいい」
大男はそういうとハヤトとニモをトレーラーの中へ案内する。その際にチラリと見たが、この輸送トラックにはショットガンや拳銃といった武器からその弾薬、他にも医薬品、果てにはぬいぐるみといった荷物が所狭しと搭載されていた。
「あの、お姉さんたちはトレーダーなんですか?」
「ええ、そうよ。武装トレーダー『ツルノス』と名乗ってるわ。トレーダーってどういう職業か、キミ、言えるかしら?」
少女がハヤトを指差して尋ねる。名指しされては答えるしかない。ハヤトは自分の知識を総動員して質問に答える。
「えぇと、トレーダーってのは世界中を旅しながら商売をする商人のことだよな」
「そうだ。俺たちは、この荒れ果てた世界を旅して周り、湖から汲んだ水を水源を持たない集落に売ったりして利益を得ているわけさ」
「さ、ハルニチについたわよ」
さすがはクルマ。子供の足ではまだ半時間ほどかかると思われたハルニチまでの道のりが一〇分経たずに終了してしまった。ハヤトとニモは二人のトレーダーに礼を告げ、ハルニチの人間用武器屋へと向かったのだった。
………しかし三〇分後。
「うーん、ショットガンって高いんだなぁ」
人間用武器屋から出てきたハヤトとニモは肩を落としてため息を吐いていた。その理由は上記の台詞からもわかるように、彼らの手持ちのお金では何も買えなかったためだ。
広範囲に影響を及ぼす散弾を発射できるショットガンは狙いを正確に定める必要がないことから、駆け出しのモンスターハンターから町の主婦まで幅広い層が買い求めるが、しかし三〇〇Gという値段はハヤトたちの全財産と比較しても三倍近い高額であった。
とても手が出せる金額じゃない………。そう感じたハヤトたち。ハピネス・ヒルでやっていたジャンク拾いを再開してショットガン購入資金を貯めることも考えたが、しかしハピネス・ヒルで長年ジャンク拾いを続けて一〇〇G程度しか財産が持てなかったという事実がある。三〇〇Gに手が届くまでどれくらいかかるか………考えただけで眩暈がする。
「どうしましょうか、ハヤトくん………」
「んー………」
神妙な面持ちで腕を組み、思案にふけるハヤト。しかし彼が結論を出すより早く、彼の腹は空腹に耐えかねてぐぅの音をこぼした。
「ま、とりあえず何か食べようぜ」
「そうですね。クヨクヨ悩んでてもしょうがありませんし………」
二人はハルニチの酒場「ソイ・クンフー」の門をくぐる。
「ソイ・クンフー」の昼でも薄暗い店内は、熱気でムンとしていた。熱気の根本は店の中心に備え付けられた大テーブルだった。
「どうしたんでしょう? ずいぶんと盛り上がってますね」
「何か面白いことでもやってんのかな? 見てみようぜ!」
人波の隙間に小さな子供の体をもぐりこませてテーブルの真ん前まで進むハヤトとニモ。二人が見たのはポーカー勝負を繰り広げる二人の男女だった。冷や汗が滴り落ちている男はともかく、女の方はハヤトとニモの知る顔だった。
「あ、トレーダーの姉ちゃん!」
しかしトレーダーの少女は目の前の男とのカード勝負に夢中なのか、ハヤトの声に気付かない。馴れた手つきでトランプのカードを混ぜ、五枚のカードを自分と男に配る。
「チ、チクショウ、七七七のスリーカードが出たんだ………運は俺に向いてきているんだ………」
男は自分に言い聞かせるため、前向きなことを口にする。しかし声は震え、涙をにじませた眼では説得力がない。
「ギャンブルてのは恐ろしいですね、ハヤトくん………」
ニモが肘でハヤトの脇を突つき、ポツリと感想を漏らしたが、ニモの肘が当たったのは見知らぬ中年女性の尻だった。
「あら、ヤダ。オバサンのお尻なんか触っちゃって、オマセなボウヤねぇ〜」
「え? ええ!?」
ハヤトはさらに一歩前に進み、真剣なまなざしで少女のカードを見つめていた。
