葬戦史R
第一章「待ったなしの真剣勝負」


 一九四一年一二月二四日。
 トラック諸島。
 元来はドイツの領土であったのだが、先の戦争(作者註:第一次世界大戦のこと)で戦功をあげた大日本帝国がその管理を引き継ぎ、今や帝国にとって外地最大の母港であり、この地を拠点とすることで、大日本帝国のシーパワーが太平洋全体にまで及ぶのであった。ゆえについた名前が「太平洋のジブラルタル」。海軍国家である大日本帝国にとって最重要拠点の一つだ。
 そんなトラック諸島のサンゴ礁に、戦艦四隻、空母四隻を含む大艦隊が停泊している。
 それは帝国海軍第三艦隊である。
 この艦隊は戦艦長門、陸奥、金剛、比叡、空母赤城、加賀、蒼龍、飛龍を中核とした一大艦隊なのである。
 何故、この地にこれほどの艦隊がいるのだろうか?
 答えは簡単である。
 アメリカ合衆国が二ヶ月ほど前から次々と大西洋方面の艦艇を太平洋に持ってきたからだ。
 もはやかの国が我が帝国に対し戦争を起こす気なのは周知の事実だ。(やっかいなことに合衆国市民だけはそう思っていなかった。これは合衆国の巧みな世論誘導あればこそだ)
 だから帝国はその牽制の意味を込めて第三艦隊をトラックに派遣したのだ。



 そんな帝国海軍第三艦隊に属している重巡洋艦衣笠には名物副長がいる。
 名物?
 否、そのような表現ではヌルいか。
 彼は文句なしの「変人」副長であった。
 彼にまつわるエピソードはすべておかしなものばかりだ。
 何? 具体的な例を書いてくれ?
 ………仕方ないな。
 昔、某提督の下で参謀を務めていた時の話だ。
 某提督は戯れに参謀たちに好みの女性のタイプを問うた。
 参謀たちは口々に、「貞淑な大和撫子がいいですね」だの、「いや、元気で活発な娘も悪くないですよ」だの至極真っ当な意見を述べていた。
 だが彼は違った。彼は真顔でこう答えた。
「眼鏡をかけた女性です」と。さらに付け加えて「眼鏡をかけていれば、容姿は気にしません。ただ、性格は気が強い方が好みかなぁ。ちゃんと自分の足で立っている女がいいです」
 話を振ったこともあって無視できなかった某提督は憐れであった。彼の、エキセントリックなフェチズム(まぁ、フェチズムなんてすべてエキセントリックであるが)談義に付き合わざるを得なかった某提督と参謀たちは心に誓ったと言う。
「こいつの前で女の話だけはするまい」
 ………まぁ、こんなところだ。
 帝国海軍でも屈指のマニアックなフェチズムを持つ男とは、衣笠副長の山本 光中佐であった。
 無論、彼はただの変人ではない。ただの変人が重巡の艦長にまで出世できるものか。東京に資源満載の新大地が誕生するような頭痛モノの世界でも、そこまで落ちぶれてはいない。
 彼の海軍兵学校での成績は優秀、否、「超」優秀であり、「恩賜の短剣」を授与されるかもしれないほどであった。ただ、彼が「成績はいいものの反抗的な性格」の持ち主だったので別の者に授与されたが。
 そして海軍奉職以来ずっと艦隊勤務を選んだ海の男であった。よく日に焼けた黒い肌と潮の香りが離れない体こそが彼の自慢であった。