「さ、ショウ・ダウンといきましょうか」
そして開示される二人の札。結果はまたしても少女の勝ちであった。
「おお、スゲェ!」
「あの嬢ちゃん、カワイイ顔してバカヅキじゃねぇか!」
「しっかしあのハンター、一五〇〇Gも負けて………ハンター廃業するしかねぇんじゃないの!?」
少女の連勝にギャラリーも恐れを抱き始めていた。しかしそんなギャラリーに水を差したのはハヤトの一言だった。ハヤトはすぐ近くにいた老人の袖を引っ張って訊く。
「ねぇねぇ、じっちゃん。このゲームって、自分の好きなカードを並べていいの?」
ざわ………ざわ……………
ハヤトの一言で「ソイ・クンフー」店内はざわつき始める。中でも少女にケツの毛までむしられかけているモンスターハンターの男の反応は苛烈だった。男は机の上を跳んでハヤトの元へ駆けつける。
「おい、ガキ………いや、坊ちゃん! あの女が何かしてるの見たのか!?」
男の尋常でない剣幕にハヤトは一歩後ずさり。しかし男に肩をつかまれてハヤトは逃げられなかった。
「い、いやぁ、カードをシャッフルする時に、左手に何枚かカードを確保してたけど………」
「イカサマだ!」
ハヤトの言葉に大声をあげたモンスターハンター。しかし観客は当事者ではないために冷静であり、そして無責任でもある。モンスターハンターの叫びに観客は好き勝手に騒ぐ。
「おいおい、そんなガキのいうこと信じちゃっていいのかよ、ハンターさん!」
「そうだ。俺たちだって、あの嬢ちゃんを見てたんだ。そんなそぶり、見せなかったぜ」
「ハッ! お前が見てたのはあの女の子の胸元だけだろうが、ロリコンさんよ!」
「あんだと、テメェ!」
だがモンスターハンターは諦めない。いや、往生際が悪いというべきか。ハヤトの言葉を根拠に少女に詰め寄った。
「おい、あのガキの言ったことは本当なのか!?」
少女は男の質問には答えず、適当にトランプをシャッフルしてみせたかと思えば、男に五枚のカードを裏返しで配る。
「………ロイヤルストレートフラッシュ」
少女がポツリと口にしたのは、男に配られた五枚のカードの役だった。配られたカードを開けてみた男は文字通り言葉を失った。少女の言葉通り、配られたカードはポーカーゲームにおける最強最高最難関の役であった。
「でも、だから何だというの? アナタは最後の最後まで自分の運がアタシに劣っていたから負けていたと信じていた。アナタが負けていったのは自分で決めた結果よ」
少女は冷たい口調で言い切る。
「よく言うでしょ、『イカサマは気付かれなければイカサマじゃない』って」
「………言いたいことはそれだけか!」
男は怒りで震える拳を振り上げる。自分よりはるかに年下の少女にカモとされたことに対する怒り、それに気付かず食い物にされ続けていた自分に対する怒り。陰と陽、二つの怒りが混ぜ合わさった拳は少女の頬をしたたかに打ち付ける………ハズだった。
だが、男の拳は振り下ろせなかった。男の手首が別の手につかまれ、引き上げられたからだ。大の大人を片手で軽々と持ち上げたのは少女と同じトラックに乗っていたトレーダーの大男だった。
「残念だが、お嬢を傷つけることは許せないんでな」
大男はまるで棒切れを放り投げるかのようにモンスターハンターを投げ捨てる。男は猫科の動物のようにクルリと身を翻して着地。今度は床を蹴って大男に怒りの矛先を向けようとする。だが、モンスターハンターの男はあまりに愚かだった。ケンカを売りつけるにしても、もう少し相手を選りすぐるべきだ。大男は丸太のように太い脚でモンスターハンターを蹴り上げる。哀れなモンスターハンターは縦回転で天と地が幾度も逆転させられ、床に頭から落ちて気絶する。大男の人間離れした膂力に恐れおののく「ソイ・クンフー」店内。大男はそんな雰囲気など知らんとばかりに大きな声を張り上げた。
「みんな、騒がせてすまなかった! マスター、この店の客全員に酒をおごってやってくれ! 代金は………この通りだ!!」
大男が投げた袋を受け取った「ソイ・クンフー」の店主は目をむいた。一日の売り上げをはるかに越える金額がその袋には入っていたからだ。当事者でないが故に冷静であり、無責任な客は大男のおだいじんで一気にわきあがった。大男と少女に向けて惜しみない拍手が向けられる。
「ゲンキンなものね〜………それはともかく」
少女は現金な客に呆れつつも視線をハヤトとニモに向けた。
「アナタたち、まだお酒は早いでしょ? ご飯、アタシがおごるから食べてよ」
空腹が頂点に達しようとしていたハヤトとニモは声の代わりにお腹が鳴いて返事した。
「うめぇ〜、うめぇ〜」
幸せを満面に浮かべてハヤトはこんがりと焼けた骨付き肉にかぶりつく。品のない食べ方ではあるが、しかし喜んでくれているのが誰にでもわかる、いい食べっぷりだ。ハヤトの食べっぷりを見た「ソイ・クンフー」の店主は「サービスだ」とサラダのおかわりを許してくれた。
「それにしてもアナタ、よくアタシのカードシャッフルテクを見破ったわね」
少女がトランプをパラパラと混ぜながら言った。隣に座る大男もまったくだと頷く。
「俺なんかお嬢のカードシャッフル、タネを知っていても兆候がつかめないくらいなのにな。何かコツでもあるのかい?」
「ん〜………オレ、昔から目がいいからなぁ」
子供らしい、答えになっていない答えに少女と大男は苦笑い。
「ま、いいわ。そういえば自己紹介をしてなかったわね」
少女はそういうと自分の胸に右手のひらを合わせて名を名乗る。
「アタシの名前はウルリーカ。こっちはグレイゴ。職業はさっきも説明したけど、トレーダーなの」
「よろしく」
「あ、こちらこそよろしくお願いします。僕はニモといいます。こちらはハヤトくんです」
「よろしくな〜」
「ところでお前たち、ハルニチに何の用事があったんだ?」
「オレたち、ハルニチに武器を買いに来たんだ」
「武器? 親のお使いかね?」
「いえ、僕たちはモンスターハンターなんです」
ニモはそういうとアーバインからもらったBSコントローラーを取り出し、ハンターオフィスに登録された正式なモンスターハンターであることを証明する。
ウルリーカとグレイゴは目の前の小さな子供がモンスターハンターであることに驚きを隠せない様子だ。
「でもアナタたち、バットでボムポポに立ち向かってなかった? そんな武器じゃモンスターハンターを名乗るのも恥ずかしいわよ」
「ええ、だから僕たちハルニチに武器を買いに来たんですけど、僕たちのお金じゃショットガンも買えなくて………」
「なるほど」
「ところでウル、ウルリ………」
ハヤトの舌ではウルリーカの発音が難しいのか、ハヤトは少女の名前を呼ぼうとして詰まる。
「私たちのことなら好きに呼んでくれていいわよ、ハヤト」
「じゃあ、ウリちゃん!」
「ふふふ」
ウルリーカは自分につけられた新しいあだ名を気に入ってくれたようだ。ニコリと微笑んでくれた。ハヤトは安心して話を続けられた。
「ウリちゃんたちはこの店で何してたの?」
「ああ、アタシたちはモンスターハンターを探してるのよ」
「モンスターハンターを?」
「ああ。世の中物騒だからな。俺たちの護衛をしてくれるモンスターハンターを雇いたいと思っている」
「で、ここの酒場で呼びかけてみたんだけど、名乗り出たのがあんな自分の力量を推し量ることもできないようなマヌケじゃね………」
幼い頃からずっとトレーダーとして世界中を周っていたためなのかはわからないが、ウルリーカは自分の思ったことを思ったまま口にする。グレイゴはウルリーカの辛口に声を立てずに笑った。
「ふーん………あ、じゃあさ、じゃあさ! オレたちを護衛のモンスターハンターとして雇うってのはどう?」