 そんな山本は衣笠の無線室にいた。
 何故?
 決まっている。今日明日にでも起こるであろう日米戦争の動向を調べるためだ。衣笠の通信設備では決して万全とは言えないが、それでも何もしないよりはマシである。
「いいか、奴らは自前で真珠湾を爆破しやがったのだ。もはや奴らはやる気満々と思っておけ。だから少しでも怪しい無電を受信したら俺か艦長に報告しろ」
 山本は、そう衣笠の乗員に吹いて回っていた。
 今日、一九四一年一二月二四日も彼は衣笠の無線室で敵の通信の解析にあたっていた。今までのところアメリカに不穏な動きはみられない。かといって油断していいというものでもないが。
 衣笠の通信兵の荻本 研少尉は兵からの叩き上げであり、通信学校を主席で卒業したという「努力の人」である。彼はその経歴から衣笠でもトップクラスの人望を得ている。人望ならば変人の山本なんかよりはるかに高い。
「副長」
 その歴戦の通信兵が山本を呼び止める。
「何だ?」
 山本の問いに対し、荻本少尉は淡々とした口調で続けた。
「何やらよくわからない暗号電文を受信しました。ハワイからで、それも多数です。………これは何かあると見るべきでしょう」
「ふむ………解読はできないか?」
「難しいですね。衣笠の通信設備では限度がありますから」
 こればかりはどうしようもない。言外にそういう含みを持たせて荻本は言った。山本は一度コクリと頷くと荻本の肩を軽く叩いた。
「わかった。艦長には君から言っておいてくれ」
「わ、私がですか?」
 山本は歴戦の通信兵である荻本をうろたえさせるという偉業を為した。
「そうだ。艦長は私のようなタイプが嫌いらしいからね。それに比べて、君は衣笠で一番信頼されている人物だ。君の言うことなら聞くだろうさ」
「は、はぁ」
 この人は、自分が嫌われているという自覚があるなら、それを改善すればいいのに。本当におかしな人だな。荻本は内心でそう思いつつも敬礼。自室で休憩をとっている艦長の下に向かった。



「何? 何かの暗号電文を受信しただと?」
「はい。内容の解析まではできませんでしたが、通信の量が増えています」
 衣笠艦長は荻本の労をねぎらい………はしなかった。
「『何か』ですむと思っているのか、貴様は! たるんどるぞ!」
 衣笠艦長は逆に荻本を怒鳴りつけた。
 荻本は内心ではともかく、上辺では丁重に進言した。
「ハワイで何か行動を起こしたからこそ通信量が増えたのです。これは、アメリカが何らかの行動を起こすと見るべきです!」
「荻本少尉」
 衣笠艦長の声に苛立ちに近いものが混じる。
「『何らか』か。確かに何かあるかもしれん。だが!」
 衣笠艦長は「だが!」を必要以上に強調した。
「アメリカ海軍の艦艇は全艦が真珠湾に停泊したままだ。当たり前だ。今月初頭の燃料施設爆破事件から立ち直れていないからだ。彼らは半年は艦隊を動かせんよ!」
「燃料問題ならすでに解決済みですよ、彼らはね」
 その声は荻本のみならず衣笠艦長をも驚愕させた。二人は体をビクッと反応させる。
「副長………」
 副長の山本 光中佐であった。彼は全権を委託したはずの荻本少尉が苦戦しているのを見かねて助け舟を出しにきたのだ。
「彼らは以前からジョンストンの港を拡大させ、さながら『小真珠湾』とでも称すべき規模にしています。ジョンストンを使えば燃料の補給なら簡単に行えますよ」
 だが衣笠艦長はその言葉に対し、顔を真っ赤にして怒鳴りだした。
「黙れ! 誰が貴様に意見を求めた!!」
 ………最悪だ。
 荻本は頭を抱えたくなった。傲慢かつ強情な艦長は、一度定めた自分の決定を覆したくないから最悪の手段にでた。部下を頭ごなしに怒鳴りつけて反論を封じたのである。この反応は両刃の剣だ。確実に部下の反論を封じるが、自分の威厳や信頼を失墜させる。
「………貴様たちの言いたいことは聞いた。だが却下だ」
 そして「さぁ、帰れ」とでも言わんばかりに顎をしゃくる。
 すべては最悪のまま進んでいた。
 何故か?
 何故なら荻本少尉の言う「謎の無電」を受信できていたのは本格的に通信解析を行っていた衣笠だけだったからだ。そう、第三艦隊首脳部はこの「謎の無電」の存在を知らなかったのである。
 たった一人の傲慢な男の、傲慢な判断のせいで歯車は最悪のかたちに噛み合った。