「ちょ、ハヤトくん!?」
ハヤトの申し出にウルリーカとグレイゴは声をあげて笑った。
「ハハハ、いや、すまない。だが、君たちはまだ駆け出しのモンスターハンターだろう? そのBSコントローラー、何の実績も入力されていないじゃないか」
「そうね。せめてグレイゴより強くなきゃ雇う意味がないわ」
「じゃあオレがグッさんより強かったらいいんだな?」
ハヤトの言葉にニモはうろたえるばかりだが、ウルリーカとグレイゴは落ち着き払っていた。
「アタシはウリちゃんでグレイゴはグッさんなのね………それはともかくグレイゴ、ちょっと試してあげたら?」
「お嬢、相手は子供ですよ」
「でもいい目をしているわ。少なくともアタシのカードシャッフルを見抜いたんだから、動体視力はアナタより優れてるんじゃなくて、グレイゴ?」
ウルリーカのカードシャッフルを見抜いたという一点でウルリーカはハヤトを評価しているようだし、グレイゴも考えを改めたようだ。
「………なるほど、そういうことであれば」
グレイゴは机の上に右肘を載せ、右手をハヤトに向ける。グレイゴとの勝負は腕相撲のようだ。
ハヤトも右肘を机の上に載せ、グレイゴの手を取る。グレイゴの手はハヤトの手より四まわりほど大きく、ゴツゴツとしていた。
「勝負は一回きり。やり直しはナシだからね」
ウルリーカの言葉にハヤトはコクリと頷いた。
ハヤトとグレイゴの手にウルリーカの細く長い白指が触れる。
「じゃ、いくわよ。レディ………ゴー!」
ウルリーカの号令を合図に大男と子供の力勝負が始まった。
勝負は一瞬で決まる。敗者は勝者の力に屈して右手をしたたかに机に打ち付けられる。
ビターン
ニモもウルリーカも、グレイゴも信じられないという面持ちだ。勝ったのは、ハヤトだった。
「ぬ、ぬぅ………」
グレイゴはしたたかに打ち付けられてしびれる右手を振る。信じられないが、この痛みはホンモノだった。ウルリーカがそっとグレイゴに耳打ちする。
(ちょっとグレイゴ! 子供相手だからって手加減したんじゃないでしょうね!?)
「い、いや………この子の腕力、紛れもなくホンモノです」
「何ですって………」
ウルリーカのトランプシャッフルを見抜く動体視力、グレイゴの腕力を超えるパワー。ウルリーカには目の前の子供が宝石の原石に見えてきた、それもとてつもなく巨大な原石に。ウルリーカはハヤトの手を取って弾んだ声で言った。
「凄いじゃない、ハヤト! テストは合格。うちで、うちでぜひ働いて欲しいわ!!」
「ホント!?」
「ええ、ホントのホント。まだ駆け出しだけど、きっとアナタは凄いモンスターハンターになれるわよ! 何せアタシのカードテクをノーヒントで見破ったのはアナタともう一人しかいないんだから!!」
「もう一人………誰なんです、そのもう一人って?」
「世界最強の男さ」
ニモの質問にグレイゴが苦々しげに応えた。
「
「「
グレイゴの言葉にハヤトとニモは目を剥いて大声を張り上げることとなった。動き始めた二人の物語は、新たに出会った二人を巻き込んだことでより大きく動き始めるのだが、物語の結末に何が待ち受けるのか。
それはまだ誰にもわからない段階であった。
ウルリーカ「さー、
ハヤト「でもトレーダーって具体的には何するんだ?」
グレイゴ「とりあえずお嬢、ハルニチ近郊に旧時代の遺跡があるそうです」
ウルリーカ「よっし、まずはそこでうちのやり方を学んでもらおうじゃない」
ニモ「遺跡でのジャンク漁りなら僕の金属探知機の出番ですよね!」
グレイゴ「………む、危ないぞ! 何かが迫っている!!」
ニモ「あ、あれは………鷲と戦闘機が合わさったモンスター!?」
メタルマックス外伝
我が求めるは黄金郷
第三話「ヤーボな仕置き!? ハルニチ・ベースの大鷲」
ウルリーカ「