「それ」は高度七〇〇〇という高空を征く。
 アメリカ陸軍が万を持して送り込んだ最新鋭重爆撃機B17 フライング・フォートレス。
 四つの心臓を持ち、死角というものを持たないように工夫された配列の防御機銃座、そして伝説の怪鳥の如き巨体。
 それはまさに「空飛ぶ要塞」の名にふさわしい機体であった。
 ウェーキ島を飛び立った総勢四〇機の「空飛ぶ要塞」の群れは一路トラック諸島を目指していた。
「開戦初頭にジャップの最重要基地の一つであるトラック諸島に空爆を加える、か」
 トラック空襲の任務を受けたB17隊を率いるジェームズ・ドーリットル中佐はその任務の重さに思わず身震いする。無論、恐れをなしたわけではない。武者震いである。
 本来のB17ならウェーキ島からトラック諸島を空爆することは不可能だ。B17の航続距離と地図を見比べたあなたは間違っていない。
 だが、偉大なる合衆国は、我々の為に特殊改造を施されたB17改を用意してくれたのだ。ドーリットルの口の端が思わずつりあがる。
 その改造の趣旨は、後世にいう空中給油のための装置を設置することであった。
 そう、ウェーキからトラック諸島までの不足燃料を、輸送機による空中給油で補いながらここまではるばる飛んできたのだ。危険は承知だ。だが、俺たちはその危険極まりない任務を、一機の脱落も出さずにこなしてみせたのだ!
 ハレルヤ!!
 合衆国に栄光有れ!!!
 ドーリットルだけでなくB17隊のクルーの全員が興奮しきった表情のまま、トラック諸島に向けての前進を続ける。対するトラック諸島の第三艦隊は、何の備えもできていなかった。



 山本と荻本は艦長室を出た。
「まったくあの日和見艦長め! せっかくの俺の頭脳を無碍にするなんて信じられないぜ!!」
 山本は頭のいい者にありがちな、他者を見下した傲慢な思考を持っている。だが、彼にだってそれを口外しないだけの理性はある。しかし激怒する彼は、口外してはならぬそれを口外しまくっていた。
「ですが、艦長の仰ることも一理あります。確かに、アメリカの艦隊に動きはないと伊号潜水艦も知らせています」
 荻本は山本への反発も込めて言った。やはり帝国軍人たるもの上官への誹謗を許してはならないと思ったのだろう。
「真面目な男だな、貴様は」
 山本は荻本をそう評した。荻本を見る山本の眼は憧れの念すら漂わせていた。
 ………羨ましいな、お前は。俺にないものを持っている。
 その時であった。通信室の留守を預けていた水兵が震える声で叫んだ。
「大変です! 合衆国が、わが国に宣戦を布告しました! 日本とアメリカは、戦争状態に入ったんです!!」
 水兵の声に山本は目を剥いた。
「何!? 荻本、艦長のトコに戻るぞ!!」
 だが、すべてはタイム・オーバーであった。甲板上に上がった山本の耳に聞こえたもの。それはたくましい四発重爆の発動機の鼓動であった。



「よし、ジャップの奴らはまだ迎撃機を上げていないぞ! ふふ、勝った!!」
 ドーリットルの勝ち誇った声。
 だが、この声こそがB17隊の心境を如実に表現したものなのだ。
 B17隊は最大時速である毎時五一〇キロで驀進する。
 そしてたちまちのうちにトラックの港湾に停泊する第三艦隊を翼下に捉えた。停泊を続ける第三艦隊は静止目標と変わらない。いつもの訓練通りにやればいい。
「用意………」
 上気し切ったドーリットルの声。
「投下ぁッ!!」
 四〇機の怪鳥たちは腹から黒い塊を次々と投下した。それはまるで五月雨の如し勢い。逃れれる場所などどこにも存在しなかった。少なくともトラック湾内では。



「やられた………」
 第三艦隊司令長官の南雲 忠一中将は旗艦である戦艦 長門艦橋で唖然としていた。
 まさか宣戦布告と同時に爆撃機でトラックを強襲するとは。
 完全に想定外であった。
 彼の艦隊はマーシャル方面攻略に向かってくるであろう米太平洋艦隊を牽制するためにあったというのに。
 だが、その牽制が裏目に出たのだ。
 牽制だからと大日本帝国本国は、第三艦隊のトラック入港を対外的にも派手に宣伝したのだった。これでは「襲ってください」と言わんばかりであったと南雲は今になって気付かされた。
 おそらくあれは特殊改造で航続距離を延長させたB17なのだろう。………盲点であった。後悔をした所で状況は何一つ動かないが、それでも南雲は後悔することを止められなかった。
 高空を征くB17が次々と爆弾を投下する。
 南雲はその中の一弾が、自分の方にまっすぐ落ちてくるのを認めた。
「当たるなぁ………」
 南雲はまるで他人事のように呟いた。彼の判断力は完全に飽和していたのだった。
 そして南雲の言葉通りとなった。
 B17が投下したのは一トン爆弾。高度七〇〇〇メートルともなれば落下速度はすさまじいものになる。その威力は四〇センチ砲戦艦として設計された長門の装甲ですら易々と穿ち抜いた。
 第四砲塔に突き刺さった一トン爆弾は長門の弾薬庫内で全エネルギーを解放。解き放たれたエネルギーの暴流が長門の主砲弾を誘爆させる。
 そして南雲は、否、長門乗員のすべてが閃光に包まれた。彼らの意識はそこですべて途絶えた。彼らは痛みも、苦しみもなく死んだ。天寿をまっとうしてこの死に方ならばどれほど幸せかだったろうか。しかし、彼らはアメリカ人によって人生を中断させられたのだった。再開することは、ない。



 あの関東大震災以来工業化が進み、工業化に伴って東京の環境が悪化したために天皇一族は東京を離れざるをえなくなった。時の皇太子が東京の空気の悪さに喉を痛め、喘息となったからだった。政府は大慌てで遷都を開始したのだった。
 そして新たに首都となったは大阪であった。天皇家は大阪城を居城としたのだった。「京都御所に戻ってはどうか」という意見もあったのだが、なぜかその意見は取り入れられなかった。このことは大日本帝国七不思議の一つとして数えられる。
 さて、政府首脳部は霞ヶ関から大阪の梅田に移転していた。
 梅田に新たに建設された国会議事堂は、東京にあったそれとほぼ同じデザインをしている。本来はもっと大阪らしさ(?)を前面に押し出した派手派手なデザインになるらしかったが、東京からやってきた政治家たちには不評だったので急遽旧議事堂の設計図を流用したのだった。
 国会議事堂では天地がひっくり返ったかのような大騒ぎであった。彼らにとって、アメリカが日本に宣戦を布告すると言うのは完全な青天の霹靂であったからだ。
 しかし、大日本帝国首相 幣原 喜重郎は慌てふためく他の議員を尻目に落ち着き払っていた。
 彼は元々は外交族の出身であり、外相を務めていた時は世界平和を何より重視する「協調外交」で知られていた。だが、それだけに彼は外交に強い。
 幣原はアメリカの真意を汲んでいたのだ。だから第三艦隊をトラックに派遣したのだが………それが裏目に出たのだった。
 今、トラックはアメリカ軍の爆撃機の絨毯爆撃を受けているという。
 普通、高空からの爆撃は動くもの、つまりは艦船には当たらないものだ。だが、第三艦隊はトラックにて停泊しているのだ。動かない的ならばそれなりの命中率が期待できるものなのだ。
 幣原は己の認識の甘さに頭を抱えざるを得なかった。



 だが、幣原首相が頭を抱えていようがいまいが、山本中佐にそんなことは関係なかった。
「機関出力、全開! 三分で全速を出すぞ!!」
 衣笠艦橋で山本が吼える。彼の出した命令は控えめに見ても無茶であった。
「ですが………」
 機関長が山本を制止しようとする。だが、山本の声の方が大きく、迫力もあった。
「機関がぶっ壊れても構わん! とにかく早く衣笠を動かさんか!!」
 お前はここで死にたいのか!? 俺は死にたくないんだよ!!
「畜生、どうなっても知らないからな!」
 機関長のヤケクソ気味な声を横目に山本は天空を睨みすえる。
「外道が………」
 副長であるはずの山本がなぜ衣笠の指揮をとっているのだろうか?
 答えは簡単だ。衣笠の艦長が靖国に召されたからだ。
 衣笠はB17の投下した爆弾の至近弾の立てた水柱にしごかれた。その際に艦長が艦長室の壁で頭を打ち、頭蓋骨を砕かれたという。無論、即死だ。
 まったく不運な人だなと山本は思う。でも同時にこうも思う。
「よくぞ死んでくれた」
 そうだ、あの無能な艦長はもういない。この衣笠を指揮するのはこの俺様。そう、帝国海軍の至宝である山本 光中佐サマなのだ。アメ公め、今まで好き勝手やってくれたが、俺がこの艦の指揮をとる限り生きては返さねえ!
 何たる傲慢な思考か。しかし山本にはその傲慢さを裏付けれるだけの能力も持ち合わせている。彼は優秀な海軍軍人なのだ。
「砲術長、しっかり狙えよ!」
 その声と同時に衣笠の高角砲が一斉に吼える。奇襲を受け、司令長官も戦死した第三艦隊にあって、ただ独り反撃を開始する衣笠はまるで鬼神のようであったという。



「マッケンジー機被弾! 脱落します!!」
「そんなことは言われなくてもわかってる!!」
 部下の報告にドーリットルは不機嫌に八つ当たりした。
 ………畜生、ジャップの艦の中で対空砲火を行っているのは真下の巡洋艦だけだろうが! それで、いきなり撃墜しただと!? この「空飛ぶ要塞」を!!
 ドーリットルは心中で、今までの戦勝ムードが急速にしぼんでいくのを感じた。
「ええい、一刻も早く全弾投下して脱出するぞ!!」
 ドーリットルは忌々しそうに怒鳴った。



 衣笠に搭載されている高角砲の弾幕は凄まじかった。
 それは射撃からわずかな時間で敵機を撃墜したことからも明らかだ。
「さすがは九八式八八ミリ高角砲。知り合いから『ドイツの科学力は世界一ィィィィィ』と聞いていたが、どうやら事実のようだな」
 山本の感嘆の声。九八式八八ミリ高角砲とは衣笠に搭載されている高角砲の正式名称だ。
 そう、衣笠の、否、今現在の帝国海軍の高角砲はすべてドイツから輸入した八八ミリ高射砲になっている。
 大日本帝国は東京から次々と産出する原油や鉄鉱石といった資源でドイツから優秀な兵器を交換していたのである。その一環がこの九八式八八ミリ高角砲である。
「ようし、このまま弾幕でアメ公を包み込め!!」
 山本の声は興奮し、弾みきっている。
 だがこの時、運命の女神は、衣笠以外の第三艦隊艦艇を見放していたようだ。
 戦艦陸奥の第一砲塔が軽々と吹き飛ばされる。
 空母赤城が竜骨をへし折られて轟沈していく。
 空母蒼龍も同様。
 重巡以下の艦艇の被害はひどかった。戦艦ですら耐え切れない高高度からの爆撃なのだ。戦艦ほど装甲が厚くもない重巡などが耐え切れるはずもない。
 古鷹が、青葉が、加古が次々と爆沈していく。
 駆逐艦にいたっては至近弾のあげる水柱に翻弄されて転覆する艦すらでていた。駆逐艦 響である。
 


 結果としてB17隊が去り、トラック上空に平穏が戻った時、トラック湾内は地獄と化していた。
 その被害は、沈没:戦艦長門、空母赤城、蒼龍、重巡青葉、加古、古鷹、駆逐艦響、嵐、暁、萩風
 大破:戦艦陸奥
 中破:戦艦金剛と燦々たるものであった。
 事実上、ここに第三艦隊は壊滅したのであった。
「野郎………」
 衣笠艦橋で山本は地獄の底から搾り出されるかのような呪詛の声をあげる。その声を聞いたものはその怨念の強さに竦みあがるであろう。
「アメ公め、奇襲攻撃で来るとはやってくれるぜ………。だが、必ずや貴様らに正義の鉄槌をかましてやるからな! 覚えていろよ!!」
 アメリカ軍の奇襲攻撃によりトラック諸島の第三艦隊は壊滅。
 しかしアメリカ軍にも誤算はあった。
 それは山本 光という英雄を作り上げてしまったことである。これは彼らの予定にはなかった。
 果たしてそのファクターが結果的に世界にどのような影響を及ぼすのだろうか?
 今はそれを語るべきではあるまい。
 とにかく戦争が始まったのだ。


序章「ウソみたいな急成長」

第二章「世界の選択」

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